スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

欧州議会選挙における有権者の関心No1は?

2009-05-29 07:24:22 | スウェーデン・その他の政治
欧州議会選挙のキャンペーンが続いているが、スウェーデンの有権者の関心事は何だろうか? 先日も伝えたように、欧州議会の選挙に対する関心はかなり低い。だから、各政党とも自分たちの党に票を入れてもらうために、有権者の関心を引く政策分野で、的を射たPR活動を行おうと必死だ。

経済危機だから、雇用や経済、産業振興に対する関心が高いことは確かだ。しかし、4月末に行われたスウェーデン有権者に対する世論調査によると、有権者の関心事のトップに輝いたのは、何と「環境問題・温暖化問題・エネルギー問題」だった。


有権者の関心事項の上位に入ったのは、
(1) 環境問題・温暖化問題・エネルギー問題
(2) 経済・金融危機
(3) 失業・雇用問題
(4) 医療・介護
(5) 民主主義・国の主権問題

イタリアや旧東欧諸国などでは、環境対策・温暖化対策などに力を入れるよりも、経済政策を優先させるべき、という論調が強まっていることを以前伝えた。

しかし、スウェーデンでは雇用や経済も大事だか、それと同じくらいかそれ以上に、環境対策・温暖化対策が重要だと認識されていることを裏付けている。同時に、スウェーデンの有権者が環境対策・温暖化対策こそ、EUレベルで解決を図っていくべき問題と認識していることを物語っているようだ。(一方で、分からない・関心がない、という回答が多いのは、やはり今回の選挙そのものに対する関心の低さを表している)

世論の関心とともに、各種メディアも盛んに環境問題や環境政策を取り上げているおかげで、欧州議会選挙に名乗りをあげている主要政党はどこも、環境政策・温暖化対策を政党マニフェストの上位に掲げ「自分たちこそ長期的視野に立った、信憑性の高い環境政策を掲げている!」、「スウェーデンがEUの議長国となる2009年後半は、スウェーデン議会と欧州議会の両面からEU全体の温暖化対策をまとめ上げて行きたい」、「スウェーデンが世界的にも早い段階で導入した二酸化炭素税や環境税をEU全体に普及させていきたい」などと、選挙キャンペーンの一環である様々な討論会で口にしている。

実際のところ、環境政策については各党の議論を詳しく聞いていない限り、違いが分からないくらい、どの党の主張にも熱意がこもっている。

他方で、スウェーデンの現政権を構成する保守党「スウェーデン政府は世界でおそらく最も野心的な温暖化対策を実行してきた!」と自画自賛したりすると、野党である環境党からすかさず「まだまだ不十分だ」と横槍が入ったり、同じく野党で、2006年秋まで政権を担当していた社会民主党からは「現在の環境政策のほとんどの基盤は、社会民主党政権の時に形作られたものだ」と反論している。(自画自賛は、スウェーデンの政治風土やスウェーデン人のメンタリティーにはあまりなじまないかも)

そういえば、つい3、4年ほど前まで、保守党やキリスト教民主党などは環境政策や温暖化対策にはあまり関心を示さず、環境税の一つである二酸化炭素税の増税によるガソリン価格の引き上げには激しく反対していた。消費者のことを考えて、ガソリン価格は引き下げるべき、と日本でも聞き覚えのある主張をしていたこともあった。

しかし、それでは支持率が伸びないことに気づいたこれらの党が、今や積極的に環境政策を訴えているのを見ると、世論やメディア報道、そして論説委員や学術界の専門家などをはじめとするオピニオン・リーダーの力がいかに重要な役割を果たしているかが、よく分かる。

スウェーデンでも温暖化問題に対する関心は90年代末からかなり高まってきたが、決定的な役割を果たしたのは、Sternレポートやアル・ゴア、IPCC報告書などだった。


各主要政党の支持者が挙げる関心事項。
赤く示された「環境問題・温暖化問題・エネルギー問題」がどの党の支持者にとっても、優先順位の高い問題であることが分かる


これから、時間の許す限りで、環境政策だけに限らず様々な分野における各党の主張などについても触れていきたいと思う。でも、選挙日が6月7日と間近なので、どこまでできるだろうか。

前回は、社会民主党の選挙ポスターを紹介したので、今回は環境党のポスターを紹介します。次回は、保守党と中央党を紹介します。

欧州議会の熱意を高めよう! でも、世界の熱意(地球の気温)を高めちゃダメよ!


EUの政治家たちよ! 風力発電に賛意を示し、火力発電への補助金を拒否しよう!


EUレベル(ブリュッセル)におけるCO2削減要求を高めよう! 世界の海の水位を低めよう!

献血マラソン

2009-05-28 07:06:03 | Yoshiの生活 (mitt liv)
毎年思うのだけれど、5月と6月が一番忙しいように思う。この頃はスウェーデンでは既に初夏といった感じで、いろんなスポーツ・イベントが目白押し。(夏至の後から7月いっぱいは多くの人々が夏休みを取るため、イベントは夏至前か、8月に入って人々が休暇から戻ってきてから行われることが多い)

私も、週末や平日の夕方はトレーニングやイベントで忙しくて、このブログの更新も遅れがち。日が非常に長いので、日が暮れてから自宅で何かをしようと思ってもすぐに0時を回ってしまう。(しかも、今は別の原稿の締め切りが近い・・・)

今晩は献血マラソンに大学の同僚と参加。5kmと10kmの部があり、5kmの部は7000人が参加(うちは3000人くらいは歩きの参加)。10kmの部は2000人。しかも、それぞれ一斉スタート。私は10kmで参加したのでまだ良かったけれど、5kmの部はあまりの人込みで前にほとんど進めない様子だった。この大会は毎年、規模が拡大しており、以前は一斉スタートで問題はなかったのだろうけど、数千人の一斉スタートともなると、もう分けなければダメでしょう。


