スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

Sony Mobileの新たなリストラ案

2012-08-24 02:01:52 | スウェーデン・その他の経済
日本のソニー(Sony)とスウェーデンのエリクソン(Ericsson)が共同出資して設立した携帯電話メーカーSony Ericssonは、今年初めにソニーが全株を買い取って完全子会社化し、Sony Mobileと改称した。

予想はされていたが、その後ソニーは本社を現在のスウェーデン南部(ルンド市)から日本に移すと発表した。さらに、ハードウェアの研究開発部門も日本に移し、スウェーデンのルンドでは主にソフトウェアの開発に特化すると決めた。


それはリストラを意味する。今年5月に既に150人の解雇が発表されたが、今日、新たなリストラ計画が発表され、それによると、現在いる3000人弱の従業員のうち650人が解雇される。

解雇される者にとっては悲劇だが、一方で興味深いことに労働組合「企業の経営状況を示すデータを分析すると、ルンド市に国際競争上で優位となる明らかな要因はない」と、企業側の経営判断に理解を示しているのである。

労組のこのような柔らかな態度は不思議に思えるが、スウェーデンでは珍しくない。そもそも、経営上の判断による解雇に対して、労組側がそれを不服として争っても勝ち目はないから諦めざるを得ない。しかし、それ以上に様々な再雇用・求職サポートがあることが大きな理由だろう。

実は、今回のリストラ策の発表に際して、企業側は労組と共同で通信技術コンサル企業を設立する計画を打ち出している。解雇された従業員の多くをそこで吸収させる考えだ。ソニーの子会社というわけではなく、ソニー以外にも顧客を見つけながら、自立した経営を行うという企業だ。

このように大規模解雇に伴って、新たな企業が芽生える、というのは以前からよくある話で、例えば、製薬メーカーで解雇された技術系の元従業員が何人か集まり、事務職系の元従業員と一緒に新しいコンサル企業を立ち上げた例もある。今回は、それを解雇する企業が自ら支援するというものだ。

一般にスウェーデンの企業の解雇では(特に中規模・大規模企業の場合)、企業と労組が事前に協議して妥協点を見出し、労組側は解雇を受け入れる代わりに、再就職のサポート(多くは求職支援や求人斡旋)を企業側に約束させることが多い。そのサポートのため、企業が平時から経営者連盟を通じて、労働組合との共同出資による常設企業を設立している業界もあるし、その運営費も平時から企業と労働組合が拠出して積み立てている。

解雇における、このような企業と労組間の連携の他に、公共職業安定所を通じたサポートもある。大きな解雇が発表されれば、その地域の職安は国や県に特別予算をつけてもらい求職支援を活発化させる。解雇企業に出向いて職安事務所を設けたり、他企業からの人材募集の要請に応じ斡旋する。その他にも、職業訓練学校の制度も充実しているし、解雇者が大学に進学する道もある。そもそも、転職は一般的であり、転職市場も厚い。

このような様々な制度が、解雇における労組と企業側との歩み寄りを可能にしているように思われる。(それに、労組も企業が潰れれば元も子もない、という危機感を持っている)

「スウェーデンの人口が950万人を超えた」の意味

2012-08-16 00:57:07 | スウェーデン・その他の社会
スウェーデンの人口は?と訊かれたら、大雑把に900万人と答えてきた。実際、人口が900万人に達したのは2004年のことだった。そして、その後も増え続け、今年の4月に950万人を超えた。現在の人口予想では2021年に、とうとう1000万人になるという。


では、現在、スウェーデン人(スウェーデンの国籍保持者)が950万人か?というとそうではない。実は、この数字が示しているのは「人口」であり「国民(国籍保持者)」ではない。だから、スウェーデン国内に在住する外国籍保持者もたくさん含まれている。(私がこれに気が付いたのは7年ほど前。人口統計を扱っていたときに辻褄が合わない部分があり、それを調べて行ったらこのことに気が付いた)

では、スウェーデン人はどのくらいか?

まず、スウェーデンの人口である950万人のうち、外国籍保持者は66万人(2011年末の数字)。つまり、人口の7%になる。ここには当然ながら、もともと外国出身だがスウェーデンに帰化した人は含まれていない。

スウェーデンに住む外国人で一番多いのは、フィンランド人(68,000人)、イラク人(56,000人)、デンマーク人(40,000人)、その次がポーランド人(43,000人)となる。フィンランド人は戦後から70年代までの高度成長期に多く移住してきた。生活の基盤を完全にスウェーデンに移したものの、帰化はしていない人がたくさんいるということだろう(一時的に働きに来ている人もいるだろう)。デンマーク人でもそういう人がいるかもしれないが、むしろ、デンマーク人の場合は本国の住宅事情が悪く、スウェーデンの南部に移住して、そこから海峡を越えてデンマークに通勤している人が多いのではないかと思う。

