スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

「12月合意」により、スウェーデン議会の再選挙が回避される (その2)

2014-12-29 23:58:25 | 2014年選挙
12月に10日間ほど日本に帰国したが、その時に何人かの人から「スウェーデンの2015年の予算案は議会で否決されたらしいが、では予算が決まらないまま2015年になってしまうのか?」という質問をもらった。

いや、スウェーデン議会において12月3日に与党側の予算案が否決されたわけであるが、同時に、野党である中道保守4党が共同で提出した予算案は可決されたのである。つまり、2015年は中道保守4党の作った予算で行政を執行することが既に決まっているである。これは、3月22日に再選挙を実施しようが、実施しまいが、そして、その再選挙でどちらの陣営が勝とうが、全く関係なかった。

だから、12月3日に自分たちの予算案が否決されたロヴェーン首相が「議会の再選挙に打って出る!」と宣言したものの、たとえ再選挙を実施して勝ったとしても、2015年に関してはこの日に決まった野党側の予算を覆すわけにはいかないのである。だから、ロヴェーンの宣言は、ある意味、滑稽なことに思えるかもしれない。


【 2015年春予算で若干の変更は可能 】

前回書いたように再選挙は回避されたロヴェーン政権が続投することになったわけだが、2015年の予算はこのように既に決まっている。ただし、若干の修正は可能である。

ある年の予算は、その前年の秋に各党の案が議会に提出され、審議・採決されるわけであり、これは「秋予算」と呼ばれる。この時に決まるのが、メインの予算、つまり、本予算である。これに対し、4月にも議会で予算審議がある。これは「春予算」と呼ばれる。

「春予算」とは、その年の秋の本予算審議に向けて具体的な方向性や優先順位を前もって示す、予算折衝のたたき台の役割を持つものである。各党(おもに与党)が自分たちの春予算案において、自分たちの掲げる政治の方向性や実施したい改革などを盛り込む。また、場合によってはその前年の秋に提出された本予算に若干の追加・変更を加えることも可能である。そのため、ロヴェーン政権はこの春予算において、自分たちの政策を2015年の予算に盛り込む余地があるわけだ。

ただし、春予算で修正できるのは、その年の予算全体のせいぜい1割程度と言われる。所得課税については、年始が区切りなので、2015年の途中から所得税率をいきなり変えることはできない。一方、社会保険料の料率については、年の途中でも変更が可能であるので、ロヴェーン政権が選挙の公約で掲げ、今月初めに否決された予算案に盛り込んでいた若年者の社会保険料の減免措置の廃止(つまり、半減されている現段階からの引き上げ)は実行に移すことができる。そのため、歳入を少し増やすことができる。

歳出面については、公共支出を増やすような政策は歳入面での上昇が伴わない限り、予算には盛り込めない。そのため、左派的な政策を実施する余地は2015年に関しては、あまりないと言えるだろう。本格的な政策変更は2016年の本予算の審議(2015年秋に議会で実施される)を待たなければならない。

「12月合意」により、スウェーデン議会の再選挙が回避される (その1)

2014-12-28 01:55:40 | 2014年選挙

出典:スウェーデン議会 (Riksdagen)

12月3日の予算案採決において、社会民主党・環境党による新政権が提出した予算案が否決され、野党である中道保守4党が共同で提出した予算案がスウェーデン議会で可決した。中道保守4党の議席数は、連立与党である社会民主党・環境党と閣外協力をしている左党の3党合計に劣るものの、極右政党であるスウェーデン民主党が最終採決において中道保守4党の予算案の支持に回ったため、そのような結果となった。

これを受けて、当初はロヴェーン首相(社会民主党)が内閣総辞職を行い、その後、与党もしくは野党による新たな組閣が行われるものと見られていた。しかし、ロヴェーン首相は人々の予想を大幅に裏切った。新たな議会選挙を実施し、有権者の判断を仰ぐ意向を表明したのである。

過去の記事:
2014-12-03: 予算案の採決はどうなる?
2014-12-04: スウェーデン国会、野党の予算案を可決。首相は再選挙を決断

しかし、議会選挙を新たに行うことに対しては、私もこのブログで既に書いたように疑問点が数多くあった。そもそも与党の予算案が否決されるという混乱状況に至った原因は、社会民主党・環境党・左党左派陣営と、穏健党・自由党・中央党・キリスト教民主党中道保守陣営が、どちらも議会の過半数の議席を取ることができず、極右のスウェーデン民主党キャスティングボードを握っていたためである。では、新たな選挙によってこの膠着状態が瓦解し、左派・右派のどちらかの陣営が過半数を支持を取れるかというと、そのような可能性は極めて小さかった。12月に入ってから行われた世論調査によると、各党の支持率は9月の国政選挙の得票率からあまり変化していなかった。つまり、再び選挙をやっても、よっぽどのことがない限り、今と同じような膠着状態が続く可能性が高かったのである。

新たな選挙を実施する意向を12月3日に表明したロヴェーン首相だったが、正式な決定は12月30日に下されることになっていた。スウェーデンではその間、再選挙よりも良い打開策がないかどうか、様々なところで議論が続けられてきた。

議会運営をめぐる現行制度の問題点の一つは、少数与党が政権を担当した場合に政権運営が困難であることだった。それは少数与党なので、議会制民主主義のもとでは当然といえば当然だが、一方で、一つの内閣が議会の信任を受けて誕生しても、予算が議会で否決されるたびに内閣が総辞職したり、再選挙を行わなければならないとすると、政治そのものが麻痺してしまいかねない。具体的に問題なのは、数ステップに分けて行われる予算案採決のルールである。つまり、議会に提出された予算案が3つ以上ある場合、支持の最も少ない案同士を最初に戦わせて、最後の決選投票のおいては、それまで勝ち抜いた案と、支持が最も多い案を戦わせるという方法である。この方法だと、早い段階で自党の予算案が否決された党の議員が、決選投票において与党以外の予算案を支持することもできるので、与党の予算案が否決されるという事態も起こりうるのである。

今回がまさにその好例である。9月半ばの国政選挙の結果を受けて、左派3党中道保守4党を議席数において勝利した。中道保守4党は自分たちでは組閣は難しいと判断したため、左派3党が過半数の議席数を得ていないにもかかわらず、中道保守4党は左派側の首相候補であったロヴェーンが首相になって政権を樹立することを許した(首相選出の議決において棄権したからである。極右のスウェーデン民主党と組めばロヴェーンの首相就任を阻止することができたものの、極右政党との協力は彼らにとって考え難いことだった)。にもかかわらず(中道保守4党の直接的な意図ではないにしろ)与党の予算案が否決されてしまったのである。

おそらく、この採決ルールが作られた時には、少数与党による政権運営については考慮されていなかったのだろう。スウェーデンはかつては社会民主党が高い得票率を維持していたので、単独、もしくは、1、2党の閣外協力を得ながら、首相選出や予算案採決では過半数を確保し、安定した政権運営ができた時代が長く続いてきたが、近年になり、その状況も変わってきた。そのため、新しい状況により適したルール作りが必要なのではないかという声が、9月の選挙後から徐々に上がっていた。(私が12月初め、講義をするために私の古巣であるヨーテボリ大学経済学部を訪ねた時にも、一緒にランチを食べた同僚同士でこの話題に大いに花が咲き、危うく昼からの講義の開始を逃すところだった)


【 与野党の垣根を超えた合意の模索 】

12月3日に行われた予算案採決の前日、極右のスウェーデン民主党「予算案の決選投票において野党である中道保守4党の予算案を支持する」と表明した。それまでは、彼らは決選投票で棄権する可能性もあると考えられており(実際のところ、2010年から14年までは棄権したため中道保守4党による少数与党の予算案が可決できた)、そうであれば与党の政権運営に何の問題はなかった。しかし、スウェーデン民主党のこの発表によって、翌日の与党予算案の否決がほぼ確実なものとなった。そのため、焦ったロヴェーン首相はその晩(つまり採決の前日の晩)、中道保守4党の党首と会談し、事態の打開を図ろうとしたものの、中道保守陣営の側は断固として譲らず、妥協は得られなかった。

その結果、既に書いたとおり、与党の予算案が否決され、中道保守4党の予算案が可決し、ロヴェーン首相が再選挙の意向を発表する事態に至ったわけである。

この後、与野党間の建設的な合意を模索する動きが見られたが、実はこの時に動いたのは中道保守4党側だった。12月9日の主要日刊紙DNのオピニオン欄において「少数与党でも内閣を樹立させ、安定した政権運営ができるような長期的なルールを作るために、与党側とダイアログを持つ用意がある」と表明したのである。



出典:Dagens Nyhter

中道保守4党にとっても、新たな選挙は何の解決にもならないであろうから、できれば回避したいという気持ちがあったようだ。それに、2010-14年がそうであったように、自分たちが近い将来、再び政権に就いたとしても、議会で過半数の議席を取れなければ、今の社会民主党と同じ少数与党の立場に立たされることになる。与党の予算が否決されるたびに再選挙を行っていては政治が麻痺してしまい、スウェーデンの社会や経済にとっても良くない。それなら、今のうちに、新しいルールを作りたいという焦りがあったのだろう。

この「誘い」に与党側は乗った。日刊紙DNの報道によると、12月半ばから水面下で与野党間の協議が始まり、クリスマスの直前から本格化していったという。実際のところ、このころ内部筋からリークによって、水面下で協議が続いていることがニュースでも話題になったが、与野党の関係者は明確な発言を避けていた。

クリスマス休暇中も続いたこの協議は、12月26日の晩に実を結んだ。協議に関わったすべての党の党首が最後に集まり、握手を交わしたという。


【12月27日10時30分: スウェーデン議会のプレスセンターにて 】

スウェーデンは26日までのクリスマス休暇の後に週末が来たため、長い休みのまっただ中だが、記者会見が開催された。会場に現れたのは、中道保守4党社会民主党、環境党の党首であった。


環境党は党首が男女2人なので、6党とはいえ全部で7人。
穏健党はラインフェルト党首が既に退陣を表明しているため、次期党首候補のバトラが党首代行を務めている。
出典:Dagens Nyheter

この6党の党首は、この前日に至った合意を「12月合意 (Decemberöverenskommelsen)」と呼んだ上で、その内容を説明した。合意は、議会運営のルールと解決すべく重点課題について定めたものであり、次の4点からなる。

(1) 首相選出においては、最も有力な党派の候補者(つまり、支持する議員が最も多い候補者)を首相に選ぶ。
(現行制度では、過半数の反対票がなければその候補者が首相に選出される、という規定のため、過半数の議席を確保できなかった党(党派)の候補者を、それ以外の党が過半数で否決でき、少数与党による政権樹立が阻止される可能性がある。今回の合意では、そのようなことがないように、最も有力な党派以外の議員は首相選出において棄権することを定めている。これは今年10月初めの首相選出において、野党である中道保守4党が既に実行している。その結果、ロヴェーンが首相になることができたのである)

(2) 少数与党による政権が予算案を議会で可決できるようにする。もし、その予算案が否決される可能性がある場合には、その他の党は予算案の採決において棄権する。
(これは、「その他の党」がそもそも自分たちの予算案を提出しないのか、それとも、提出した上で採決においては棄権するのか、不明である)

(3) 議会で既に可決した予算の一部の項目を取り出して、それを後から否決するようなことはしない。
(これは、2014年の予算において、当時野党であった社会民主党などの左派政党が国税所得税の課税最低限を巡って実際に実行したおかげで、大きな混乱に至った。決着はまだついていない)

(4) 防衛、年金、エネルギーの3つの領域において、与野党の垣根を超えて協力を行い、ダイアログを持つ。
(例えば、年金問題については、現行の年金制度の基礎となった超党派合意には環境党が含まれていない。今年秋の新政権樹立後に、今や与党となった環境党がこの超党派の協議に参加しようとしたところ、中道保守陣営側はそれを拒み、退席してしまった。しかし、今回発表された合意によって、環境党も与党であるかぎりは、年金問題をめぐる超党派の協議に参加させてもらえることになる)


ロヴェーン首相は、この合意が野党との間で結ばれたことで再選挙の必要はなくなったと判断し、12月3日に表明したその意向を撤回した。

ちなみに、この合意に加わっているのは、先に挙げた6党であり、左党スウェーデン民主党は合意に加わっていない。議会における影響力を大幅に削がれることになったスウェーデン民主党は不満を露わにし、内閣不信任案の議会への提出も辞さない構えだが、提出したところで議会を通る可能性は全くない。一方、左党のほうは、ロヴェーン政権へ閣外協力をしているため、政権の続投を可能にするこの合意に賛意を示している。(9月半ばの選挙直後と同様、左党を蚊帳の外に置いたのは、中道保守陣営との合意形成を円滑にする上で良かったと思う。蚊帳の外に置かれたとはいえ、水面下で続けられた協議の進捗状況については逐次、報告を受けていたようだ)

また、この合意は2015年の春予算の審議から適用され、適用期間は2022年まで、とされている。


【 画期的で建設的な合意 】

今回発表された超党派の合意は、1990年代初めに結ばれた超党派の合意に匹敵するくらい画期的なものだと評されている。1990年代初頭にスウェーデンを襲った経済危機・金融危機・通貨危機という深刻な危機に際して、当時の政権第一党である穏健党と野党第一党である社会民主党が手を組ぶことで、例えば、破綻銀行への公的資金の注入や国有化などを実行に移すことができ、困難を乗り切れたときの超党派合意のことである。

その見方に私も同意だ。9月の国政選挙以降、左派陣営も中道保守陣営も過半数の議席を取れなかったにもかかわらず、あたかも塹壕戦のごとく、互いに妥協することなく、批判ばかりしあっていた。左派ブロック中道保守ブロックによる膠着状態を打破し、それぞれの政党が政策ごとに柔軟に協力し合い、過半数を得られるような状況が作り出せばそれが最善だったろうが、それが難しい。一方で、極右のスウェーデン民主党はキャスティングボートを握る立場にあるため、得票率・議席数に比例しないくらい大きな影響力を議会運営において発揮してきた。この状況を打開するためには、党派を超えた建設的な合意が必要であったわけであり、私も今回のような合意を心待ちにしていた。無駄としか思えない再選挙が回避されたことも非常に嬉しい。

