<遊去の話>

「遊去の部屋」「遊来遊去の雑記帳」に掲載した記事と過去の出来事についての話です。「遊去のブログ」は現在進行形で記します。

ムカデ恐怖症!

2018-11-24 08:55:29 | 「遊去の部屋」
<これは2007年8月に投稿したものです。>
(1) ムカデ、あな恐ろし!
 7月の末、とうとうムカデに刺されました。いや、噛まれたというべきかもしれません。とにかく後に牙の痕が2ヶ所残ります。話に聞いていた通り、痛みは確かに半端なものではありませんでした。蜂に刺されたときも痛いですが、肉を引き千切られるようなじりじりした感じはムカデの方が上でしょう
 実は、私はこれまでずっとムカデを恐れて生きてきました。たぶん子供の頃に聞いた話がベースになっているのでしょう。幼稚園か小学校1,2年の頃のことではないかと思います。近所の人がうちにやってきて、寝ているときにムカデが耳に入って大変な目にあったというのです。すぐに「アメリカの薬」を耳に流し込んだので何とか無事に済んだものの、あの薬がなかったらどうなったかわからないということでした。
 ムカデはとうとう耳から出て来なかったと言うし、今考えるとこの話にはおかしなところがいくつもあります。が、まあ、それを考察するのは止めにして、もしかすると、その人は、自分の家には「アメリカ」の薬があるぞということを自慢したかったのかもしれません。その頃の「アメリカ製」という言葉は「手の届かないすばらしいもの」というくらいの意味を持っていました。子供の私には大人の思惑のようなものはまったくわかりませんから、ただ、ムカデというものの恐ろしいイメージだけが心に焼き付けられたのだろうと思います。
 ところが、私は子供の頃にムカデを見た記憶がありません。家の周りは田んぼや畑がたくさんあったからムカデもいたはずです。現に近所の人が「ムカデが耳に入った」と言っているのですから、単に、私が幸いにも出会わなかっただけでしょう。見なかった分だけ「恐ろしいもの」としてのムカデのイメージが膨れ上がって心に定着してしまったとも言えそうです。
 ムカデに噛まれたという人はそれほど多くはいません。私は、それで、たまたまムカデに噛まれた人に出会うと、そのときのことを根掘り葉掘り聞き出したくなるのです。どうやって噛まれたか、大きさはどのくらいか、どこで噛まれたか、どんな処置をしたか、痛みはどのくらいか、治るのにかかった期間はどのくらいか…等々。自分でもちょっと立ち入り過ぎではないかと思うことがありますが、これも、まあ、非常時に備えるためということであれば止むを得ぬことと自分に言い訳をしています。
 学生のとき、ある友人がアパートを引っ越しました。理由を聞いてみると。夜中に枕元ががさがさするので起きて電気を点けてみると枕の上に大きなムカデがいたというのです。世の中には恐ろしいアパートがあるものだと思いました。この一件で、ムカデの出没は立派に引越しの理由になり得るのだということを知りました。でも、次にそのアパートに入る人はどうなるのでしょうか。

