スウェーデンの輸出産業が大きく回復している。先週から今週にかけて大手製造業の2010年第1四半期の業績が次々と発表されているが、市場の予想を大きく上回る企業が多く、株価が急上昇した。
例えば、ボルボ。ボルボといっても、今でもスウェーデン資本でバスやトラック、航空・船舶エンジンを製造しているVolvoグループと、米フォードが中国・吉利に売却したVolvo Cars(乗用車部門)があるが、まずVolvoグループを見てみると、市場関係者は第1四半期の業績が4億クローナの赤字になるだろうと予測していたが、結果は20億クローナの黒字だった。受注が大きく伸びているおかげで、2009年の大不況の間に製造し在庫に積みあがっていた製品がほぼ処分でき、生産活動を本格化していく局面に入ったという。
スウェーデン全体で見ると、Volvoグループは危機前に17000人の従業員を抱えていたが、一連の大量解雇を経て12800人に減った。景気回復の兆しは既に昨年後半から見え始めており、その頃から再雇用の必要性を経営陣が口にするようになっていたが、これまで実際に再雇用されたのは400人程度に留まっている。これから、どれだけ増えていくかが気になるところだが、不況の真っ只中であった2008年から2009年にかけてb>ヨーテボリ・Tuve工場では大規模な設備投資によって生産ラインの効率化を行っており、不況を克服した今、少ない人員で同じ量の製品を生産することが可能になっている。労働生産性が上昇したことは良いことだが、同時に、受注が増えても雇用の伸びはそこまで期待できないことを意味しているため、今後は緩やかなテンポで再雇用が行われていくと見たほうがいいだろう。
では、乗用車部門であるVolvo Carsはどうかというと、昨日火曜日に業績を発表した。Volvo Carsは過去3年間にわたって赤字を記録していたが、何と黒字に転じている(3.5億クローナ)。ここも、バスやトラックのVolvoグループと同様、ラテンアメリカやアジア市場での受注や販売が好調だという。再雇用も既に発表されており、ヨーテボリ・Torslanda工場とベルギー・Gent工場でそれぞれ250人ずつを手始めに、人員を増やしていく予定だ。
自動車関連では、シートベルトやエアバッグをはじめとする安全性向上のための製品を供給しているAutolivが絶好調だ。スウェーデンのビジネス誌が昨年2月頃に「Autolivの株が今買い時だ」と書いていた。その頃は自動車大不況の真っ只中で自動車メーカーや下請けで大量の解雇が発表され続けていた時だったから、非常に印象的だった。その記事の分析によると「スウェーデンのボルボやサーブがどうなるかにかかわらず、Autolivは輸出市場でのポテンシャルが大きいから、今の株価は過小評価されている」と書いていた。まさにその通り、それから1年あまり経った今、株価はそのときから3.5倍になっている。
その他の輸出産業としては、ベアリングで知られるSKFの業績も大きく回復している。通信機器のエリクソンは、第1四半期の業績が予想を下回ったものの、北米や西欧市場で受注が伸びているため、株価が急上昇している。
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スウェーデンの社会保障制度を支えているのは潤沢な税収だと思うが、その根底にあるのは安定した経済基盤であることを忘れてはいけないと思う。金融危機はその意味で大きな脅威であったわけだが、危機に至るまでの数年にわたって財政黒字が累積されていたため、税収減による痛みも軽微だったし、そして今、輸出産業の持ち直しによって経済が再び回復している。
その一つの要因は、クローナの減価によって国際競争力が回復したことであろう。危機前に比べて、一番ひどい時で対ユーロ17%減、対ドル33%減となった。これは、国内の生産コストが一定でも、輸出市場ではそれだけ安く製品を売ることが意味するわけで、競争力が高まったことになる。その後、クローナが持ち直したために10%減ほどになっているが、それでもこのクローナ安が景気回復の原動力の一つとなっているのではないかと思う。
スウェーデン企業の輸出に大きな意味を持つ対ドルと対ユーロのレート(対円もおまけ)
ちなみに、スウェーデン企業の業績が軒並み回復している背景には、一つには受注・販売数の増大があることも確かだが、もう一つは大量解雇によって人件費を削った、ということもある。スウェーデンの労働法制は、ある側面では非常に厳しく解雇が難しいと言われることもあるが、一方で、景気後退時にはたとえ正社員であっても解雇が比較的容易であることも事実だと思う(日本よりもかなり容易)。だから、景気の悪化はすぐに解雇数や失業率の上昇に反映されやすい。
この是非を巡っては、いろいろな意見があるようだ。不況期にばっさりと従業員を切って、経営状態の改善を図り、業績がひとたび回復したときに再び雇用を回復させるのがいいのか、それとも、不況期でも従業員を抱え持ったまま景気が回復するのを待つのがいいのか。前者だと、企業経営の回復が早く、その結果、雇用の回復も早くなる、という声がある一方で、せっかく培った重要な人材を手放してしまうのは、業績回復時に大きなマイナス、という見方もある。また、後者だとその点では問題が少ないが、高い人件費を払い続けなければならず、業績の回復に時間がかかるどころか、企業自体がひっくり返ってしまうというリスクもある。