私の記録は39:09だったけれど、どうも今年はコースの設定に誤りがあり10kmよりも若干短かったようなので、10kmならば40-41分くらいだろうか。




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さて、この献血マラソン。献血した後にみんなでマラソンをするとか、マラソンした後にみんなで献血するとか、いろんな説が以前もこのブログ上で飛び交ったが、本当は献血してくれるドナーを一人でも増やすための、キャンペーンのためのマラソン大会だ。

毎年、夏の時期に手術用の血液が大幅に大量に不足するという。そのため、今の時期にしっかり在庫を確保しておく必要がある。

私もたまに血液を提供している。まず、血液検査をして血液ドナーとして登録する必要があるので、スウェーデンの正式なパーソナル・ナンバー(住民背番号)を持っている必要があるかもしれないが、もし関心があるなら、献血に協力してあげるのもいいかもしれない。

http://www.geblod.nu/

ちなみに、献血マラソンのスウェーデン語の名前はBlodomloppet。Blodとは血液であり、omloppは周回・循環を意味している。公園内を周回することと、血液循環とをかけた、これまた天才的なネーミングだ。

ボルボのハイブリッド・バス

2009-05-25 07:18:03 | スウェーデン・その他の経済
先日、ボルボのハイブリッドバスの試作車が実際の市バス路線に投入され、様々な試験が行われていることを紹介しました。

実際に使われているところの写真が手に入ったので、今回はそれを紹介します。

写真の出典:Allt om Motor

<以前の記事>
2009-05-10: ついに来た。ボルボのハイブリッド・バス!

「スウェーデンが原発新設」報道の真相

2009-05-23 02:40:54 | スウェーデン・その他の環境政策
私は、原発問題を自分にとっての大きな政治的課題として掲げて、触れ回って歩くつもりはありません。原発に既に大きく依存している場合、既存の原子炉を直ちに閉鎖することは不可能です。唯一可能であるとすれば、エネルギー供給と利用のあり方を社会全体で考え、目標を定め、その実現に向けた行動計画を策定して、時間をかけて取り組んでいくことです。

しかし、今年2月の日本の新聞報道があまりにお粗末であり、「スウェーデンでも原発回帰」「温暖化問題の解決のために原発の利用を拡大する方針に転換」との趣旨の事実に即さない報道が、日本で一人歩きしている現状には首を傾げます。

今回、知人の市議会議員の方のつてで、たまたま寄稿の依頼を受けましたので、スウェーデンの連立与党が今年の2月に合意に至った実際の内容について、スウェーデンでの報道と政府の発表した合意文書に基づきながら、客観的にまとめてみました。


「はんげんぱつ新聞」2009年04月号より


<以前の書き込み>
2009-02-05: 原発論議の再燃(1) ― 老朽化した原発を更新すべきか?
2009-02-06: 原発論議の再燃(2) ― 中央党の妥協
2009-02-09: 原発論議の再燃(3) ― 誇張されすぎ

欧州議会選挙 迫る

2009-05-22 03:52:28 | スウェーデン・その他の政治
EUの立法機関の一つである欧州議会の選挙が間近に迫ってきた。スウェーデンでも各党や各候補者が様々なキャンペーンを展開している。不在者投票は既に昨日から始まっている。

欧米では、ネット上のネットワーク・コミュニティーとしてFacebookが盛んに利用されているが、ここでも各政党や候補者のキャンペーン・サイトや支援者グループがたくさん形成されている。(私の友人には左派や右派を問わず、政治に関わっている/関心を持っている人が結構いるおかげで、いろんなキャンペーンリンクが送られてくる。)

スウェーデン人は、国政選挙や地方選挙では世界的に見ても高い投票率を誇っているが、残念ながら欧州議会の選挙となると熱はずいぶん冷めてしまうようだ。前回、2004年の欧州議会選挙では投票率は40%に満たなかった。EUという巨大な機構がスウェーデン人にとってはそれだけ遠い存在であり、EUで何が議論されているのか、そして、EUが自分たちの日常生活にどのような影響を与えているのか、関心が持てないという人も多いし、自分が投じる一票が持つ影響力もあまりない、という無力感を感じている人も多いようだ。

投票率を具体的に挙げるならば、スウェーデンがEUに加盟した1995年の選挙では41.6%1999年の選挙では38.8%2004年の選挙では37.9%だった。次第に低下していることが分かる。

しかし、現実にはEUが持つ政治的権力はますます大きくなっている。農業政策・漁業政策・犯罪の取り締まり、経済・ビジネスの分野、環境政策、などEUレベルでの決定が、スウェーデンの国内法よりも優位に立つ政策領域は数え上げたらきりがない。だから、欧州議会・閣僚理事会(ともに立法)での決定や欧州委員会(行政)の発するEU指令、さらには欧州裁判所(司法)のくだす司法判断のために、スウェーデンが国内法を改正しなければならないケースが毎年増えている。だから、EUは加盟国市民にとって遠い存在などでは全くない。したがって、EUに対して影響力を行使する一つのチャンネルとして、立法府である欧州議会選挙で一票を投じることは、実はとても重要なことなのだ。

スウェーデンの選挙管理委員会各種メディアは、市民の関心を少しでも高めようと、欧州選挙のキャンペーンを盛り上げようと躍起になっているし、いくつかの市(コミューン)では、市の職員が人の集まりそうなところに移動式投票所を設けるなど、積極的な活動を展開しているところもあるようだ。

国政・地方選挙と同様、欧州議会選挙でも18歳以上の市民に参政権があるものの、若い世代は比較的低い関心しか示していない。そのため、高校3年生のクラスを訪ねて、キャンペーンや質疑応答を行っている党や候補者もいる。

