◎雑誌『ことがら』の編集委員会「規約」について
先日のコラムで、雑誌『ことがら』の終刊について触れた。その際、小阪修平が終刊にあたって書いた文章を紹介した。小阪によれば、同誌の編集委員会は、創刊にあたって、まず「規約の討議」をおこなったという。また彼は、『ことがら』を終刊せざるを得なかったのは、規約のなかのある条項のためだったと述べていた。
ことがらの「規約」なるものは、同誌の第一号から第七号までを通覧しても発見できない。しかし、なぜか第八号終刊号(一九八六)の最終ページに、その「規約」が掲載されている。参考までに引用しておこう。
『ことがら』編集委員会の活動にかんする原則(付録)
A. 雑誌発行上の原則について
1、年間4回発刊する。(機械的に発刊する)
締切までに来た原稿はすべて掲載する。原稿の内容によって掲載するかいなかを判断しない。
締切までに原稿がこない場合は自動的に休刊する。次回に発刊を廻す。
2、締切までに来た原稿はすべて掲載するために各号により頁数は変わる。
雑誌発刊のための費用は執筆者の頁数におうじて分担する。
3、雑誌発刊に必然な作業は執筆者がおこなう。
4、毎号執筆の義務はない。
5、各号ごとに合評会をおこなう。
B. 編集委員会の意志決定について
6、編集委員会の構成員の全員一致を原則とする。
全員の意見が一致しなければ編集委員会としての意志決定はできないとする。
C. 寄稿について
7、寄稿は編集委員会の規約(A、2、3)を条件として認める。つまり、寄稿者は雑誌発刊に必要な作業おこない雑誌の頁数におうじた費用を支払うという条件のもとで寄稿を認める。
8、寄稿を次回から断る場合がある。
D. 編集委員会への加入について
9、編集委員会の構成員の全員が一致して認めた場合、加入できる。
E. 編集委員会からの離脱について
10、いつでも、編集委員会から離脱できる。
F. 分刊について
11、規約(A.1、2、3、4、5、B.6、C.7、D,9、E.10)の応用、その他の原則的なもんだいで編集委員会が内部対立した場合は、各々が新たに雑誌を発刊する。
その場合、雑誌の名称は各々でともに継続しない。
G. 廃刊について
12、規約(A.1、2、3、4、5、B.6、C.7、8、D.9、E.10。F.11)は変更しない。
13、編集委員会が規約を変更して、雑誌を継続しようとする場合は廃刊にする。
以上が、雑誌『ことがら』の規約である。要するに、「編集委員会が内部対立した場合」は、廃刊が避けられないという性格の規約である、また、編集委員会の誰も、『ことがら』という誌名を引き継げないということを定めた規約でもある。
そして事実、この「内部対立」が生じて、『ことがら』は終刊したということなのであろう。小阪は、終刊号に書いた文章の中で、その「内部対立」についても、わずかに触れている。もちろん、詳細は不明である。この点については、そのうちまた、青木茂雄氏から証言を引き出しておきたいと考えている。
なお、先日のコラムを発表した後、青木氏からメールがあり、『ことがら』が使用していた電動和文タイプライターの機種を思い出した、たしか「モトヤのタイプレス」だったという。付記し、前回の推測(シルバー精工か)を撤回しておきたい。
今日の名言 2012・8・26
◎一部買ってもらうことが光りかがやいていた
小阪修平の言葉。『ことがら』終刊号(1986)の84ページにある。「わたしは『ことがら』を出す二年ぐらい前から、商業誌にそこそこ文章を発表できるようになったが、商業誌に文章を発表して一万円もらうより、『ことがら』を一部買ってもらうほうが、ずっとうれしいという実感があった」。