淳の車は麺屋赤山の近くの路地に到着した。
運転席から出てくる淳。
顔を上げて店の辺りを窺った。
麺屋には明かりが灯っていた。
淳が一歩踏み出そうとしたその時、背後から声が掛かる。
「早かったな」
「事故るぞ。気をつけろよ」
「お前、どうして‥」
突然現れた亮を見て、淳は目を丸くしそう問うた。
「雪に会う為麺屋に行く」とメールに書いてあったのにー‥。
淳は辺りを見回してみた。
雪の姿はない。
「‥はっ」
淳は今の自分の状況が把握出来ると同時に、口元を歪めながら息を吐き捨てた。
亮の居る方向へとゆっくりと踏み出す。
「どういうつもりだ?」「どうせフツーに呼び出しても来ねぇだろうが」
「まだ話があるのか?」
「この前で全部終わったんじゃなかったのか」
淳は不満気にそう言うと、神経質そうに前髪を払いながら亮を睨んだ。
亮はポケットに入れていた両手をそこから出すと、握っていた拳をゆっくりと開いていく。
「ああ。最後に一つだけ聞いときてぇことがあってな」
高校時代以来封じ込めた感情を、今亮は剥き出しにしようとしていた。
思い出すだけで痛みを伴うその過去を、もう一度掘り起こして。
先程静香から聞いた、姉とショパンとの一幕を思い出す。
「僕はただ淳君の言うとおりにしただけなのに‥衝動的にやってしまっただけなのに!
まさかこのことで援助まで無くなるなんて思いもしなかったさ!こんな風に捨てられるなんて!」
そしてあの時の、淳の背中を。
「お前‥笑ったか?」
ふと見えた、その口元が嘲笑うのを。
「お前、わざと‥」
しかし亮は、その先を続けることは出来なかった。
剥き出しの心を、拳を握り締めることで再び隠す。
「‥お前、人の感情弄んで、」
「面白かったか?」「何?」
「人がお前の意のままに動くのが、面白かったんだろ」
亮は再びポケットに両手を入れると、そう言って言葉のナイフを淳に向けた。
淳は顔を顰めながら、うんざりしたようにこう返す。
「何を言ってる」
「そうやって皮肉るんならもう行くぞ。何もしなければ俺からは何もしない」
「それじゃいつも誰が先にお前に手出ししたって言うんだ?」
「お前が誤解して受け取ったことは一度も無いってのか?」
「いい加減にしろ。こんな話ももうウンザリだ」
斜に構えるその目つきを、亮は強く真っ直ぐに睨み付けた。
脳裏に再びショパンの姿が浮かぶ。
少なくともショパンは淳のことを慕っていた。
淳はその気持ちを手玉に取ることで、アイツを駒のように動かしたー‥。
亮はハッキリと強い口調でこう口にする。
「オレは反吐が出る程嫌いだ」
「お前のそういう所が。人の心を見透かして、それを利用して捕って喰うのがな。マジで許せねぇよ」
亮はストレートにそう言って、真っ直ぐに淳のことを見た。
淳は斜に構えたその体勢のまま、目を見開くー‥。
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<握り締めた拳(1)>でした。
淳と亮、二人の話し合いアゲイン!ですね。
亮が手を開くことが感情の出し隠しのメタファーになっていたり、亮が真っ直ぐ淳に相対するのに対し、
淳が常に斜に構えていたりするのが二人の関係性を表していたりと、作画も神がかってます。
<握り締めた拳(2)>へ続きます。
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立場がにている面を含め、利用された同士の仇にシフトしたんですね。
最早荒削りな残念さ漂うイケメンはいずこかへ消え去りいつの間にかこんな領域に。。
階段登っちゃったなあ、、
大して淳の変わりばえのない態度、、(笑)ダメだこいついい加減なんとかしないと
(笑)
彼なら先に雪ちゃんに電話して牽制しませんか?雪ちゃんが取ったのは亮からの電話なんですよね?