(2) ムカデ、ついに現わる!
 今の家で初めてムカデを見たのは5,6年前のことです。その前の20年くらいは見たことがありませんでした。
昔の家なので風呂場は外にあります。この話をするのは多少ためらわれるのですが、私は風呂に入るとき電気は点けません。いきなりこんなことを言い出すとたいていは気味悪がられるだけだと思うのでめったに人に話すことはありません。が、やはり、これにも訳があるのです。
 「いきなり停電になると困ること」という話を高校生を相手にしていたときのことですが、私が「風呂に入っているときも困るなあ」というと「そんなことはない」という生徒がいました。「電気を消しても見える」というのですが、私は信じられませんでした。そうしたら他の生徒が「体を洗うのにも問題ないし、暗い方が気分がゆったりして安らげる」と言い出しました。そういう生徒は40人中3,4人いました。
 私は自分が「まさか」と思うことでも、できることは自分で試してみることにしています。その結果、その晩以来、風呂に入っているとき電気は消すという習慣ができました。
電気を消すと窓から星が見えるようになります。今はちょうどさそり座がきれいです。月が湯船に映ることもあります。ただ電気を消すだけで時間がこんなにゆったり流れ出すというのは本当に驚きでした。自分が常識に囚われていることに気付くのは並大抵のことではないと思いました。それにしても、高校生でこんなことを知っているとは、一体、どういうわけでしょうか。ただ、疲れているときには眠ってしまうことがあるので溺れないように気をつけてください。
 あるとき、風呂に浸かって夜空を眺めていると、暗い壁の上を動くものを見つけました。もしや、と思い電気を点けるとムカデでした。それからは風呂に入る前に危険なものがいないかどうかを一度確認してから電気を消すことにしています。
 もちろん、私もその後何度か電気を点けてみたこともあるのですが、その現実的な「しらけた」時間がどうにも嫌で、ついにそちらの世界には戻れなくなってしまったというところです。月明かり、星明りは本当に美しいと思います。夜に窓のカーテンを全部開け放して部屋の電気を全部消し、星明り・月明かりを部屋の中に取り込んで自然の音を聞きながら静かに酒を飲み始めるともう電気を点ける気にはなりません。
 家の中でムカデを見たのは一年くらい前に一度ありました。中といっても雨戸のところですから中というべきか、ちょっとむずかしいところですが、雨戸を開けようとしたときうまく滑らないのでもう一度引き出してみると大きなムカデが上から落ちてきました。雨戸に挟まれて潰れていましたが、こんなのに噛まれたら、と思うとぞっとしました。

(3) もしもムカデに噛まれたら
 夢の中で激痛がしました。初めは自分と関係のないところで痛みが発生しているような気がします。そのうちに目が覚めてきて痛みに実感が出てきます。それでもまだ眠っているので本当かどうかわからない感じです。頭の中でその原因を探っているのですが、『この感じは蜂か、いや、蜂どころではないぞ…、ムカデ?』と考えているうちに急に目が覚めて飛び起きるのです。見ると敷居の上をムカデが逃げていきます。近くにあった鉛筆を手に持って押し潰そうとするのですが体がまだ半分眠っているのでなかなかうまく命中しません。ようやく仕留めて、さて、手当てを、と思うのですが方法がわかりません。
 本棚から家庭医学事典や登山用の救急事典を出してきて調べてみても「ムカデに噛まれたとき」の項目はありません。蜂や蟻のときにはアンモニア水などで中和するということは聞いたことがあったのでアンモニア水はないから代わりに重曹を使おうかと思いましたが、ムカデは昆虫じゃないから毒の成分が違っているかもしれません。確かめる方法はないかと考えたとき頭に浮かんだのがインターネットでした。
 夜中の2時、激痛をこらえながらパソコンの電源を入れました。とにかく「ムカデ」と入れると一覧が出てきました。でも多くは「ムカデ駆除には…」という業者の宣伝で、すでに噛まれた私にとってはいらいらするだけです。めぼしいページをいくつか見てムカデの毒の見当をつけたのですが、一つ変わったページがありました。それは『傷口を43℃の湯に浸ける』というものでした。他のものは『冷やす』と書いてあります。が、これは体験談でした。
 私はまず重曹で中和してから、かなり心配ではありましたが、試してみることにしました。湯を沸かし温度計で確かめながら43℃に調節し、そこに手を浸けました。噛まれた場所は左手の人差し指の第2関節だったので簡単でした。
 湯に手を浸けながら私が考えていたことは、明日からギターの練習をどうするかということでした。おそらく10日くらいは弾けないだろう。そうなると仕上げに向かって今取り組んでいる練習メニューは変えなければならない。間に合うだろうか。もし、リハビリが必要だったら…。
 そんなことを考えているうちに痛みが少し和らいだような気がしました。それまで「耐えがたかった」痛みが「耐えられそう」な気がしてきました。そのあと、一応アルコールで消毒してから、殺したムカデを焼酎に浸けました。これは他のホームページに「ムカデにはムカデを焼酎に浸けたものが一番効く」とあったため、今後に備えて準備しておこうと考えたからでした。それからはもうすることもないので寝ました。痛かったけど眠れたということは、痛みはかなりとれていたに違いありません。あとは結果を待つだけです。
 目が覚めると、横になったままで意識を指に持っていきました。殆んど痛みがありません。指を見ると目立った腫れもありません。信じられませんでした。慎重に指を動かしてみましたが大丈夫です。ギターを出して弦を押さえてみましたが問題なさそうです。またも常識が破られました。あのホームページでは理由はわからないと書いてありましたが気になります。そこで自分なりに考えてみました。
ア) ムカデに噛まれて腫れたり痛んだりするのは傷口から毒が入ったからだ。
イ) 毒がそこに留まっている限りその状況は続く。
ウ) そこで患部を湯に浸けると温かいので傷口が開く。同時に内部から体液が押し出されるのでそれといっしょにムカデの毒が外に出る。虫の体の大きさから考えて毒の量はそんなに多くないはず。
エ) もし冷やすと傷口が閉じるため毒が患部に残ったままになりやすいのではないか。そうなると、体がその毒を分解するまで痛みは続くことになる。
オ) 水で洗うのも効果はありそうですが、やってないので何とも言えません。