今回の合意は、議会の力を減らし、内閣の力を強化するものであるため、民主主義の後退とも解釈できる。しかし、議会制民主主義の原則と、政権の安定的な運営という2つの目標を両立していくための妥協として、必要な物だったと私は思う。このような現実的で、建設的な合意が超党派で至ることができるのは非常にスウェーデンらしいところである。

おそらく、今回の合意は、議会法を改正するまでの暫定的なものと思われる。だからこそ、2022年までという期限がついているのであろう。今回の合意に盛り込まれた新しいルールを法制化するためには議会法を改正する必要がある。しかし、そのためにはまず調査委員会を設立して綿密な準備をする必要があるし、そのような重大な法律を変えるためには一つの国政選挙を挟んで2度、議会で採決するのが慣例とされているようだ。(ただし、政治学者によると議会法は基本法の一つではないため、変えようと思えば、一度の議決で変えられるらしい)

一つの懸念として挙げられているのは、今回の合意によってスウェーデン民主党を除くすべての党オール与党になるのではないか、ということだ。しかし、今回の合意はあくまで首相選出と予算案採決における手続きを規定しているにすぎない。それ以外の法案審議については、今後も与野党間で意見の対立が続くであろうし、政策的・イデオロギー的対立も今後も維持されるであろう。与党の法案が否決される可能性や、中道保守4党から内閣不信任案が提出される可能性もこれまで通りあるため、左派政権の側も安心してはいられない。中道保守4党の側もその点は強調している

(続く・・・)

新たな議会選挙は実施しない、とロヴェーン首相が発表。

2014-12-27 14:38:08 | 2014年選挙
12月初め、与党ではなく野党の予算が可決し、新たな議会選挙を実施する意向を表明していたロヴェーン首相(社会民主党)だが、野党側と合意にいたり、再選挙は行わないと発表。

選挙を実施するかの最終決定は12月30日に行われることになっていたが、野党との協議次第では「選挙を行わない」との決定もありうると示唆され、与野党の動向に注目が集まってきたが、12月30日を待たずして、今日昼過ぎに発表があった。

私は意味がほとんどないと思われる再選挙が回避されることを期待していたので、本当に良かったと思う。

詳しくは後ほど。

スウェーデン国会、野党の予算案を可決。首相は再選挙を決断。

2014-12-04 00:37:21 | 2014年選挙
負ける可能性が十分に高いのにロヴェーン首相が予算案の採決にそれでも挑むことはある程度、想像がついていた。そしてその後、スウェーデン民主党が中道保守4党の共同予算案を支持し、与党(社会民主党・環境党)の予算案を否決することもだいたい分かっていた。

しかし!

まさか、ロヴェーン首相がその後、新たな国政選挙の実施を発表するとは、誰が予想しただろうか? 可能性としては考えられたが、前回の記事に書いたように誰の得にもならない、と多くの人が見ていた。友人から聞いた話だと、社会民主党の国会議員の多くも昨夜の段階では「新たな選挙になる可能性は2%くらい」と見ていたというから、与党議員にとっても驚きの展開となってしまったようだ。

※ ※ ※ ※ ※

今日は朝9時から国会で予算案をめぐる国会討論が始まり、それぞれの陣営が他の陣営を叩き、政治混乱に至った責任を追求しようとした。


与党側は昼過ぎの段階で採決に挑むか、延期をするか、の決断を迫られた。ここで、採決に挑むという選択肢を選んだ。採決は午後3時半頃から始まった。最初の投票では、最も支持が弱い予算案2つ、つまり、中道保守4党の共同予算案スウェーデン民主党の予算案が投票にかけられ、前者が勝った。そして、最終的な採決では、中道保守4党の共同予算案と、与党の予算案が投票にかけられ、ここでスウェーデン民主党が棄権せず、中道保守4党側に付いたため、与党の予算案は否決された

(技術的に言えば、与党側にはこんな奇抜な手もあった。最初の段階において中道保守4党の予算案スウェーデン民主党の予算案が投票にかけられた時に、与党議員が棄権するのではなく、スウェーデン民主党の予算案を支持するという手である。そうすると、中道保守4党の予算案はこの段階で敗退してしまう。最終的な採決では、与党の予算案スウェーデン民主党の予算案が投票にかけられるわけだが、中道保守4党の議員がスウェーデン民主党の予算案を支持することはありえないから、彼らは棄権する。そうすると、与党の予算案が可決していた。しかし、この手は汚いと見られたのか、実行には移されなかった。でも、新たな選挙をやるくらいなら、そうでもして与党が予算案を可決して欲しかった。)

この後、与党側の議員には緊急招集がかけられ、密室で会合が持たれた。どうやら、この時にロヴェーン首相から「新たな選挙を実施する」ことを告げられたようである。

昨日も書いたように、内閣を総辞職しても、内閣を再編して新たな政権を樹立させることもできたが、ロヴェーンはその道を選ばなかった。任期途中に国会が解散、再び選挙が実施されるのは1958年以来、初めてのことである。

投票日は3月22日になるとのこと。



ロヴェーン首相はなぜそんな選択をしたのか?

彼は昨日から中道保守4党と、ブロックを超えた協力関係を築けないか、アプローチしていたものの、どの党にもそっぽを向かれてしまった。だから、内閣再編をして、新たな政権を樹立させたところで、結局、膠着状態は続いてしまう。それなら、自らの政権の妥当性について有権者に審判を下してもらおう、と判断したのだろう。


果たして、社会民主党を中心とする今の政権にとって、それが得になるのだろうか?

ロヴェーン首相は既に、新たな選挙ではこれまで築いてきた政権(社会民主党・環境党の連立+左党の閣外協力)とその予算案を掲げて、有権者の審判を仰ぎたい、と表明している。つまり、社会民主党単独で選挙戦を展開するのではなく、「環境党や左党とセットで」ということなのだ。これはかなり危うい。

実は9月の国政選挙後に成立した現政権は、自分たちの支持者からも少なからずの批判を浴びてきた。社会民主党が環境党と政権を築くにあたって、環境党に多くの妥協(ブロンマ空港閉鎖、ストックホルム・バイパス道路の計画再検討など)をしすぎた、という批判や、左党の閣外協力を取り付けるためにこの党に必要以上の妥協をした、という批判が上がってきたのである。つまり、ラインフェルト率いる中道保守4党連合(右派ブロック)に見切りをつけ、9月の選挙では左派政党を支持した中間層の中には、その後の内閣編成プロセスにがっかりした有権者が結構いると思われる。だから、新たな選挙を、社会民主党だけで挑むのではなく、「環境党や左党とセットで」ということになれば、それはゴメンだ、と思う有権者が、中道保守政党に逃げていく可能性もある。

(これと似たようなことは、2010年の国政選挙で起きている。この選挙では、当時の党首モナ・サリーン率いる社会民主党が、環境党と左党と連立を組むことを約束して、選挙戦に挑んだが、この二党、特に左党を恐れる中間層が中道保守陣営に逃げていったことが敗戦の一因だと言われている。)

一方で、現政権は与党間で様々な妥協をしてきたものの、中道保守政権よりはマシだ、と感じている有権者も少なからずいる。選挙をしてみたら、現政権に対する支持が予想以上に高かった、ということもありえるかもしれない。だから、今の時点では、どっちに転ぶかわからない。


さて、中道保守4党にとってはどうだろうか? 穏健党の票マグネットとしてこれまで機能してきたのは、ラインフェルト(元首相)とボリ(元財相)だったわけが、2人とも9月の選挙後に表舞台から消えてしまい、現在は年明けの党大会で党首に就任すると思われるバトラ氏(女性)が党の仮リーダーとして動いている。果たして、彼女や他の中心的議員が有権者の支持をどこまで集められるのだろうか?


スウェーデン民主党にとってはどうか? この党のおかげでスウェーデンの政治が大混乱に陥り、与党の予算案否決、内閣辞職、新たな選挙、と歴史的に見ても非常に稀なシナリオを辿ることになってしまったわけだが、そのような形で(いじめられっ子が)自分の存在感を誇示できたことを嬉しく思っている有権者の票が集まるかもしれない。

一方で、一部の支持者は離れていくかもしれない。というのも、この党の中心的な公約には「移民・難民の受け入れ抑制」のほかに「高齢者福祉の充実や年金者課税の軽減」があり、9月の選挙では高齢者の票もたくさん集めていた。しかし実は、高齢者に手厚い政策という点においては、与党の予算案のほうがスウェーデン民主党の公約に近かった。にもかかわらず、自党のメンツを保つために、その予算案を否決に追い込み、自党の公約からははるかに遠い中道保守4党の予算案を可決させてしまった。これに対して、がっかりしている高齢者はたくさんいることであろうから、彼らの票の行方が気になるところである。

また、新たな選挙となれば、9月の選挙ほどは投票率は伸びないだろう(9月の国政選挙では投票率が85%を少し上回っていた)。9月の選挙でスウェーデン民主党が得票率を伸ばせた一つの理由は、普段は政治に関心がなく、投票に行かない人々の心を掴んで、投票所に足を運ばせたから、という見方もある。もし、この見方が正しければ、投票率の低下とともにこの党の得票率も少し下がるかもしれない。

※ ※ ※ ※ ※


いずれにしろ、私個人にとっては、9月の総選挙で投票立会人として働き、投票後は翌日の朝2時近くまで開票作業を続けたあの苦労が無駄になってしまったかと思うと、非常に腹立たしい思いだ。


秀逸なジョーク。「冬の訪れとともに葉っぱが落ちていく。När vintern kommer faller Löfven.
「葉っぱ」の複数・定形「Löven」とロヴェーン「Löfven」首相とを掛けているのである。(ただし、アクセントの位置が異なる。)

エネルギー・原発政策に関する新政権(社会民主党と環境党)の合意

2014-10-13 01:13:02 | 2014年選挙
10月3日、社会民主党と環境党の連立による新政権が誕生したわけだが、連立を組むための折衝においてこの2党はエネルギー分野に関する一つの合意にいたり、10月1日に発表した。


合意内容は次の5点である。

(1) 原発は、その社会経済的コストのより多くの部分を自ら負担すべきである。安全基準を強化するともに、原発が核廃棄物処理基金へ支払う課徴金を引き上げる。

(2) 再生可能な電力の発電量をさらに増やし、2020年までにその年間発電量を少なくとも30TWhに到達させる。2030年までの目標も新たに設定する。再生可能な電力の発電のための技術中立的な証書システムをこの目的のために活用する。それに加えて、海上風力発電や太陽光発電への支援も必要となる。自家発電を、容易で割に合うものにする。

(3) 国営電力会社ヴァッテンファル(Vattenfall)とその経営を国がしっかりと管理し、再生可能エネルギーの割合を高めるためのエネルギーシステム転換を、この会社がリードしていくように促す。ヴァッテンファルが計画していた新たな原発の建設準備は中断させる。

(4) エネルギー政策を超党派で議論するためのエネルギー委員会を設立し、長い将来を見据えた持続可能なエネルギー政策合意を策定する。

(5) 新政権は、原発を再生可能エネルギーとエネルギー効率化(省エネ)によって代替していくことを、その委員会での議論の出発点とする。


10月3日の新首相ステファン・ロヴェーンの所信表明演説でも、この合意にある脱原発・エネルギーシステムの転換への意欲が強調されたため、国外のメディアは「新政権が原発全廃を宣言した」と報じた。所信表明演説で強調するということは、新政権がこの問題を重要な政策課題の一つだと位置づけていることを意味しており、それ自体は素晴らしいことだとは思うが、では、新しい政権の誕生によってこれまでの原発政策・エネルギー政策が大きく路線変更したのかというと、そうではない

結論から先に言えば、

2006年から2014年まで政権を握っていた中道保守4党2009年にエネルギー政策に関する合意を発表しており、政府による政治判断ではなく、エネルギー市場を取り巻く各経済主体の経済合理性の判断に働きかけることで段階的な脱原発を実現し、再生可能エネルギーの導入を加速させていくという基本方針を決定していた。社会民主党と環境党が今回発表した合意は、2009年の合意を基本的に踏襲したうえで、その意欲を少し引き上げたにすぎない

ということである。以下では、選挙戦における主要政党の主張やその相違点・類似点について比較しながら、今回の合意の意味を私なりに説明してみたい。


スウェーデンのオスカシュハムン(Oskarshamn)原発



【 選挙戦における主要政党の公約 】

原発・エネルギー政策は、選挙戦においても主要な争点の一つだった。この問題について盛んに議論を展開していた諸党の主張は以下のとおり。

○ 環境党
・2030年までに発電と地域暖房に用いるエネルギーを100%、再生可能エネルギーに転換する。
・現在稼働中の10基の原子炉のうち、少なくとも2基を2018年までに閉鎖する。(環境党ですら、全原発の即時廃炉を掲げているわけではない)


○ 社会民主党
電力の安定供給と電力集約型産業(鉄鋼・紙パルプなど)の雇用を損なわないという条件のもとで、代替エネルギーの普及とともに長期的に脱原発

(社会民主党党首のロヴェーンは、もともと製造業で働くブルーカラー系の労働組合の代表を務めていた2011年に、「電力供給において原発は欠かすことのできないものであり、今後も長期にわたってそうありつづけるだろう。原発が代替エネルギーに取って代わられ、なくなることは考えにくい」と発言していたが、2012年に社会民主党の党首に就任してからは、その主張をトーンダウンさせ、上に記した社会民主党としての方針を受け入れている。)


○ 中道保守4党
2009年の4党合意の維持。正式には「環境・産業競争力・長期的安定性のための持続可能なエネルギー政策および気候変動対策」と名づけられたその合意の要点は、

2020年までに
・全使用エネルギーに占める再生可能エネルギーの比率を50%に高める。
・運輸部門における再生可能エネルギーの比率を10%に高める。
エネルギー効率を2005年比で20%向上させる。
温室効果ガスの排出量を1990年比で40%削減する。
再生可能な電力(既存の水力発電を除く)の発電量を25TWhに到達させる。

・再生可能な電力に対しては今後も「グリーン電力証書システム」(電力小売会社に一定割合のグリーン電力の購入を義務づけるRPS制度)を通じた支援を行っていく。
原子力は再生可能エネルギーが大々的に普及していくまでの、過渡的なエネルギーにすぎない。
・既存の原子炉10基が技術的・経済的寿命に達した場合、新しい原子炉を建設し、古いものと置き換えることは認める。
・スウェーデン政府は再生可能電力への支援とは対照的に、原発に対しては直接・間接を問わず、一切支援を行わない。既存原発を実際に更新するかどうかは、その必要性や経済性の面から各電力会社の判断に任せる。

