<遊去の話>

「遊去の部屋」「遊来遊去の雑記帳」に掲載した記事と過去の出来事についての話です。「遊去のブログ」は現在進行形で記します。

黒い訪問者

2020-05-31 18:47:18 | 「遊来遊去の雑記帳」
黒い訪問者     <2003.1.23~2.10>
 この頃、南側の窓の下で黒猫が丸くなっているのをよく見かけるようになりました。どうもそこで夜を過ごしているらしいのです。朝、雨戸を開けると、初めのうちはさっと逃げていたのですが、このごろはあくびをしてからのそのそ移動するようになりました。黒いつやつやした見事な毛並みをしています。これを見て、黒は、実は、美しい色だったのだと思いました。
 黒猫というと不気味な印象が先行してあまりいい感じは持っていなかったのですが、考えるまでもなく、これは勝手に人間がドキッとしているだけのことで黒猫のたくらみではありません。そう考えるとむやみに脅かして追い払うのも大人気ないような気がして、実害がないのなら放っておいてもいいだろうと思いました。
 それには、私の基本的な考え方の中に「棲み分け」というものがあるからなのですが、お互い、多少の不都合はあってもいくつもの生き物が同じ空間にいるという方が感覚的に好きなのです。

 実害がないわけではありません。去年の夏、北側の部屋に頻繁に侵入したのは恐らくこの黒猫なのです。北側の部屋は仕事部屋で生活には使ってないので食べ物はありません。だから取られるものはないのですが、それならなぜ黒猫はやってくるのでしょうか。それがわからないのです。どうも黒猫は部屋の中に入り、それから風通しのいい場所を選んで昼寝をしているらしいのです。暑い日ざしを避けてのことかもしれません。それにしても入り口はいつも同じ窓なのです。他にも入るところはあるのですが他からは入りません。どうしてそんなことが分かるかというと、入ったところには丁寧に足跡が残っているからです。
 それでそのわけを私なりに推論してみました。黒猫にはいくつもの通り道があってそこを巡回するのが日課になっているのです。その途中にこの窓があり、それを見ると飛び上がらずにおれない衝動に駆られるのです。それはこの窓が高くもなく低くもなく、ひょいと飛び上がるのにちょうどうってつけの高さだったのです。それで黒猫はこの窓の下に来ると、この絶妙な高さのために自らの意志とは関係なくつい体が動いてしまうというわけでした。人間にも、ちょうどいい高さのところに鉄棒があるとひょいと飛びついてしまうところがあるのと同じようなものですね。

 この4,5日黒猫の姿を見ていなかったのでどうしたのだろうかと気になっていましたが、今朝、雨戸を開けたら窓の下で寝ていました。ちょっとこちらを見て、それからわざとらしくあくびをし、また丸くなってしまいました。ああ、生きてたんだなと思ってほっとしました。やっぱりいろんな生き物が勝手に生きているのはいいものだと思います。


★コメント
 今の家にも夜に何かが訪れます。庭や畑には足跡や枯草に鼻を突っ込んだような凹みが見られます。何度かその姿を見ようと試みましたが、やはり夜は暗いのでそこに居ても見つけるのは難しいでしょう。枯草の凹みからミミズや虫を探しているのではないかと思います。足跡の大きさからタヌキかアナグマではないかと推測しています。
 うちの畑は耕しません。伸びた草は取って地面に置いて自然に分解させています。それでその下にはミミズや虫がたくさんいるのです。それを求めて夜の訪問者はやってくるのでしょう。いつか見る日があるだろうか。見たい気持ちはありますが、痕跡を見るだけで十分な気もします。彼らには彼らの暮らしがあって、私には私の暮らしがあり、同じ空間を昼と夜で使い分けているわけなので、これも「棲み分け」のうちに入るかなと思います。
2020年5月31日

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