スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

経済学部・研究科の一日

2006-01-30 07:37:52 | コラム
ヨーテボリ大学の経済学部は、他の経済・経営の学科が雑居する大学本館だけでは場所が足りないため、本館から徒歩5分のところにある別館にも研究室があり、博士課程(doktorand)の多くがここで研究している。

私の研究室は4階建てのこの別館の最上階。一番奥の部屋だ。14畳くらいの広さの部屋を同じく博士課程のNiklasと共同で使っている。かなり広々としている。この部屋は非常口がついているので、もしものときに安全だけれど、そのおかげで鍵が掛けられない。バルコニーが付いているので、春・夏は日向ぼっこができてよいのだが、冬の間はあまり役に立たない。同じく博士課程の女の子Annikaがたまにタバコを吸いにやってくる。そう、スウェーデンの喫煙者は建物から出て吸わねばならず、かなり肩身が狭い(いいことだ!)。

このNiklasは私と同じく2004年の9月から、ヨーテボリ大学に在籍しており、私より2つほど若いが、なかなかの優れもの。大学の学部は、出身地であるカールスタードという町の地方大学だが、その頃から地元の市政に関心を持って、ある政党に加わって活動していたが、能力が買われ、一時期は市会の執行部の政策秘書を担当したこともあった。去年の秋には、同じ党の国会議員の議員秘書が1ヶ月病欠するので、その代理で入ってくれないか、と声がかかったほどだ。社交的でもあり、彼の声かけで夜、ビールを一杯やりにいくことも多い。彼も真面目な内容のブログを持っている。

建物の2階にはカフェルームがあり、午前中は朝9時半ごろに何人か集まってきて、午前中のコーヒータイムが始まる。前回のブログに書いた、いわゆる「フィーカ」というやつ。大型のドリップ・コーヒー機があり、私が来たときにはいつも、誰かが入れてくれている。

昼ごはんもこのカフェルームで食べることが多い。ランチ時には、レストランの多くでテイクアウトができ、しかもそのほうが、その場で食べるより安いので、カフェルームに持ち帰って食べる人が多い。しかし、なんといっても安上がりなのは、自分でお弁当を持参して、電子レンジで温めて食べるのだろう。


Niklas本人の希望により、顔は伏せてあります・・・(笑)。


食事の席では、いつもグループができる。まずはスウェーデン語系。これが一番大きい。それから、ルーマニア人の研究者も何人かいるので、ルーマニア語のグループがある。それから、中南米のスペイン語圏からの研究者もいるので、スペイン語系のグループができる。それから、今はなぜかほとんど姿を見せないけれど、以前は中国人の研究者も多数いて、中国語グループもあったらしい。それから、英語グループ。もちろん、異なる言葉同士の人々が集まれば、英語で自然に会話が切り替わるのだけど、やはり、一番楽に会話ができるのは、自分の母国語、ということで、このように自然にグループができるのは、仕方がない。私はというと、スウェーデン語グループに入れてもらっている。

さて、午後は3時頃には午後のコーヒー・タイムがある。普通は、ただコーヒーを飲むだけだけれど、毎週金曜日の午後のフィーカは、順番を決めて、ケーキを作ったり買ったりして持ってきて、お茶菓子にする。

そして、5時から6時頃には、人々は帰宅する。スウェーデン人の研究者は、多くの場合、会社勤めと一緒で、8時半~9時出勤、5時~5時半退社をきちっとしている人が多い。私もそれに倣って、9時までには来るけれど、夜はどうしてもキリが付かず、7時・8時と残ってしまう。

で、それでもキリがつかないときは、9時・10時。あるときは、連絡線に接続する最後の路面電車を逃したために、3階にある仮眠室で夜を明かしたこともある。ただし、これは一回だけ。

とまあ、これが私たちの一日のリズム。この別館は、30人~40人くらいの研究者がいる大所帯だが、別の大学に本籍を置く人、別の国に行って研究している人、官庁などに出向している人、など様々で、普段顔を合わせるのは25人くらいしかいない。

ところ変わっても、考えることは一緒・・・

2006-01-30 07:03:00 | コラム
「サングラス」のことを日本語で「グラサン」と言ったりして、前後逆さにしたりするのを“ナウい”(←死語?)と思っているみたいだけど、これって日本だけじゃないんだ!

