<遊去の話>

「遊去の部屋」「遊来遊去の雑記帳」に掲載した記事と過去の出来事についての話です。「遊去のブログ」は現在進行形で記します。

「ロッパの家」

2019-08-27 09:11:08 | 「遊去の部屋」
<2009年10月25日に投稿>
 「硬水と軟水」の話をするときに、その関連で鍾乳洞のことも取り上げようと考えていました。それは、鍾乳洞から流れてくる水を「体にいい水」だと思って飲料用にわざわざ汲みに行く人がいるからです。鍾乳洞は石灰岩地帯にできる洞穴です。石灰岩の成分は炭酸カルシウムなので、水中にはカルシウムイオンが溶けています。それで、カルシウムを含んでいるなら体にいいし、きっと骨や歯も丈夫になるに違いないと考えるらしいのですが、このようなカルシウムは体の中に取り入れても利用できず、却って害になるばかりです。カルシウムイオンやマグネシウムイオンをたくさん含んだ水は「硬水」と呼ばれ、飲料には適さないので、わざわざこれらのイオンを取り除いて「軟水」にしているくらいです。
 フランスやイタリア、ギリシャなど、地中海の周辺には漆喰を塗った白い壁の家がたくさんあります。とても美しい眺めですが、このあたりは石灰岩が地表に露出している地帯が多く、地下水は硬水ということになります。水は良くないのです。その話をするのに、白い壁の家がたくさん建っている地域の写真を見せたいと思い、図書室に行きました。
 10年ほど前から、資料を探すときには司書に相談することにしています。そうすると自分とは違う発想で、自分では到底見つけることのできないようなものをたくさん集めてくれるのです。この経験から、つくづく自分だけで物事を考えていてはだめだなということを学びました。そんなわけで今回もお願いしたら5,6冊集めてくれました。その中の1冊に「ロッパの家」というのがありました。
 本には資料の載っている箇所に付箋が付けられています。そこを開けるとまさにこれだという写真がありました。それで用は足りたのですが、あとで「ロッパの家」というのが気になりました。ぱらぱらページをめくると伝統的な家や街の写真が出てきます。たまたま目を止めたところにポルトガルと書いてありました。それでポルトガルの伝統的な様式で建てられた家のことを「ロッパの家」というのかと考え、あとで時間を取ってよく見ようと思ったのですが、そのまま日が過ぎてしまいました。落ち着いて見る時間がなく、途中、ちらちらと適当に本を開けて見ていたのですが、どこを見てもすばらしい写真ばかりで、いろんな様式の建物があり、ポルトガルというところはすごいところだなあと感心していました。
 そろそろ資料を返さなければと思って図書室に行き、返却したのですが、「ロッパの本」だけは気になったのでまた持ち帰ってきてしまいました。そして、「ロッパ」というのは「ヨーロッパ」の元になった言葉かもしれないと考えながら、「ヨーロッパ」の起源がポルトガルにあるのだとしたらそれが何なのかは突き止めておきたいし、そうするべきだ、今やらなかったらもうそれを調べることはないだろうと思いました。
 寝る前に、純米酒を飲みながら「ロッパの家」を見ていました。ぱらぱら見ていくと見たことのある建物が出てきました。アルベロベッロ、円錐形の石屋根住居。これはイタリアだろう。そうか。ポルトガルの人たちがロッパの様式をここに持ち込んで、それが少しずつ変化してこの形になったのか。
また、ぱらぱら見ていくと、丘の上に神殿が建っていて、これはどう見てもギリシャだろうという写真が出てきました。そうか、わかった。「ロッパの家」というのは、こういう伝統的な家の総称なのだな、ということで、続きはまた明日となりました。