6月7日の投票まで、あと2週間あまり。世論調査によると現時点で、実際に投票しようと考えているスウェーデンの有権者は半分に満たないというし、選挙があることすら知らない人もいるようだ。さて、残りの期間のキャンペーンでどこまで投票率を伸ばすことができるのか。注目したい。


例えば、これは社会民主党の新聞広告。

Agera för förändring.
(変革のために行動しよう)
Tillsammans kan vi vända jobbkris till framtidstro.
(私たちと共に、雇用危機を将来への希望に変えていこう)


ヨーテボリ・ハーフマラソン 2009 (2)

2009-05-20 08:03:53 | Yoshiの生活 (mitt liv)
ヨーテボリ・ハーフマラソン(Göteborgsvarvet)は今年の申込み数が53700人。実際に参加した人は45000~48000人くらいだろうか? 世界で最大のハーフマラソン大会らしい。

私の今年の記録は、1時間33分24秒1時間半を切ることができなかった上、去年よりも24秒も遅くなってしまった。今年はVasagatan(ヴァーサ通り)でコース変更が一ヶ所あり、アップダウンが増えていたのでそれがなければ去年とほぼ同じだろう。

大会のHP上では5kmごとの通過時間が見られるが、やはり5km、10km、15kmと距離を経るにしたがって経過時間が長くなっている。1時間半を切るためには、平均時速14kmが必要。最初の10km区間の平均時速が14.08kmだったが、後半区間でスピードが落ちてしまった。今振り返ってみると、後半区間はあれが精一杯で、あれ以上の速さで走るのは無理だった。

来年は是非とも1時間半を切りたいが、そのためには持久力だけでなく、筋力もつけないといけないのだろう。持久力は十分にあるようで25kmでも30kmでも走れると思うが、これからはスピードのほうに力を入れなければならない、というのが今年の大会からの教訓。

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会場の近くで面白いバスを見かけた。遠方からの参加者がチャーターしたバスのようだ。

Buss och Kram (← 天才的!)


Let's go (← ナンバープレートも!)


ヨーテボリ・ハーフマラソン 2009 (1)

2009-05-19 08:55:02 | Yoshiの生活 (mitt liv)
今年で3度目の出場になるヨーテボリ・ハーフマラソン (Göteborgsvarvet)。大会そのものは今年で30周年を迎える。

初出場だった2年前は、一番最後のグループで出発。ペースがまちまちの周りの人々に揉みくちゃにされながら、何とか前に出ようとかなり苦労した。コースが狭くなっているところで、横一列になって歩いている3人の中年連中には閉口したものだった。この年の記録は1時間47分03秒

その次の年は、前年の記録の順にスタートグループが決まるシード制になっているので「グループ3」という比較的前のほうのスタートグループでスタートできた。ペースの似た人たちが集まっていたおかげでずいぶん走りやすく、5kmほど過ぎた頃にはグループの前方に抜け出て、一つ前のグループ(5分ほど前にスタート)、そして10kmを過ぎた頃にはさらに前のグループへと果敢に食い込んでいったものだった。おかげでこの年は、1時間33分00秒と大幅に記録を縮めることができた。

そして、今年はこの記録のおかげで「グループ1B」という速いグループでスタートすることになった。


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今年は去年よりもトレーニングは積んだつもりだ。コンディションは良いはずだったが、不安要因は当日朝からの腹痛。しかも、スタート前にすこしバタバタする羽目になったので、息を切らしながらスタート地点に着く。精神的な準備がいまいちだ。

スタートしてから2kmほどはSlottskogenという公園の中を走る。昨年はこの段階から、既に前のほうへ出ようと努力したけれど、今年は流れに身を任せながらウォーミングアップをしていく。「アシカの池」横の坂を乗り越えてから、さあ本番だ、と思ったものの、去年とは全く様子が違うことに気づく。同じグループでスタートした周りの人たちが速いこと、速いこと。油断していると、抜かれてしまいかねない。

でも、それは当然のこと。昨年の記録が1時間半台の人たちの中にまぎれているのだから。4km地点で、経済学部の助教授が声援を送ってくれた。彼は私より1時間後にスタートだ。

最初の大橋を越えて、Hisingen側に入る頃にはもう息切れをし始めていた。お腹の調子もおかしい。とにかく周りの人たちに付いて行こうと必死にがんばる。予想よりも今回はきつい。沿道では至るところで、音楽を演奏している人たちがいる(前回の地図に書かれた音符マークを参照)。あの演奏のおかげで、エネルギーを少しもらった気がした。

それでも7kmを過ぎた頃から「巡航速度」に達したようで、足がどんどん先に進んでいく。いい感じだ。今年は警察官や消防士はあまり見かけない。彼らのグループは私のあとにスタートだった。

10km地点で、前を走っていた中年男性のほうから「ブリッ」と音がした。なるほど、ロケットと同じ原理で、おならによって推進力を得たつもりなのだろうか? 目障りなので、彼を追い越して先を急ぐことにする。

2つ目の橋で、同じ自転車クラブで昨年の300kmの大会を一緒に走ったMagnusが声援を送ってくれた。

市内のAveny(アヴェニュー)通りに入る。ここでは普段は路面電車が走っている道の真ん中を走ることができるから気分が良い。水をもらい、頭にかけたら、水ではなくスポーツドリンクだった。ベタベタする。

ポセイドン像の横では、水を含ませたスポンジを配っている。そのおかげで顔や首筋を拭くことができた。冷たくて気持ちがいい。口に入る水が塩辛い。塩水をスポンジにふくませているのか?と一瞬思ったが、よく考えたら自分の汗が乾いて塩になっていたのだった。

