<遊去の話>

「遊去の部屋」「遊来遊去の雑記帳」に掲載した記事と過去の出来事についての話です。「遊去のブログ」は現在進行形で記します。

ミミズのかんぴんたん

2020-02-29 13:39:54 | 「遊来遊去の雑記帳」
ミミズのかんぴんたん       <2002.5.30>
 前々から気にかかっていたことなのですが、農道を散歩していると干からびてからからになったミミズをよく見かけます。このごろは農道も舗装されているので、太陽が高くなるとアスファルトが焼け、それでミミズがミイラになるのだということは分かるのですが、そうなる前にミミズはどうして逃げないのかということが疑問でした。夏でも、道が死ぬほどの熱さになるまでには時間がかかります。道幅は2~3mですから、いくらミミズでも充分逃げる時間はあるはずです。それにも拘らず道には点々とミミズのかんぴんたんが転がっています。まさか自殺ということでもあるまいに、これはいったいどういうわけだと思っていたところ、運良くラジオでミミズの専門家の話を聞くことができました。
 話では、モグラに追われたりなどして一度穴から出てしまったら最後、もうミミズは自分の穴には戻れないだろうということでした。なぜならミミズには目がないからです。私はこの話を聞いてハッとしました。ミミズに目がないということは全く頭になかったからでした。ミミズは自分の穴には戻れなくても道端の草地まで辿り着けば、そこで枯草の下にもぐり込んだり地面に穴を掘ったりできるだろうから死ぬことはないでしょう。しかし目がないからどの方向に道端があるのか分かりません。それで、運悪く道の延びている方向に進んだミミズはどこまで行っても草地に辿り着くことができません。それで、そのうち太陽が高く昇り、道路が焼けてきて、かわいそうに、もはやこれまでということになるのかと考えました。だから、道でかんぴんたんになって死んでいるミミズは実に運の悪かった連中なのです。
 先日、コロが腹をこわして朝早くから泣き出し、とうとう朝の5時ごろから散歩に連れて行くはめになりました。半分眠りながら歩いているとアスファルトの農道を動いているものに気付きました。ミミズです。びっくりしました。生き生きしてすいすいと道を横切っていきます。迷っている様子はまったくありません。あっという間に一直線に道を横切ってしまいました。この日はこういう光景をいくつもいくつも見ることができました。どのひとつも<目がない>ために迷っているとは思えませんでした。
 疑問はまた振り出しに戻りました。どうしてミミズはアスファルトの道の上で、こうもたくさんかんぴんたんになって死んでいるのでしょうか。


★コメント
 45年くらい前のことですが、西ノ宮にあるミミズの<研究所>を友人と訪ねたことがあります。そのとき私は農学部農芸化学科の学生でしたが、ミミズを使った農法に関心を持っていました。新聞で「活性汚泥でミミズを養殖(?)」という記事を見て、友人を誘い、3人で見学に出かけました。日記によると、そこで<改良二号>というミミズとその糞をもらったとなっています。それから神戸市灘区の女子学生の家に遊びに行ったようで、他の二人はそちらが目的だったのかもしれません。大学は堺市にあったので、今、地図を見て、彼女はそんな遠いところから通っていたのかと驚きました。きちんと連絡を取ってあったらしく、大きな家で彼女の作った昼食を御馳走になりました。「すごくおいしかった。彼女はきっといいお嫁さんになるだろう。」と書いてあります。また「Oは相変わらず面白いことをいうし、Fはあいつらしいことをいう。そして彼女は何にでも賛成し、うんうんとうなずく」――― 一瞬にして当時のことが蘇りました。
 それから私はアパートでミミズを飼い始めました。ブラスチックの洗い桶に研究所でもらってきた汚泥を入れ毎日観察を続けました。そのうちにミミズが卵を産み、それも孵りました。それから少ししてアルバイトから帰ってドアを開けたとき、何か嫌な気配を感じました。夜で真っ暗ですが、電気を点けるには部屋の中に入らなくてはなりません。ほぼ察しはつきました。目が慣れてくるのを待ち、爪先立ちで台所の床を歩き、電気を点けた途端、目から火花です。
 洗い桶にはビニールが被せてあったのですが、呼吸のために空気穴を開けてあります。ミミズは桶の中が過密になったため、一斉に空気穴から外に出たのでしょう。『何も一斉に出ることはないだろう』と言ってもあとの祭です。
 畑をするようになってからはミミズを大切にしました。ミミズが増えたらモグラがやってきました。今の畑も最初、ミミズは殆どいなかったのですが今はモグラだらけです。そしてミミズの元気のいいこと、梅雨時などは滑っているのではないかと思うくらいの速さですいすい動きます。そのミミズがどうしてかんぴんたんになるのか、今もって謎のままです。
<「かんぴんたん」は干からびてからからになった状態のものを指します。>
2020年2月29日

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