<遊去の話>

「遊去の部屋」「遊来遊去の雑記帳」に掲載した記事と過去の出来事についての話です。「遊去のブログ」は現在進行形で記します。

ついに見た

2021-01-31 19:45:42 | 「遊来遊去の雑記帳」
ついに見た         <2003.6.27>
 今日は貴重な瞬間に立ち会うことができました。土手の上から川面を覗き込んだときのことでした。大きなスッポンが体を水面から乗り出して、まさに、石の上によじ登ろうとしていたのです。その石は流れの中に頭を出しているのですが、それで安心できるのか、その上でカメが甲羅を乾しているのをよく見かけます。大きいのがいることもあれば小さいのがちょこんと乗っていることもあります。今日のカメは、この辺りでは最大級、横綱クラスのカメでした。
 水面から頭が出て、石に前足が掛かるとすーっと体が上がっていきました。そこで足を少し前に移動させ力を入れると今度は甲羅の3分の1くらいが現れました。しかし、この辺りからちょっと様子がおかしくなりました。一息入れているのか動きません。あたりを警戒しているのかも知れないと思って私は草むらに身を潜めるようにして観察を続けました。
 体半分くらいまで上がったところでまた動きが止まりました。体は45度くらいの角度で傾いています。『ははぁーん』そのとき私にはその理由が分かりました。『体が空気中に出ると水の浮力が働かないから急激に体が重くなるんだな。』あの大きさでは大変だろうと思って見ていると、また手足に力を入れて踏ん張ったようで少し体が上がりましたが、そこでまたひと息です。体が4分の3くらい出たところでとうとう水中から後ろ足を出し、爪を石に掛けました。
 カメの体重はかなりのものでしょう。だけど、水中にいるときは浮力が働きますから何も問題はありません。殆んど浮力と重力がつりあっていますから無重力状態と同じです。ところが、陸に上がると全体重が足にかかりますから大変です。それが、坂になればもっともっと大変です。
 この場合、体が水面から出るに従って浮力が小さくなって行きますから手足にかかる重さは増えて行きます。ここが懸垂とは違うところです。懸垂なら腕を曲げても体重はかわりません。いまカメが体験していることは、懸垂をしようとしているとき腕を曲げるに従って体重が増えていって、もう少しで顎が鉄棒の上に出るぞと思って渾身の力を振り絞っているとき、そうはさせまいと誰かが足を下に引っ張っているような状態と似ています。
 カメも渾身の力を振り絞っているように見えました。力が入って後ろ足がぶるぶる震えています。そのかいあってとうとう水面から体が離れました。そしてそのまま石の上の平らな部分に辿り着こうと体を少し浮かせた瞬間です。後ろ足の爪が滑ってどしんと体が岩にぶちあたり、そのままずるっと体が下がりました。『落ちる』と私は思いましたが、カメの前足の爪はがっちりと石の上に引っかかり落下を止めています。その腕の伸びきった状態から懸垂をするように体を徐々に引き上げ何とか石の上に上がることが出来ました。
 私まで体に力が入って、カメが石の上についたときに「ふぅー」とため息をついたのは私の方でした。甲羅乾しも大変です。こうして手にした折角の場所も危険が近づいたときにはあっさり捨てねばなりません。私はいつも土手を歩くときには自分の姿が水面からは見えないように気をつけていますが、今日はその意味が思っていた以上に重かったことを知りました。

★コメント
 考えてみれば、この頃は毎日川辺を散歩していたわけで、いい時間を過ごしていたと思います。コロがいたお陰です。コロが死んでからは散歩をしなくなったので体重が増えました。数か月してそれに気付きましたが、時すでに遅しで、ウエストがきつくなり、ズボンがはけなくなりました。それまでより一段上のW82cmのものが必要になり、風呂上りに腹を見るとこれはまずいと思わざるを得ません。W80cmの線は超えてはいけない線でした。
 その後、引っ越しして今の家に移ったのですが、庭の鉄棒にぶら下がると数秒で握力が尽きてきます。十代の頃には懸垂してそのまま腰の位置まで上がることができたのです。全懸垂と呼んでいましたが、もう一度それをやってみたいと思いました。それには20回くらい懸垂をできる力が必要です。今は7,8回がせいぜいで、まったく見込みはありません。考えてみれば、十代の時よりも体重が10キロ以上増えているのです。これでは無理だと思いました。
 今も懸垂を続けていますが、3回に決めています。これなら体を傷めることはないでしょう。やり方によってはこれだけでも十分きついのです。それがこのところ随分ラクになりました。一日二食にしたら体重が5キロくらい減ったのです。剣道をしていても体を重いと感じなくなりました。単に食べ過ぎだったのかも知れません。間食はするので腹が空くということはないし、不規則な食生活になりつつありますが、動物の暮らしというのは元々そういうものではなかったかと思うようになりました。前のズボンもはけるようになったし、いい加減な暮らしが自分には合っているような気がします。雑然としているものが好きなので、わざわざきちんとすることもないかなというところです。
2021年1月31日

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