コロは穴掘りが得意です。それは小さいときからで、これはもう才能といってもいいくらいです。その最初は「脱走用のトンネル」で、<脱走>のところに書いたとおりです。はじめは脱走する目的で掘るのではないと思いますが、一度掘り出すと掘ること自体が目的になり、もうどうにも止まらなくなってしまうようなのです。穴が大きくなればなるほど、また深くなればなるほど達成感があるのか、ますます気力が充実してくるみたいです。それで仕方なくコロの小屋を移動して裏口の庭のところに持ってきて鎖につなぎました。
犬も小さいときはよくいたずらをします。とにかく何でも手当たり次第に物を噛みます。そんなことはこちらも分かっていますから、紐の切れたサンダルなどを与えてちゃんと先手を打っておくのですが、これにはちょっとコツがあるのです。渡すときもすぐには渡さず、最初はチラチラ見せて欲しがらせておき、犬がやって来たらわざとくるりと背中を向け意地悪をするのです。そうすると犬は前に回ろうとしますから、そうしたらまたくるっと回って背中を見せるということを数回繰り返してからわざとしくじったかのように噛み付かせます。そこから引っ張り合いになるのですが、このとき無理に引っ張ってはいけません。犬の歯を傷つけないように適当に加減して行います。それから如何にも取られたというように奪わせておいて、そのあと2,3度取り返すまねをしておけばいいでしょう。これで犬はもう得意になっていますから、スリッパの値打ちもずいぶん上がったわけで、しばらくはこれを噛んで遊ぶから静かになるはずです。
ところがコロの場合はどうも予想外のことが起こります。しばらくするといきなり静けさを破ってガシャンという音。コロが噛むのに飽きてスリッパをくわえたままと首を激しく振ったのです。これは犬の習性だから仕方がありませんし、これだけなら別に問題はないのですが、そのうちに口がすべってスリッパが、所かまわず飛んで行くから大変です。トタンの塀や壁にぶつかるくらいなら何でもないのですが、これがガラス戸なんかにぶつかったときには凄まじい音がして腰を抜かしそうになります。幸いなことに狭い間隔で木の桟があるので直接ガラスにぶつからず助かりましたが、こうなるともう放ってはおけません。
叱ってスリッパを取り上げると、コロは少ししょげた顔になって、すごすごと小屋の中に入っていきます。これでよしと思ってまた仕事に取り掛かるのですが、少しすると裏口の戸がパチパチと音をたてはじめ、そのうちにバチバチ鳴り出したので、あわてて見に行くとガラス戸に土やら石やらが飛んできてぶつかっているのです。戸を開けると、コロが庭に穴を掘っていました。直径50cmくらいはある大きな穴です。むこうを向いて掘っているので掘った土はみんな後ろ足の間から戸の方に飛んでくるのです。コロはもう穴掘りに夢中で、さっきのしょげた顔は何処へいったのやら、目はキラキラ輝いて力がみなぎっているのですが、振り返ったコロの鼻は泥だらけでした。
散歩のとき、稲刈りの終わった田んぼでよくコロを放してやります。そうするとコロは喜んで、あっちへ走り、こっちへ走り、殆んど全力疾走するのですが、あるときのこと、ぴたっと走るのを止めて、地面に鼻をすり寄せ匂いを嗅ぎ始めました。それから7、8mとんとんと軽く走り、そこでまた匂いを嗅ぎました。それからまた戻って匂いを嗅いで、今度は別の方へ歩いて行き、またそこで匂いを嗅ぎました。そういうことを5,6回繰り返したあと、今度は猛然と地面を掘り始めたのです。踏ん張った後足の間から土が吹き出すように飛んで行きます。しばらく掘ると今度はぴたっと掘るのを止め、鼻を穴に突っ込んで匂いを嗅いでいます。再び掘りだしたときはさらに凄い勢いです。そしてそこへ頭を突っ込むといきなり何かをくわえて引きずり出しました。最初はネズミか思いましたが、それは実はモグラでした。大きなモグラです。相撲でいえば横綱級でしょう。私はびっくりして駆け寄ってコロからモグラを取り上げました。驚いたことにモグラの毛皮は全く傷ついていません。犬の牙で噛まれているのに何ともなっていないのです。私が背中の皮をつまんで持ち上げるとモグラは手足をばたばたしてもがき、そこへコロがぴょんぴょん飛びかかります。私はコロの首輪をつかんで、コロに「えらいえらい」をしてからモグラを放してやりました。