Vasa(ヴァーサ)通りに入る。今年はコースに一ヶ所変更点があり、アップダウンが一つ増えている。

ヨーテボリ大学の経済・経営・法学部郡(ハンデルス)の辺りでは、たくさんの友人が応援してくれた。顔をあわせるのが5年ぶりのスウェーデン人の友人もいた。レストランのテラスでビールを飲みながら手を振っている同僚がいた。冷たいあれを飲むためには、とにかくゴールまでたどり着かなければならない。

この時点で既に18kmあと残り3km余り。しかし、ここからゴールまではなだらかな上り坂なのだ。いつもながら、この辺りから果敢にスパートをかける人たちがいる。去年は私もその一人だったが、今年は難しい。

興味深いことに、脱落者や転倒者が増えるのも、この残りわずか3kmの区間なのだ。おそらく、あまりに早くからスパートをかけすぎるためだろう。力尽きて、足を止めているランナーもいるし、意識を失い、観客やレスキュー隊の助けを借りている人を何人か見かけた。けたたましい音を立てて、レスキュー隊の黄色いバイクが横を駆け抜けていく。

そして、ゴール。
さて、今年の記録はどうなのか? 私は腕時計を持っていないので、走っている間、時間が全く分からなかった。目標であった1時間30分を切ることができたのか??? (続く)


<大会のニュース映像> 下の画像をクリック



最初のほうの「エリートグループ」の選手には、ケニアなどからの招待選手もいる。

ヨーテボリ・ハーフマラソン

2009-05-15 06:31:15 | Yoshiの生活 (mitt liv)
今週末の土曜日はヨーテボリ・ハーフマラソン(Göteborgsvarvet)。このネーミングを考えた人は天才じゃないかと、私はいつも感心する。Varvとは(1) 周回、と(2) 造船所、という2つの意味がある。

このハーフマラソンのコースは、ヨーテボリ市の中心部から西部にかけて、ヨータ川をまたぐ形で一周するように設定されている。そして、造船業は1960年代末から70年代初め頃まで、ヨーテボリの産業の大部分を占めていたことがあり、まさに町のシンボルとでもいえる産業だった。だから、この両方の意味をうまくかけているのだ。そして、この大会は今年で30周年を迎える。

今年の大会は、早くも昨年秋ごろに応募が締め切られたものの(いつも3月くらいが締め切りだったはず)、5万5000人近くがエントリーしているようだ。だいたい3000人ずつのグループに分けられ、3-5分間隔でスタートしていく。最初のエリートグループが14時にスタートし、最後のグループは16時にスタート。


どのスタート・グループに分類されるかは、去年(もしくは一昨年前)の記録だ。私は昨年の記録が1時間33分00秒だったので、今年はグループ1Bでスタート。最初から3つ目のグループだ。私のゼッケン番号は2500番台。


(初参加の人たちはグループ11、12以降に分類されているのかと思う)

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今年のコンディションはまずまず好調。3月くらいから少しずつトレーニングをしてきた。

ところが先週、地元のサイクリングクラブの人たちと長距離のサイクリングをしたところ、その翌日から首から肩にかけての筋肉がパンパンに張ってしまい、数日間、首が動かせないくらいの痛みが襲ってきた。教授の研究室からソファーを借りて、自分の研究室に持ち込んで一日中、横になりながら作業したり、早退したこともあった。原因は、サイクリングとパソコンと寝違えたことが重なったためだろう。

今週に入ってからは少し痛みが和らいだので、毎晩19時くらいから、研究室から自宅までランニング。トレーニングウェアとシューズを用意しておいて、普段着や財布・携帯をリュックサックに詰めて出発。リュックサックは体にピッタリひっついて揺れない、ランニング専用のもの。そうそう、重量をワザと重くするために水も入れている。

研究室から自宅までは最短距離で4kmくらいだけれど、大回りして15-20kmを走ってから帰宅。今日は25km。今週の合計は少なくとも60kmにはなると思う。

今の時期は21時頃に日が沈むので、「晩」とはいってもまだまだ明るい。

明日は5kmくらいのトレーニングにしておいて、本番では1時間30分を切ること、いやできれば1時間28分を切ることが目標。幸い天気は良さそうだ。


ランニングの途中、ヨータ川北側の小高い丘から新興住宅地を望む。かつてはこの辺りに造船業が栄えていた。赤いクレーンもその当時の名残。現在は産学連携サイエンスパークや「臨海」住宅団地、ホテルなどに生まれ変わっている。遠くに見えるのはヨータ川の河口。ここにVolvoの工場が立ち並ぶ。そして、その向こうは大西洋へと続いていく。


<以前の書き込み>
2008-05-19: 昨年の結果


中国資本がベストな選択肢か?

2009-05-14 08:11:31 | スウェーデン・その他の経済
SAABの新しい所有者となる資本グループが2つか3つほどに絞られたことを前回伝えた。しかし、その正体についてSAABは全く発表していないため、様々な憶測が飛び交っている。中でも有力視されているのが、中国の自動車メーカー3社、Geely、Changan、Dongfengだ。

実は、SAABが新しい所有者探しを続けているのと平行して、これまでFordの傘下にあったVolvo Cars(ボルボ乗用車部門)も新しい買い手を見つけようと努力しているところなのだが、これらの中国メーカーはVolvo Carsの有力な買い手候補としても噂されている。

その主たる理由は、世界的な自動車不況のなかで資金を比較的潤沢に持っていることが挙げられる。その上、自動車メーカーであるため、それ以外の業種の資本グループの手に渡るよりはよい、という声もある。また、中国人が所有者となれば、現地の官僚機構や市場構造を熟知した現地人の手によって、中国市場での展開が容易になる、との期待もある。Changanに関して言えば、既にVolvo Carsの下請けを行ってきた経験があるため、買収後の経営もスムーズに行くだろう、との憶測もある。

では、中国メーカーにとってのメリットは何かというと、Volvo Cars(以下Volvoと書く)やSAABの高い技術欧米での流通網が手に入ること。それから、Volvoのように既に中国市場で高い評価を受けている「ブランド」を自らのものにできること。