クロアチアの国際機関にいたときに、同じく研修職員でフランスから来ていた女の子が、帰還難民の法律問題や、内戦中の戦犯引渡しに関わる仕事をしていたけれど、その子がよくラップトップ・コンピューターのことを「トップラップ」と真面目な顔をして言うので、私が「ラップトップ」のこと?と聞き返すと、どうやらフランスでは若者のスラングで「トップラップ」と言うのだそうだ。誰か変わり者が逆さにして使い始めたら、みんなが真似して使い出したのらしい。しまいには彼女もどっちが正しいのか分からなくなったらしく「ラップトップ? トップラップ? どっちだっけ」と再三尋ねてきていた。これは笑えた。

そういえば、スウェーデン語にもある。日常必需の単語で、外国人ならスウェーデンに来てすぐに覚える言葉のベスト10にも入ってしまう単語、「フィーカ(fika)」。“お茶をする”とか“コーヒータイム”を意味するのだけれど、この言葉、もともと英語のkoffee(カフィー)をひっくり返したのが由来なのらしい。今では、スウェーデン社会に十分定着してしまったらしく、そんな由来を考える人もあまりいないらしいけれど。で、fikaという単語も派生して、動詞で使われたり、喫茶店をfik, fiketと呼ぶようにもなってしまった。

ところ変わっても、“ナウい”ともてはやされる発想の仕方はどこも一緒!?

ヨーテボリ映画祭 2006

2006-01-29 03:34:17 | コラム
ヨーテボリ映画祭(Göteborg Filmfestival 2006)が金曜日から大々的に始まった。
スウェーデン映画を始めとして、ヨーロッパやアメリカ、アフリカなど、世界中の映画が一本当たり60kr(900円)で見れるのだ。

毎年、日本映画もいくつか登場するので、今年はどんな映画が取り上げられるのか、楽しみなのだが、なんと今年はゼロ!どうした、日本映画!?

昨年は、
・INU-NEKO ~The Cat Leaves home~(2004) 監督:Nami Iguchi
・Hana & Alice (2004) 監督:Shunji Iwai
・About Love (2004) 監督:Ten Shimoyama
・着信あり1・2

などが登場していた。日本のホラー映画も「リング」以来、いくつか公開され、アメリカ・ホラー映画にない新しい“怖さ”だと、話題を呼んでいたけれど、既に熱が冷めてしまったのか・・・? 飽きられたのかな?

日本では近頃は、映画にしろテレビドラマにしろ、漫画の映画化が流行っていて、もちろん日本人としては面白いものもあるけれど、芸術性ということになるとやはり劣るのだろうか。この影響で、日本の映画界も全体として地盤沈下して、海外の映画祭に取り上げられるものも少なくなっているのだろうか・・・?(勝手な憶測)

ともあれ、この映画祭、スカンディナヴィア最大ということで、11日間にわたって、120以上の映画が上映される。無料で配布されるプログラムもかなり厚い。ヨーテボリ市もかなり力を入れている冬のイベントだ。それにしても900円の安さがたまらない。

私も早速、日曜日から、スウェーデン、ルーマニア、ボスニア、セルビア、旧ユーゴ、トルコの映画を見ようと思っている。(多分、一日1本くらいのペースで)

映画祭の公式ホームページ

<追記>
おっと! 韓国の映画「四月の雪」なども公開されるようです。
"April Snow"
"Love is Crazy Thing"