この合意は、原発の利用を現在よりも拡大したい自由党と、歴史的に原発には否定的で脱原発を掲げていた中央党の妥協の産物である。他の2党は原発利用には賛成であるが、自由党ほど強い主張をしてはいなかった。

中道保守4党は自分たちが作ったこの合意に基づいたエネルギー政策を今後も継続していくことを選挙戦で掲げていた。


○ 自由党
自由党は上記の4党合意に加わっているが、合意に盛り込まれた「老朽化した既存原発の更新」という部分を強調し、「今後も長期にわたって原発は必要だ」という強い主張を選挙戦において掲げていた。


原発をめぐる主要政党の主張は以上のとおりである。上に書いたとおり、ロヴェーンはもともと原発推進派であったわけだが、社会民主党の党首となった今、党大会で決定した党の方針から逸脱することは考えられないし、同じく原発推進の自由党も、自らが加わった4党合意から離脱することは今のところありえない。また、社会民主党の主張は中道保守4党の合意内容と対立がない。だから、現在のスウェーデン政治における原発政策をめぐる対立軸は、社会民主党の方針&中道保守4党合意環境党の方針と言っていいだろう。

しかし、本当に対立しているのか? という点については私はこれまでずっと疑問だった。私の見るところ、それぞれの党・陣営はポーズが異なるだけで、(少なくとも2020年までの期間に関しては)言っていることはほとんど同じとしか思えなかった。そのことをブログにまとめようと思っているうちに、投票日がやってきて、選挙になってしまった。

中道保守陣営は、選挙前から左派連立(赤緑連合)を組むことを宣言していた社会民主党と環境党の間で原発をめぐる主張に食い違いがあると指摘し「この2党が連立を組んだ時に、果たしてどのようなエネルギー政策を執り行うのか? そもそも共通の合意に至れるのか?」とツッコミを入れ、激しく批判していた。だから、選挙後は、連立内閣の編成において、この2党がエネルギー政策でどのような合意に至るかに注目が集まってきた。


【 この合意についての食い違う解釈? 】

社会民主党と環境党の合意内容はこの記事の最初に示したとおりだが、この合意が記者発表された後、環境党党首のオーサ・ロムソン「安全基準が厳しくなり、核廃棄物基金への課徴金も引き上げられれば、いくつかの原子炉では収益が上がらなくなるため、今後4年間で少なくとも2基が閉鎖に追い込まれるだろう」とコメントした。

一方、社会民主党の党首で、新政権の首相となったステファン・ロヴェーン「原発については現状維持(status quo)だ」とコメントした。

んっ、この2党の解釈が異なるのではないか!? 野党となった中道保守陣営はその「不協和音」をすかさず指摘し、今回の合意を激しく批判した。

まず、原発推進の先鋒に立つ自由党の党首ヤーン・ビョルクルンドは、「この2党のエネルギー合意は ”メルトダウン” で幕を開けた。それぞれの党首の言っていることは意味が分かるが、その2つを合わせると全く意味不明だ」と冷やかした。また、中道保守陣営における ”環境党” として、環境党に激しいライバル意識を持っている中央党の党首アンニー・ローヴ「この2党がまずすべきことは、何について合意したのかをまず合意することではないか? それがなければ、私たちは今回の合意をまともに相手できない」と批判した。


【 経済合理性の判断に働きかける脱原発のやり方 】

しかし、エネルギー政策をめぐるこれまでの議論を詳しく知っていれば、環境党の解釈も社会民主党の解釈も正しいことが分かる。

2009年の4党合意が画期的だった点は、政治決定ではなく市場メカニズムに基づく経済合理性の判断によって脱原発を実現していくことを明確にしたことだった。政治の役割は、エネルギーを取り巻く市場ルールを作ること。具体的には、しっかりとした安全基準を策定し、核廃棄物の処理などを含む、あらゆるコストを電力会社にきちんと負担させるための制度や、再生可能エネルギーへの市場ベースの補助制度を作ることである。各電力会社にはその枠組みの中において自由にプレーしてもらい、原発が経済的に割に合うと思うならば今後も運転を続けたり、既存原子炉を新しく建て替えることも認めるし、一方で、再生可能な電力のほうが経済的にお得だと電力会社が思えば、そのような発電形態への投資が増えていくことになる。

電力会社が本当に脱原発の方向へ動いていくという保障はないが、電力価格の動向、電力需要の動向、再生可能エネルギーや省エネの技術革新、原発に対する安全規制強化など、現在の電力市場を取り巻く様々な条件を鑑みれば、長期的には原発が市場から淘汰されていくのは時間の問題だという見方は、4党合意の策定に携わった人々の多くが共有するところである。その意味において4党合意は、原子力を「過渡的なエネルギー」と位置づけたのである。

ちなみに、市場の経済メカニズムに任せる脱原発の手法は、一部の急進的な反原発団体などは「手ぬるい」と感じているかもしれないが、スウェーデンの環境保護活動においてメインストリームをなすスウェーデン自然保護協会(Naturskyddsföreningen)は以前からこの方法で脱原発を実現したいと考えてきた、という点は特筆しておきたい。(今回の合意に対しても、大きく歓迎すると、コメントしている)

この団体のブレーンは工学や経済学、生物学、化学などの学位取得者や専門家からなっているため冷静な議論ができるし、経済メカニズムをうまく活用するための発想がきちんとあり、そのような議論をし易いことが一つの理由であろう。

もう一つの大きな理由は、政治決定による原子炉閉鎖の場合、その決定がなければ電力会社が手にしていたであろう将来利益の損失分を国が賠償しなければならず、国や納税者に大きなコストが掛かってしまうことである。スウェーデンは1999年と2005年にバーシェベック原発1・2号機政治決定により閉鎖したが、その際に国は電力会社に対し、損失分を賠償している。(ドイツのことはよく分からないが、同様の賠償請求が電力会社からなされているのであろう。) これに対し、電力会社が経済的判断に基づいて自分で原子炉を閉鎖すれば、国にはそのような賠償義務が生じない


【 政党間の対立点は実はあまりない 】

以上のことを踏まえた上で、今回の社会民主党と環境党の合意の各点を順番に見ていけば、その大部分はあくまで2009年の4党合意を踏襲したものであるし、この合意によってスウェーデンのエネルギー政策が大きく変わるわけではないことが分かる。


(1) 原発は、その社会経済的コストのより多くの部分を自ら負担すべきである。安全基準を強化するともに、核廃棄物処理基金への課徴金を引き上げる。

これは、今回の合意がなくても実行されていたことである。というのも、福島原発の事故を受けて、EUは加盟国内にある原発のストレステストを行ってきた。そして、安全性を高める一つの方法として、例えば、系統から独立した電源によって機能する炉心冷却システムをすべての原発に備え付けることが決定し、原発を所有する電力会社は多額の費用負担を余儀なくされることとなった。

また、使用済み核燃料の処理に掛かる費用を賄うため、これまで各電力会社は原発の発電量に応じた課徴金を核廃棄物処理基金に支払ってきたが、その課徴金の額が少なすぎるために、将来の処理費用をその基金ですべて賄いきれないという問題が以前から指摘されていた。そのため、スウェーデン放射線安全庁は、発電1kwhあたり2.2クローナという現在の水準を3.8クローナに引き上げるべきだ、という提案をすでに政府に行っている。(環境党が主張している引き上げ幅もこの放射性安全庁の提案に則したものである。)

さらに、事故が起きた際に電力会社が負う責任の上限が、これまでスウェーデンでは一基あたり30億クローナ(約450億円)に設定されてきたが、EU加盟国の中には無限責任を規定している国も多く、スウェーデンもそれに倣うか、もしくは上限をもっと高くすべきだという意見は省庁の専門家などから既に上がっていた。(だから、今回の合意がなくてもそれが実行された可能性はあった。一方で、そのような提案がなされても中道保守政権のもとではそれが実行に移されないケースはあった。新政権は庁からのそのような提案はきちんと実行するつもりのようだ)


(2) 再生可能な電力の発電量をさらに増やし、2020年までにその年間発電量を少なくとも30TWhに到達させる。2030年までの目標も新たに設定する。再生可能な電力の発電のための技術中立的な証書システムをこの目的のために活用する。それに加えて、海上風力発電や太陽光発電への支援も必要となる。自家発電を、容易で割に合うものにする。

2009年の4党合意に盛り込まれた、再生可能な電力(既存の水力発電を除く)の発電量目標は「2020年までに25TWh」というものであったから、それを若干引き上げたことがわかる。ちなみに2013年の時点の実績値は18TWhである。これは主にバイオマス燃料を利用したコジェネ発電と風力発電による。

また、「技術中立的な証書システム」とは、2003年から運用されている「グリーン電力証書システム」(電力小売向け再エネ購入割当制度)のことである。新政権は、そこで設定されている購入割当率を若干引き上げて、2020年までに30TWhという目標を実現させたいつもりのようである。

「海上風力発電や太陽光発電への支援」とは補助金などの経済的な支援ではなく、認可プロセスや系統接続・買い取り制度などの部分での制度改善のことを言っていると思われる。経済的支援はあくまで技術中立的なものに限り、発電形態別に水準を変えるというやり方はしないからである。


(3) 国営電力会社ヴァッテンファル(Vattenfall)とその経営を国がしっかりと管理し、再生可能エネルギーの割合を高めるためのエネルギーシステム転換を、この会社がリードしていくように促す。ヴァッテンファルが計画していた新たな原発の建設準備は中断させる。

今回の合意の中で、目新しい点はこの項目だろう。大手電力会社であるヴァッテンファル国が全株式を所有する国営企業であるものの、株主としての国からの指令は「毎年、一定の利潤率を達成し、国に配当をもたらすこと」であり、それ以上の細かいコントロールは基本的に行ってこなかった。だから、ヴァッテンファルの経営は民間会社とほとんど変わらず、ヨーロッパの他の国の電力・エネルギー市場にどんどん進出し、石炭火力発電などにも手を染めたり、リスクの高いオランダの電力会社の買収で巨額の損失を出し、スウェーデン国内でも大きな批判を浴びてきた。今回の合意では、その批判に応えるために株主である国が、毎年発する指令を通じてヴァッテンファルの経営をコントロールし、環境に負荷をかけるような投資はせず、再生可能エネルギーの普及を推し進めていくように促していくことが盛り込まれたのである。

また、ヴァッテンファルは電力集約型産業とともに、原発の新規建設(更新)のための費用計算や建設準備などを始めていたが、それも国が株主としての権力を発動して中止させるということである。

ただ、ヴァッテンファル以外の他の電力会社が原発を建設することに対しては、今回の合意はストップを掛けていないため、2009年の4党合意通り、「更新ならOK」という方針が維持されている。


(4) エネルギー政策を超党派で議論するためのエネルギー委員会を設立し、長期的に持続可能なエネルギー政策合意を策定する。

(5) 新政権は、原発を再生可能エネルギーとエネルギー効率化(省エネ)によって代替していくことを、その委員会での議論の出発点とする。

この2点は、2009年の4党合意に代わる新たな合意を左派・右派をまたいだ超党派で策定したいということだ。ただ、既に完成度の高い合意がある今、果たして新たな合意の必要があるのか?という疑問を持つ人も多いだろう。また、「原発を再生可能エネルギーとエネルギー効率化(省エネ)によって代替していくこと」は4党合意の土台でもあったから、新しいことではない。


だから、2009年の4党合意と比べて、新しいニュースは(3)を除いてあまりない。その意味で、社会民主党のいう「現状維持(status quo)」というコメントは正しい。また、今回の合意があろうとなかろうと、原発の安全基準は引き上げられ、核廃棄物処理基金への課徴金も引き上げられる可能性は高かったから、原発の運転コストは今後大きく上昇していくと見られているうえ、スウェーデンでは電力の過剰生産が近年続いており電力価格は低迷しているため、原発の経済性がますます低下している。今後4年間で少なくとも原発2基分の過剰生産になるとも見られている。そのため、環境党のいう「今後4年間で少なくとも2基が閉鎖に追い込まれるだろう」という解釈も間違いではない。

結局、自分たちの支持者に対して、「もう一方の党に妥協せず、自分たちの主張を貫いた」ということを示したいために、それぞれポーズが異なるのだが、もともと主張に大きな食い違いがないため、同じことを言っているにすぎないのである。

ちなみに、原発の不採算性については、今回の合意が発表される1・2週間ほど前に、スウェーデンの高圧送電線網管理庁の長官(Mikael Odenberg・穏健党の元国会議員)がメディアでそれを指摘し、話題になった。スウェーデンの原発は発電量を引き上げるために、2000年代に多額の費用をつぎ込んで出力上昇工事を行ったが、現在は電力価格が低迷し、採算が取れずに困っているし、EUの安全性基準が高まれば更に大きな投資を余儀なくされる、と指摘したのである。また、計画から建設完了までに15年、運転に60年、さらに解体に20年、合計100年近くかかるため、一般の企業の投資計画からすれば長すぎ、抱えるリスクも大きい。そのため、彼は「原子炉の新たな建設はユートピア(夢物語)だ」とコメントした。

また、今回の合意が発表された日の前日は、スウェーデン国内にあるオスカシュハムン原発が2012年、2013年と多額の赤字を計上した、というニュースが流れていた。

だから、今後4年間、もしくは遅くとも2020年までに複数の原子炉が経済的な理由から閉炉に追い込まれる可能性は高いであろう。


【 産業界の反応 】

最後に。今回の合意に対する産業界の反応だが、企業連盟電力集約型産業の業界団体、そして電力会社ヴァッテンファルが予想通り、大きく反発した。「原発が閉鎖されれば、スウェーデンの基幹産業が危機に追い込まれる!」というものだ。

しかし、面白かったのは、メディアのインタビューで当初は激しく反発していたヴァッテンファルの社長が、その合意内容に詳しく目を通したあとで、別のインタビューを受け、「最初に思ったほど危険なものではないようだ」と答えていたことだ(笑)。2009年の4党合意とほとんど内容が変わっていないのだから、当然であろう。