なるほど、両者が得をするWin-win situationというわけか・・・。


Volvo S60(上・下)



SAAB 9-3X


いや、そうではないようだ。中国企業という、世界市場の中でもまだ新参の勢力がスウェーデンの自動車会社を買収することについて、既にスウェーデン国内では大きな懸念の声が挙がっている。

懸念の第一点目は、技術へのアクセス性と違法な模造の問題。スウェーデン国内にある自動車下請企業の業界団体によると、もしVolvoやSAABが中国資本に買われた場合、欧米の下請企業は最新技術を備えた部品をVolvoやSAABに提供しなくなり、両メーカーは技術力の面で競争相手に遅れをとってしまう恐れがあるという。実際のところ、欧米の下請企業は違法に模倣されるのを避けるために、中国の提携企業には最新部品の提供を控えているところが多いらしい。

これがもし現実となり最新の部品が手に入れられなくなれば、VolvoやSAABは一世代遅れた技術を積んだ車を、主に中国市場向けに製造するだけの三流メーカーとなってしまう。この懸念は、VolvoやSAABの労働組合からも寄せられている。

第二点目は、スウェーデンにおける雇用と技術開発の問題。買収の条件としては、スウェーデンでの生産活動を、今後も長期にわたって維持することがおそらく盛り込まれるだろうが、それが果たしてどこまで守られるのか? という懸念だ。技術だけを中国に吸い取られて、あとは捨てられるようなことになっては元も子もない。

スウェーデンの自動車は、その高い安全性が世界的にも有名だが、それはVolvoSAABと、ヨーテボリにあるシャルマシュ工科大学、そしてAutolivなどの下請企業との長年の協力関係の賜物であるという。中国資本の手に渡った場合、彼らがどこまで安全性を重視するのか? 現時点でいえば、中国車は安全性の面で欧米には到底及ばない、という評価が一般的のようだ。そして、ヨーテボリで築かれてきたこの協力関係はどうなるのか、といった懸念は大きい。

そして第三点目は、ブランド価値が低下するのではないか、という懸念。スウェーデン人の自動車市場アナリストによると、中国が一党独裁国であることが、VolvoやSAABのブランド名を傷つける可能性は大いにあるという。昨年も、チベット紛争や人権活動家の迫害が欧米のメディアに流れたときには、中国に対する抗議の声が世界各地であがった。今後も似たような騒動が起き、中国に対する反発が高まることは何度も起こるだろう。そんなとき、VolvoやSAABのブランド名も自ずから低下する可能性は十分にある。

「欧米日の自動車メーカー各社が技術力や価格の面で拮抗しているなか、ブランド名や環境に対する配慮、社会的責任といった“ソフトな価値”がますます重要になっている。だからこそ、恒常的な人権侵害や環境汚染で悪名高い国と一緒くたにされるのは避けるべきだ。」と、このアナリストは語っている。

ブランド名に関して言えば、Volvoというブランドは、売却交渉が現在続けられているVolvo Cars(ボルボ乗用車部門)だけのものではない。いまだにスウェーデン資本であるもう一つのボルボ(Volvo AB:バス・トラック・建設機械・航空エンジン・船舶エンジン)にもかかわる問題だ。この両者が今では異なる会社であることを知らず、同じ会社だと考えている人もたくさんいる。だから、一方のVolvoのブランド名の低下は、もう片方のVolvoにも悪い影響を与えかねない。だから、Volvo Carsの中国資本への売却は、Volvo ABからストップがかかる可能性もある。

以上のような懸念が、スウェーデン国内ではあがっている。VolvoやSAABの売却は、短期的な利点だけを考えるのではなく、熟慮に熟慮を重ねた上で、ヨーテボリ人の納得する相手を選んで欲しいものだ。

幸いにもVolvo Carsの売却に関しては、アメリカのFinancial Times紙が今年3月頃、Fordの内部の情報筋として、スウェーデンの複数の資本グループが連合体(consortium)を形成し、Volvo Carsを買い取る公算が高い、との情報を伝えていた。ただ、この情報もどこまで信憑性が高いのかは定かではない。

SAABの新しい所有者は、早くても6月頃に発表されるらしい。Volvo Carsのほうはそれよりあとになるようだ。

SAAB買収交渉の最終段階

2009-05-12 07:52:48 | スウェーデン・その他の経済
今年2月に事実上の経営破綻に至ったスウェーデンの自動車メーカーSAAB(サーブ)は、経営再建を試みるため会社更生手続きの申請を行っていた。

<以前の記事>
2009-02-19: SAAB・サーブの暗い将来(1)-そんなに長くは持たない・・・
2009-02-20: SAAB・サーブの暗い将来(2)-会社更生か倒産か工場閉鎖か
2009-02-22: SAAB・サーブの暗い将来(3)-わずかな希望
2009-02-27: SAAB・サーブの暗い将来(4)-にっちもさっちも
2009-05-05: Fiat(フィアット)の大風呂敷か?

生き残りを賭けた最後の戦いが成功するか否かは、(1) 返済不能に陥った債権の部分的帳消しを債権者に認めさせること(2) 信憑性のある将来ビジョンを打ち出すこと、そして(3) GMに代わる新しい所有者を見つけること、だった。

(1)については、4月6日に開かれた債権者会議において、債権者の大部分が了承したようで再建計画が続けられることになった(帳消しの最終合意は6月半ばに結ばれる予定)。(2) については、例のこれでもか、と言うくらいボコボコに殴られながら、それでもギブアップせず耐え続けるCEO、Jan-Åke Jonsson(ヤン=オーケ・ヨンソン)が、それなりの楽観的将来像を描いてきた。(SAABの強みはエタノール車だったが、電気自動車・ハイブリッド車に今後太刀打ちできるのだろうか…?)