モグラは凄い勢いで地面を掘り出し、あっという間に潜ってしまいました。その速いこと。私は、そのあまりの速さに、もう一度潜るところが見たくなり、思わず潜っていくモグラの背中をちょっとつかんで引っ張ってしまいました。ところが、モグラの背中の毛はすべすべで、つかんでも力が入らずとても引っ張り出すことはできませんでした。コロを放せばあっという間にモグラを引っ張り出したでしょうが、それはしませんでした。モグラにとっては命がかかっているわけだから死にもの狂いのはずなのです。地面に消えて行くモグラの背中を見ながら、こんなときに背中を引っ張るなどということはするものではないなと思いました。
P.S. コロは今までに地面を掘ってモグラを3匹捕まえています。
2003.1.13
★コメント
今の家に引っ越してから、庭でモグラが死んでいるのを2度見ました。地上で死んでいるモグラを見たのはこれが初めてでした。
山でキャンプをしていたときに奇妙なものが動いていくのを見つけたことがあります。モグラでした。灰色の小さなネズミくらいの大きさで、細長く突き出した鼻には試験管ブラシのように粗く毛が生えています。その様子から考えてモグラかなと思いましたが、確信は持てませんでした。
モグラが死んでいるのを見たという話は聞いたことがありますが、それは当然地上でのことです。多くの場合は地下で死ぬのだろうけど、土の中では人の目につくことはありません。そこで「モグラは太陽の光に当たると死ぬ」と言われたりしたのでしょう。私が見たのは夕方でしたが、まだかなり明るく、それでも元気そうに土の上をまっすぐ進んで草むらに消えました。
そのモグラは、コロの掘り出したモグラと比べるとかなり小さくて体長は半分以下でした。子供だったのかもしれませんが、それまでの人生で私が見たモグラはその一匹だったのでモグラというのはこういうものだと思っていたのです。そういうこともあってコロがモグラを掘り出したときには驚きました。「横綱級」と書いたのはそのためです。ところがうちの庭で死んでいたモグラも2匹とも横綱級でした。
日本に広く分布しているモグラには何種類かあるようなので種類が違ったのかもしれません。いずれにせよ庭にも畑にもモグラはたくさん棲んでいます。モグラは大食漢なのでそれだけエサになる生き物がいるということでしょう。いろんな生き物がたくさんいるということは豊かな多様性を保っているということだからこれでいいのだろうと考えています。
犬も小さいときはよくいたずらをします。とにかく何でも手当たり次第に物を噛みます。そんなことはこちらも分かっていますから、紐の切れたサンダルなどを与えてちゃんと先手を打っておくのですが、これにはちょっとコツがあるのです。渡すときもすぐには渡さず、最初はチラチラ見せて欲しがらせておき、犬がやって来たらわざとくるりと背中を向け意地悪をするのです。そうすると犬は前に回ろうとしますから、そうしたらまたくるっと回って背中を見せるということを数回繰り返してからわざとしくじったかのように噛み付かせます。そこから引っ張り合いになるのですが、このとき無理に引っ張ってはいけません。犬の歯を傷つけないように適当に加減して行います。それから如何にも取られたというように奪わせておいて、そのあと2,3度取り返すまねをしておけばいいでしょう。これで犬はもう得意になっていますから、スリッパの値打ちもずいぶん上がったわけで、しばらくはこれを噛んで遊ぶから静かになるはずです。
ところがコロの場合はどうも予想外のことが起こります。しばらくするといきなり静けさを破ってガシャンという音。コロが噛むのに飽きてスリッパをくわえたままと首を激しく振ったのです。これは犬の習性だから仕方がありませんし、これだけなら別に問題はないのですが、そのうちに口がすべってスリッパが、所かまわず飛んで行くから大変です。トタンの塀や壁にぶつかるくらいなら何でもないのですが、これがガラス戸なんかにぶつかったときには凄まじい音がして腰を抜かしそうになります。幸いなことに狭い間隔で木の桟があるので直接ガラスにぶつからず助かりましたが、こうなるともう放ってはおけません。