ただ、産業界としては、市場不確実性の高い原発の新規建設に、国が公的資金を投じたり、信用保証などを通じて支援をしてくれることを長い間、期待していたようだが、その夢が2009年の4党合意で既に遠いものととなっていたところに、今回の合意でさらに遠のいてしまったことが、今回の反発と落胆の背景にあるようである。

社会民主党・環境党連立、ロヴェーン内閣の発足

2014-10-05 02:03:55 | 2014年選挙
10月2日にスウェーデン議会において首相の選出が行われた。社会民主党の候補のステファン・ロヴェーンに対し、社会民主党と環境党の議員は賛成票(132票)、極右のスウェーデン民主党は反対票(49票)を投じ、残りの議員、つまり右派ブロック4党+左党の議員は棄権(154票)した。首相選出では、反対票が過半数(175)を上回らない限り、その候補者の首相就任を阻止することはできないため、ステファン・ロヴェーンは無事、首相に選ばれることになった。

そして、その翌日には閣僚が発表され、新内閣が発足した。


社会民主党と環境党からなる連立内閣であり、環境党は初めて入閣を果たした。閣僚ポストは24と通常より若干多い。省の数は首相府を含め12だが、主要大臣の他に担当大臣が設けられてる省も多い。

エネルギー担当大臣というポストがあるが、これは産業省ではなく、環境省に属しているところが興味深い。スウェーデンではエネルギー問題は少し前から環境省に移管された。

閣僚の数は、社会民主党が18人環境党が6人。この2党の得票比率は82:18なので、それを24の閣僚ポストに単純に当てはめれば、社会民主党が20ポストを取ってもおかしくなかったが、環境党に少し配慮する形となった。

閣僚の男女数は完全に半々。つまり、男性12人、女性12人。また、外国のバックグラウンドを持つ閣僚が5人もいる。スウェーデンが様々な背景を持つ人々からなる多文化社会であることを考えれば、これは素晴らしいことだと思う。

(スウェーデンでは「移民」という表現が近年、ますます使われなくなっている。外国生まれであったり、外国生まれの親の子供であってもスウェーデン国籍を持つ人はたくさんいる。だから、「外国人」などという呼び方は間違いであるし、「移民」という過去の一時点の出来事のレッテルをその人にいつまでも貼る続けるのはおかしいと感じる人も多いからである)

スウェーデン史上最年少の閣僚も誕生した。高校・知識向上担当大臣に任命された Aida Hadžialić(アイーダ・ハジアリッチ)27歳の女性。しかも、彼女はボスニア・ヘルツェゴヴィナの出身で、ユーゴ紛争・ボスニア戦争の際に本国を追われ、5歳の時にスウェーデンに難民として受け入れられた過去を持つ。最年少・女性・難民という、注目を集めそうなキーワード満載の政治家の大臣起用だが、話題作りを目的とした入閣かといえば、必ずしもそれだけではない。彼女は、法学部を出て法律専門家の学位jur kand(スウェーデンに司法試験はないがそれに準ずるもの)を取得しているし、若い時から市政に関わり、2010年に23歳の若さでハルムスタード市の市行政執行部(市の内閣に相当)のメンバーに選ばれているから、経験も評価されたのだと思う。

20代や30代の閣僚は彼女を含め、全部で5人(うち社会民主党は4人)だ。1996年から2006年まで社会民主党の首相だったヨーラン・パーションは、自らに権力とメディアのスポットライトを集めることに必死で、若手の社会民主党議員の育成に力を注がなかった。この点は、彼の前任者であるオーロフ・パルメイングヴァル・カールソンとは大違いであり、大きく批判された。そして、ヨーラン・パーションが2006年に退陣した後、社会民主党は党を引っ張っていける後継者探しで頭を大きく悩ます結果となった。だから、今回の新内閣はその反省も踏まえて、若手を積極的に起用しながら経験を積ませて育てていこうという意欲が感じられる。

私にとって一番の驚きだったのは、環境党のIsabella Lövin(イサベラ・ロヴィーン)国際援助担当大臣に起用されたことだ。ジャーナリストだった彼女は2007年に水産資源の枯渇と持続可能な漁業の必要性を訴える『沈黙の海』というドキュメンタリー本を出版し、スウェーデン国内で大きな注目を集めた(邦訳は私が担当し2009年に出版)。その後、2009年の欧州議会選挙で環境党から出馬し当選。今年5月の欧州議会選挙でも再当選していた。彼女によると、大臣起用の打診が環境党党首からあったのは先週日曜日のことだったらしく、突然の話に戸惑ったものの、これまでの経験を活かしながら、国際援助担当大臣として自分にやれることはたくさんあると考え、承諾したそうだ(欧州議会では漁業委員会だけでなく国際援助委員会のメンバーでもあった)。

以下は、新しい閣僚の紹介。


【 首相府 】

首相

Stefan Löfven (ステファン・ロヴェーン)
社会民主党 57歳
・元溶接工。金属工・組立工などの労働組合であるIF Metallの代表を2006-12年の間、務めた。
・2012年より社会民主党党首。
・2014年初当選。


戦略・未来問題および北欧協力担当大臣

Kristina Persson (クリスティーナ・パーション)
社会民主党 69歳
・大学ではエコノミストの学位。
・1991-1995年および2014年以降、国会議員。欧州議会議員も1995年の一時期務めたほか、県知事や中央銀行副総裁の経験がある。


【 財務省 】

財務大臣

Magdalena Andersson (マグダレーナ・アンデショーン)
社会民主党 47歳
・財務省の政策秘書や副大臣のほか、国税庁の上級職を務めた経験を持つ。
・ストックホルム商科大学で学び、エコノミストの学位。博士課程に在籍したこともある。
・2012年以降、社会民主党の経済政策スポークスマン。
・2014年初当選。
・夫は経済学者。ストックホルム商科大学 経済学部の教授・学部長


金融市場・消費担当大臣

Per Bolund (パー・ボールンド)
環境党 43歳
・大学では生物学専攻。
・産業省において政治任用職の経験あり。
・2006-2010年および2011年以降、国会議員。
・環境党の経済政策スポークスマン。


民生担当大臣

Ardalan Shekarabi (アルダラン・シェカラビ)
社会民主党 35歳
・イギリス生まれ。イランで育つが、1989年に母親とともにスウェーデンに移住し難民申請。
・法学部卒(jur kand)
・ウプサラ大学法学部で博士課程に在籍し、公共調達の法制度を研究したり、大学講師をした経験あり。
・2003-2005年の間、社会民主党青年部の代表
・2013年以降、国会議員。


【 外務省 】

外務大臣

Margot Wallström (マルゴット・ヴァルストロム)
社会民主党 60歳
・1979年から1985年まで国会議員(25歳で初当選)。
・閣僚経験者。1994-1996年まで文化大臣、1996-1998年まで社会大臣。
・EUの行政府の一つである欧州委員会の委員を1999年から2009年まで2期10年にわたり務めた。
・国連事務総長の特命により、戦争・紛争地域における性的暴力防止活動ための特使に2010年、任ぜられる。
・非国会議員


国際援助担当大臣

Isabella Lövin (イサベラ・ロヴィーン)
環境党 51歳
・ジャーナリスト。2007年に出版した『沈黙の海』で注目を集め、数々のジャーナリスト賞を受賞。
・2009年の欧州議会選挙で環境党から出馬し当選。今年5月の欧州議会選挙でも再び当選。
・非国会議員


【 法務省 】

法務大臣

Morgan Johansson (モルガン・ヨーハンソン)
社会民主党 44歳
・法学部卒(jur kand)。
・1998年以降、国会議員。
・閣僚経験者。首相府の政策秘書や国民健康担当大臣を歴任。


内務担当大臣

Anders Ygeman (アンデーシュ・イューゲマン)
社会民主党 44歳
・1996年以降、国会議員。


【 環境省 】

気候・環境大臣(兼 副首相)

Åsa Romson (オーサ・ロムソン)
環境党 42歳
・2006年からストックホルム大学法学部の博士課程に在籍し、2012年に博士号取得。博士論文のタイトルは”Environmental Policy Space and International Investment Law”。国際投資を規定する国際法や国際貿易協定において、それぞれの国家が環境保全と天然資源の持続可能な活用していく上での法的余地や可能性がどのくらい与えられているかを分析。
・2002-10年はストックホルム市議会議員。2010年から国会議員。
・二人代表制をとる環境党党首を2011年から務める。


エネルギー担当大臣

Ibrahim Baylan(イブラヒム・バイラン)
社会民主党 42歳
・トルコ生まれ。家族は少数民族であるキリスト教系アッシリア人に属していた。1981年にスウェーデンに移住。
・閣僚経験者。2004-2006年の間、学校教育担当大臣。
・2006年以降、国会議員。


【 産業省 】

産業・技術革新大臣

Mikael Damberg (ミカエル・ダムベリ)
社会民主党 42歳
・2002年以降、国会議員。
・社会民主党青年部の代表(1999-2003年)や首相府などの政策秘書を経験。


インフラ担当大臣

Anna Johansson (アンナ・ヨーハンソン)
社会民主党 43歳
・ヨーテボリ市議会議員(市行政執行部)の長い経験。
208年に私が市議会を傍聴した時に乳児を連れて市議会に出席していた議員。
・長い間、ヨーテボリ市長を務めた男性政治家の娘(ただ、2世議員だから入閣したわけではないと思う)


住宅・都市発展担当大臣

Mehmet Kaplan (メフメット・カプラン)
環境党 43歳
・トルコ生まれ。
・パレスチナ問題に対する活動家として知られる(Ship to Gaza)。
・2006-2014年まで国会議員(9月の国政選挙では立候補せず、代わりに市議会選挙で当選)。
・スウェーデン・ムスリム協会のスポークスマンや、スウェーデン・ムスリム青年協会の代表を務めた経験がある。


【 教育省 】

教育大臣

Gustav Fridolin (グスタフ・フリドリーン)
環境党 31歳
・2002年の国政選挙において19歳で当選し、史上最年少の議員となった。国会議員を1期務めたあと、教師やジャーナリストを務めた。2010年の国政選挙で再び議員。二人代表制をとる環境党党首を2011年から務める。


高校・知識向上担当大臣

Aida Hadžialić(アイーダ・ハジアリッチ)
社会民主党 27歳
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナ生まれ。5歳の時、ユーゴ紛争のため難民としてスウェーデンへ逃れる。
・ルンド大学 法学部卒(jur kand)
・2010年、23歳の若さでハルムスタード市の市行政執行部(内閣に相当)のメンバーに選ばれる。
・今回も史上最年少で閣僚に。
・非国会議員


高等教育・研究担当大臣

Helene Hellmark Knutsson (ヘレーン・ヘルマルク・クヌートソン)
社会民主党 46歳
・ストックホルム県議会議員(県行政執行部)を務めてきた。
・非国会議員


【 労働市場省 】

労働市場大臣

Ylva Johansson (イュルヴァ・ヨーハンソン)
社会民主党 50歳
・数学の教師。
・1988-1991年、および2006年以降、国会議員。
・閣僚経験者。学校教育担当大臣や医療・高齢者福祉担当大臣を歴任。
・社会民主党の労働市場問題のスポークスマンを務めてきた。


【 文化省 】

文化・民主主義大臣

Alice Bah Kuhnke (アーリス・バ・クンケ)
環境党 42歳
・母がスウェーデン、父がガンビア出身。
・子供向け番組やトークショーの司会などテレビで活躍したほか、フェアトレード認証団体の代表やCSRの活動などを行ってきた。
・前職は、青少年庁の長官。
・非国会議員


【 防衛省 】

防衛大臣

Peter Hultqvist (ペーテル・フルトクヴィスト)
社会民主党 55歳
・ジャーナリストや市会議員(市行政執行部メンバー)、市長を経て、2006年から国会議員。
・社会民主党の防衛スポークスマンを務めてきた。


【 社会省 】

社会保険大臣

Annika Strandhäll (アニカ・ストランドヘル)
社会民主党 39歳
・ヨーテボリ大学で心理学を学ぶ。
・ヨーテボリ市の職員や労働組合の幹部や代表を務める。
・非国会議員


子供・高齢者および男女平等担当大臣

Åsa Regnér(オーサ・レグネー)
社会民主党 50歳
国連機関 UN Womenのボリビア支部長をこれまで務める。
・スウェーデン性教育協会の代表や、首相府・法務省・国際援助庁・労働市場庁の職員、労働組合の職員などを歴任。
・非国会議員


国民健康・医療およびスポーツ担当大臣

Gabriel Wikström (ガブリエル・ヴィークストロム)
社会民主党 29歳
・2011年以降、社会民主党青年部の代表。若者の立場から、失業問題や住宅問題、教育問題に関する議論に深く関わる。
・非国会議員


【 農林水産省 】

農林水産大臣

Sven-Erik Bucht (スヴェン・エーリック・ブクト)
社会民主党 59歳
・スウェーデン北部のハパランダ市議会議員(市行政執行部)を経験。
・2010年から国会議員。
(注:省の名前を直訳すると「農村省」、大臣名は「農村大臣」)

女性議員の比率が高い理由 & 若手候補者の下剋上

2014-09-29 22:37:32 | 2014年選挙
前回の記事では、当選した国会議員の女性比率が43.6%になったことを書いた。この値はその4年前の選挙における45.0%よりも若干減ってしまったが、それでも国際的に見ると高い。では、どうして女性比率を高くできるのか?