やり直しのできる人生

2006-01-27 08:16:00 | コラム
日本と同じように、スウェーデンでも義務教育は9年間で、その後3年の高校教育があり、大学で学びたいものはさらに進学をする、というシステムになっている。しかし、日本との大きな違いは、日本ではこのシステムがとかく一本道になっていて、途中でつまずいてしまうと、なかなか元の道に戻りにくく、失敗ができない綱渡りに近いのに対し、スウェーデンでは、人生のある時につまづいて挫折したり、道に迷ってそれてしまっても、それからいくらでもやり直しが効くということだと思う。

その典型的な例としては、例えば、大学進学に必要な高校の単位取得のための成人高校が市によって無償で提供されているために、高校卒業後、ある程度、時間が経ってからでも、しっかり勉強し直して、大学に進学して、本当にやりたいと思った勉強ができる制度などだ。むしろ、高校卒業後に、そのままストレートに大学進学する者は半分にも満たないのではないだろうか。学部レベルでも20代後半の学生をよく見かける。義務教育9年+高校3年と勉強・勉強の日々を終えた上に、今すぐ大学に進む気がなければ、しばらく働きながら、いろんな経験を積んで、その上で、さらに勉強したいことが見つかったり、資格を取りたくなったのであれば、それで初めて大学進学を希望するという“のんびりさ”が、スウェーデンのシステムには組み込まれている。

とはいっても、日本でも最近では、高校の定時制や通信制に力を入れ、高校をやむを得ず中退したものでも、後で高校の単位を取得できる制度はある。地元、鳥取県では高校の統廃合で廃校になった高校を利用して、定時制や通信制に特化した高校が新たに生まれたりしている。また、大学や大学院の門戸を社会人により開いていく動きがある。この流れはいいことだと思うが、やはり何らかの形で学ぶ者の経済的支援をしていく枠組みが備わっていなければ、そのような道は選びにくいのではないかと思う。その点、スウェーデンでは授業料無料だけでなく、学資補助金や学資ローンが国から支給されるなど、興味深い制度がたくさんある。

さて、このスウェーデンの“のんびりさ”を日本に紹介しても、モラトリウムの延長だ、とか、そのための莫大な社会的費用は税金から賄わねばならず非効率、とネガティブな面ばかりが強調されかねない。しかし、人生の道の選択を焦るあまり、不本意な道を選んで、後戻りができなくなったり、やる気もないのに(もしくは何を勉強したいのか分からないのに)なんとなく大学に進学して、高い学費を親に払ってもらう、という現状の問題点も指摘されるべきであろう。また、“引きこもり”や“ニート”という形で、社会から一歩退いてしまった若者でも、チャンスがもう一度あれば、自分の得意を生かしたり、能力を発揮できる若者もたくさんいるのではないかと思う。スウェーデンの“のんびりさ”==> “やり直しの効く人生”“一本道だけじゃない人生”という発想が、行き詰る日本にとってヒントになるかもしれない。

以前のブログ
スウェーデンの大学事情(1)
スウェーデンの大学事情(2)

週末の吹雪

2006-01-25 07:23:57 | コラム
この冬は日本だけでなく、ヨーロッパのほうも寒波に襲われている。例年にない寒さのようだ。金曜日は吹雪に見舞われ、ヨーテボリ市内の路面電車も20分くらい遅れて走っていた。幸い、夕方は島までの連絡船がまだ動いていたので、家路につくことができた。

土曜日の朝は、庭じゅう真っ白の雪。まだベッドの中で横になっていると、隣に住む大家からの電話。家から道路までの雪かきをして欲しいとのこと。100m程の距離だが、原付三輪車が走れるようにするためには、幅を広く取らないとならないため、まる一時間かけての雪かきになった。普段、運動をしていない身には堪える。

気温は、零下15度。早朝のニュースでは、スウェーデンの北端の村が零下25度と伝えたあとで、中南部のヨンショーピンですら零下20度と伝えていた。この前日には、吹雪のために、ヨーテボリ空港は半日ほど閉鎖されていたようだ。