スウェーデンは前者のタイプだが、これからどうなっていくのか興味深いと思う。
例えば、ボルボ。ボルボといっても、今でもスウェーデン資本でバスやトラック、航空・船舶エンジンを製造しているVolvoグループと、米フォードが中国・吉利に売却したVolvo Cars(乗用車部門)があるが、まずVolvoグループを見てみると、市場関係者は第1四半期の業績が4億クローナの赤字になるだろうと予測していたが、結果は20億クローナの黒字だった。受注が大きく伸びているおかげで、2009年の大不況の間に製造し在庫に積みあがっていた製品がほぼ処分でき、生産活動を本格化していく局面に入ったという。
スウェーデン全体で見ると、Volvoグループは危機前に17000人の従業員を抱えていたが、一連の大量解雇を経て12800人に減った。景気回復の兆しは既に昨年後半から見え始めており、その頃から再雇用の必要性を経営陣が口にするようになっていたが、これまで実際に再雇用されたのは400人程度に留まっている。これから、どれだけ増えていくかが気になるところだが、不況の真っ只中であった2008年から2009年にかけてb>ヨーテボリ・Tuve工場では大規模な設備投資によって生産ラインの効率化を行っており、不況を克服した今、少ない人員で同じ量の製品を生産することが可能になっている。労働生産性が上昇したことは良いことだが、同時に、受注が増えても雇用の伸びはそこまで期待できないことを意味しているため、今後は緩やかなテンポで再雇用が行われていくと見たほうがいいだろう。
では、乗用車部門であるVolvo Carsはどうかというと、昨日火曜日に業績を発表した。Volvo Carsは過去3年間にわたって赤字を記録していたが、何と黒字に転じている(3.5億クローナ)。ここも、バスやトラックのVolvoグループと同様、ラテンアメリカやアジア市場での受注や販売が好調だという。再雇用も既に発表されており、ヨーテボリ・Torslanda工場とベルギー・Gent工場でそれぞれ250人ずつを手始めに、人員を増やしていく予定だ。
自動車関連では、シートベルトやエアバッグをはじめとする安全性向上のための製品を供給しているAutolivが絶好調だ。スウェーデンのビジネス誌が昨年2月頃に「Autolivの株が今買い時だ」と書いていた。その頃は自動車大不況の真っ只中で自動車メーカーや下請けで大量の解雇が発表され続けていた時だったから、非常に印象的だった。その記事の分析によると「スウェーデンのボルボやサーブがどうなるかにかかわらず、Autolivは輸出市場でのポテンシャルが大きいから、今の株価は過小評価されている」と書いていた。まさにその通り、それから1年あまり経った今、株価はそのときから3.5倍になっている。
その他の輸出産業としては、ベアリングで知られるSKFの業績も大きく回復している。通信機器のエリクソンは、第1四半期の業績が予想を下回ったものの、北米や西欧市場で受注が伸びているため、株価が急上昇している。
スウェーデンの社会保障制度を支えているのは潤沢な税収だと思うが、その根底にあるのは安定した経済基盤であることを忘れてはいけないと思う。金融危機はその意味で大きな脅威であったわけだが、危機に至るまでの数年にわたって財政黒字が累積されていたため、税収減による痛みも軽微だったし、そして今、輸出産業の持ち直しによって経済が再び回復している。
その一つの要因は、クローナの減価によって国際競争力が回復したことであろう。危機前に比べて、一番ひどい時で対ユーロ17%減、対ドル33%減となった。これは、国内の生産コストが一定でも、輸出市場ではそれだけ安く製品を売ることが意味するわけで、競争力が高まったことになる。その後、クローナが持ち直したために10%減ほどになっているが、それでもこのクローナ安が景気回復の原動力の一つとなっているのではないかと思う。
スウェーデン企業の輸出に大きな意味を持つ対ドルと対ユーロのレート(対円もおまけ)
ちなみに、スウェーデン企業の業績が軒並み回復している背景には、一つには受注・販売数の増大があることも確かだが、もう一つは大量解雇によって人件費を削った、ということもある。スウェーデンの労働法制は、ある側面では非常に厳しく解雇が難しいと言われることもあるが、一方で、景気後退時にはたとえ正社員であっても解雇が比較的容易であることも事実だと思う(日本よりもかなり容易)。だから、景気の悪化はすぐに解雇数や失業率の上昇に反映されやすい。
この是非を巡っては、いろいろな意見があるようだ。不況期にばっさりと従業員を切って、経営状態の改善を図り、業績がひとたび回復したときに再び雇用を回復させるのがいいのか、それとも、不況期でも従業員を抱え持ったまま景気が回復するのを待つのがいいのか。前者だと、企業経営の回復が早く、その結果、雇用の回復も早くなる、という声がある一方で、せっかく培った重要な人材を手放してしまうのは、業績回復時に大きなマイナス、という見方もある。また、後者だとその点では問題が少ないが、高い人件費を払い続けなければならず、業績の回復に時間がかかるどころか、企業自体がひっくり返ってしまうというリスクもある。
スウェーデンは前者のタイプだが、これからどうなっていくのか興味深いと思う。