【過去の記事】
2012-03-05: スウェーデン・デンマーク、国際地下鉄の建設

イラク人は、2003年の英米軍によるイラク侵攻以降に難民としてスウェーデンに移住した人が多い。難民といえば、70年代末のイラン革命の際のイラン難民や、90年代前半のボスニア紛争のときのボスニア難民も数が多かったが、いま統計を見てみると、スウェーデン国内のイラン人は14,000人、ボスニア人は7,000人しかいない。イラン人は分からないが、ボスニア人の場合は帰化した人がかなり多かったのではないかと思う。ちなみに、スウェーデン在住の日本人2400人(帰化した人は含まれていない)。

次に、国外に在住するスウェーデン人はどれくらいいるのか? 実はこれが不思議なことに、公式統計がない。生活の基盤を完全に移しているかどうかが、把握できないためだという。推計では、だいたい30万人ほどと言われ、一番多い居住国がアメリカノルウェー、そしてフィンランドと言われる。

だから、スウェーデン国籍を保持しているという意味でのスウェーデン人は、950-66+30で、だいたい914万人くらいではないかと推測される。

他の国の人口統計が、国籍保持者を示しているのか、人口を示しているのか分からないが、国境を越えた行き来が盛んになった今、国籍ではなく、その国内に何人住んでいるか?という数字のほうが、集計も現実的だし、実用的な意味を持つものなのかもしれない。

スウェーデン南部で地震

2012-08-08 01:32:41 | スウェーデン・その他の社会
スウェーデン南部で、月曜日の早朝5時にマグニチュード4.1(震源は海底深さ14km、本土まで40km)の地震が発生。日本の震度で言えば1とかせいぜい2ほどだろうが、このあたりでは10年に一度の規模の地震だから、何かの爆発かと思い消防署に電話する人もいるし、ニュースにもなる。

疾病保険手当の受給頻度における男女間格差

2012-08-06 01:18:34 | スウェーデン・その他の社会
興味深い統計を見た。

スウェーデンの社会保険制度の一つに「疾病保険」という制度がある。これは、ケガや病気のために仕事を休んだ際の所得を補填するものであり、日額に換算した所得の最大8割の手当が支給される。財源は雇用主が被雇用者の給与に応じて支払う社会保険料だ。(厳密な話をすれば、欠勤の1日目は無給付、2日目から14日目までは雇用主の負担であり、それ以降が国庫からとなる)

さて、ある夫婦に1人目の子供が生まれる前後において、その夫婦がどのくらいの頻度でこの制度を利用しているか(つまり、欠勤して疾病保険手当を受給しているか)を男女間で比較した統計がある。それが下に示したグラフだ。


赤い部分が女性(母親)、黒線が男性(父親)を示している。グラフの横軸は、1人目の子供が生まれる6年前から始まるが、ご覧の通り、子供が生まれる1年前までは男女ともほぼ傾向は同じで、1ヶ月あたり平均0.3日である(年間にすると3.6日)。

そして、出産前になると女性が仕事を休み、疾病保険からの給付を受ける日数が多くなる(直前で1ヶ月あたり4.5日)。(産前の休暇については、職場によっていろいろ条件が違い、予め休暇を与えるところもあれば、出産の直前まで働くこともあるだろう。それは置いておく)

ここまではだいたい予想がつくが、出産後が興味深い。出産直後すぐに職場復帰する女性は少ないだろうから、疾病保険手当を利用する日数も減るが、女性が職場復帰を始める出産後8ヶ月~1年半以降、疾病保険手当の利用日数が急激に上昇し、男性の2倍に達するのだ。この頃、男性の疾病保険手当の利用日数も子供が生まれる前よりも増えている(1ヶ月あたり0.9日で最大となる)が、女性は伸びがずっと激しい。そして、出産から10年経っても男女間の格差は残ったままだし、出産以前の水準にも戻らない。(この統計は1999年に生まれた子供の親を追跡している)

念のため。この統計に含まれるのはあくまで「疾病保険」であり、育児休業ための「育児休業保険」や病気の子供を自宅で看病するための「看病保険(一時的育児休業保険)」は含まれていない。

では、男女によるこの差は何が原因なのだろうか?

産後の体調の変化や歳を取ることによる体調の変化が、男性よりも女性により顕著に現れる、という可能性も考えられよう。しかし、おそらくより大きいと考えられる要因は、家庭における育児・家事の負担に男女間で差があり、それがストレスや体調不良による欠勤につながっている、ということではないだろうか?

いずれにしろ、欠勤の頻度が子を持つ男女間で異なるということは、勤労生活における不平等やキャリア形成の格差につながり、生涯所得にも差をつけ、それが老後の年金受給額にも影響を与えることになるため、この背景にはどのような問題があるのか?どのような病気を理由に欠勤しているのか、などを詳しく調べ、分析していくことをスウェーデンの社会省が発表している。

社会保険担当大臣(男性)も、先日のインタビューで「夫婦が家事や育児の責任をどのように分担するかは、単にそれぞれの家庭だけの問題、というわけではない。育児・家事に対して男性がより大きな責任を負っていくことは、女性がスウェーデンの労働市場において十分に活躍していけるための条件である」と答えていた。