(4) ムカデ、その後
 この治療法のお陰で助かりました。これでもうムカデに噛まれても大丈夫です。でも場所によってはうまく処置できないこともあります。できることならもうこんな目には遭いたくはありません。いくつかのホームページでムカデに噛まれた場合の70%は睡眠中だということも知りました。そして、一度ムカデに噛まれると、このことから夜眠れなくなる人もいるという記述もありました。私は今まさにこの状態です。眠っている間も神経の一部が辺りの気配を探っているのです。噛まれてから一週間ほど過ぎてようやくぐっすり眠れるようになったのですが、それが実は昨日、夜の11時頃、ギターを弾いていたら足元をムカデが這っていきました。この前のものとほぼ同じ大きさです。すぐに捕まえて例の焼酎に浸けにしました。
 その焼酎漬けですが、うすい青色をしています。体の色素が溶け出したのだろうと思いますが、これはかなり気味が悪い。ムカデに噛まれたとしてもとても付ける気にはなれません。本物の薬として使っているものを確認したとしても果たして使う気になるかどうか。
 ムカデはたいてい雄と雌のペアーでいると聞いています。一匹捕らえても必ずもう一匹いるから気をつけろということです。前の一匹と今度の一匹がペアーであればいいのですが、そうでないとすると、さらに2匹が別々にうろつき回る可能性があります。これを確かめる術はありません。
そういうわけで昨晩はこの夏一番の寝苦しい夜となりました。ああ、こんなことでは自然の中で暮らすなどとてもできそうにないのですが……。
2007.8.22

★コメント
 「遊去のブログ」にムカデのことを書いていて、前にこの記事を書いたことを思い出しました。随分昔のことのような気がしていましたが、日付を見ると11年前です。この間、ムカデのことが頭から離れることはありませんでした。40cmもある巨大ムカデの夢まで見たくらいです。(この話は「遊去のブログ<窓から羊>」に書きました。)
 今年、授業で、ヤスデの話(?)をしているとき、ある学生から「ムカデが耳に入ったことがある」という話を聞きました。親の里の家に泊まっているとき、朝方にムカデが耳に入ったそうです。それでどうしたのか尋ねると病院が開くまでじっと我慢していたそうで、その間、3~4時間。信じられない対応です。結局、鼓膜が破れていたということでした。
 今年のムカデ騒動後、折り畳み式の<すのこベッド>を使うことを思い付いたので、おそらく、これで解決するでしょう。引っ越さなくても済みそうです。
2018年11月24日

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