そして、最後の難題が(3) 新しい所有者を見つけること。GMがSAABを見放した今年2月の時点では、自動車業界は何もかもがお先真っ暗、というような状態だったので、ちっぽけなSAABを買いたがる者なんていないのでは?SAABもこれでおしまいという論調が一般的だった。しかし、いざ募ってみると、27ほどの主体が関心を示したという。この中には、自動車メーカーの他にも、国内外のリスクキャピタルや他業種の資本グループもいたようだ。

その後、具体的な協議が続けられた結果、より有望な10社ほどがSAABの本拠地トロルヘッタン(Trollhättan)を訪れて、経営陣との協議や工場見学などを行った。SAABが提示している経営計画を買い手が承諾することが、買い取りの大きな条件だが、経営計画の中には、ドイツやメキシコなどにある生産拠点をすべてスウェーデンに戻すこと、そして、長期的にわたってトロルヘッタンの工場を維持することなどが盛り込まれていた。

そして、ついに最終段階に入ったようだ。


SAABのCEO(左)と更正手続きを担当してきた管財人
写真の出典:Dagens Nyheter

SAABの会社更生を担当してきた管財人によると、2社もしくは3社が入札の最終的な条件提示である「letter of intent」を提出したという。各社はこの中で、買い取り希望価格を明示した上で、買い取った後にどのような投資を行うつもりなのか、などを説明する。そして、SAABは6月はじめ頃、そのうちの1社と最終的な契約書「memorandum of understandning」を交わし、交渉が成立する予定だという。

さて、ではこの2社か3社はどの会社なのか…?

SAABにしろ、管財人しろ、この点については一切コメントしていない。最初の段階で「27社が関心を示してきた」とSAABは発表したものの、どこの企業が問い合わせてきたのかを全く公表していない。(あるジョークの番組が、実はSAABの在庫に山積みになっているSAAB車を買いたい愛好家が27人くらい問い合わせてきただけじゃないのか?と笑い話にしていた。)そのため、噂だけがメディアを流れている。

まず考えられるのは、つい先日、大きな計画を打ち出したイタリアのFiat(フィアット)。それから、Geely、Changan, Dongfengなどの中国の自動車メーカーもSAAB(およびVolvoの乗用車部門)に大きな関心を寄せている、との報道がある。他には、アメリカの資本グループ、そして、スウェーデンのスポーツカー製造メーカーKoenigseggノルウェーの資本家の共同体も有望だという。(続く・・・)

ついに来た。ボルボのハイブリッド・バス!

2009-05-10 07:39:05 | スウェーデン・その他の経済
私の住むヨーテボリ市は、環境問題解決や持続可能な社会発展への取り組みに大きな貢献をした人々をたたえる「ヨーテボリ国際環境賞」(2007年からは「Göteborgspriset för hållbar utveckling(持続可能な発展のためのヨーテボリ賞)」)を1999年に設け、スウェーデン内外の様々な分野の人々を毎年、表彰してきた。

2007年アル・ゴアが受賞し、ヨーテボリ市内の大ホールで盛大な受賞記念パーティーが開かれた。その前年の2006年には、ハイブリッドカー、プリウスを開発したトヨタの日本人技術者3名が受賞したことも記憶に新しい。


私は幸い、両年とも受賞式典に参加できたが、プリウスの日本人技術者が受賞したときの式典では、ヨーテボリ・シャルマシュ工科大学のもと学長で、今はヨーテボリに本社を置くボルボ(Volvo)のバス・トラック部門の技術部長を務める教授が記念講演したのを覚えている。

彼は、トヨタに対してライバル意識を燃やしていたのだろうか。「ボルボのトラックやバス、ゴミ収集車もあと数年すればハイブリッドになる!」と、その当時ボルボで行われていた技術開発を紹介したのだった。

これには、私もなるほど!と思った。 乗用車だけでなく、市バスゴミ収集車にもハイブリッド技術を活用する。確かに、発進と停車をこまめに繰り返すバスやゴミ収集車こそ、ハイブリッドはぴったりかもしれない。ゴミ収集車は、収集作業中は電力が必要であるため、エンジンをアイドリングしている。あれが無くなれば、市内の騒音や大気汚染はさらに減るかもしれない。

あれから時間が経ち、ハイブリッド・バスの登場はいつかな?と心待ちにしていたが、4月末、待ちに待ったニュースを目にした。


「全世界でヨーテボリがまず最初! ボルボ(Volvo)のハイブリッド・バス」(バスに書かれた文字)

外見は、ヨーテボリの他の市バスとまったく同じ。しかし、このバスにはディーゼル用と電気用の2つのエンジンが取り付けられている。そして、天井にはバッテリー

ドライバーがブレーキを踏むと、運動エネルギーが電力に変わり、バッテリーに蓄えられる。その後、停留所から発進するときには電気モーターが作動する。そして、バスが時速20kmを超えるあたりから、ディーゼルエンジンが起動し、電気モーターに代わって推進力を生み出す。

ディーゼル燃料の消費量は3割減。また、窒素酸化物や微粒子の排出量も通常のディーゼルバスに比べ、4割から5割は抑えられるという。

このハイブリッド・バスの開発には5年の年月がかかり、その試作車今月からヨーテボリ市内のバス路線に実際に投入され、様々なテストが行われる。大量生産が始まるのは、1・2年後。しかし、スイスやルクセンブルグからは既に注文が入っているそうだ。

しかし、このような新製品の開発も、ボルボだけが一方的に進めてきたわけではない。それを利用するお客さん、つまり、ヨーテボリ地域の公共交通とのタイアップがあってこそ、可能になったものだ。