【 女性議員比率が高い理由 】

その理由は、比例代表制の選挙制度候補者名簿の順序にある。スウェーデンの選挙制度は全国を29の選挙区に分けた中選挙区の比例代表制だ。各党はそれぞれの選挙区における獲得議席数に応じて候補者名簿の上位から順番に当選者を決めていく(特定の候補者を繰り上げ当選させる補完的制度については後ほど触れる)。

その候補者名簿を見てみよう。まずは社会民主党のストックホルム県選挙区の候補者名簿だが、女性候補者には印をつけてみた。一番目の男性候補者に続いて、女性候補者と男性候補者が完全に交互に連なっている。


社会民主党の別の選挙区の候補者名簿も見てみよう。これはヨーテボリ市選挙区だが、今度は第一位が女性でその後、男性候補者と女性候補者が交互に並んでいる。


そして、当選議席数に応じて上から順番に当選者が決まる。だから、社会民主党では女性候補者も男性候補者とほとんど同じような確率で議員に選ばれることになる。

では、なぜ、そしていつから男女が交互に並ぶ候補者名簿が作られるようになったのか? 以下は私が社会民主党の女性部会(社会民主女性同盟)の代表から以前、直接聞いた話だ。女性の政治参加と男女平等を求める動きは、女性参政権を求める運動として20世紀始めころから徐々に始まっていき、戦後、特に1970年代からますます強まっていったものの、ブルーカラー労働者が支持者や党員の多くを占める社会民主党は伝統的に男性中心の価値観が根強く、パルメ首相やその後を継いだカールソン首相を始めとする党執行部がいくら男女平等に積極的な考えを持っていても、党全体の価値観の変革は遅く、改革意欲も低かった。そこで、社会民主党の女性部会は1990 年代前半「社会民主党が男女平等政策をもっと積極的に推し進めたり、選挙の際に男女交互名簿制を導入したりしないのであれば、私たちは独立して、新たに女性党を結成するぞ」という脅しを掛けたという。社会民主党は、党の支持者の半分以上が女性であったから、女性議員たちが新たな党を結成すれば支持者が社会民主党から流れ、大きな打撃を受ける恐れがあった。そのため、社会民主党では1994年の国政選挙および地方選挙(県・市)から男女交互名簿制を導入するようになったという。

他の党も次第にこの動きに倣っていったようで、例えば、保守政党である穏健党の候補者名簿を見てみても、ストックホルム県選挙区の名簿では、完全に交互ではないにしろ、ほぼ交互に近い形で男性と女性が並んでいることが分かる。


ただ、同じ穏健党のヨーテボリ市選挙区の名簿を見てみると、候補者20人中、女性は7人しかいないことが分かる。このように同じ党の中でも選挙区によってまちまちであるようだ。


ついでなので、すべての国政政党の候補者名簿(国政選挙のみ)の女性割合を調べてみた。下のグラフから分かるように、社会民主党や左党、環境党といった左派政党は、全候補者に占める女性の割合がほぼ50%か、50%を上回っている右派政党でも極右のスウェーデン民主党を除けば、候補者の42-44%を女性が占めていることが分かる。



ここで一つ思い出してほしい。前回の記事で各党の女性議員の比率を紹介したが、その中で女性比率が際立って低かったのは、スウェーデン民主党自由党だった。自由党は、「男女平等」を選挙キャンペーンや政策論争でも大々的に主張していたから、自らのイメージを汚してしまう結果となった。スウェーデン民主党は上のグラフから分かるように候補者の女性比率も低いから、議員の女性比率が低いのも無理はないが、不思議なのは自由党だ。自由党の候補者の女性比率は44%でそんなに悪くない。例えば、自由党のストックホルム県・ストックホルム市選挙区の候補者名簿を見てみると、ほぼ交互に男女が並んでいる。



それなのに、自由党の当選議員を見てみると女性の比率はわずか26%にしか達していない。このからくりは何だろう?

この謎解きの答えは、各選挙区の候補者名簿のトップ候補者にある。自由党のように得票率が一桁台に留まる政党は20前後の議席しか獲得できない。全国には29の選挙区が存在するから、全く議席が取れない選挙区もあるし、獲得できたとしてもせいぜい1議席という選挙区がほとんどだ。だから、候補者名簿全体でいくら女性候補者の比率が高くても、各選挙区のトップ候補者を男性ばかりが占めていれば、当選する議員はおのずから男性ばかりが占めてしまうことになる。

試しに、29選挙区それぞれにおける各党の候補者名簿をチェックして、トップ候補者に占める女性の割合を計算してみた。結果は、自由党が31.0%。つまり、女性がトップ候補者である選挙区は、全29選挙区のわずか約3分の1しかないのである。



ただ、自由党だけが特別なわけではない。社会民主党穏健党トップ候補者に占める女性の割合は3割を切っている。それなのに、当選議員に占める女性比率は社会民主党が47%穏健党が52%だ。これはなぜかというと、これらの党は規模が大きいので、各選挙区ではトップ候補者だけでなく複数の議員が当選しており、トップ候補者の性別が議員全体の性別割合にほとんど影響を与えていないのである。(上のグラフにおいて同様に比率の低いキリスト教民主党に関しては、1人当選区ではやはり男性当選者が多いが、2人の議員が当選しているストックホルム市選挙区でたまたま2人とも女性であったため、女性議員の割合を若干押し上げてくれた)

参考までに、トップ候補者、第3位までの候補者、第5位までの候補者、候補者全体のそれぞれに占める女性の割合を政党別にグラフにしてみた。


(注:スウェーデン民主党はすべての選挙区で単一の候補者名簿を使用しているので名簿が一つしかない。自由党はストックホルム県選挙区とストックホルム市選挙区で共通の名簿を使用しているので名簿は28。その他の党は29。穏健党と自由党はそれぞれの選挙区ごとの名簿の他に全国統一名簿も使用しているが、後者は計算に入れていない)


【 特定の議員を繰り上げ当選させる制度 】


どの候補者が議席を獲得するかは、各政党が事前に決めた候補者名簿の順序に従う。しかし、有権者がどの候補者を当選させたいかを意思表示できる制度もあったほうが良いということで、1998年から補完的に導入された個人指名制度がある。有権者は投票の際に、その選挙区で立候補している候補者を最大一人選び、名前の前にチェック ☑ ができるのである(このオプションは行使してもしなくても良い)。そして、ある候補者に対するチェックの数が、その選挙区において候補者が所属する政党の得票数の5%を超えた場合、その候補者は候補者名簿での順序に関係なく、繰り上げ当選できるのである。

今回の選挙では、この制度によって11人の候補者上位の候補者を押しのけて、繰り上げ当選することになった。(一定数以上のチェックをもらい、繰り上げ当選する権利を得た候補者の中には、もともと候補者名簿での順位が十分に上のほうで、この制度がなくても当選していた候補者もたくさんいたが、それらはここには含んでいない)

以下は、その11人。


環境党・ヨンショーピン県選挙区。名簿では4位だった26歳女性は環境党学生部会の代表を務めていたので、おそらく若い有権者の人気を得ることができ、64歳男性、28歳女性、42歳男性を押しのけて繰り上げ当選。


環境党・ソーデルマンランド県選挙区。51歳男性が54歳女性(現職国会議員)を押しのけて当選。


環境党・ヴェストラヨータランド県北部選挙区。40歳女性が57歳男性を押しのけて当選。


左党・ヴェストマンランド県選挙区。59歳男性が39歳女性を押しのけて当選。彼は、市議会選挙で左党が過半数を獲得してきたFagersta(ファーゲシュタ)市でこれまで市長を務めてきた、カリスマ的左党議員。


社会民主党・イェムトランド県選挙区。4位の30歳男性が2位の48歳男性と3位の50歳女性を押しのけて当選。


キリスト教民主党・ヨンショーピン県選挙区。3位にいた27歳男性(現職国会議員)が1位の54歳男性(現職閣僚)と2位の58歳女性(現職閣僚)を押しのけて当選。まさしく下剋上


自由党・ヨーテボリ市選挙区。5位の29歳男性が、1~4位の同世代候補者との戦いを制して当選。


自由党・ウプサラ県選挙区。35歳女性が59歳男性を押しのけて当選。


自由党・ヴェストラヨータランド県北部選挙区。28歳男性が64歳女性を押しのけて当選。


穏健党・ヴァルムランド県選挙区。3位の38歳男性(現職国会議員)が2位の42歳男性を抑えて当選。


中央党・スコーネ県南部選挙区。31歳女性が44歳男性を押しのけて当選。


全体としてみると、この制度のおかげで当選した議員にはどちらかと言うと若い候補者が多いようだ。若い候補者のほうが、自分への個人票を集めるためのキャンペーンを張るのが上手だろうし、有権者も若い人のほうがこの個人指名制度を利用して、チェックを入れる人が多いからだと思う。(この制度を利用しない有権者もたくさんいるが、それはどちらかと言うと高齢者に多いのではないかと思う)

また、繰り上げ当選する候補者が現れる確率は大政党よりも小政党のほうが高い。繰り上げ当選のためのハードルは、その選挙区において候補者が所属する政党の得票数の5%なので、得票数が比較的少ない政党の候補者のほうがハードルは低くなる(ただ、得票数があまりに少ない党だとそもそも獲得議席がゼロになってしまう)。

最後に、この制度は男性候補者に有利なのか、女性候補者に有利なのか? 今回、繰り上げ当選した11人の候補者のうち4人が女性だが、この結果だけではどちらとも言えない。性別よりも年齢のほうがより大きな影響力を持っているのではないかと私は感じる。

2014年国政選挙の最終結果: 投票率・女性比率・年齢比率

2014-09-22 00:13:08 | 2014年選挙
票の数え直し作業が金曜日から土曜日にかけて終了し、2014年国政選挙の結果が確定した。即日開票の結果から得票率が僅かに変わった結果、キリスト教民主党の議席が1つ減り、一方、環境党の議席が1つ増えることになった。環境党は4年前の国政選挙に比べてあまり振るわなかったが、同じ議席数を維持することができた。



投票率は、前回お知らせしたとおり1.2%ポイント伸びて、85.8%となった。第二次世界大戦後におけるスウェーデンの国政選挙投票率をグラフにしてみた。70年代・80年代には90%台に達した投票率はその後、80%にまで下がったが、いま再び上昇傾向にある。



今回、なぜ投票率が伸びたかについては様々な意見があるが、主なものを挙げると

・選挙キャンペーンをメディアが集中的に報道し、党首討論や政策ディベート、政党デュエルなど、政策論戦のテレビ・ラジオ番組が今年は特に多く、有権者の関心を惹きつけた。

・社会民主党を中心とする左派ブロックの優勢と、それにラストスパートをかけて果敢に差を縮める穏健党を中心とする右派ブロックの間の戦いがスリリングだった。

政治に対する関心や信頼が低くて普段はあまり投票に行かない層を、スウェーデン民主党が惹きつけ、投票所に足を運ばせた。

政治・政治家に対する有権者の信頼が近年、高まる傾向にある。その理由は私も考えている最中だが、簡単に思いつくものとしては、ヨーロッパの国々が経済危機や財政危機にさらされてきた中、スウェーデン政府が歳入・歳出をきちんと管理して盤石な財政を維持し、マクロ的な経済不安を払拭してきたこと。

期日前投票の利便性の高さ。2010年の選挙では票を投じた人の33.3%が期日前に投票をしているが、今年の選挙ではその割合が36.1%に上昇している。


【 当選議員の男女比 】
当選した349議員のうち、男性は197人、女性は152人で、女性議員の割合は43.6%となった。前回2010年の選挙では45%だったから、若干低下してしまった。政党別に見てみると面白い。


多くの党において女性議員の比率は40-60%のスパンに収まっているのに対し、スウェーデン民主党22%という低い数字が際立っている。また、自由党26%と低い。自由党は選挙戦においては自らを右派陣営におけるフェミニズムの党だと主張し、「Feminism utan socialism」(社会主義に依らないフェミニズム)というスローガンを選挙ポスターにも用いていた。だから、この低い女性議員比率は党の自己イメージにとって大きな痛手となったことであろう。

(自由党のこの選挙ポスターを誰かがパロディー化して「Feminism utan feminism」(フェミニズム不在のフェミニズム)とか「Feminism utan kvinnor」(女性不在のフェミニズム)に変えて笑いを誘ったことがあったが、案外まちがいではなかったようだ(笑)。)




【 年齢別の議員比率 】
当選した議員のうち、最年少は21歳最年長は81歳だ。年齢別に数えてみると、
21-30歳: 42人(12.0%)
31-40歳: 77人(22.1%)
41-50歳:104人(29.8%)
51-60歳:101人(28.9%)
61-70歳: 23人( 6.6%)
71-80歳: 1人( 0.3%)
81歳- : 1人( 0.3%)


選挙権も被選挙権も18歳から与えられるので、18歳や19歳の議員が誕生することは珍しいことではないが、今回は10代の国会議員は出てこなかった。一方、上記の「21-30歳」をより詳しく見てみると、21-25歳が12人いることがわかる。

過去の記事
2010-10-20: 18歳の国会議員の誕生
2010-11-08: グスタフ・フリドリーン 「議員が一生の仕事であってはならない」(その1)
2010-11-10: グスタフ・フリドリーン 「議員が一生の仕事であってはならない」(その2)


歳取った長老たちが幅を利かせているどこかの国会とは非常に対照的だが、他方で、スウェーデンの議会には60歳以上の議員がもうちょっといても良いのではないかとも思う。

下は、政党別の年齢比率と、年齢のメディアン(中央値)をまとめたもの。



極右のスウェーデン民主党に若い議員が多く、メディアンの年齢が38歳となっている。その次に若いのが、環境党、左党、自由党だ。

(注:ここでの年齢は生まれた年から割り出したもの。誕生日を一つ一つ調べて選挙投票日時点での年齢を割り出すのは面倒なので、誰もが今年すでに誕生日を迎えたという仮定で計算している)

上のグラフは10年スパンの年齢別グラフだが、5年スパンのグラフも作ってみた。ただ、煩雑で見にくくなってしまった。参考までに。


投票率は上がったかも! & 今後のプロセス

2014-09-18 17:56:35 | 2014年選挙
気になる投票率だが、どうやら上昇した可能性が高い

即日開票の結果によると投票率は83.3%だった。ただし、これは暫定的なものであり、最終結果ではない。即日開票では、投票日直前に投じられた期日前投票の送付が間に合わずカウントされていない(※注)し、判断の難しい票についてはカウントしない。これらの票は、投票日の翌日から約1週間かけて行われる数え直し作業の時にカウントしたり、正式な判断を下して票数に加算され、最終結果が発表される。

前回2010年の国政選挙の投票率を見てみると、即日開票では82.1%、そして最終結果では84.6%だった。だから、即日開票同士を比較してみると、1.2%ポイントほど伸びていることが分かる。最終結果では即日開票の投票率よりも少し上昇するから、もし上昇幅が同じくらいならば、最終結果においても前回より投票率が上昇していることになる。(この記事を書いている時点で、数え直し作業は95%終わっているが、それによると投票率は85.3%に達している)

参考のために、過去4回の国政選挙の投票率をまとめてみたい。

2002年 即日開票 79.1%、最終結果 80.1%
2006年 即日開票 80.4%、最終結果 82.0%
2010年 即日開票 82.1%、最終結果 84.6%
2014年 即日開票 83.3%、最終結果 85%超???(乞うご期待) 85.8%!
<追記>
金曜日の午前中にすべての票の数え直しが終わった。それによると、投票率は85.81%で、4年前よりも1.24%上昇したとのことだ。Bravo!