寒いのは困るけれど、こういう本格的な冬の日が、毎年数日はあって欲しいなと思う。


スウェーデンでも使われる日本語の単語

2006-01-24 07:39:56 | コラム
スウェーデン語でも使われている日本語の単語は、sushiやwasabiだけでない。他にはこんなものもある。

・tsunami(津波)
2004年12月26日未明にスウェーデンに入ってきた、タイでの津波災害のニュースは津波の惨さをスウェーデンに見せつけた。スウェーデンのメディアは、最初のうちは、flodvåg(flod=洪水, våg=波)という言葉で津波を呼んでいたが、外国の英語系メディアがtsunamiを使っているのに倣って、tsunamiとも呼ぶようになった。新聞を読んだり、ニュースを聞いたりしていると、今ではflodvågとtsunamiが半々くらいの割合で使われているようだ。

・kawaii(カワイイ)
前回のブログを参照。

・nashi(梨)
ヨーロッパでは梨といえば、西洋梨のことで、スウェーデンではpäronと呼んでいる。しかし、豊水や二十世紀梨のような日本の梨が珍しいようで、スウェーデンにも輸入されるようになっている。これらの日本の梨は、nashi-päronという名前で店頭に並んでいる。直訳すれば「梨梨」ということ。最初の頃は、日本から輸入されたものが店頭で見られたが、最近注意してみてみると、スペイン産の豊水など、ヨーロッパで作られた日本種が多いようだ。さらには、絶対に日本種じゃないのに、従来の種と違うというだけでnashi-päronの札がついているのも見つけてしまった。

・shiitake(しいたけ)
ここスウェーデンでは、一般的なキノコといえば、なんといってもマッシュルーム。マッシュルームはchampinjon、キノコの総称はsvampとスウェーデン語で言う。日本の椎茸も珍しいのか、スウェーデンの普通のスーパーで手に入るようになった。通称はshiitake-svamp。直訳すれば「椎茸茸」。nashi-päronの「梨梨」と同じ、トンチンカンなネーミングだ。スウェーデンで買える椎茸は、ほとんどがフィンランド産のようだ。ついでに言えば、エノキ茸はenokiという名前で、限られたスーパーに並んでいる。しかし、買う人があまりいないようで、いつも半分腐りかけたようなのしか、見かけたことがない。shiitakeにしてもenokiにしても高い。shiitakeなら普通のマッシュルームの10倍くらいが相場だろうか。

・tofu(豆腐)
健康食ブーム、日本食ブーム、そしてベジタリアンブームのおかげか、豆腐の文字がたまに目に付く。ウプサラに住んでいた頃には、近くのスーパーでデンマーク産の豆腐が買えた。日本のように水に浸かって、パックに入れられて売られていたが、買ってみてビックリ。硬いこと硬いこと。木綿漉しよりもかなり硬くて、モサモサしている。おまけに、“スタンダード”のほかに、“スモーク”版や“唐辛子”版の豆腐もあった。“スモーク”は一目見ると、焼き豆腐みたいだったので、野菜と煮込んだらおいしいかと思ったけれど、スモークはスモーク。味が全然違う。ウプサラで一般の人向けに振舞われたクリスマス料理の席で、隣にいたイギリス系のおじさんが、あの豆腐の生産をデンマークで始めた会社を作ったのは自分と友人だ、と誇らしげに言っていたけれど、味は日本のものと全然違うよ、と苦言を申した覚えがある。
tofuという言葉はむしろ、ベジタリアン向けに、大豆から作られた食品全般を指しても使われているようだ。ついこの間、”tofu”の文字をスーパーで見つけて、心を躍らせたけれど、よく見たら、大豆製の擬似ソーセージとかハンバーグのことだった。こんな言葉の使い方じゃ、本来の意味とかなり違ってしまうのに・・・。

"kawaii"と"ゴスロリ"