ヨーテボリの市バスや、ヨーテボリを含むヴェストラ・ヨータランド県の公共交通を管理する公社Västtrafik(ヴェストトラフィーク)は、これまでも様々な取り組みを行ってきた。例えば、市バスの多くには天然ガスやバイオガスを燃料とするガス車が導入され、使われる燃料も近年は天然ガスではなく、下水処理場から出る汚泥や、家庭やレストランなどから出る生ゴミで作ったバイオガスへと切り替えが行われてきた。

このハイブリッド・バスは、ディーゼルと電気の組み合わせだが、ディーゼル燃料にはバイオ・ディーゼルを用いることもできる。

公共交通公社Västtrafik(ヴェストトラフィーク)の目標は、2020年までに化石燃料の消費量を9割削減すること。そのため、バイオガスの積極的な活用や、このハイブリッド・バスの導入は、その目標達成に向けた着実な前進なのだ。

絶好のメーデー日和

2009-05-07 06:58:41 | スウェーデン・その他の政治
5月1日メーデー。スウェーデンをはじめとするヨーロッパの多くの国では休日となっている。スウェーデンの各地では、社会民主党左党(旧共産党)が組織するデモ行進が行われる。ヨーテボリなどの大きな町では、この二つに加えて、シンディカリストやアナーキストなどの極左の団体もデモを行う。

この日は友達と一緒に、左党の集会を遠目に眺めたあと、社会民主党のデモ行進がやってくるのを待つことにした。天気は晴天。休日とあって、メーデーへの関心に関係なく、たくさんの人々が町に繰り出している。


ブラスバンドを先頭にやってきた。流れてくるのはお馴染み「インターナショナル」



社会民主党ブルーカラー系労組LOの幹部陣。ヨーテボリでは、これまで10数年間にわたって市長を務めてきた男性政治家が退陣し、女性の市会議員が市長の座を引き継ぐことになった。中央で赤い旗を掲げている人の後ろに、少しだけ映っている赤い服の女性がその新市長



ブルーカラー系労組LOの傘下にある業界別組合の旗。業界別組合の下には企業や職場ごとにもローカル支部があり、大企業の労組になるとローカル支部で独自の旗を持っているところもある。



プラカードを掲げた人々。デモ行進には数千人規模の参加者。通り過ぎるまでに20分以上かかった。



デモの行く先はヨータプラッツェン(Götaplatsen)。ここで演説会が始まる。



垂れ幕のおじさんは、今年6月の欧州議会選挙社会民主党から立候補している人。比例名簿の第2位なので当選はほぼ確実。彼はかつてはボルボ(Volvo)で金属工として働きながら、労働組合の活動で活躍し、しまいにはボルボの役員会議労組の代表として席を持つにいたる。そこで10数年にわたって経営陣との折衝に携わってきた。その活躍が評価され、このたびの欧州議会選挙では政治家に転身して、候補者名簿に名を連ねることになった。


労組LO社会民主党はちょうど難局を迎えている。社会民主党は昨年末から支持率が急激に低下している。党首のイメージ挽回を図ると共に、中道右派連立の現政権に対抗するための信憑性のある政策的提案を、いかにして国民に提示できるかが大きな課題だ。しかし、中道右派政権の中心的存在である保守党(穏健党)が、かなり「社民党的な」政策を実行しているため、彼らとは一線を画した政策的対案を社会民主党が示すのが難しくなっている

他方、労組LOのほうはボーナススキャンダルで窮地にいる。国民年金とは別の、付加的な役割を果たす協約年金を管理するために、労働組合と事業主団体が共同企業を設立しているのだが、この企業の取締役に対して、ボーナスの大幅な引き上げが実行されることが3月下旬に明るみになったのだ。しかも、この引き上げを決定した企業役員会議には労組LOの代表も同席しており、ゴーサインを出していたことも明らかになった。そのため、LO代表は組合員からの激しい批判にさらされたものの、LO代表を続投する、という決定を2週間ほど前に表明したばかりだった。

LOも社会民主党もそんな憂き目に遭ってはいるものの、やはり経済情勢が今のような状況だから、雇用対策の重要性を主張したい、たくさんの人々がデモに参加したようだ。特に、ヨーテボリは社会民主党が強い。2006年の総選挙では全国的に社会民主党が敗退したものの、ここヨーテボリでは社会民主党が市の政権を維持した。

ヨーテボリの演説会では、新しく市長になった女性議員Anneli Hulthén(アンネリー・フルテーン)と、欧州議会選挙に立候補する、上の垂れ幕の男性Olle Ludvigsson(オッレ・ルードゥヴィクソン)などが演説した。

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帰り道のこと。ある市バスに乗った。歩き疲れたためにクタクタになりながら座席に腰を下ろし、斜め前の見ると、向かい合った座席に母親と3人娘が座っていた。どこにでもある、ありふれた光景だが、母親の横顔がふと気になった。

あれっ!? あの人は、去年ゴットランド島で開かれた「政治ウィーク」で、私が「風力発電セミナー」を聴講していた時に、私の隣に同席していたあの市会議員だ! いや、もっと正確に言えば、今は新しいヨーテボリの市長になった、あの女性議員だ!

そう、彼女は演説を終えた後、娘たちと帰宅する途中だったのだが、ちゃんと公共交通を使っていたのだ。そういえば、彼女は普段も市の庁舎に自転車で通勤している。別になにかのパフォーマンスというわけではない。市長になった秋以降も、ヘルメットをかぶって、自転車のかごに議会書類の詰まったカバンを入れて自転車を漕いでいる。

まさかこんなところで遭遇するとは思ってもいなかったので驚いた。と同時に、こういう光景、つまり市や県の幹部や国会議員もが、こうして普通に公共交通を利用している光景は、いかにもスウェーデンらしいとつくづく思った。


そういえば、ゴットランド島でも友人と一緒に食事をしながら撮った写真の背景に、この女性議員がちゃっかり収まっていた。

Fiat(フィアット)の大風呂敷か?

