スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

曲がり角にきたアルコール規制政策 (上)

2005-03-21 08:22:02 | コラム


スウェーデンでのお酒の流通は国の独占だ。ビールやワイン、ウオッカが欲しければ、国営企業である「Systembolaget(システム・ボラーゲット)」に足を運ばなければならない。手に入る品物は全国ほぼ一律で、価格も統一されている。北欧では、隣国ノルウェーもアルコールの流通を国が牛耳っている。ノルウェーの国営企業の名は「Vinmonopolet(ヴィーン・モノポーレット)」。vinはワインのことだが、ここではアルコール類の総称として使われているのだろう。だから、「アルコール専売企業」なんていう、直訳すればとっても響きの悪い名前になる。スウェーデンの「Systembolaget」を直訳すれば「システマティックな企業」と何だか訳が分からないが、多分、現代的で斬新なイメージを持たせようとしているのかもしれない。人によっては「システマティック」=「規制によるがんじがらめとと官僚による肥大組織」と悪口をいう人もいる。

一昔前までは、月曜日から金曜日までしか開いていなかった。お店に入るとまず番号券をもらって、自分の番を待つ。番号が呼ばれると、カウンターへ行き、カタログに書かれた商品番号と数量を店員に告げる。そうすると、店員が小型の押し車を押しながら、カウンター裏の倉庫へ行き、お酒を集めてきて、お客に売り渡す。「国営」という名がこの時代遅れの“システム”を物語っている。

なぜ、お酒の販売まで国が独占するのかというと、北欧にはもともとウオッカなどの強酒を一度に大量に飲む習慣があったそうで、アル中者が続出。国民の健康に対する懸念が国内問題となった。これは他の国でもそうで、よく知られるように1920年代(?)のアメリカで禁酒法が可決される。スウェーデンでは、禁酒法の導入を問う国民投票が行われたが、それが可決されることはなかった。その代わり、アルコールに高い税金を掛け、消費を減らし、しかも限られた場所で限られた時間のみ販売することで、手がなかなか届かないようにしようとした。

ビールを含む5%以上のアルコール類は、このSystembolagetでしか買うことはできなかったが、2%~3.5%までの軽ビールは一般の商店でも販売することが許される。税金も安い。そうすることで、本当だったら普通の5%ビールを買ったであろう人が、より手軽に手に入って、しかも安い軽ビールを買うようにと暗黙的に促す仕組みもつくってある。(ミクロ経済学でいう価格による“代替効果”!!)そうやって国民が軽ビールでより満足するようになれば、健康に対する被害も減って、医療支出も減り、しかも、しっかりと働いてくれる!というわけだ。(ちなみに、この軽ビールというのは、まずい。まさに水で薄めたビール。しかし、炭酸が利いている間は、そこそこいける。これとは逆にSystembolagetには10%のビールというのもある。これは、ビールにジンを混ぜて飲んでいるようで、まずいし、悪酔いする。)

そんな国営の流通であったにも関わらず、品揃えは昔から良かったのらしい。この国にもワイン好きの人がそこそこいたので、彼らの要求に応えなければならなかった。価格も手ごろ。1000円も払えばまずまずのワインが手にはいるし、2000~2500円ともなれば、まずまず上等。一方で、40%以上の強酒は、税金のおかげで格段に高い! スウェーデン製のAbsolute Vodkaは日本では本国の1/3の値段で手に入る。

そんなSystembolagetも90年代から大きく変わり始めた。競争相手が出てきたのだ。といっても、国内の流通は相変わらず独占。敵というのは、個人旅行者による外国からの持ち込みや、大挙した外国への買い出しなのだ。特に南スウェーデンとデンマークを結ぶエォーレスンド橋ができてから、一気にこの勢いは強まったのだ。橋を越えた向こう側、デンマークへはスウェーデン第3の都市、マルメから車で1時間もかからない。橋は有料道路なので、瀬戸大橋なみの通行費を考えたとしても、友人や親戚から注文を集めて、車一台で買い出しに出かけ、トランク一杯にしてスウェーデンへ戻ってくれば、それで元が取れるのだ。なかには、夏休みに車でヨーロッパを旅行した帰りに、ドイツでたんまりと買って帰ってくる人もいる。(ドイツはさらに安い)

そんなわけで、Systembolagetも負けじとサービス向上に努める。各地のお店を改装して、スーパーのようにお客が自分で品物を手にとれるようにした。それから、人々が大挙してデンマークへ出かけるのは週末が多いので、Systembolagetも土曜日に店を開くという実験をまずスウェーデン南部で行った。その実験に一定の成果があったのか、土曜日開店は全国的に普及することになった。

私がスウェーデンへ来た2000年頃が、ちょうどその移行期で、ウプサラ中心街のSystembolagetが“手取り式(スーパー式)”に改装されたり、ヨンショーピンでも町にあった2店舗のうち1つが土曜日開店をすることが決まった。その頃は「おい、どっちの店なんだ?」「あれは、次の週末からだよ」などと口づたいに人から人へと噂が広まっていった。”självplockning”(手取り式)や”lördagsöppet”(土曜日開店)という造語がその頃のちょっとした流行語にもなったくらいだった。

(長くなったので、続きは明日)