<遊去の話>

「遊去の部屋」「遊来遊去の雑記帳」に掲載した記事と過去の出来事についての話です。「遊去のブログ」は現在進行形で記します。

手相のこと

2022-05-31 14:27:42 | 「青春期」
 NHKのFMシアターを聴いていて<手相>という言葉に耳が止まりました。この言葉を聞いたのは何年ぶりでしょうか。「あいあるあした」という話の中に出てきたのですが、手相という言葉は今では死語のように感じていました。昭和の残骸という響きがします。しかし令和になった今でも自分の運命を知りたいという気持ちは多くの人の心の中に変わりなく存在するのかも知れません。

 私は18歳のときに一度手相を見てもらったことがあります。それは東京に出た直後のことでした。中央線中野駅の北側に、確か「中野ブロードウェイ」という名の通りがあり、夜、そこを歩いていたとき、人通りのないアーケードの道の片隅に手相占いの人を見かけたのです。気になることがいくつかあったのも事実ですが、手相で何かわかるとは思っていませんでした。それなのに何となく見てもらおうという気になったのです。
 確か1000円でした。それはアルバイトの日給に当たるくらいの額でしたから冷やかしというわけでもないと思います。やはり心の底に何かを期待する気持ちがあったのでしょう。
 占い師の人は50代くらいの女性でした。あまりいいことは言われませんでしたが、手相は変わってくるから35歳くらいまでしか分からないということでした。それから20代の間は「35歳」が気になっていましたが、実際に35歳になった時には生きるのに必死で手相のことは全く忘れていました。

 実はこの3年後、21歳のときにもう一度手相を見てもらいました。東京での暮らしに疲れ果て、挫折して田舎に帰り、半年間受験勉強をしました。そのときに、よく当たると評判の手相占いの人のところに行ったのですが、自分では前のときと比較したい気持ちがありました。その人は神社の石垣のところに幕を張って営業していました。幕をめくると老人が小さな椅子に座って本を読んでいました。やはり1000円でした。いろいろ聞いたのですが、最後に、そのときは農学部を受験し直すつもりだったので京都か大阪に行くつもりだと話しました。すると占い師は、方角が悪いから、京都に行けば死ぬかも知れないと言いました。たまたま大阪の方の試験が先にあり、そちらの合格発表があったので京都は受けなかったのですが、今も京都に行ったら死んでいたような気がします。この時にもいいことは何も言われなかったと思います。

 中学生のとき、本屋で手相の本を買い、読み出したことがあります。受験勉強の苦しさや不安から逃れるためかも知れません。そして教室で友人に「高校をすべったら手相占いをする」というようなことを話していたことを覚えています。もちろん「本気で」という次元ではありません。ただ、自分の生命線に途切れているところがあって、その辺りで何かあるかも知れないと思いました。

 手相を見てもらってから50年くらい経つわけで、言われたことのいくつかは当たったかどうか分かります。だけど驚くのは今の自分がそういうことに対する関心を全く失ってしまっていることです。先の残りが見えてきたからかも知れませんが、考えてみれば50年前の段階で今の時代の状況を想像することは不可能だったでしょう。
 パソコンが現れて、それが普及し、今やインターネットで世界中がつながっている時代になっているわけで、人々の社会生活もそれに伴ってどんどん変化して来ました。それに対応して生まれてくる人間関係にはかつてなかった要素も生じています。基本的な要素は依然として存在していてもそこに新たな要素が少し加わることでかつての法則が通じなくなることは十分にあり得ます。
 50年前、「ロボット」や「人工知能」はSFの世界の話でした。それが今は実生活に導入され、暮らしは極めて滑らかで便利になりつつあります。だけど気になるのは、それらが蓄積されたデータ処理の結果に基づいていることです。それは脳の機能の一部であって、その働きの強化でしょう。そうなると歪な発達を遂げた人間の脳のバランスをさらに崩すことになるのではないかと思います。また逆に、車ができてから歩く機能が衰えたように脳自体の発達した部分が退化するかも知れません。

 手のひらを眺めてみました。50年前とあまり変わってないような気がします。よくここまで生きてきたなあという感慨があります。手相も心の風物の一つでしょう。「人間万事塞翁が馬」とはいうものの、望むべくもない災難に見舞われる人はたくさんいます。長い間忘れていましたが、最初の手相のとき「人身事故を起こす」と言われました。これまでのところは無事故ですが、危なかったことは何度もあります。ここはしっかりと気を引き締めていく必要があります。
2022年5月31日

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