消える光

そして横山翔御一行は、ステーキ店へと足を運んだ。

男子達は横山を囲んで、料理に舌鼓を打ちながらお喋りに興じる。



横山は食事をしながら、チラリと皆の方を窺ってみた。

皆、至って普通だ。嫌悪の眼差しを向けられるどころか、横山に対する好意さえ感じる。

　

鼓膜の裏に、昨晩赤山が口にした言葉が蘇った。

あのスレが立った時点で既に時遅しなのよ、アンタ



横山はその言葉に対して皮肉を感じた。今の状況のどこが、”時遅し”だというのだ。

赤山め、ハッタリかましやがって‥。逆にそれを利用してやるさ‥！



目には目を、嘘には嘘を。自分はまだトンネルの中に居るが、その先には光り輝く出口が見えている。

一縷の望みを手繰り寄せ、横山は口角を歪めニヤリと笑った。

するとそんな横山に向かって、一人の後輩が質問をする。

「あの、横山先輩！女の先輩達、大騒ぎだったっすね。

先輩マジで二股掛けてたんすか？」



その後輩の一言を皮切りに、周りは思い出したようにそのことについて横山に尋ね出した。

先日大学に殴りこんで来たハーフ美女のことも含め、真実をこの場で晒しちまえ、と。



皆からの質問攻撃に対し、暫し沈黙を貫いていた横山であったが、

やがて彼は芝居がかった口調でこう言った。

「そう‥実はさ‥」



「二股掛けてたんだっぴょーん！！」



横山は思い切り軽率な口調で、大笑いをしながらそう言った。

同じ様に笑う仲間達に向かって、得意げな顔で言葉を続ける。

「いや～あんまりにもグイグイ来るからさぁ、仕方なかったんだって。

てかアイツ可愛い友達多いんだ。まぁ今は別れたけど、また連絡すればお前達にも紹介出来るよ？

マジスタイル良い上に巨乳だぜ～」



横山のその言葉に、乗り気な人間も居ればそうでない人間も居た。

”二股”という不道徳的な行いを堂々と口にするのはどうなのかと、彼等は密かに横山の態度の是非を問う。

皆がザワザワと話をしている中、一人状況が掴めていない男が居た。柳瀬健太である。

「なんだ？横山の奴、二股してやがったのか？」

「あ、先輩は見てませんでした？マジでスタイル良くて巨乳でしたよ」



健太はそれを聞いて舌打ちした。面白がって見ていたあのストーカー写真のスレも昨夜削除されてしまったし、

つまらないことばかりだ、と。



賛否両論あるものの、横山が二股を掛けていた事実は、それでも彼の地位を揺るがす程では無かった。

横山は溜息を吐きながら、被害者を気取って話を続ける。

「俺も騙されたよ‥。アイツが青田先輩と浮気してたなんてな」



周りは笑いながらそれを聞いている。まだ信じられないと口にする者も居れば、

ハーフ美女と青田淳ならお似合いじゃないかという意見の者もいる。

「あれ？太一だ～」



そんな中、不意に後輩男子の携帯電話が震えた。入って来たメッセージは、福井太一からのものだ。

今何してンの？　

横山先輩がメシ奢ってくれるっつーから、高級なとこでメシ食ってんよ。

お前何で来なかったん？さっき聞いてなかった？



後輩男子が返事を打つと、すぐに太一から返信があった。

は？何で俺があの人にメシ恵んでもらわなきゃなんないの。

お前ら恥ずかしくねーの？



いつになく攻撃的な太一の言葉に、後輩男子は”どういうこと？”とメッセージを返した。

すると太一は、リンク付きの返信を寄越す。

科のWEB掲示板見てねーの？一回行って見てみな。

そのことでメッセ送ったんだヨ



後輩男子は、面白がってそのリンクを開いた。

その掲示板は経営学科の学生のみが見られる、限定された場所だ。

　

ウェブページを開いた彼は最初こそ笑って見ていたが、次第にその内容を読むにつれ、表情が凍って行った。

周りの皆を手招きし、そこに書かれた内容をジワジワと広めて行く。



横山翔がその異変に気がついた時には、すでに集まりの半数以上が携帯を片手にざわめいていた。

そしてその内の一人が、横山に向かって携帯の画面を翳す。

「おい、これお前だろ？」



横山はギクッとした。

昨夜消えたかと思われた自分の写真が上がったスレが、再び姿を現したと思ったからだ。

「あ‥いやその写真なら誤解‥っ」



横山はドギマギしながらも、内心まだ大丈夫だと余裕も感じていた。

あの写真は顔が写っていないはずなので、あれが自分だという確証は皆持てないだろうとー‥。



しかし携帯に視線を落とした横山が目にしたのは、自分の写真では無かった。

それは初めて見る長文で、そこにはこう書かれていた。

経営科の人と推定される文を発見しました。同じ科の人間として、どうしても見過ごせません。

こんなことをして良いのか悩みましたが、キャプチャー画面をアップすることにしました。

ものすごい量です。キャプチャーするのも嫌になる程。



そのメッセージの後に、次から次へと写真が上がって来ている。

横山は脂汗を流しながら、ひたすらに「い、いや‥お‥俺じゃない‥」と繰り返す。



しかし次に皆の目に留まった写真には、ハッキリと彼の横顔が写っていた。

よく着ている服も、いつもつけている腕時計さえも。



”この人です”と写真の下にメッセージが添えてある。

そして次の写真では、横山がいつもログインする時の画面が拡大して映し出されていた。

「あぁ？！」



そのIDを見て真っ先に反応したのは、柳瀬健太だった。

「これ前にアップされてた、ストーカー野郎のIDじゃんか！」



あのスレを覗いていた健太にとって、そのIDは見覚えあるものだった。

彼の名前が隠されたそのIDが、動かぬ証拠となる。

「顔写ってんじゃん！」「これお前じゃんか！」「この服と時計、お前のだよな？！」



真実を追及する皆の声が、まるで拡声器で喋っているようなくぐもった声に聞こえる。

横山は俯き、沈黙した。

「なあっ！？」



だんだんと目の前が閉ざされて行く。

先ほどまで見えていたはずの一縷の望みが、トンネルの先に見えていた一筋の光が、

ジワジワと暗闇に飲み込まれて行く‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

＜消える光＞でした。

以前コメ欄で青さんが仰っていましたが‥

横山のID‥



皆様御存知でしょうが、横山の韓国語名は「オ・ヨンゴン」ですので、

オ＝０（英語のO）と、ヨン＝０（ヨンゴンの「ヨン」はゼロという意味もあります）にgonを付けた、というワケですね。

というかこのIDの正体、普通は気が付きそうなものですが‥健太って‥（＠＠；）


次回も事態は展開していきます。＜転落＞です。


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています～！