叱ってスリッパを取り上げると、コロは少ししょげた顔になって、すごすごと小屋の中に入っていきます。これでよしと思ってまた仕事に取り掛かるのですが、少しすると裏口の戸がパチパチと音をたてはじめ、そのうちにバチバチ鳴り出したので、あわてて見に行くとガラス戸に土やら石やらが飛んできてぶつかっているのです。戸を開けると、コロが庭に穴を掘っていました。直径50cmくらいはある大きな穴です。むこうを向いて掘っているので掘った土はみんな後ろ足の間から戸の方に飛んでくるのです。コロはもう穴掘りに夢中で、さっきのしょげた顔は何処へいったのやら、目はキラキラ輝いて力がみなぎっているのですが、振り返ったコロの鼻は泥だらけでした。
散歩のとき、稲刈りの終わった田んぼでよくコロを放してやります。そうするとコロは喜んで、あっちへ走り、こっちへ走り、殆んど全力疾走するのですが、あるときのこと、ぴたっと走るのを止めて、地面に鼻をすり寄せ匂いを嗅ぎ始めました。それから7、8mとんとんと軽く走り、そこでまた匂いを嗅ぎました。それからまた戻って匂いを嗅いで、今度は別の方へ歩いて行き、またそこで匂いを嗅ぎました。そういうことを5,6回繰り返したあと、今度は猛然と地面を掘り始めたのです。踏ん張った後足の間から土が吹き出すように飛んで行きます。しばらく掘ると今度はぴたっと掘るのを止め、鼻を穴に突っ込んで匂いを嗅いでいます。再び掘りだしたときはさらに凄い勢いです。そしてそこへ頭を突っ込むといきなり何かをくわえて引きずり出しました。最初はネズミか思いましたが、それは実はモグラでした。大きなモグラです。相撲でいえば横綱級でしょう。私はびっくりして駆け寄ってコロからモグラを取り上げました。驚いたことにモグラの毛皮は全く傷ついていません。犬の牙で噛まれているのに何ともなっていないのです。私が背中の皮をつまんで持ち上げるとモグラは手足をばたばたしてもがき、そこへコロがぴょんぴょん飛びかかります。私はコロの首輪をつかんで、コロに「えらいえらい」をしてからモグラを放してやりました。モグラは凄い勢いで地面を掘り出し、あっという間に潜ってしまいました。その速いこと。私は、そのあまりの速さに、もう一度潜るところが見たくなり、思わず潜っていくモグラの背中をちょっとつかんで引っ張ってしまいました。ところが、モグラの背中の毛はすべすべで、つかんでも力が入らずとても引っ張り出すことはできませんでした。コロを放せばあっという間にモグラを引っ張り出したでしょうが、それはしませんでした。モグラにとっては命がかかっているわけだから死にもの狂いのはずなのです。地面に消えて行くモグラの背中を見ながら、こんなときに背中を引っ張るなどということはするものではないなと思いました。
P.S. コロは今までに地面を掘ってモグラを3匹捕まえています。
2003.1.13
★コメント
今の家に引っ越してから、庭でモグラが死んでいるのを2度見ました。地上で死んでいるモグラを見たのはこれが初めてでした。
山でキャンプをしていたときに奇妙なものが動いていくのを見つけたことがあります。モグラでした。灰色の小さなネズミくらいの大きさで、細長く突き出した鼻には試験管ブラシのように粗く毛が生えています。その様子から考えてモグラかなと思いましたが、確信は持てませんでした。
モグラが死んでいるのを見たという話は聞いたことがありますが、それは当然地上でのことです。多くの場合は地下で死ぬのだろうけど、土の中では人の目につくことはありません。そこで「モグラは太陽の光に当たると死ぬ」と言われたりしたのでしょう。私が見たのは夕方でしたが、まだかなり明るく、それでも元気そうに土の上をまっすぐ進んで草むらに消えました。
そのモグラは、コロの掘り出したモグラと比べるとかなり小さくて体長は半分以下でした。子供だったのかもしれませんが、それまでの人生で私が見たモグラはその一匹だったのでモグラというのはこういうものだと思っていたのです。そういうこともあってコロがモグラを掘り出したときには驚きました。「横綱級」と書いたのはそのためです。ところがうちの庭で死んでいたモグラも2匹とも横綱級でした。
日本に広く分布しているモグラには何種類かあるようなので種類が違ったのかもしれません。いずれにせよ庭にも畑にもモグラはたくさん棲んでいます。モグラは大食漢なのでそれだけエサになる生き物がいるということでしょう。いろんな生き物がたくさんいるということは豊かな多様性を保っているということだからこれでいいのだろうと考えています。