2009-05-05 06:47:38 | スウェーデン・その他の経済
イタリア車フィアット(FIAT)といえば、スウェーデンではめったに見かけない車だ。一方、私が一昨年前の夏にイスタンブールに行ったときには、至る所で走っていた。トルコでは手頃な値段で手に入る庶民車なのだろうか?(「安っぽい車」というのが私の第一印象だった)


そんなフィアットが最近動きを見せている。破綻寸前のクライスラーを傘下に収める第一歩として、株式を20%取得、その見返りとしてクライスラーから技術供与を受ける約束を交わしたようだ。

フィアットの野望はクライスラーだけでない。GM傘下にあるヨーロッパブランドを手に入れた上で、フィアットの乗用車部門と統合した新たな企業を設立し、大西洋をまたにかけた乗用車企業を築くことらしい。予想販売台数は年間600-700万台だという。フィアットが狙いを定めているGM傘下のブランドには、ドイツのオペル(Opel)やスウェーデンのサーブ(SAAB)が含まれている。

こんな「大風呂敷」を広げているのは、フィアットの最高経営責任者(CEO)であるSergio Marchionne。彼は赤字続きだったフィアットのCEOに2004年に就任したあと、経営改革を進め、業績を黒字に転じることに成功したという人物らしい。

彼は今週月曜日、ドイツ政府を訪ね、自らの計画を発表した。ドイツ政府との交渉の焦点は、政府がオペル(Opel)救済のために拠出を約束している33億ユーロの公的資金。オペルを買い取るにあたり、この公的資金をどのような条件で活用できるのかを協議しているという。

フィアット側の試算では、Opelをフィアットに統合し、経営を軌道に乗せていくためには数十億ユーロが必要であるため、ドイツ政府からの支援や融資保証などが不可欠だが、ドイツ政府の一翼をなす社会民主党はこれらの支援供与の条件として、ドイツにあるOpelの4工場すべてを今後も維持することを条件として提示している。これに対し、フィアットの側は4つのうち1工場は閉鎖せざるを得ないと見ているなど、対立点もあるようだ。

一方、ドイツでは、フィアットがOpel買収案を先週提示したときから「真面目な話とは思えない」と政府もOpelの労働組合も懐疑的な態度を示してきた。労働組合に至っては「フィアットが狙っているのは、ドイツ政府の公的資金だけさ」と冷笑してきた。

専門家の見方によると、Opelの買い取り手は、フィアットなどよりも、むしろカナダとオーストリアの自動車メーカー、マグナ(Magna)や、ロシアで第二位の自動車メーカー、Gazのほうが現実性が高いと見ているようだ。

では、スウェーデンのSAABはどうかというと、スウェーデンの政府筋によると、フィアットの経営陣が1、2週間前から接触を持ってきており、ドイツ同様、政府支援の条件などについて水面下で協議が行われているという。他方、SAABの側はフィアットについては一切コメントしていない。SAABは4月初めの段階で「30ほどの企業や資本グループがSAABの買収に関心を示している」と発表してきたが、最近はその中でもより有望な数グループを絞って、具体的な協議が続けている。AABの話し方から推測すると、フィアットはそのうちの1つに過ぎないようだ。

フィアット(Fiat)の大構想が果たして思いどおりになるのか、それとも大失敗(Fiasco)に終わるのか・・・?

福祉国家は経済効率が本当に悪いのか? (2)

2009-05-01 02:58:28 | スウェーデン・その他の経済
国民一人あたりのGDP(GDP per capita)を比較すると、アメリカがスウェーデンおよび他のヨーロッパ諸国に大きく差をつけていることを前回、説明した。しかし、アメリカの年間総労働時間はヨーロッパ諸国を大きく上回っているため、そう単純には「アメリカのほうが、社会保障の充実したスウェーデンやヨーロッパ諸国よりも経済効率がよい」とは言えないことも指摘した。

だから、国民一人あたりのGDP(GDP per capita)を持ち出して経済効率の議論をするくらいなら、むしろ労働時間あたりの付加価値生産高(GDP)を使ったほうが、より意味のある議論ができるだろう。前回の後半に指摘したように、労働時間の違いを考慮すれば、アメリカとスウェーデンの差はグッと縮まる。

労働時間あたりの付加価値生産高(GDP)を算出する上で、もう一つ考慮に入れなければならないことがある。というのも、前回の最後に示した総労働時間は、労働者(就業者)一人あたりの総労時間であり、国民一人あたりの総労働時間ではないからだ。国によって、人口に占める就業者人口の割合も違う。大学進学率の高い国ほど、仕事に就き始める年齢も違ってくるだろうし、高齢者や専業主婦の多い国では就業者人口の割合も減ってくる。

図にすると、こうなる。いま求めようとしているのは、左辺の(国全体のGDP)/(労働時間)だ。


前回示した2つの表は、右辺の第1項と第3項を示している。第2項のデータも実はOECDが公表しているので、必要なデータはすべて手に入る。

ここまでの話で、頭が混乱しても気にしないで! これまで説明してきたことをすべて考慮に入れて、労働時間あたりの付加価値生産高(GDP)を算出すると次のようになる。


これを見ればわかるように、アメリカが特に抜きん出ているわけでもない。ヨーロッパ諸国の中にまぎれているに過ぎない。しかも、ここで示している数字の単位はドルだが、換算の際のレート(購買力平価レート)も100%正しいものというわけでなく、若干の誤差も考えられうる。だから、多少の数字の差はあまり気にしないほうがよい。そう考えてみると、第5位のドイツから第9位のオーストリア、もしくは第13位のデンマークくらいまでは、経済効率は似たようなものだ、と考えてもいいかもしれない。

だから、社会保障の充実した福祉国家は経済効率が悪いとは必ずしも言えないわけだ。