(※注)
期日前投票は、実は投票日当日でも可能だ。投票日当日に自分の属する投票所に行けない場合、当日でも開いている期日前投票所が全国にあるのでそこに行けば投票できる(ただし、当日の期日前投票所の数は限られている)。ここで投じられた票は即日開票にはカウントされず、その後の数え直し作業の時に加算される。


【 今後のプロセス 】

第一党となった社会民主党ステファン・ロヴェーン党首は、国会議長から内閣の編成を託され、組閣作業を続けている。社会民主党は少なくとも環境党と連立を組むと見られているが、2党の獲得議席数を合わせても137議席。左党を足しても158議席にしかならず、過半数の175議席には程遠い。そのため、安定した政権運営のためには、右派ブロックの政党とも手を組む必要がある。

社会民主党に比較的近いのは、中央党自由党であるが、この2党は旧共産党である左党を毛嫌いしており、左党が加わる協力関係に参加する可能性は薄い。

そのため、なんと社会民主党のロヴェーンは早くも投票日の翌日「左党とは組まない」と宣言してしまった。どうせ左党と連立を組んでも過半数には行かない。それなら、彼らを早々に切り捨てることで、中央党や自由党の支援を取り付けやすくし、過半数に達しようじゃないか、という賢明な選択だ。それに、今の段階で左党を切り捨ててしまったところで、左党が穏健党やスウェーデン民主党と組んだり、彼らの法案や予算案に賛成することはまずありえないので、結局、社会民主党を支援するか、採決で棄権するしかない、という読みもある。つまり、組閣において今の段階で彼らを切り捨てても、いずれ自分たちの後押しをしてくれるのだから問題ないということだ。当然ながら左党のヨーナス・ショーステット党首は驚きと怒りを露わにしている。

9月29日に国会議長の選出が行われる。複数の党が候補者を出した場合、採決を3度行っても過半数の支持を集める候補者がいなければ、3回目の投票で一番多くの支持を得た候補者が議長に選ばれる。

その後、9月30日に国会が開会され。首相の選出が行われる。ここで、もしスウェーデン民主党が右派陣営と協力した場合、反対が過半数となり、その候補者は否決される。首相選出は4回まで試みることができるが、それで決まらない場合は再選挙となる。

首相が選出され、内閣が成立すると、新内閣は遅くとも11月17日までに予算案を提出しなければならない。ここでもしスウェーデン民主党が与党側(社会民主党+環境党)の予算案を却下し、野党(右派ブロック)の予算案を通した場合、与党側が右派ブロックの予算をベースに政権を運営することは考えられないので、内閣は辞職することになる。この場合、野党側が新たな内閣を作るか、もしくは国会解散となり、総選挙が行われる。


内閣の不成立と再選挙を防ぐためには、社会民主党中央党 and/or 自由党の協力を取り付けることである。(andになるかorになるかは、社会民主党から既にそっぽを向けられた左党が、それでも社会民主党と環境党からなる連立政権を消極的に支援するかどうかに掛かっている。左党が協力するなら、中央党か自由党のどちらかの協力だけで過半数に達する)

私は再選挙や解散総選挙の可能性は小さいと思う。各党が政治の世界での力比べに明け暮れているうちにスウェーデン社会は刻々と動いていくし、政策も実行していかなければ経済が停滞してしまい、競争力を失ってしまう。だから、グズグズしていられないという焦りを(スウェーデン民主党を除く)すべての党が感じているだろう。どの党も無責任な党だとは思われたくない。だから、安定した政治運営のために、中央党自由党社会民主党+環境党に政策分野ごとに協力・妥協する可能性は十分に高い。

このような状況(少数与党)にスウェーデンの政治が直面するのは、何も初めてのことではない。90年代には中央党が少数与党だった社会民主党政権と協力関係を築いていたし、2010年からこれまで政権を担ってきた中道右派連立も過半数に達せず、分野によっては環境党と協力関係を結び、政策を実行してきた。スウェーデン民主党が左派陣営の案に同調して、内閣の法案を否決したことが10回ほどあったが、内閣の予算案そのものが否決されたことはなかった。なぜなら、スウェーデン民主党は独自の予算案を毎回提出し、その案に賛成していたので、野党(左派ブロック)の予算案が可決することがなかったからである。

今回の新たなチャレンジとしては、スウェーデン民主党が既に野党(右派ブロック)の予算案への賛成を仄めかしていることである。そうなると、与党の予算案が国会を通らず、政治的危機に陥ってしまう。そのため、左派陣営・右派陣営の垣根を越えた協力や妥協が今まで以上に必要とされているわけだが、中央党も自由党もそれは分かっているので、うまく立ち振る舞ってくれると思う。

今回の選挙結果は非常に残念な結果となったが、これを契機にブロック政治を解消させることで、この残念な状況を少しでもポジティブな方向に変えていってほしいと思う。

国政選挙の開票結果

2014-09-17 00:04:47 | 2014年選挙
投票日当日は投票立会人として、一つの投票所で朝から夜遅くまで働いた。その話は次に置いておくとして、まずは選挙結果から。

左派ブロック(社会民主党+環境党+左党)43.7%に対し、これまで政権を握ってきた右派ブロック(穏健党+中央党+自由党+キリスト教民主党)39.3%しか獲得できず、左派が勝つことになった。



今回の得票率と前回2010年の選挙での得票率の比較(灰色)、および配分議席数


しかし、以下の点が非常に残念な結果となった。
左派ブロックが投票日直前までの世論調査が示していたほど得票率を伸ばせなかった
○ 特に、スウェーデン民主党を抑えて第三党になってくれることを期待していた環境党がボロボロだった
○ また、4%のハードルを超えて議席を獲得する可能性があったフェミニスト党が3.1%に留まり、議席獲得を逃した。
○ 極右のスウェーデン民主党は事前の世論調査では10~11%くらいは獲得すると予想されていたが、それを大きく上回った
○ キリスト教民主党が(おそらく戦略的投票のお陰で)生き残った。

上の図を見れば分かるように、左派ブロック(社会民主党+環境党+左党)のそれぞれの党の得票率は前回の選挙とほとんど変わっていない。特に社会民主党については、モーナ・サリーンを党首に据えて大敗を喫した2010年の選挙よりも僅かに回復したのみである。

したがって今回の選挙では、左派が支持を伸ばしたために勝った、というよりも、右派(現政権)がコケたために左派が結果として勝った、と言える。

上の図を見ると、穏健党が大きく支持を減らし、その分がそのままスウェーデン民主党に流れたようにも見えるが、それは必ずしも正しくない。詳しくは続きをどうぞ。

(注:ちなみにここで示している開票結果は、即日開票の結果である。今週一週間かけて、すべての票の数え直しが行われている。ここでは、即日開票の際に判断が難しかった票についても県の選挙委員会による判断がくだされるし、即日開票に間に合わなかった期日前投票の票もきちんとカウントされ、おそらく金曜日頃に最終結果が発表される。そのため、得票率や配分議席数は若干変化する可能性がある。)


【 大敗した穏健党 】

リーマン・ショックや財政危機に見まわれ財政赤字が拡大したり、危機の後遺症で経済が停滞しているヨーロッパの多くの国々に比べ、スウェーデン経済はその危機を早く脱出し、順調に成長している。国の債務残高もGDP比で40%前後と非常に低い水準にとどまっている。だから、そんな好条件のなかで政権を担う党が大きく負けたことに、海外メディアは首を傾げているようだ。

今回の大敗の理由を分析するにあたっては、前回2010年の選挙でなぜ穏健党が30.1%も獲得できたかを考える必要がある。ラインフェルト首相のもとで穏健党は支持率30%台という快挙を達成できたわけだが、その理由は党にとっての内因外因との両方による。

まず、外因から。政敵である社会民主党はこの時、モーナ・サリーン(女性)が党首に就いていたが、人気が芳しくなかった。また、選挙に先駆けて、環境党と旧共産党である左党と連立を組むことを発表していた。しかし、本当は社会民主党に票を投じても良いと考えている有権者の中には、これらの二党、特に左党に不信感を抱く人も多く、彼らの票が左派ブロックから右派ブロック、特に穏健党に流れてしまう結果となった。

次に、穏健党そのものの内因だが、「責任ある経済・財政運営」という強みが有権者の信頼を得ていた。リーマン・ショックや財政危機のためにヨーロッパ経済が大波に揉まれている中で、スウェーデンは財政状況も健全で、危機からの立ち直りが早かった。2010年の選挙において穏健党は左派政党ほど社会保障や教育などへの公共投資を公約に掲げてはいなかったが、ヨーロッパ経済がそのような混乱の渦中にあるなか、多くの有権者は歳出拡大ができないのは仕方がないと考え、危機を乗り切るには2006年から2010年まで4年間の実績がある穏健党に票を投じたほうが賢明だと考えたのだった。

しかし、様々な危機がひとまず過ぎ去った今、穏健党の売りどころであった「責任ある経済・財政運営」を有権者はそれほど重要だとは思わなくなってきた。一方で、社会保障・社会福祉の綻びも目立つようになっていた。そもそも穏健党は2002年の選挙で前党首が「大規模な減税」だけを全面に打ち出して選挙戦に挑んで大敗し、その廃墟の中から穏健党を立て直したのがラインフェルト党首であったが、その次の2006年の選挙で彼が国民に約束したのは、社会民主党が掲げるのと同じくらいの社会保障・社会福祉政策漸進的な減税を同時に実現することだった。ラインフェルトは、就労インセンティブの強化と社会保障制度の効率化・スリム化でそれを実現できると訴えたのである。このビジョンに多くの有権者が共感し、政権交代となったわけだが、それから8年経ち、減税は達成されたものの、一方で学校教育や高齢者福祉の質の低下や、失業手当を始めとする社会保険の地盤沈下が問題として取り上げられるようになった。

にもかかわらず、今回の選挙戦で穏健党は相変わらず「責任ある経済・財政運営」を全面に打ち出して選挙戦に挑んだ。2006年の選挙戦の時のような新しい社会ビジョンは提示されなかった。これまで続けてきた減税はストップさせたものの、増税はほとんどするつもりがない。そして、国庫という財布の紐ばかりを気にするあまり、社会保障への公共支出はあまり拡大できないし、新たな改革を行う余裕もない、と有権者に理解を求めた。しかし、他のヨーロッパ諸国に比してこれだけ経済が安定的に成長しているなら、もっと社会保障への歳出を拡大してほしい、と感じる有権者も多く、彼らが穏健党から離れていった。この時、増税してでも良いから社会保障への歳出を増やすべきだ、と考える人は社会民主党に流れ、いや、増税するよりも難民の受け入れを減せば財源を確保でき、社会保障に充てることができる、というスウェーデン民主党の分かりやすいレトリックに惹かれた人たちがスウェーデン民主党に流れたようである。

下のグラフは、2010年の選挙で穏健党に投票した人がどこに流れたか、また2014年の選挙で穏健党に投票した人がどこから来たか、を公共テレビSVTの出口調査の結果を元に私が計算したものだが、社会民主党スウェーデン民主党への流出が激しいことがわかる。また、他の中道右派政党への流出も流入を上回っており、穏健党がほとんどの党に対して負けたことが分かる。

穏健党の不調は投票日の前から明らかだったので、新たに「私たちはスウェーデンを造っていく」というスローガンを打ち出し、住宅の新規建設を公約に盛り込んだりしたが、時は既に遅かった。


あくまで出口調査結果を元にした推計であり、不確実性も高いので、0.3%ポイントを下回る政党については「その他」(灰色)に含めた。
「初回投票者」とは主に初めて選挙権を得た18歳~22歳までの若者である。



【 支持が伸びなかった社会民主党 】

2010年選挙で穏健党に流れた票の一部が社会民主党に戻ってきたわけだが、社会民主党の得票率はほとんど変わらなかった。それは、社会民主党の支持者の一部がスウェーデン民主党に流れてしまったからである。

下のグラフは、2010年選挙で社会民主党に投票した人がどこに流れたか、また2014年選挙で社会民主党に投票した人がどこから来たか、を示したものだ。スウェーデン民主党に対して2.2%ポイントの票が流れ、逆に0.5%ポイントの票がスウェーデン民主党から流れこんでいるため、純減は1.7%ポイントである。それに対し、穏健党からの流入は2.3%ポイント、流出は0.6%ポイントであり、純増は1.7%ポイントである。つまり、穏健党から社会民主党へ流れた票とほぼ同じ数の票が、社会民主党からスウェーデン民主党へ流れたということである。フェミニスト党へは0.5%ポイント失っている。

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【 支持が低迷した環境党 】

フェミニスト党への流出が一番多かったのは環境党だ。0.9%ポイントの支持者がこの党に支持を変えている。この中には、投票日当日の記事で私が書いたように、フェミニスト党に4%ハードルをクリアさせて議席を獲得させたい戦略的な投票行動も含まれているだろう。

非常に驚いたのは、環境党の得票率が選挙に先駆けて行われていた数多くの世論調査による予想を大きく下回ったことだ。世論調査では10~13%の得票率が予想されており、スウェーデン民主党との間で熾烈な第三党争い(銅メダル争い)を展開していると報じられていたから、いざ投票が行われ、わずか6.8%という得票率を目の当たりにすると呆然としてしまう。

おそらく、環境党の支持者は他の党、とくにスウェーデン民主党の支持者に比べると、電話による世論調査に応じる可能性が高く、その結果、世論調査の多くが環境党の得票率を過大評価していたと見られる。(逆にスウェーデン民主党の支持者は世論調査を断るケースが多く、過小評価されていたことが考えられる)

また今回の選挙では、環境問題・気候変動問題にはほとんど焦点が当てられなかった。今年の夏は記録的に暖かかったし、気候変動の結果とみられる極端な気象現象がスウェーデンでも確認されているのに、これらの問題が選挙を前にしたディベート番組などでも主要テーマとして取り上げられることが残念ながらなかった。環境党はガソリンに掛かる二酸化炭素税の引き上げ(リットルあたり0.70クローナ)を公約に盛り込んでいたが、それが多くの有権者(とくに農村部)にはネガティブに映ったようである。






