ドスドス、と足音を立てながら、柳瀬健太は構内を闊歩していた。
携帯を見ながら歩く健太は、どこか不満そうな面持ちである。
「あーもう柳のヤツどこにいんだよっ。
どいつもこいつも俺のこと避けやがって‥クッソ」
ツレナイ学科生達にブツブツと文句を漏らす健太。
そんな矢先、見覚えのある二人が目に留まった。
「お?」
「おおお~?こりゃまたどういう組み合わせだぁ?」
そこに居たのは佐藤広隆と赤山雪だった。同学科とはいえ、あまり接点のなさそうな二人なのだが‥?
そんな健太に見られていることなど露ほども知らない雪と佐藤は、経済についての話を真面目に議論していた。
「あそこって今は信用格付が安定してるけど、
もうすぐ否定的に変わるって予想されてるだろ?」
「ですね‥世界的な経済停滞の影響が大きいですよね」
まだまだ話し足りないといった二人。互いの空講時間について話し合う。
「そうだ先輩、次の授業何時からですか?」
「10時。1コマ空講だよ」「あ、私もです‥」
そして二人の平和な時間は、ここで終わりを告げたのだった‥。
「おーい!そこの二人!」
シャラララ~ン
ガーン‥
露骨に感情を顔に出した二人を見て、健太は上から凄んで見せた。
「何だその反応はぁ。先輩が挨拶してんじゃんかよぉ」
「オハヨウゴザイマス‥」
健太は二人をジロジロと見ながら、その不思議な組み合わせに疑問を持つ。
「てかこんな早い時間に二人して何の用だぁ?マジ予想外な組み合わせだな‥
赤山ぁ、まさか青田の居ない間に‥ww」 「ったく‥財務学会があったんですよ!」
ニヤニヤと笑う健太に、佐藤が青筋を立てて言い返した。雪が健太に話題を振る。
「てか、先輩こそ院に何の用なんです?」「俺は特講と‥まーあれやこれやだよ」
健太は自分の話もそこそこに、先程佐藤が口にした財務学会に興味を示した。
「つーか財務学会って?!うちの大学にそんなんあんのか?」
しまった、という表情の雪と佐藤。そして健太は案の定、そこに食いついて来たのだった‥。
「そこ、参加するとどんなメリットあんの?!」
サーーーーッ
ところかわって、都内にある某企業ビル。
朝のミーティングが終わってからの僅かな休憩時間。青田淳は窓辺に腰掛けて携帯を眺めていた。
その横顔は傷だらけ。腫れた瞼や無数のアザが、痛々しいほどだ。
そんな彼を遠巻きに眺めていた女子社員達が、恐る恐る声を掛ける。
「大丈夫ですかぁ?」
淳は彼女達の方を向いて、力無く微笑んだ。
口角を上げると、傷口がチクチク痛むが。
そしていつもなら淳の笑顔に色めき立つ彼女達も、さすがにその傷だらけの顔にはときめかないらしい。
「や~んも~ど~なのよアレ~。イケメンなのに~」
上辺だけの付き合いの人間など、見た目が変わればすぐに態度を変える。
淳は普段とは違う、そんな周りの人達の反応を一つ一つ目の当たりにした。
先程の上司の態度だって、あまりにもあからさまだった。
「きっ君ィ!一体どういうこと?!」
「酔っぱらいに絡まれまして‥。すみません」
「きっ‥気をつけるようにっ‥」
誰も本当の自分なんて知らない。
当然ながらそのことに、今日は否応なく気付かされる。
不意にポケットの中の携帯が震えた。取り出して見ると、雪からメールが届いている。
うわぁぁ!健太先輩登場ぅぅ!うわぁぁ!
