その後も三人は、ジュウジュウと音を立ててハムを焼き、各々舌鼓を打った。
雪はお箸を口に付けながら、目の前の二人を眺めている。
弟の蓮と、河村氏。
少し前まではこの二人が一緒に居ることなんて想像もつかなかったが、
今彼らは目の前で笑い合っている‥。
それは改めて見ると不思議な光景だった。
雪がじっと二人を見ていると、亮がそんな彼女の視線に気がついて声を掛ける。
「どーした?ジャンジャン食えよ?」「そーだよ姉ちゃん!それ全部食べてよね!」
三人が今一緒にいること、そして雪がその中に含まれていることを何の疑いもなく受け入れている亮と蓮。
雪はそんな今の空気が嬉しくなって、思わず微笑みが漏れた。
それから三人はハムをつつきながら世間話をした。
亮は近所に一人暮らし用の物件を見つけ、そこで生活を始めたと言う。
良い街だと珍しく褒める亮に、そうでしょうと蓮は自分の町を誇って胸を張る。
「仕事はどうですか?」
雪からの質問に、亮は天を仰いでそれに答える。
「おう、まぁ大変ってほどでもねーかな」
そんな亮の態度に、蓮は思わず吹き出した。
「失敗続きで父さんから追い出されかけてたくせにぃ!それで今ハムを‥」
蓮がみなまで言う前に、「うっせーな」と亮が制した。雪はタジタジだ。
すると亮はあることを思い出して、雪の方を向き口を開く。
「あ、そういやお前らの両親のことなんだけどよ。喧嘩でもしてんのか?」
突然の亮からの指摘に、雪はぐっと言葉に詰まった。
思わず目を見開き、そのまま黙り込む。
そんな雪に、亮は尚も気になったことを口に出した。
「見るからに何かあった感じだったんだけどよ。社長もよくいなくなるし‥」
そこまで言ったところで亮は、その場の空気が気まずくなったことに気付いた。
雪も蓮も、苦い顔をして黙り込んでいる。
亮はなぜ二人がそこまで沈黙するのかいまいち分からなかったが、この場の雰囲気に合わせることにした。
「?? 違うんならいーけどよ」
雪はそうとも違うとも言い切れず、とりあえず話題をかえることにした。
今までとはまるで違った話題を、蓮に向かって話し出す。
「あ‥そうだ、蓮!うちの学科の健太先輩って人がね、恵のこと気になってるみたいなんだよ~」
その話を聞いて、蓮は懐かしむような表情で天を仰いだ。
「え~マジで?そういやキンカンって姉ちゃんの大学通ってるんだっけ‥」
蓮は昔のあだ名で小西恵のことを呼んだ。
それは幼い頃から背が低く小さかった恵を、からかい半分で蓮がつけたあだ名だった。
お前なんてキンカンだ! やーいキンカン!
蓮は久々に思い出した記憶に目を細めた。
「へぇ~。ねぇキンカンってモテんの?」
「キンカンって‥。何よその呼び方」
雪は初めて聞く”キンカン”に首を傾げたが、取り合わずに話を続ける。
「とにかくちょっと気になってるのかなって‥。でも開講日の感じからしたらそうでもないような‥。
まだ未練があるような無いような‥」
煮え切らない雪の話に、蓮はハムを口に運びながら曖昧に頷いた。
「ふーん、そーなんだ‥」
雪は関心の薄い蓮の反応を見て、意外な気がして口を開いた。
「何よその反応?あんた恵と同じクラスだったじゃない。連絡取り合ったりしてないの?」
帰って来てから結構経つじゃん、と雪は続けるが、蓮は依然として曖昧に頷くだけだ。
しかし二人の過去を思い返してみれば、お調子者の蓮が恵にちょっかいを出し、何かと喧嘩する姿ばかりを思い出す‥。
雪は蓮と恵の今の状態に納得するように息を吐いた。
「そういえばあんた恵を困らせてばっかだったっけ‥。私が恵でもあんたには連絡しないわ」
姉の言葉に口を尖らせる蓮に、今度は亮が兄貴らしく注意した。
「おいこの野郎!男のくせに何で女を困らせたりすんだ?!ガキくせーことを!」
蓮は二人からの思わぬ説教に顔を顰めたが、
「昔のことだから」と軽く笑って弁解した。
すると急に、蓮は自身のお腹が痛むのを感じた。キリキリとしたその痛みに、思わずうずくまる。
「イタタタ!腹が‥!腹がぁ~~!!」
蓮はそのままマットに横たわり、気持ち悪いと言って大騒ぎした。
呆気に取られる亮と慌てる雪の元に、騒ぎを聞いた母親が駆けつける。
「あんた達ここで何やってんの?!家にも入らずに!」
「お母さん、お腹がぁ~!」
焼いたハムの煙と共に、四人の喧噪は夜空に溶けていく。
半月がその様子を、煌々と照らしていた。
カチャカチャ、とキーボードを叩く音が室内に響く。
同じ頃、横山翔はビールを片手にチャットをしているところだった。
PCの画面にタイプした文字が連なっていく。
うちの学科にクソUzeee野郎がいて、毎日自分が金持ちなのをひけらかしてる。
それを見てると反吐が出そーなんだが、この場合俺はどういう企てをすべきか?