2006-01-21 22:23:45 | コラム
日本語の"カワイイ(kawaii)”が今じゃ、外国でも若い人に使われ始め、tsunami(津波)やwasabi(わさび)のように、英語の仲間入りをしつつあるそうだ。外国でも日本語の“可愛い”と同じような意味で使われていると、日本では思われているかもしれないが、ここスウェーデンを見ると、どうやらそうでもないようだ。

アニメや漫画のブームは現在、ヨーロッパを席巻しつつある。僕も最初は、宮崎駿のような長編がスウェーデンでも見られるようになった程度かと思えば、そうじゃない。ドラゴン・ボールから始まって、数多くの少年・少女漫画が英語訳されて売られている。スウェーデンの子達は最初のうちは英語版を取り寄せたり、インターネットで英語字幕のアニメをダウンロードしたりしていたようだが、ここまで人気が出てくると、今やスウェーデン語訳も出始めている。5年前にドラゴンボールのスウェーデン語版が発売されたのを皮切りに、訳されるシリーズの数が増え続けている。宮崎駿などの大作アニメならスウェーデン語字幕で見られる。

さてさて、そんな漫画やアニメと一緒に入ってきたのが"kawaii"という言葉だ。目が大きくて、クリンクリンなのをkawaiiと言ったりもするけれど、使われ方も次第に進化して、むしろアニメのコスプレに身をまとって仮装した姿を、お互いにkawaiiと呼び合うときに使うのらしい。コスプレとまで行かなくても、髪を真っ黒に染めて、逆に顔を白く塗って、厚底の靴を履いて、原宿に登場するような“ゴスロリ”人気が、ハードロック系の人からも出てきている。

私が週一回うけもっている日本語の教室は、世代を問わず、一般向けに開講しているが半分以上の生徒がなんと高校生だ。彼らの間で人気なのは、「Hellsning」や「ラブひな」などだ。女の子で、授業には必ず“ゴスロリ”衣装でくる子がいる。そんな厚化粧しないほうがむしろいいんじゃないかと思うのだけれど、趣味は人それぞれ、「今日の格好はどう?」と聞かれると「ああ、いいんじゃない」と曖昧な答えをいつもしてしまう。でも、近くでよく見ると、白いお化粧のおかげで、皮膚がカブレているよ・・・。そこまでして、しなくていいのに。

こんな様子を見ていると、“メイド”とか“メイド喫茶”がスウェーデンに到達する日も近し、か!? (いや、これは絶対無いと思うけど)

省エネを目指したスウェーデンの暖房

2006-01-10 09:47:54 | コラム
年末に記載した記事の第二弾です。
環境新聞『中海』の1月号に掲載されました。

------

「スウェーデンの環境生活
~ 暖房に対する工夫 ~」

北海道よりも北に位置するスウェーデンの冬は、どれだけ寒いのか。私が住む町では、通常の年で零下10度、年によっては零下30度まで下がることがある。しかし、日本と違って空気が乾燥しているため、気温から想像するほどの寒さではない。体感では日本の冬と同じくらいと考えてもいいかもしれない。

それでも、冬が寒いことには変わりない。私も一年目は、冬に備えるために、セーターを日本からたくさん持ってきた。ところが、すぐに分かったのは、スウェーデンでは、どこの家でも建物全体を暖める、セントラル・ヒーティングを導入しているため、厚着は不要だということだった。スウェーデン人は屋内では、夏とほとんど変わらない服装をしている。しかも、外に出るときでは、コートやマフラー、毛糸の帽子で冷たい外気に備えるものの、ブクブクと着ぶくれするようなことはせず、コンパクトに済ませる。

さて、家全体を暖めるとなると、灯油代や電気代が高くつくだけでなく、エネルギーの消費量も多くなりそうだ。しかし、スウェーデンは寒い国だけあって、さまざまな方法でエネルギーの節約に努めている。