【 躍進したスウェーデン民主党 】

スウェーデン民主党は既成政党に対する不満票を集めて、大きく票を伸ばした。不満票をうまく集めることができた理由は、よく言われるように移民・難民受け入れの大幅な抑制という公約のほか、今回の選挙戦では高齢者に特にターゲットを絞り高齢者福祉の充実や、中道保守政権の導入した勤労所得税額控除によって勤労所得よりも重く課税されている年金所得への所得税を軽減するという公約が、一部の高齢者に受け入れられたためだと思われる。



○ 難民の受け入れに対する不満

これについては、ラインフェルト首相の夏演説に触れておかねばならない。スウェーデン政治の恒例として、夏休みが終わった頃に各党の党首が自分たちの好みの場所を選んで、メディアや支持者を招き、演説をする。Sommartal(夏演説)と呼ばれるこの演説では、通常は秋から始まる国会での意気込みや政策方針を説明するのだけれど、今年は選挙が直後に控えており、選挙キャンペーンの一環としての位置づけがあった。穏健党の党首であるラインフェルト首相は、その演説の中で難民受け入れへの理解を国民に求めたのである。まず、イラクやシリア、ガザにおいて人道的な状況が深刻化していることに触れ、スウェーデンへ庇護を求める難民の数も大きく膨らむだろうと述べた。そして、「スウェーデンの人々にお願いしたい。心を開いて、危険に晒されたこれらの人々を迎え入れてほしい。戦乱から逃れようとする難民の数はユーゴスラビア紛争の時の数に匹敵している。ユーゴ紛争の時に私達が多くの難民を受け入れたことを思い出してほしい」と続けた。また「それには大きな費用が掛かる」とも触れ、しかし、スウェーデンにはそれだけの経済的余裕があることを説明したのであった。

私は彼のこの演説はとても良いものだと感じた。難民の受け入れには費用が掛かる。これは当然のことだ。住居を確保したり、生活保障をしたり、スウェーデン語の教育も提供しなければならないため、短期的には費用がかかる。しかし、スウェーデンの多くの政党はこれまでその費用について触れるのを避けてきたように思う。場合によっては、費用が掛かることすら認めようとしないケースもあった。そして、その点をスウェーデン民主党が突いて「こんなに費用が掛かっているんだぞ」と批判し、彼らの支持が伸びる一つの要因になってきたと思う。この点は私もヨーテボリ大学の同僚と何度か議論しかことがあるが、費用が掛かることは事実として認め、その上で、戦乱を逃れてきた人を人道的に受け入れるのは意義があることだし、長期的に見ればスウェーデン社会や経済にとってもプラスになることを国民に説明していくべきではないかと思っていた。

だから、ラインフェルト首相がそれを明確に発言したのはとても良かったと思うし、これで、「費用が掛かっている」「いや、掛かっていない」といった不毛なやりとりに終止符が打たれると期待した。

一方、ラインフェルト首相の意図はもう一つあった。穏健党のところで触れたように、穏健党は今回の選挙戦において新たな歳出を極力拒んできた。失業保険の給付額上限が据置きされてきたのに引き上げるつもりはないし、年金生活者の所得課税の引き下げもするつもりがなかった。そして、その理由として、穏健党は増税をほとんどしないから財政的な余裕が無いことをこれまでは説明していたのだが、この夏演説でさらに、難民の受け入れには費用がかかるからということを自らの消極的なマニフェストの言い訳に使ったのである。

そのため、彼の夏演説はむしろ彼の意図とは逆の効果を持ってしまった。特に失業者や疾病給付の受給者、それから、低所得者層で経済成長の恩恵をなかなか感じられない人たちが、「自分たちの状況を改善してくれないのに、難民の受け入れに予算を使うのはおかしい」と感じ、スウェーデン民主党の支持率を逆に増やしてしまった可能性がある。


○ 社会一般に対する不満票

では、難民や移民に対する反発が、スウェーデン社会で大きく増加しているかというと、これは判断が難しい。ヨーテボリ大学政治学部が毎年、スウェーデンの住民を対象に様々なテーマに関して世論調査を行っており、難民の受け入れに対する人々の考えについても質問している。「スウェーデンは難民の受け入れ数を減らすべきか?」という問いに対して、「非常に良い・まあまあ良い考えだ」と答えた人の割合を見てみると、長期的なトレンドとして減少傾向にある。



だから、難民の受け入れ、という具体的な政策に対する不満だけでなく、社会一般に対する不満スウェーデン民主党への支持を高めたと考えるべきだと思う。これまでの中道保守政権のもとで、社会保険の給付条件が厳格化され、給付水準も実質的に引き下げられたため、これまでせっかく社会保険料を払ってきたのにいざというときに十分な給付を受けられない人が増えている。それにともない、貧富の格差も拡大してきた。穏健党が支持を失った理由の一つはまさにこの点であるが、かと言って、社会民主党も社会給付の大きな引き上げを謳っているわけではないし、増税をするとも言っている。そもそも、右派ブロックも左派ブロックも掲げている政策主張にあまり違いがないと感じている有権者も多い。だから、社会に不満を感じている人の票が、第三極としてのスウェーデン民主党に流れたのであろう。

また、選挙戦において他の政党同士が繰り広げている、数字を使った雇用政策や税制に関するややこしい議論に比べて、「難民・移民の受け入れを90%減らせば☓☓億クローナの財政的余裕が生まれ、社会保障や福祉に充てることができる」という分かりやすい主張に惹かれた人も多かっただろう。(ただ、ヨーテボリ大学の同僚が詳しい試算をしてみたところ、彼らが言っている半分も財政的余裕は生まれないという結果になったw)

実際のところ、公共テレビSVTの出口調査によると、スウェーデン民主党の支持者に比較的多いのは失業者や社会給付受給者、ブルーカラーの人々、政治に対する信頼が低い人だという結果が出ている。また、男性が支持者の多くを占めているという。


○ ネオナチ性のトーンダウン

この政党のルーツは、80年代終わりか90年代頃のネオナチ運動に端を発しているが、現在の執行部は世論一般に支持を伸ばすためにその極端性をトーンダウンさせて、他の党と変わらない、普通の党であるというイメージを全面に打ち出してきた。党員が差別的な発言をすることを厳しく取り締まり、表向きだけは「差別をしない党」という体裁を取り繕ってきた。

その結果、この党に票を投じるのはモラル的なハードルが高いと感じていた人でも、以前よりは気軽に投票できるようになってきたと思われる。

ただ、党の執行部はそのつもりでも、草の根の党員には、非常に醜い差別的考えを持っている人たちもたくさんおり、今回の選挙戦でも差別的なコメントをフェイスブックや他のサイトで行っていることが発覚した候補者が次々と辞退する結果になった。


※ ※ ※ ※ ※


投票日の翌日、今回の国政選挙の結果を分析するセミナーが大学研究者やメディア、ジャーナリスト、利益団体などを対象に、ストックホルムで開かれた。事前申込者で満員の会場では、公共テレビの出口調査を総括しているヨーテボリ大学の教授や、大手新聞の論説委員が選挙結果をどう解釈するかについて熱く議論した。



社会民主党政権時代の財務大臣であったパー・ヌーデルも登場し、ラインフェルト首相の夏演説について触れたが、彼は「難民の受け入れは、長期的にはスウェーデン社会が抱える人口学的チャレンジ(つまり、少子高齢化)に対する一つの解決策として有効であるから、その側面からの意義をもっとしっかり説明すべきだった」と語っていた。

今日の総選挙の見どころ: 果たして左派陣営が過半数を取れるか!?

2014-09-13 23:18:22 | 2014年選挙
ついに総選挙の投票日がやって来た。私は早朝から投票立会人として働き、夜8時の閉場後は開票作業を行うが、国会・県議会・市議会の3つの選挙が同時に行われるため、開票作業はおそらく深夜までかかることになるだろう。終電を逃すことも十分考えられるので、研究室に泊まった時のために寝袋を持参するつもり。

開票番組は非常に白熱することになるだろう。注目は、左派陣営が勝つか、現在の連立政権である右派陣営が勝つか、ということではない。これまでの世論調査の結果からは左派陣営が勝ち、政権および首相が変わることはほぼ間違いないと見られている。選挙戦が終盤に近づくにつれて、両陣営の差が少しは縮まったものの、日刊紙 Dagens Nyheter(DN)の一番最近の世論調査でも左派(社会民主党+環境党+左党)が46.3%に対し、右派(穏健党+自由党+中央党+キリスト教民主党)が39.6%と、いまだに左派が優勢だ。



では、なぜ白熱するかというと、それは左派陣営が過半数を取れるかどうかでその後の政権運営が大きく変わるためだ。

スウェーデンの国政選挙では「4%のハードル」が存在する。つまり、得票率が4%を下回る政党には1議席も与えられない、という小党乱立を防ぐためのルールだ。スウェーデンの選挙制度は中選挙区比例代表制であり、しかも、全国で見た議席配分が全国の得票率になるべく近づくように調整するシステムが組み込まれている。しかし、この「4%のハードル」が存在するために、投票率がそのまま議席配分と一致するとは限らないのである。

上に示したDagens Nyheter(DN)の世論調査に基づけば、フェミニスト党の支持率が3.6%であるから、4%を下回っているため、議席数は0となる。そのため、フェミニスト党とその他を除いた得票率で349議席を配分すると、左派が170議席右派が145議席、極右のスウェーデン民主党が34議席となる。

総議席数は349であるため、過半数を取るためには少なくとも175議席が必要だ。だから、この計算では左派は過半数を取れない。もちろん、右派も過半数は取れない。その結果、極右のスウェーデン民主党がキャスティング・ボートを握ることになる。「それだけは避けたい」と多くの人が願っているところだ。このシナリオは【シナリオ1】として、下の表に示した。




【シナリオ2:フェミニスト党が4%に達して議席を獲得した場合】

もしフェミニスト党が支持率を伸ばしたらどうなるか? 欧州議会選挙では5.2%の得票率を記録したから、あり得ない話ではない。仮に左派3党の票がいくつかこの党に流れ、フェミニスト党が4.0%、つまり、ハードルぎりぎりの得票率を獲得したと想定してみよう。

すると、左派陣営(社会民主党+環境党+左党)の議席は162となる。しかし、これにフェミニスト党の14議席を加えると176となり、過半数に達することになる。

フェミニスト党は政策主張が右派陣営よりも左派陣営に遥かに近いので、このように左派陣営に含めることは何も問題ないと思われる。


【シナリオ3:キリスト教民主党が4%を下回って議席を喪失した場合】

右派陣営の中のキリスト教民主党は、支持率が長らく低迷しており、これまでの世論調査でも幾度となく4%を下回っている。そのため、選挙本番でも4%に達しない可能性もある。

仮にキリスト教民主党の票が他の右派政党に流れて、得票率が3.9%となった場合を想定してみよう。この場合、左派陣営が177議席を獲得するため、過半数になる。


【シナリオ4:フェミニスト党が4%を超え、キリスト教民主党が4%を下回った場合】

これはシナリオ2シナリオ3が同時に起きた場合の話だが、この場合は左派陣営(社会民主党+環境党+左党)の議席は169となる。ただ、フェミニスト党が15議席を得るので、合計184議席となり、過半数を余裕で達成する。


※ ※ ※ ※ ※


さて、どのシナリオが現実的か? 私が望んでいるのはシナリオ4だが、戦略的投票者がキリスト教民主党に票を投じ、生き残らせる可能性が無視できない。つまり、本当はキリスト教民主党を支持なんかしていないけれど、この党が4%を下回ってしまうと彼らの議席がすっぽりと抜け落ちてしまい、右派陣営がさらに不利になるために、敢えてキリスト教民主党に票を入れる右派陣営の他の党の支持者たちだ。私は、今回の選挙ではキリスト教民主党は見捨てられる可能性が高いと以前このブログに書いたが、現在の世論動向を見ていると、これまでの選挙と同様に戦略的投票者によって救われる可能性が高いように思われる。残念ながら。

以前の記事 2014-02-01:国政選挙に向けた世論動向と戦略的投票行動

ただ、戦略的投票者は左派陣営にも存在しうることを忘れてはならない。つまり、フェミニスト党に敢えて票を入れることで、この党に4%ハードルをクリアさせ、議席を獲得させようとする人たちの存在だ。実際のところ、左派陣営が過半数の議席をとれなければ、極右のスウェーデン民主党にキャスティング・ボートを握らせてしまうリスクは多くの有権者が認識している。それを防ぐための一つの方法は、フェミニスト党に議席を取らせることだ。この数日間、私のFacebookのタイムラインでも、本当は社会民主党や環境党、左党を支持している友人が「今回はフェミニスト党に投票することにした。みんなもそうしよう!」と呼びかけているのを何度か見かけた。

だから、シナリオ2が実現する可能性は十分にあると思う。果たしてそうなるか、全国に6,000近くある投票区のすべての開票作業が終わるまで目が離せない。私は開票作業をしているため、残念ながら開票特番をリアルタイムで見ることはできないけれど。

選挙ポスター(右派政党編)

2014-09-12 23:13:28 | 2014年選挙
【 穏健党(保守党) 】


25万の新たな雇用はほんの始まりに過ぎない。(これからもっと増えて行くよ、ということ)
みんなが必要とされるスウェーデンに票を投じよう。


豊かさとは補助金ではなく、働くことによって生み出されるもの。
25万の新しい雇用が生まれ、政府債務が減少を続けるスウェーデンは正しい方向に向かっている。私たちの目標は2020年前に就業者を500万人に増やすことだ。


学級のサイズを小さくして、もっと多くの知識を生徒に与えよう。
私たちが求めている学校は質が高く、腕の良い教員がいる学校、そして、すべての生徒の知識を高めてくれ、誰も置き去りにされることのない学校だ。子供が学校から帰宅するたびに、子供がなにか新しいことを毎日学び、教員にきちんと面倒を見てもらったことが親に分かるような学校であるべきだ。