横山は続けて、もう一行書き足した。
ところで突然、その野郎に彼女が出来たらしい。
横山の脳裏に、二人の姿が思い浮かんだ。
思い出すだけで忌々しさを感じる光景だった。
横山はスルメをかじりながら、ネットスラングを交えながら書き込みを続ける。
「んで、見るとその女はうちの学科の男たらしのクソビ◯チで‥」
そんな折、携帯電話が鳴った。母親からだった。
「あ、母さん?俺今レポートやってる。じゃーね」
横山は平然と嘘を吐くと、携帯を置いてビールを飲み干した。
缶を机の上に置いて、再びキーボードを叩き始める。
「俺はそれを見て、やっぱり奴らは似たもの同士だと感じ‥」
クククと肩を揺らして笑う横山だったが、不意にピタと動きを止めた。
「あの二人、くっつきやがって‥。あいつ俺に赤山を勧めておいて‥」
去年の夏休み、青田淳から送られてきた幾つものメールが横山の脳裏を過った。
「人のこと弄びやがって‥!」
暗い視線が、脳裏に浮かぶ彼を射て光った。
横山はその後もネットにて密談を繰り広げた。
もう俺は以前の俺じゃないと、俺は変わったと叫びながら、一人キーボードを叩き続けた‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<路地裏の密談>でした。
最後の横山のチャット、ネットスラングが交えてありもうお手上げ寸前でした‥T T
合ってるのかかなり微妙なので、誤訳だと思われましたらご一報下さい。。
次回は<彼女のコピー>です。
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気の置けない関係故の自然な感じが素敵ですよね。
取り方によってはチクリとするような質問や、それに対する返し方なんかも気負わず言葉にできる関係、人一倍気ぃ遣いの雪ちゃんが安心できる場所なんだな~と。
味趣連(金)とはまた違った仲の良さ。(蓮くんは姉弟だから当然なんですけど)
亮さん、もう家族になっちまいなよ。
これは別に初めて聞いてなくても言えます。
「何よその呼び方・・・」て突っ込んでる感じですし。
Mobileですので切ります。
いつも自分が金持ちなのをひけらかしているのが
反吐が出そうだから、俺がいつか攻めようとかまえてるんだ。
ところで突然、その野郎に彼女が出来たらしい。
俺からみたらうちの学科にチンタな女が1人いて、
(チンタ:人気者の反対側?
田舎臭いとか、汚いとか、情けないとか・・・
香織っぽい単語ですが、どうやら翔は雪の話をしてる)
でもそこに、どっちの気持ちにも寄り添える亮が加わることでいい空気になってる感じがしますよねー。
ああ見えて実は相当いい働きをしてる亮。
姉と弟だけでなく、父と母、また父と娘、父と息子…
この家庭内にそこはかとなく流れてるそのへんのギクシャク感を、もしかしたらこの人が変えてくれるのかもしれないですね。本人も気づかないうちに。(←その計算のなさが亮のいいところ)
だから家族になっちまいなよ、亮さん。笑
いいですよね、この三人の関係!