そのどこかコミカルな文面に、ふ、と笑いが出た。
柳瀬健太に困惑する雪の表情が、目に浮かぶようだ。
彼女だけは、本当の自分の一片を知っている。
昨夜傷だらけの自分を抱きしめてくれながら、”私達は皆違うだけ”と、自身を肯定してくれた‥。
微笑みながら携帯に目を落としていた淳だが、
続けて受信したメールを見て、その表情は固く戻る。
今日中に実家に顔を出しなさい
父からのメールだった。
傷だらけの自分の姿が、まるで見えているかのようなタイミングでの呼び出しだ。
通路で休憩を取る社員達に、上司が大きな声で鼓舞する。
「さー皆、仕事仕事!」
無能な上司、上辺だけの付き合いの同期、手柄を横取りしようと近寄る人間‥。
舞台は違えど、環境というものはさほど変わらない。
健太に苦労する雪も、会社の高層階で空を見ている自分も、同じものだ。
淳はゆっくりと立ち上がり、自分のデスクへと歩を進めた。
今夜は就業後、実家に寄り、小一時間説教を受けるはめになるだろう。
これが現実。そしてこれがずっと続いていく。
淳は父の事を考えながら、ポツリと一人呟いた。
「やっぱりどこにでも目があるんだな」
河村姉弟がいなくなっても、大学に入っても、そして会社に入った今も尚、それは同じだ。
父は息子を監視し続けている。
おかしな子供を見るような目つきで。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<健太襲来>でした。
蒙古襲来、みたいな印象ですね。健太襲来‥。
もうなにか面倒なことが起こる想像しか出来ません‥^^;
次回<彼の寂しさ、彼女のストレス>です。
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携帯を見ながら歩く健太は、どこか不満そうな面持ちである。
「あーもう柳のヤツどこにいんだよっ。
どいつもこいつも俺のこと避けやがって‥クッソ」
ツレナイ学科生達にブツブツと文句を漏らす健太。
そんな矢先、見覚えのある二人が目に留まった。
「お?」
「おおお~?こりゃまたどういう組み合わせだぁ?」
そこに居たのは佐藤広隆と赤山雪だった。同学科とはいえ、あまり接点のなさそうな二人なのだが‥?
そんな健太に見られていることなど露ほども知らない雪と佐藤は、経済についての話を真面目に議論していた。
「あそこって今は信用格付が安定してるけど、
もうすぐ否定的に変わるって予想されてるだろ?」
「ですね‥世界的な経済停滞の影響が大きいですよね」
まだまだ話し足りないといった二人。互いの空講時間について話し合う。
「そうだ先輩、次の授業何時からですか?」
「10時。1コマ空講だよ」「あ、私もです‥」
そして二人の平和な時間は、ここで終わりを告げたのだった‥。
「おーい!そこの二人!」
シャラララ~ン
ガーン‥
露骨に感情を顔に出した二人を見て、健太は上から凄んで見せた。
「何だその反応はぁ。先輩が挨拶してんじゃんかよぉ」
「オハヨウゴザイマス‥」
健太は二人をジロジロと見ながら、その不思議な組み合わせに疑問を持つ。
「てかこんな早い時間に二人して何の用だぁ?マジ予想外な組み合わせだな‥
赤山ぁ、まさか青田の居ない間に‥ww」 「ったく‥財務学会があったんですよ!」
ニヤニヤと笑う健太に、佐藤が青筋を立てて言い返した。雪が健太に話題を振る。
「てか、先輩こそ院に何の用なんです?」「俺は特講と‥まーあれやこれやだよ」
健太は自分の話もそこそこに、先程佐藤が口にした財務学会に興味を示した。
「つーか財務学会って?!うちの大学にそんなんあんのか?」
しまった、という表情の雪と佐藤。そして健太は案の定、そこに食いついて来たのだった‥。
「そこ、参加するとどんなメリットあんの?!」
サーーーーッ
ところかわって、都内にある某企業ビル。
朝のミーティングが終わってからの僅かな休憩時間。青田淳は窓辺に腰掛けて携帯を眺めていた。
その横顔は傷だらけ。腫れた瞼や無数のアザが、痛々しいほどだ。
そんな彼を遠巻きに眺めていた女子社員達が、恐る恐る声を掛ける。
「大丈夫ですかぁ?」
淳は彼女達の方を向いて、力無く微笑んだ。
口角を上げると、傷口がチクチク痛むが。
そしていつもなら淳の笑顔に色めき立つ彼女達も、さすがにその傷だらけの顔にはときめかないらしい。
「や~んも~ど~なのよアレ~。イケメンなのに~」
上辺だけの付き合いの人間など、見た目が変わればすぐに態度を変える。
淳は普段とは違う、そんな周りの人達の反応を一つ一つ目の当たりにした。
先程の上司の態度だって、あまりにもあからさまだった。
「きっ君ィ!一体どういうこと?!」
「酔っぱらいに絡まれまして‥。すみません」
「きっ‥気をつけるようにっ‥」
誰も本当の自分なんて知らない。
当然ながらそのことに、今日は否応なく気付かされる。
不意にポケットの中の携帯が震えた。取り出して見ると、雪からメールが届いている。
うわぁぁ!健太先輩登場ぅぅ!うわぁぁ!