 9月の終り頃から早朝の時間は創作に当てています。朗読と音楽の話作りですが、この5,6年、殆んど書けず、苦しい日々を過ごしてきました。いよいよコンサートで取り上げる作品が種切れになってきたので次を書かなかったら発表する作品がありません。それで、これまでギターの練習を優先順位のトップにしてきたのですが、9月の終りごろから書くことをトップに持ってきました。朝の4時~5時から2時間くらい取り組んでいます。『毎日』というのは恐ろしいもので、取り組んだ成果が目に見えて溜まってくるのです。そして、早朝ということもあると思いますが、話がまた書けるようになりました。
 この4,5日はイングランドとスコットランドの間に起こった戦いの資料を読んでいました。各連隊の指揮官の名前や出身、戦闘での死亡者数や負傷者数まで載っているとても詳しい資料なのですが、英文なので骨が折れます。何しろ、戦争の資料なので単語が特殊なのです。軍隊についても、歩兵、騎兵、連隊、師団など、銃剣やら負傷者やら、辞書を引き続けです。根負けしそうになるのを堪えているとき、ぽんと閃きました。「ロッパ」は「ヨーロッパ」のことではないか。椅子に座ったまま体をねじるようにして後ろを向きました。早朝はかなり冷えるので足を寝袋に入れているためです。
 ロッパの本の「ロッパ」の前にはラベルが貼ってありました。図書館のバーコードのラベルです。そこにラベルの貼ってあることは知っていました。閃いたのはその下に文字があるのではないかということでした。本のタイトル文字の上にラベルを貼るとは思えないし、「ロッパの家」の文字の位置がちょうどバランスのいい所にあったので、まさか、前のラベルのその下に文字があろうとは考えもしなかったのです。
 ところが、早朝で頭がすっきりしていることと英文資料を理解するために頭をフル回転させていたため、全く関係のないことまで閃いたのだと思います。いや、英文を読んでいるときに、一瞬ですが、イギリスにも「ロッパの家」はあるのだろうかと考えたような気がします。その瞬間に閃いたのでしょう。
 私は体をねじりながら薄暗い光の中で、後ろに立て掛けてある本の背文字を読もうとしました。ギックリ腰にならないように用心しながら体を後ろへ反らしていくと、確かに背文字には「ヨー」という字がありました。「ヨーロッパの家」、これが正しい本の題名でした。
 『あの時、本を返さなくて良かったよ。』もし、返していたら、私は、ポルトガルには「ロッパの家」というものがあると思い込んでいたことでしょう。しかし、返さなかった。返しに行ったが返さなかった。ここには何か勘のようなものが働いていたのではないかと思います。『だめだ、だめだ、返しては。もっとしっかり確かめろよ。』というような囁きが聞こえたような気がするのです。その勘が何処から来るのか分かりませんが、やはり、勘には従った方が良さそうです。『ああ、返さなくて助かった。』


★コメント
 ブログの方に「シャドークィーン」を載せたときに「ロッパの家」を思い出しました。見間違えや聞き違えは日常茶飯事です。先日もある場所で、自己紹介をされたとき名前を聞き違えてしまいました。「キンジョで…」と言ったのを私は「金城で…」と聞いてしまいました。沖縄の人かなと思ったのですが、実は「近所に住んでいる○○で…」ということでした。○○の方は忘れてしまいました。どうも私は名前を聞き取るのが苦手なようで、殆ど一度では無理です。それで聞き直すことになるのですが、2度目で聞き取れなかったらもうそれ以上は聞けません。生徒などはもう一度聞くと「もういい!」と言って露骨に嫌な顔をされることもあります。それで名前を聞くときにはかなり神経を使うようにしているのですが、初めて聞く名前などは漢字を教えてもらわないと無理です。ところが会社などに電話をして自分の名前を言ったとき聞き直されることはまずありません。「受付」を仕事にしているということもあるでしょうが、それにしてもすごいと思います。あるとき、名前と住所を聞かれて、答えるとそれがすらすら通っていくので、どうしてそんなに聞き取れるのか尋ねたことがあります。そうすると、こちらが電話をした段階で番号が分かり、認証確認のための情報がパソコンの画面に表示されるようでした。このようなケースもありますが、一般的には耳で聞き取ることが多いでしょう。私にはこのような仕事はできません。

 この記事を読んでみて「ロッパの家」の本を手にすることになった経緯を思い出しました。「硬水・軟水」の資料探しの過程で出てきたことは完全に忘れていました。そういえば「ヨー」の字がラベルで消されていることは司書に話さなかったことを思い出しました。そうするとあの本は今も「ロッパの家」のまま図書室の本棚にあるかもしれません。当時の司書も転勤になったし、この学校も今は出入りしていないので確かめることはできませんが、少し気になります。
2019年8月27日

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