以下はネガティブ・キャンペーン。社会民主党を始めとする左派ブロックが政権を取るとこんな恐ろしいことになるぞ、と脅す宣伝。私は好きではない。


RUT(家事サービス労働の税額50%控除制度)よ、安らかなれ。
もし、左派ブロック(赤緑政党)が政権を取ると、数多くの良い政策に別れを告げなければならない。RUT税額控除制度を維持したいならば新しい穏健党に投票しよう。


若者雇用の終わり。
もし、左派ブロック(赤緑政党)が政権を取ると、数多くの良い政策に別れを告げなければならない。若者向けの社会保険料減免措置を維持したいならば新しい穏健党に投票しよう。


学校選択制度よ、さらば。
もし、左派ブロック(赤緑政党)が政権を取ると、数多くの良い政策に別れを告げなければならない。子供の通う学校を選ぶ自由を維持したいならば新しい穏健党に投票しよう。


レストラン消費税減額措置もこれでオシマイ、
もし、左派ブロック(赤緑政党)が政権を取ると、数多くの良い政策に別れを告げなければならない。ストックホルムにおける雇用機会をふやしたければ新しい穏健党に投票しよう。(ストックホルムにおける、とあるのは、このポスターがストックホルム住民向けの広告であるため)


ドッカーン! 国防軍が煙となって消え去ってしまう。
もし、左派ブロック(赤緑政党)が政権を取ると、数多くの良い政策に別れを告げなければならない。近代的なスウェーデン国防軍を望むならば新しい穏健党に投票しよう。



【 自由党 】

社会主義に依らないフェミニズム。
(党首:ヤーン・ビョルクルンド)


学校教育に投票しよう。
(教育政策に力を入れている自分たちに票を投じよう、ということ)


学校教育を国の管轄に置こう。(現在は自治体の管轄)
すべての学童に同じチャンスが与えられるべき。


教師が決定権を持つべき。(教師の権威を高めようということ)


成績評価は(学力向上の)役に立つ。
(学校教育のより早い段階で学童の成績評価を導入しようということ)


話ばかりしていないで、もっと手を動かそう。徒弟制度(見習い制度)を拡充していこう。
(高校において実務的な職業教育をもっと増やそう、ということ)


左派が福祉に口出すことにNo。選択の自由にYesと言おう。
(左党が掲げる "Nej till vinster i välfärden"(福祉部門における利潤追求にNo)というスローガンをパロディー化して "Nej till vänster i välfärden" に変えている)



【 中央党 】

地産(地消)の政治


中小企業を成長させよう。そうすれば国全体が成長する。


再生可能エネルギーを増やして、環境を良くしよう。


車をストップさせるのではなく、二酸化炭素の排出をストップさせよう。
(環境党の政策では二酸化炭素排出だけでなく自動車社会そのものが止まってしまう。それに対し、自分たちの政策は自動車社会を維持したままで二酸化炭素排出を抑えるものだと主張している。)


より多くの中小企業 = より多くの雇用


すべての食物から抗生物質を排除して、味わおう。



【 キリスト教民主党 】

雇用が増えれば福祉も増える。


小さな子供はサイズの小さなクラスが必要だ。


尊厳に年齢制限はない。高齢になった時の介護を自分で決められるようにしよう。


いたわるべきは患者であって、県(の財政)ではない。


数学の知識を向上させよう。学校教育に体育を毎日取り入れよう。
(この党は教育政策に対する影響力はほとんどないくせに・・・笑)



【 スウェーデン民主党 】
「イスラム教は社会の ###」、「ユダヤ人は ###」などと人種・宗教差別的なことを言っている党のプロパガンダを私のブログで流すのは非常に不本意です(### には差別的な表現が入る)が、国政政党でもあるので私のコメント付きで紹介します。


スウェーデン、頑張れ!
(党首:ジンミ・オーケソン)


本当の意味での変革!


年金生活者に掛けられている懲罰的課税を撤廃しよう。今、マジで。
(勤労所得税額控除のおかげで年金所得に対する所得税課税が勤労所得よりも重くなっているため、その差をなくそうということ)


ここにやって来る移民(難民)を減らして、紛争地での支援を増やそう。
(この党のお決まりのフレーズ。途上国への開発援助にすら本音では消極的なくせに何を言うか・・・)


犯罪者に対する刑罰を厳しくしよう。被害者に対する支援を増やそう。
(スウェーデン民主党の党員や候補者には、犯罪歴のある者が多いことは良く知られた事実。だから、刑罰が厳しくなれば自分たちに降り掛かってくるんだけど、分かっているのかしら・・・?)

選挙ポスター(左派政党編)

2014-09-11 21:01:38 | 2014年選挙
【 社会民主党 】

すべての人にとってのより良いスウェーデン。(党首:ステファン・ロヴェーン)


すべての人にとってのより良いスウェーデン。(財務大臣候補:マグダレーナ・アンデショーン)


今こそ雇用が増えるようにすべき時。


今こそ知識(教育)に力を注ぐ時。


今こそ思いやりを重視すべき時。


学校(教育)の危機をさらに4年続ける気?
すべての人にとってのより良いスウェーデン。
9月14日には政権を変えよう。


今こそ学級のサイズを小さくし、腕の良い教員を増やす時。


今こそ雇用、インターンシップ、教育をすべての若者に90日以内に提供する時


今こそ福祉サービス部門の人員を増やし、福祉サービス企業の利潤追求に歯止めをかける時



【 環境党 】

スウェーデンは冷たい社会になってしまった。今こそ温かい政治の時。
(党首:グスタフ・フリドリーンとオーサ・ロムソン)


温かくなるべきは政治のほう。気候ではなくて。


温かくなるべきは政治のほう。気候ではなくて。


スウェーデンには為されるべき仕事がある。今こそ新しい政治の時。
(具体的には鉄道インフラのメンテナンス向上を写真によって示唆している。)


生徒たちに教師を取り戻そう。今こそ温かい学校政策の時。



【 左党 】

党首:ヨーナス・ショーステット。福祉は売り物ではない。


学校教育は売り物ではない。


福祉は売り物ではない。



【 フェミニスト党 】

フェミニストを国会へ送り込もう。


フェミニストに議席を与えよう。


レイシストを国会から追い出して、フェミニストを入れよう。

若者の雇用をどう増やすか?

2014-09-08 00:39:27 | 2014年選挙
9月14日の投票日に向けた選挙戦は、今年の本予算が議論された昨年秋から既に始まっていた。これまでを振り返ってみると雇用・労働市場問題が主要テーマとして議論が続いてきたように思う。先日もある日刊紙が、今回の選挙戦は「jobbval(雇用をめぐる選挙)」と呼べる、と評していた。

スウェーデンの失業率はここ4年ほどは8%前後を推移しており、EUの中でもそれほど低いとは言えないが、専業主夫・主夫などが少なく、男女ともに労働力率が高いため、就業率を見てみるとEUの中でも高い部類に属す。下のグラフを見ると分かるように、就業率はリーマン・ショック(2008年)やITバブル崩壊(2001年)以前の水準に戻っている。また、非労働力の割合が現政権下で減少傾向にあることが分かる。90年代なかばからしばらく20%前後を推移してきたことを考えれば、その内実を議論する余地はあるとはいえ、凄いことである。つまり、現在は労働力率が100-17.5=82.5%なのである。(以上の数字はすべて16-64歳のもの)


就業率


非労働力率

とは言っても、現状に安泰しては選挙に勝てない。若年者の失業問題については、このブログでも以前触れたように「失業率」という指標が示すほどは深刻ではないにしても、仕事に就けず苦労する若者がいることは事実なので、彼らの雇用状況を改善してやらなければならない。


【 社会保険料減免措置の継続およびその拡張について 】

2006年秋に政権に就いた中道保守連立政権は、若年者を雇った場合の社会保険料の減免を公約に謳っていたが、早くも2007年からそれを実行した。18-25歳の被雇用者に対して雇い主が払う社会保険料のうち、年金保険料を除く部分を半分に減額したのである。その後、2009年からはその部分が4分の1に減額され、また26歳の被雇用者にも適用されることとなった。

現在の社会保険料の料率は31.42%であり、このうち10.21%が社会保険料であるから、それを除く部分とは21.21%であり、これが4分の1に減額されると5.30%となる。だから、若年者を雇った場合の社会保険料は15.49%となる(計算通りに行くと15.51%となるが、この僅かな差0.02%が何なのか分からない)。そのため、社会保険料の料率はほぼ半分になったといえる。減額した分は、国庫によって補填されるため、若年者でも社会保険の恩恵はそれまでと同じように受けられる。

労働コスト全体で見ると、若年者を雇った場合はそれ以外の人を雇った場合に比べて、コストが87.9%になったということである。(←115.49/131.42)

スウェーデンは最低賃金がないが、それに相当する初任給が世界的に見ても比較的高く設定されている上、年齢上昇に伴う賃金の上昇が緩やかであるため、若年者と中高年の従業員の労働コストがそれほど変わらないという傾向が、特に低技能の職で強い。社会保険料の減額は、賃金そのものを変化させることなく労働コストを下げ、若年者に対する労働需要を高める狙いがあった。

さて、この制度の是非を巡って、激しい議論がこれまで続いてきた。社会民主党をはじめ左派政党はこの制度を廃止したい。というのも、国庫の負担が大きいのに対し、メリットが小さいからである。これは、経済学による分析でも明らかである。実証研究によると、年間の国庫負担額が170億クローナに達するのに対し、この減免制度によって直接的に生まれる雇用は6000~10000に過ぎず、さらに、この制度の適用年齢のすぐ上の年齢層(27歳とか28歳とか)の若者の雇用は不利となり、逆に減ることになるので、雇用の純変化はこれよりも小さくなる。ある試算によると、この制度によって生まれる雇用一人分のコストは100~160万クローナになるという。つまり、コスト・パフォーマンスが非常に悪いということなのだ。

一般に、特定の年齢層全体に適用される補助金制度では、制度がなくても雇われていたであろう人にも補助金が支払われるため、無駄が多い。それに対し、同じ若者でも職に就くのが難しい人だけに絞った補助金制度はコストがずっと低いし、ピンポイントで効果を発揮しやすい。この社会保険料の減免制度についても、大手の労働組合であるLOは「この制度で雇われている若年者の75%は制度がなくても雇われていた人たちだ」という推計をしている。

しかし、現在の連立政権の第一党である穏健党と中央党は、この減免制度のさらなる拡充を公約に掲げているのである。すなわち、23歳以下の若者については社会保険料を15.49%からさらに下げて10.21%にする、というのである。非効率な政策をさらに拡大したいのだ。

現在の労働市場大臣であるElisabeth Svantesson(エリザベート・スヴァンテソン)はかつて経済学の博士課程に在籍し、博士号の一つ手前のLicentiatという学位を保持している。2003年にヴェクショー大学で開講されていた「労働経済学」という研究生向けの講義を私と同じ時に受けていた。彼女も「一般的な補助制度」の非効率性は知っているはずだ。しかし、選挙戦におけるテレビ討論などでは現在の減免制度とその拡張を全面的に擁護している。この制度は、彼女の前々任者の時に導入されたものであり、彼女自身が直接関わったないので、党の方針として単に擁護しているだけなのか・・・?(とはいえ、彼女は大臣就任以前からスウェーデン議会の労働市場委員会の主要メンバーだったはず) とにかく、彼女の本音を聞いてみたいところだ。

既に触れたように、社会民主党などの左派政党はこの制度には無駄が多いとして、その撤廃を公約に掲げている。そして、仕事に就くのが難しい若者に焦点を絞った以下のような政策を提案している。


【 高齢者福祉施設での研修プログラム 】

若い失業者が多くいる一方で、人手不足の職場もいくつか存在する。例えば、高齢者介護の現場だ。人手不足のためにストレスを抱えた職員がたくさんいるし、世代交代で退職していく現在の職員を若い労働力で補っていかなければならない。しかし、そのためにはある程度の技能と教育が必要になる。

そこで、野党である社会民主党は失業期間が90日を超えた若者に対して、高齢者福祉施設でフルタイムの75%の時間を実際の仕事をする研修にあて、残りの25%の時間を准看護師になるための勉強をするという研修&教育プログラムへ参加を勧める、という案を提示している。このプログラムの定員は2万人で期間は12ヶ月。研修に対する給与と教育の費用は国が全面的に負担する。総費用は28億クローナだから、現政権の社会保険料減免措置に比べると遥かに少ない費用で、失業中の若者を吸収できるし、うまく行けば、人手不足の介護職に定着してくれるだろう。


【 高校職業科の強化と現場研修 】

現政権のもう一つの若年者失業対策は、高校教育から勤労生活への移行を円滑にすること。具体的には、高校の職業科を充実させ、労働需要にマッチしたものにし、さらに高校の教育課程の中に実際の職場での現場研修を織り込んで、生徒に実務を学ばせることだ(徒弟制・見習い制度)。ただ、これらの改革は既に実行されている。

現政権からの新たな提案は職業科や見習い制度を選ぶ生徒に対する経済的保障を増額し、より多くの生徒を惹きつけようとすることである。通常、高校生に支払われる勉学手当は毎月1050クローナ(16000円)であるが、職業科と見習い制度を履修する高校生にはさらに月1000クローナが増額されている。それをさらに増額して、月3050クローナ(46000円)にしようという提案である。


【 レストラン消費税減免の是非 】

これも若年者や低能の労働力の雇用を増やすための施策であるが、2年ほど前からレストランで食事した時の消費税が通常の25%から12%へと引き下げられることになった(アルコールは25%)。飲食の値段が下がれば、需要が増え、飲食業における雇用が増えることを狙ったものである。

もちろん、その分だけ税収は減る。では、それに見合うだけの雇用増が見られるのか・・・? これが大きな問題である。需要の価格弾力性に大きく依存するだろう。私も詳しく追えていないが、実証研究ではあまり効果が無い、という結果が出ていたような気がする。

そういうこともあり、社会民主党などの左派政党は、2年ほど前から始まったこの制度を撤廃し、元の税率に戻すことを公約に掲げている。これに対し、現政権側は「そんなことをしたら、若者の職が奪われる!」と反論している。

※ ※ ※ ※ ※


このようにスウェーデンの選挙戦では、日本とは比べ物にならないほど政策の具体的な選択肢について政治家が議論を繰り広げている。しかも、こういった議論を夜のゴールデンタイムに公共テレビや民放が放送し、また公共ラジオも多くの人が聞いている朝夕の通勤ラッシュ時に放送している。