そのどこかコミカルな文面に、ふ、と笑いが出た。
柳瀬健太に困惑する雪の表情が、目に浮かぶようだ。
彼女だけは、本当の自分の一片を知っている。
昨夜傷だらけの自分を抱きしめてくれながら、”私達は皆違うだけ”と、自身を肯定してくれた‥。
微笑みながら携帯に目を落としていた淳だが、
続けて受信したメールを見て、その表情は固く戻る。
今日中に実家に顔を出しなさい
父からのメールだった。
傷だらけの自分の姿が、まるで見えているかのようなタイミングでの呼び出しだ。
通路で休憩を取る社員達に、上司が大きな声で鼓舞する。
「さー皆、仕事仕事!」
無能な上司、上辺だけの付き合いの同期、手柄を横取りしようと近寄る人間‥。
舞台は違えど、環境というものはさほど変わらない。
健太に苦労する雪も、会社の高層階で空を見ている自分も、同じものだ。
淳はゆっくりと立ち上がり、自分のデスクへと歩を進めた。
今夜は就業後、実家に寄り、小一時間説教を受けるはめになるだろう。
これが現実。そしてこれがずっと続いていく。
淳は父の事を考えながら、ポツリと一人呟いた。
「やっぱりどこにでも目があるんだな」
河村姉弟がいなくなっても、大学に入っても、そして会社に入った今も尚、それは同じだ。
父は息子を監視し続けている。
おかしな子供を見るような目つきで。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<健太襲来>でした。
蒙古襲来、みたいな印象ですね。健太襲来‥。
もうなにか面倒なことが起こる想像しか出来ません‥^^;
次回<彼の寂しさ、彼女のストレス>です。
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女性インターン(かな?)達はムカつきます。
何だか、本当に青田淳の心配するというより顔が勿体無いと思ってるような。
個人的に、今回の先輩の絵、すっごいムッキムキに感じたんですが!(笑)
顔の大きさの何倍もある肩幅!(笑)
ちょっと笑ってしまいました(笑)
おかしいですよーこれ気が散って散って(笑)
健太のこのきらわれっぷり甚だしいですね
やっぱりスポーツ推薦怪我して脱落組ですよ
勉強の仕方知らないんでしょうね
彼の知的レベルでは周りについていけずウドの大木なカラダを持て余してしまい暴力性に走る
そこは彼の同情すべき点なのでしょうかね
(決めつけ)
会社の女性陣の反応冷たいですけれど
社会人としては有り得ませんよ
そこは世間の荒波を推して知るべしかと
そりゃ、亮さんも暫し呆然。ダメージ犬飼ってたっけ?
マジメな場面なのに、横道に…
先輩、ものすごいなで肩だしっ
インターン女子達、顔目当てですか‥。
そんなことじゃ本当の幸せ掴めないよ!と言いたいですね(謎の熱さ)
ゆきんさん
だんだんずんぐりマッチョになっていく先輩を助けてあげて‥!首が太すぎるし背中は丸いし肩幅広すぎるし‥一部二部でのイケメンはどこにいったんでしょう‥涙
むくげさん
健太は何のスポーツ推薦だったんでしょうね。って誰も興味ないそこ、っていう‥。
りんごさん
>亮さんも暫し呆然。ダメージ犬飼ってたっけ?
吹きましたww