まず、建物の保温効果を高めることで、エネルギーの無駄を抑えている。たとえば、建物のほぼすべての窓が二重窓になっていて、間に挟まれた空気が断熱効果を発揮している。そのうえ、結露も防ぐことができる。そういえば、スウェーデンでは露で曇った窓ガラスをほとんど見かけない。また、空気の入れ替えにしても、出て行く暖かい空気に含まれる熱が、新しく取り入れる空気に移るような熱交換装置がちゃんと取り付けられている。

さて、熱源や熱の供給はどうだろうか。まずは集団暖房。市内の多くの住宅地では、温水管が日本の都市ガスのように張り巡らされている。温水はごみ焼却場の廃熱の利用したり、市のボイラー工場で作られる。この温水が各住宅に取り入れられ、各部屋に取りつけられたラジエーターを経て、室内を暖める、という仕組みだ。また、配給される温水は、暖房だけでなく、温水器の熱源にもなる。

市のボイラー工場では、おがくずを圧縮して作ったペレットや、生ゴミを利用して作ったメタンガス、廃油などを燃やすなど、いわゆる再生可能なエネルギー源がなるべく使われている。石油などの化石燃料の消費が抑えられるだけでなく、一ヶ所で集中させて効率的に燃焼させることで、エネルギーの損失が極力抑えられるというわけだ。

温水網を張り巡らせるためには、ある程度の密集した住宅地でないと、温水管からの熱のロスが多くて、逆に非効率になるのではないか、と思われるかもしれないが、スウェーデンでは5万人も住めば大きな町に数えられるぐらい、広い国土に人々が散らばって住んでいる。日本人の目からすると、そんな“村”のような町でも、温水供給が発達しているところを見ると、それは大きな問題では無さそうだ。むしろ、最近では断熱技術が進み、温水管を町の中心から数キロ離れた所まで延伸させる工事が各地で進んでいる。人口密度のはるかに高い日本では、なおさら、効果的な省エネ技術かもしれない。

それに対し、温水網が届かない郊外の一戸建てでは、灯油を地下のボイラー室で燃やして、それによってできた温水を各部屋に流すことで、部屋を暖めるやり方が主流だった。しかし、近年の灯油価格の高騰や、化石燃料に対する環境税の導入などによって、別の熱源に切り替える動きが最近は盛んである。

まず一つは、エアコン(熱ポンプ)である。日本でも、エアコンが暖房器具としても使われるように、スウェーデンでも、外気の熱を熱ポンプを使って部屋に取り込むことで部屋を暖めるのである。しかし、気温が零下10度を下回るようになれば、外気に含まれる熱源がなくなるため、この方法は使えなくなってしまう。

そこで最近人気があるのが、地熱を熱源に使った暖房。地中の温度は冬でも比較的高く、安定している。そこで、庭に100~200mの深さの穴を掘り、そこに熱交換器を入れて地中から熱を吸収し、屋内のエアコンに接続するのである。この方法だと、暖房コストが最大70%も節約されるという。もちろん庭に穴を掘るための初期投資が大きいが、それでも10年も使えば元が取れるのだそうだ。

先進国のかかえる重要課題の一つは、エネルギー消費とそれに伴う温暖化ガスの削減である。スウェーデンでも、①運輸、②産業、③家庭生活の各分野で、省エネに向けた長期ビジョンが立てられている。今回、ここに挙げたのは、暖房の分野におけるスウェーデンの試みだ。再生可能な燃料の利用、熱エネルギーの効率的な抽出、そして外気への熱放出の削減、という点に工夫がなされている。温暖化ガスの排出削減を目指して1997年に作成された京都議定書が今年の春から発効し始めた。スウェーデンはこれらの方法により、自国の当初の削減目標よりも6%も多くの温暖化ガスの削減に成功している。

スウェーデンの簡素なデザインが近年、日本でも流行り始めており、スウェーデンの木造住宅にも人気が集まっている。デザインだけでなく、上に挙げたような省エネ技術にも注目してもいいかもしれない。