つい最近、このマンガをLINEマンガで知って読んでハマってしまい、続きが知りたくて原作も見ましたが、韓国語は全くわからないので、絵を見るだけでしたが、このマンガは言葉がわからないと面白くないですよね。
そして翻訳されているこちらのサイトに辿り着きました。
去年、3人目のお子さんが生まれたそうで、そんな大変な育児の中、更新を続けられていて、すごいです。
うちは7才と9才で少し落ち着いてきてますが、ちびっこの頃だったら、こういうことしてる余裕がなかったです。
ありがたく読ませていただいています。
翻訳版のでていない話だけでなく、翻訳版のある分でも、話の流れ的に意味がピンとこないセリフ等が所々あるので、参考にさせていただいてます。
私は最近知ったので、6年くらい(?)かけて描かれたこのマンガを一気に読みましたが、6年もかけて、彼らの1年を(回想分も含めると2年分くらいなのか)描いてるんですよね、長いですね。
そして最初の頃から匂わされている、淳と亮の確執の原因がやっとわかってきたって感じで、何年もかけて読んできてたらもどかしかっただろうなぁと思ってしまいます。
まぁ、たいがい連載物を追いかけて読んでるとそんなものかもしれませんが。
ちょうど今の「握り締めた拳」で、今まで亮が手の怪我を淳のせいにしている理由がわからないと言ってきていたのを、淳が認めるのか、楽しみです。
亮も今まではっきり淳に言ってやらなかったので、今度こそ、そこら辺、淳の意図が明らかになって認めさせてほしいなぁ。
これからも更新楽しみにしています。
がんばってください。
亮の大人の階段のぼりっぷりが半端ないですよね!
ショパンに関してはもっと憤って良いくらいですけどねぇ。
宵っぱりさん
その辺も含め、この後の二人の話し合いをお読みくだされ〜!
ゆううさん
はじめまして!前回の記事にもコメントくださってましたね^^
ありがとうございます。
この漫画は進みがじれったいばかりではなく、時系列が前後しますので連載で追っかけてるともう何が何やらですよ(笑)
それでも張られた伏線は必ず回収されるし、六年越しに拾われた伏線なんかもあったりして、本当にすごい漫画です。
ラストまでもう少しらしいので、共に見守って参りましょう〜^^
やはりここでわざわざじゅんのおかしいところを本人に伝えてあげるところが
りょうさんのある意味優しさ?な気もする
圧倒的な亮擁護に違和感を感じてしまいました…。
思いをぶつけろ、と言われて
淳と付き合いの浅いショパンくんが
暴力という解釈をしたのは
少なからず、亮に悪いところがあったからでは?
ていうか、亮こそ
ショパンへの対応は大いに反省すべき!!
ただのいじめです。
いじめられっ子からの反発を受けて
自分の行動を顧みようとせず
お前が誘導しただろなんて
因縁にしか思えないです…。
どんなに深刻な場面でも、静香がどんなに毒づいても、あのコミカルな絵でホヤっとなって(自分の)気持ち立て直してたのに。(ちょっと大げさ)
*コミカルな絵って伝わるかな?
私見ですが、ここで亮が自分の気持ちを伝えたことは、あの頃の淳の気持ちや置かれた状況などを振り返り考え尽くした上で、それでもやっぱり許せないと結論を出したからなんだろうな、と思いました。ここを離れる前の最後のけじめというか。
じぇなさん
はじめまして!いらっしゃいませ〜
今月中にはライン漫画からXOYに完全移行ですね〜。
雪視点と淳視点と、両方から読むと二度おいしいですよね!新たな発見があったりして‥。これからもお待ちしてます!
ぴんきーさん
ここにショパンが居ればまた違った展開になるんでしょうね。そうしたら亮はショパンに憤るんでしょうか。それともあの頃は調子乗って悪かったと謝るんでしょうか?
どうなんでしょうね‥
スヌーピーさん
佳境ですからね‥。話も絵も深刻です
初期の方を読み返すとほっこりしますよね〜。
きんぎょばちさんの返信にお邪魔するようで申し訳ないのですが...。
私が感じたのは、1にも、2にも、3にも...10にも雪の為なんじゃないかと。
ショパンが言った、
「こんな風に捨てられるなんて!」
って言葉をどうしても見過ごせなかったというか。
「いつかダメージもオレのように...」みたいな事を思ってた場面がありましたよね。
どうしてもそれを拭えない。
だからわざわざ雪を呼び出して、淳の本心を聞き出して聞かせたかったのでは?と。