礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

赤尾好夫『英語の綜合的研究』1950年改訂版について

2013-04-06 09:56:31 | 日記

◎赤尾好夫『英語の綜合的研究』1950年改訂版について

 先日、赤尾好夫『英語の綜合的研究』(旺文社)の一九五〇年改訂版を入手した。この本は、昔から『英綜』の略称で知られる英語の受験用参考書で、初版は一九四一年だったらしい。
 入手したのは、一九五三年発行の「重版」である。ということは、一九五〇年に出た改訂版は、すぐに爆発的に売れたということでもないようだ。
 一九五三年発行の重版は、冒頭に目次、そのあとに「本書購入者のために」という一文がある。戦中の初版にも、これと同じものがあったのかどうかは不明である。
 そのあとに、「改訂の辞」。こちらは、「昭和廿五年初春」の日付がある。いかにも、時代を感じさせる文章なので、以下に紹介したい。
 基本的に現代かなづかいであるが、小さな「っ」は使っていない。漢字はすべて旧漢字だったが、引用にあたって新漢字に直した。句読点は、全角のピリオド・カンマであるが、そのままにしてある。

    改 訂 の 辞
 敗戦は日本人をして再び国際的に覚醒せしめた.戦争中幾度か白眼視された本書が皮肉な運命にも敗戦という事実によつて再び脚光をあびて大手を振つて登場出来るようになつた事は考えれば淋しい幸福である.とにかく好むと否とに拘らず吾々は国際人にならなければならない.英語知識の要求は日を追つて熱烈になりつゝある.私はこの要求に応じなければならない.だが敗れた国土の富は情ないほど貧しく,紙も粗悪化し不足し印刷も四等国並になつてしまつた.この隘路を打開して私は自分に与えられた使命を完遂するすために敢えて旧版の改訂に着手し,従来の内容を一新し,新しい時代に即応し,無駄を排してもつて真摯な学徒諸子の期待に副うために敢然としてひたむきに努力した成果がこれである.
 改訂に際して特に断つておきたい.昭和廿四年度新制大学の誕生とともに,というよりも一足早く昭和廿三年度から入学試験の出題方法が大変革を来した.そして本書は内容的に又形式的に新しい時代の要求に合致せしめるために改訂をしたのだし,随つて又新しい問題からも例題を多く採択したが,ただ最近の出題形式をそのまゝ全部の例題とはしなかつた.最近の出題方針は当局の方針によつて,特に採点に主観が入らないようにと,単に和訳するものとか英訳するものでなしに,ブランクの部分をうめるとか,誤を正すとか,○や△をつけるとかいうものが,多くなつている.しかしこれはあく迄も出題の方法であつて,和訳英訳等が出来或いは文法の知識がなくては解答出来ないのである.だから初めからこのような形式で勉独して行くわけには行かないし,それでは力がつかないし,又一つの文はどのような形にでも出題出来るのであるから一つの形だけに備えても用をなさないのである.又このような出題形式が何時迄続くかは疑問である.昭和廿五年度の入試は既にこの傾向が明かにあらわれている.出題形式と勉強方法とを混同してはならない.随つて本書では正しく語学の力がつくような方法で編集し,そしてそのような出題形式に備えるために後でその項目を設けたのである.重ねて言うが英語の正しい文法的知識があり,読め,書けて初めてどのような形式の問題にも答えられるのである.解答方法が簡単であるという事と解答が平易であるという事を混同してはならない.
 なお本書の改訂についてはJ. B. Harris氏と弊社参与植木五一氏の一方ならぬ御努力を賜つた事を感謝しなくてはならない.この書が混沌とした世相の中にひたすらに純なる学の殿堂に志す若人の伴侶としてその使命を果すことを祈念して諸君の腕に托す.
 昭和廿五年初春      赤 尾 好 夫

今日のクイズ 2013・4・6

◎旺文社は、2010年に、赤尾好夫『英語の綜合的研究』の復刻版を刊行しました。この時、復刻の対象としたのは、次のどの版だったでしょうか。

1 1941年発行の初版
2 1950年発行の改訂版
3 1964年発行の6訂版
4 1973年発行の8訂版
5 1992年発行の11訂版

【昨日のクイズの正解】3 約2倍 ■『帝国農民術要』の82ページに比較試験のデータが載っている。

今日の名言 2013・4・6

◎好むと否とに拘らず吾々は国際人にならなければならない

 旺文社の創業者・赤尾好夫の言葉。『英語の綜合的研究』一九五〇年改訂版の「改訂の辞」より。上記コラム参照。

コメント
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