先輩が間に入ったら絶対こんないい空気にはならない(笑)
CitTさん
ありがとうございます!!
CitTさんのご指摘を受けまして、少し直させてもらいました!^0^
横山のネットの書き込み、大筋は外れてなくて安心しました。。^^;
ネットスラングとか判別不明の手書き文字とか、次々とハードルが‥。最新回も手書きの亮の手紙を見て気が遠くなりそうになりましたorz
さかなさん
二人だと煮詰まるところが、もう一人入ることで関係が円滑にすすむってこと、ありますよね~
この先の回で雪の家族の中に亮がいて、とても自然にわちゃわちゃしている風景がすごくいいな~と思いました。
不慮の事故で1歳で亡くなっちゃったんですけどね。
http://everkara.com/v1/bbs/board.php?bo_table=B130&wr_id=28270&sca=&sfl=&stx=&spt=0&page=14
ホンジュンくんのアヨンに対するイメージも、こんな感じなんでしょう。
でもこんな風に使うとは。
日本人には豆ちゃんがイメージ近いですよね。
それにしてもこの亮の溶け込みの早さ・・
みなさんの評価が高い。。淳先輩、がんばれ。
確かに先輩との3人焼きハムじゃ、この空気感だせませんね。
でもこれもひとつの才能なんですよね。
淳や雪のようなタイプには持ち合わせない。
そういう意味では雪と淳は似たもの同士でいいような、でも殻をうちやぶってくれる異形として現れる亮がいいのか・・
悩ましいところ。
犬のキンカンちゃん、イエッポダ~!
みかんのあだ名の子の犬だからキンカン、とってもステキなセンスですね^^♪
お目目くりくりでアヨンは犬系ですよね~。
猫目のホンジュンとイイカンジです。
むくげさん
日本だと「お豆ちゃん」か~!いい感じですね!
それにしても亮が雪を呼ぶ「ゲトル(犬毛)」だとか「キンカン」だとか‥。すごいアダ名の数々ですよね^^;
話は逸れますが「ハツカレ」という漫画があって、それも主人公を挟んで二人の男子がいるのですが、口の悪い方(亮っぽい男の子)が主人公のこと「ウンコ」って呼ぶんですよ‥。シリアスな場面でも(笑)
それに比べたら「犬毛」もマシかも‥と思いました。
って脱線しまくりでスイマセン^^;
淳と亮、雪にとってはどっちがいいんでしょうね~?
悩みを共有したりアドバイスをもらったり、という面では先輩がいいのかな、とも思いますが、雪ちゃんなんだかんだ言って彼にライバル心燃やしちゃいますからね‥。
まるで畑違いのところで頑張ってる亮と励まし合う方がいいのかもしれません。
は~これから先どうなるやら、、ですね。
ハツカレ懐かしい!
高校の頃めっちゃハマってました!
私もチートラ読んだとき主人公を挟む二人の男がハツカレに似てるなーって思いました!
チートラとは全く別のかなり平和な話ですが笑
って話がそれました^_^;
日本の女子高生、女子大学生のほとんどの子が彼氏がいる、またはほしくて合コンなどの出会いの場に行きますが、韓国の女の子は雪ちゃんみたいに彼氏よりも勉強優先!なんでしょうか?
聡美は勉強優先ではありませんが笑
メンズは見た目もどこか亮と淳に似てますよね~。
性格は淳とは似ても似つかない純粋な子ですけど、ハシモトくん‥^^;
あの漫画、「赤面率89%」でしたっけ?
私も高校生の頃、気恥ずかしい思いをしながら読みました 笑
でもなかなか考えられている漫画ですよね~。
各話ごとにテーマがあったり、登場人物のフルネームが明かされず、”彼氏”と”彼女”に焦点が当たっていたりと‥。
う~んまた読みたくなってきました。実家に取りにいくかなぁ‥。
本当、韓国の女子大生はどんな感じなんでしょうね。。学費を自分達で稼ぐ子と裕福な子でまた違って来そうな感じがしますが‥。