<遊去の話>

「遊去の部屋」「遊来遊去の雑記帳」に掲載した記事と過去の出来事についての話です。「遊去のブログ」は現在進行形で記します。

ケモノ道

2020-03-31 19:44:41 | 「遊来遊去の雑記帳」
ケモノ道      <2002.10.19>
 このところ、立て続けにいろいろな来事がありました。
まずは十月初めの日曜日、コーヒー用の水を汲みに山へ行きました。いい所が何箇所かあるので、そのときの気分によって何処へ行くかを決めます。その日は車を止めてから100mくらいのところにある沢へ行きました。ここは主に秋から春くらいまでよく来ます。というのは夏の間は草が生い茂って通りにくくなるからです。それにマムシもいますから足元が見えないときは危ないのです。そうやってまでして水を手に入れるというからには、その水でコーヒーを入れるとよほど味が違うのだろうと思われるでしょうが、これがまったくと言っていいほど水道の水と変わりません。水の味は、やはり生で飲むのが一番でしょう。コーヒーのような味の濃いものにしてしまうと水の味は殆んど分からなくなってしまいます。でもそれでいいのです。そうやって汲んできた水は貴重なものですし、当然限りのあるものです。だから最後の一滴まで大切に使います。そうするとコーヒーを入れるときも神経を集中しますから、それによって味も変わってくるのです。最悪なのは何かをしながら片手間にコーヒーを入れること。これでは何も極められません。

 その日は水を汲んだ後、その水場に下りている獣道を辿ってちょっと山を登ってみました。獣道といっても鹿道です。頭を低くして10分くらい歩いたとき、横の方でガサッという音がしたのでそちらを見ると鹿が1頭斜面をななめに走って行きました。私が反射的に身をかがめるとまたガサッと音がしてもう1頭藪から飛び出してきました。距離は10mくらいです。これは群れかもしれないと期待して息を凝らして待ちましたが、あとはもう何も出てきませんでした。まあ2頭も見られれば上等です。
 そのまま鹿道を辿ると、雑木の明るい尾根に出たのでちょっと休もうと足元を見たら何かがちょろちょろ動きました。小さな蛇でした。30cmくらいのヤマカガシです。みごとな保護色で、落ち葉の中では動かなければ見つけることは難しいでしょう。首のところの黄色の模様が実に鮮やかでした。
 また少し進むと妙に強い風の音がするのでおかしいなあと思ってそちらの方に斜面を下ると、それは風ではなくて沢の水の音でした。滝のように水が落ちているのです。それを確かめてから、もう今日は引き返そうと元の道を辿るとどうも様子がおかしいのです。迷ったわけではないのですが、方向感覚がまるで合わないのです。途中ちょっと近回りをしようとしたら本当に迷ってしまいました。それで慎重に辺りをチェックして元の水場に戻りましたが、動物と人間とでは、これだけ道の感覚も違うのかなあと思いました。

★コメント
 もう18年も経ったのか。ここは私が「丹波の里」と名付けたところです。家はありませんが、放棄された小さな棚田があって、そこは鹿やイノシシの足跡だらけです。「丹波」の地も知らないのにこんな名前を付けてしまったのですが、心の中の丹波の風景というところでしょう。このときは車で来ていたのですが、今は自転車で15分。クヌギやコナラの木がたくさんがあって100年前の里山という感じで、気持ちのいいところです。
 先日もこの尾根を登り切ったところでワラビを取りました。少し早いかなと思ったのですが、そこにはコブシの木があって、その白い花を見るのも春の楽しみの一つになっています。コブシの花が散るころにワラビが出始めるので、残念ながら両方一緒に、というわけにはいきません。まだだなと思いながら帰りかけたときに走りのワラビが見えたので取り始めたら一回の調理分くらいは取れました。
 鹿はワラビの先を齧って食べます。おそらく先の方はアクが少ないのでしょう。人が取るときはポキンと折るので違いは簡単にわかりますが、ここではそれを見たことはありません。夜になるとここも鹿でいっぱいになるかもしれません。それにしてもあの大きな体を維持するにはどれだけの食べ物がいるのでしょうか。生きるということは大変なことだなと思います。でもそれが本来の野生の姿なのでしょう。
2020年3月31日

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする