スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

輸出産業の回復

2010-04-28 09:21:26 | スウェーデン・その他の経済
スウェーデンの輸出産業が大きく回復している。先週から今週にかけて大手製造業の2010年第1四半期の業績が次々と発表されているが、市場の予想を大きく上回る企業が多く、株価が急上昇した。

例えば、ボルボ。ボルボといっても、今でもスウェーデン資本でバスやトラック、航空・船舶エンジンを製造しているVolvoグループと、米フォードが中国・吉利に売却したVolvo Cars(乗用車部門)があるが、まずVolvoグループを見てみると、市場関係者は第1四半期の業績が4億クローナの赤字になるだろうと予測していたが、結果は20億クローナの黒字だった。受注が大きく伸びているおかげで、2009年の大不況の間に製造し在庫に積みあがっていた製品がほぼ処分でき、生産活動を本格化していく局面に入ったという。

スウェーデン全体で見ると、Volvoグループは危機前に17000人の従業員を抱えていたが、一連の大量解雇を経て12800人に減った。景気回復の兆しは既に昨年後半から見え始めており、その頃から再雇用の必要性を経営陣が口にするようになっていたが、これまで実際に再雇用されたのは400人程度に留まっている。これから、どれだけ増えていくかが気になるところだが、不況の真っ只中であった2008年から2009年にかけてb>ヨーテボリ・Tuve工場では大規模な設備投資によって生産ラインの効率化を行っており、不況を克服した今、少ない人員で同じ量の製品を生産することが可能になっている。労働生産性が上昇したことは良いことだが、同時に、受注が増えても雇用の伸びはそこまで期待できないことを意味しているため、今後は緩やかなテンポで再雇用が行われていくと見たほうがいいだろう。

では、乗用車部門であるVolvo Carsはどうかというと、昨日火曜日に業績を発表した。Volvo Carsは過去3年間にわたって赤字を記録していたが、何と黒字に転じている(3.5億クローナ)。ここも、バスやトラックのVolvoグループと同様、ラテンアメリカやアジア市場での受注や販売が好調だという。再雇用も既に発表されており、ヨーテボリ・Torslanda工場とベルギー・Gent工場でそれぞれ250人ずつを手始めに、人員を増やしていく予定だ。

自動車関連では、シートベルトやエアバッグをはじめとする安全性向上のための製品を供給しているAutolivが絶好調だ。スウェーデンのビジネス誌が昨年2月頃に「Autolivの株が今買い時だ」と書いていた。その頃は自動車大不況の真っ只中で自動車メーカーや下請けで大量の解雇が発表され続けていた時だったから、非常に印象的だった。その記事の分析によると「スウェーデンのボルボやサーブがどうなるかにかかわらず、Autolivは輸出市場でのポテンシャルが大きいから、今の株価は過小評価されている」と書いていた。まさにその通り、それから1年あまり経った今、株価はそのときから3.5倍になっている。

その他の輸出産業としては、ベアリングで知られるSKFの業績も大きく回復している。通信機器のエリクソンは、第1四半期の業績が予想を下回ったものの、北米や西欧市場で受注が伸びているため、株価が急上昇している。

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スウェーデンの社会保障制度を支えているのは潤沢な税収だと思うが、その根底にあるのは安定した経済基盤であることを忘れてはいけないと思う。金融危機はその意味で大きな脅威であったわけだが、危機に至るまでの数年にわたって財政黒字が累積されていたため、税収減による痛みも軽微だったし、そして今、輸出産業の持ち直しによって経済が再び回復している。

その一つの要因は、クローナの減価によって国際競争力が回復したことであろう。危機前に比べて、一番ひどい時で対ユーロ17%減、対ドル33%減となった。これは、国内の生産コストが一定でも、輸出市場ではそれだけ安く製品を売ることが意味するわけで、競争力が高まったことになる。その後、クローナが持ち直したために10%減ほどになっているが、それでもこのクローナ安が景気回復の原動力の一つとなっているのではないかと思う。


スウェーデン企業の輸出に大きな意味を持つ対ドルと対ユーロのレート(対円もおまけ)


ちなみに、スウェーデン企業の業績が軒並み回復している背景には、一つには受注・販売数の増大があることも確かだが、もう一つは大量解雇によって人件費を削った、ということもある。スウェーデンの労働法制は、ある側面では非常に厳しく解雇が難しいと言われることもあるが、一方で、景気後退時にはたとえ正社員であっても解雇が比較的容易であることも事実だと思う(日本よりもかなり容易)。だから、景気の悪化はすぐに解雇数や失業率の上昇に反映されやすい。

この是非を巡っては、いろいろな意見があるようだ。不況期にばっさりと従業員を切って、経営状態の改善を図り、業績がひとたび回復したときに再び雇用を回復させるのがいいのか、それとも、不況期でも従業員を抱え持ったまま景気が回復するのを待つのがいいのか。前者だと、企業経営の回復が早く、その結果、雇用の回復も早くなる、という声がある一方で、せっかく培った重要な人材を手放してしまうのは、業績回復時に大きなマイナス、という見方もある。また、後者だとその点では問題が少ないが、高い人件費を払い続けなければならず、業績の回復に時間がかかるどころか、企業自体がひっくり返ってしまうというリスクもある。

スウェーデンは前者のタイプだが、これからどうなっていくのか興味深いと思う。

レポート盗用の摘発

2010-04-25 09:23:46 | コラム
先日、学生の論文やレポートの盗用を調べるサービスについて紹介したが、現在私が担当している学部1・2年生を対象とした「(経済・経営向けの)統計学1・2」のレポート提出でも、もちろんこのサービスを利用している。

「統計学2」では、3月から4月にかけて4回の課題を与え、それぞれレポートとして提出するよう学生に求めてきた。学生は2人か3人のグループに別れ、共同作業でレポートを作成し提出する。

ほとんどの学生が一生懸命に課題に取り組み、授業中にもよく質問してくるので、教える立場としても面白いし、学ぶこともたくさんあった。

ちょうど今、最後(4つ目)の課題を採点しているところだが、「盗用チェックサービス」から送られてくる分析結果を見ながら、ある一つのグループのレポートの酷似率が85%と高いことに気がついた。他のグループが既に提出したレポートの内容と非常に似通っている、ということだ。ただ、統計学の課題提出では、答え方が限られる場合も多いので、酷似率が高いからといって、すぐにコピー・盗用だとは限らない。

しかし、分析結果を詳しく見てみると、選ぶ事例や小数点以下の切り捨ての仕方、あるいは表現・言い回しまでよく似通っていることが分かった。

念のため、同じグループが提出した過去3回の課題のレポートも確認してみたが、同様に別のグループのレポートと偶然すぎるくらい似ていた。しかも「コピー元」の疑いがあるとされるレポートを提出したグループが、4回の課題とも同じであることも分かった。その上、要所要所で表現を少しずつ変えて、「盗用チェックサービス」のチェックに引っかからないように努力したあとが明確に分かる部分もあった。無理に表現を変えようとしたために、スウェーデン語の統計用語として不自然な表現になっている箇所もあった。

私自身、ちょっとショックだった。授業ではほとんどの学生が熱心に課題に取り組んでいたから、他の学生のレポートを少しいじって提出するような輩はいないだろう、と思っていた。だから、「盗用チェックサービス」から送られてくる分析結果も簡単に目を通す程度だった。

と同時に、このサービスの精度の高さと利便性に感心した。バレないだろうと思って、ちょっと小細工をしても、ちゃんと弾き出してくれるのだ。また、クリックするだけで、問題箇所とコピー元の疑いがある文書・レポートの該当箇所が並べて表示される。


さて、私も初めてのことなので、経済学部の学生部長に連絡して、この後、大学としてどのような対応をすることになるのかを教えてもらった。決められた手続きを経た上で、最終的には経済学部が属する経済・経営・法学群(Handels)にある「規律委員会」に判断を仰いで、この学生を数ヶ月間、停学処分することになるようだ。

火山灰の続報・終わり

2010-04-23 17:45:38 | コラム
スウェーデンをはじめとするスカンディナヴィア半島は、火山灰の影響が弱くなり、木曜日は欠航便の数は大きく減った。ほとんどの空港は開放され離着陸が可能となっているが、火山灰の一群が時おり襲来するので、閉鎖されたり再開されたりといった状態の繰り返しだ。邪魔者のいない間に活動を開始して、いざ敵がやって来るとさっと身を引っ込めるヤドカリのようだ。

噴き上げられる火山灰の量も減少しているので、航空路線の混乱状態は沈静化に向かうと見られている。ただこれも、イギリスとオランダの政府がアイスランドに突きつけている厳しい要求を撤回するかどうかにかかっているだろう(笑)(← この火山噴火の背後には、イギリスやオランダに目にモノを見せてやりたいアイスランド政府の陰謀がある、という説によれば・・・。小国であるばかりに普段は軽く見られがちなアイスランドが自国の強さを見せ付けようとしているのかもしれない! 敵に回すと、あとが怖い。)

火山灰のために酷い目にあったヨーロッパでは、様々なアイスランド・ジョークが聞かれる。ただし、もう聞き飽きて、過食気味といった感じもある。それでも敢えてもう一つ紹介します。

「今日、何者かがスウェーデン首相に宛てて、脅迫状を送りつけた。脅迫文を書いた小さな紙切れが、首相官邸の玄関の郵便受けに今日未明に挟み込まれているの、警備員が見つけたのだ。」


「300億ユーロを用意して、今夜アイスランド大使館の横にあるゴミ箱に入れろ。そうすれば、火山の噴火を止めてやる。ただし、警察には連絡するな。」

スウェーデン語の単語をまともに綴ることができないアイスランド人が書いたと思われる(笑)。だから、アイスランド語もどきのスウェーデン語(でも、全然関係ないアルファベットも混じっている) やっぱり、奴ら(アイスランド政府)の仕業か!


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ところで水曜日は雨になる、と言われていたが、実は雪になった。気温が急激に下がり、まるで冷凍庫を開けたときの冷気のような冷たい空気が急に地上に降りてきたかのようだった。


今回の火山噴火はヨーロッパにとっては災難だけれど、それでも何か良い考えに持っていこうとすれば、それは上空を覆う火山灰が太陽光を遮り、気温を下げてくれることであろう。

昨年末のコペンハーゲン会議(COP15)では何も決まらなかった。金融危機で打撃を被った多くの国では、温暖化対策を真面目にやっていこうという気が残念ながら今は見られない。だから、この火山噴火によって少しだけ「猶予期間」をもらえたのは良かったと言えるだろう。

でも、アイスランドの火山の神様は「助けてあげるのは一度だけだよ」と言っているから、今後、積極的な取り組みを行っていく必要がある。

火山灰の続報・その4

2010-04-21 04:34:47 | コラム
昨日は天気がとても良かったので、自分の研究室の窓を一日中開けていたが、今日になってあることに気が付いた。

机の上に並べている書類の上がキラキラ光っている。よく見ると、黒い粒子が散らばっている。指でなぞると、粒子が黒く集まった。普通の埃とは違う。キラキラ光るガラス状のものも混じっている。

なるほど、やっぱりスウェーデンにも火山灰が既に落ちているのだ。




白く光っているのが見えるだろうか?



昨日はスウェーデン中央銀行金融政策を決定する定例会合が持たれたが、中央銀行総裁がスペインから戻って来れず欠席した。移動中だったのか、それとも行方が分からなかったのかは不明だが、電話による会合参加もできなかったらしい。

航空路線の麻痺はまだまだ続いている。一方、ヨーロッパの大手航空会社はEUの航空当局に対して、飛行禁止令を発令する基準を緩和すべきだ、と声を上げている。だから、EUは火山灰の濃度があまり高くないときは、航空各社に決定を委ねるということにするそうだ。

これに対し、スカンディナヴィア航空(SAS)やスウェーデンのパイロットの労働組合は、予防原則は守り、行政機関の発する飛行禁止令には従うべき、と安易な規制緩和には否定的な発言をしていた。

僅かな火山灰でも航空エンジンには大きな障害をもたらす可能性もあるというから、ここは慎重になったほうがいいのではないかと思う。今日実際に火山灰に触れてみて、ガラス状の粒子など様々な鉱物が含まれているのを見て、ますますそう思うようになった。

『週刊東洋経済』 2010年4月24日特大号

2010-04-20 07:07:22 | スウェーデン・その他の経済


昨日発売の『週刊東洋経済』 2010年4月24日特大号に、コラムを掲載しています。タイトルは「スウェーデンの回復が早い理由」です。

リーマン・ショックの直後、スウェーデン経済は大打撃を受け、スウェーデンの新聞各紙は「GDP激減!」「大量解雇!」「中央銀行が大幅利下げに踏み切る!」などなど、特大見出しを使って、あたかもスウェーデン経済の将来はもう真っ暗!というような印象を与える報道を行ってきました。

楽観的な性格であることもあるのですが、これらの見出しは明らかに大袈裟すぎる表現であって、スウェーデン経済の景気の落ち込みはそこまで激しくはなく、また、景気回復も当初は2010年後半になってやっとやって来るなどと言われていましたが、実は意外と早いのではないかと、このブログでも何度か書いたことがあります。

事実、既に2009年春先から明るい兆しが見え始め、後半からは景気回復基調となり、財務省や中央銀行をはじめ、大手の銀行系シンクタンクも2009年以降の経済成長率を上方修正し、また、失業率の予測や財政赤字の予測は下方修正されました。

そのあたりを踏まえた考察です。この号全体の特集は「世界と日本の構造変化がこの1冊でわかる! 経済超入門」です。面白そうな特集なので、是非ともお買い求めの上、お読みになってみてください。

火山灰の続報・その3

2010-04-19 05:56:17 | コラム
日曜日はスウェーデンとノルウェー両国の北部で飛行禁止令が解除された。しかし、スウェーデン北部の空港といえばどこも地方空港であり、ストックホルム間を行き来する定期便しかないため、ストックホルムの空港が閉鎖されている限りは、離着陸する飛行機は全くなかった。日曜日朝8時以降、離着陸が可能となったキルナ空港も、アメリカから企業の自家用ジェットが一機降りただけだった。小さな空港だけに、大型機の着陸は難しい。


アメリカを出発しキルナの空港に降り立った自家用ジェット


アイスランド航空は、アイスランドで立ち往生している乗客のために航空機を5機運行し、ノルウェーのトロンハイム空港へ降り立った。

日曜日の晩からは、ノルウェーの首都オスロの空港の使用再開が検討され始めた。ちょうど同じ頃、スウェーデン航空庁はストックホルムの空港の使用を翌朝、つまり月曜日の朝に許可するかもしれない、と発表した。火山灰が南に向かい始めたためだ。

この情報に驚いたのは、スカンディナヴィア航空(SAS)月曜日のフライトはほぼすべてキャンセルと発表していたものの、航空庁の発表を受けて、アメリカ発ストックホルム行き2便を運行できるかもしれない、と考え始めた。それから、アメリカ発コペンハーゲン行き2便の運行も検討し始めた。ただし、デンマークは月曜日も飛行禁止が解除される見込みなしだったため、ストックホルムに降ろすのだという。

でも、もしストックホルム上空に火山灰が滞留し、空港への離陸許可が下りなければ? その時は、オスロの空港に降ろせばいいという。でも、もしオスロも無理なら? 残念ながらその先の解決策があったのかどうかは分からない。同じ頃、気象庁は火山灰の一群がオスロ上空に向かいつつあることを告げていた・・・! オスロが無理なら、皆でパラシュートをつけて飛び降りるのだろうか? いや、そんなことをするくらいなら、もちろん火山灰の中を飛んで強制的に着陸するだろう。

アメリカ発のSAS機は予定通り離陸した。目指すはストックホルム。一度、飛び立ったら容易には引き返せない! 大きな賭けだ。同じ頃、ストックホルムの空港では、アメリカ行きの乗客に召集がかけられていた。アメリカから来た航空機を折り返して使用するから、チケットを持っている者は翌日早朝までに空港に来い! と。もし、ストックホルムの空港に着陸できず、オスロ着になった場合は、乗客を急遽バスでオスロまで運んでそこからアメリカに飛ばす。そういう手はずとなった。

さて、月曜日の朝、どうなることかと心配されたが、ストックホルムの空港には予定通り使用許可がおり、アメリカから来たSAS機は無事着陸。そして、折り返しアメリカへと飛び立った。しかし、ストックホルムの空港では、それ以外には国内便が数便飛んだり、旅行企画会社のチャーター機の数機がポルトガルやスペイン、ギリシャで立ち往生していた旅行客をストックホルムに運んだくらいで、目立った動きはなかった。スカンディナヴィア航空はデンマークのコペンハーゲンがハブとなっており、その空港が使えない間は、大部分の路線が止まったままなのだ。離着陸数は通常の5%に留まった。日中は、マルメを除くほとんどの空港で飛行禁止が解除された。


アメリカから飛んできたSAS機が無事着陸

これに関連して、スウェーデンの自動車メーカーであるボルボサーブは、部品在庫が枯渇してきた。一部を国外からの空輸に頼っているためだ。例えば、日本からオートマのギアボックスが届かないのだという。サーブの担当者は「マニュアル車の生産を一時的に増やす。つまり、アメリカ市場向けではなく、ヨーロッパ市場向けの車に重点を移すということ」と答えていた。

それから、ヨーテボリでは「サイエンス・フェスティバル」が今週開催され、昨年のノーベル経済学賞受賞者であるエリノア・オストロムが来る予定だった。ここヨーテボリ大学経済学部でも講演予定だったのだが、あいにくキャンセル。残念だが、仕方がない。

これを書いているのは、月曜日午後8時半だが、現時点で再びヨーテボリを含むスウェーデン南部で飛行禁止令が発令され、空港が閉鎖された。他のヨーロッパ諸国も、ノルウェーや東欧の一部・南欧を除けば、主要国でほとんど飛行禁止だ。

明るいニュースもある。火山からの噴煙の量が減っていること。これまでは、マグマが氷河から解け出した水に触れ、火口付近で水蒸気による爆発を繰り返していた。そのために、激しい噴煙が空中の高いところまで吹き上げられていた。しかし、氷河や水分はほぼなくなり、現在は空中からマグマが目視できる状況らしい。そのため、噴煙は次第に減っていくものと見られている。

それから、スウェーデンでは水曜日に激しい雨になる見込みで、それによって噴煙が地上に落ち、上空が澄んでくるという。


フランクフルト国際空港の付近の住人が道路標識に貼り付けたジョーク。「火山よ、ありがとう!」 ここ数日は、静かに暮らせているという(笑)。

火山灰の続報・その2

2010-04-18 20:23:54 | コラム

よく晴れた日。え、火山灰? 何の話? そう言われれば、
少し霞んでいるとも言えなくないが・・・。 (自宅の窓から)


日曜日昼の時点では、ドイツ、イギリス、フィンランド、さらにはイタリア北部やスペインでも航空機の飛行が禁止されている。

スウェーデンでも状況は同じだが、国内最北端のキルナ空港ではスウェーデンの航空庁が離着陸を朝8時から許可。キルナから西向きの部分に、火山灰のない隙間(コリドー)が形成され、航路が一時的に確保されたためだ。アメリカを出発した民間企業の小型機が既に8時半に着陸したという。

ヨーロッパ上空に滞留する火山灰の濃度が薄くなる見込みなし。むしろ、月曜日から火曜日にかけてさらに濃くなる可能性が大きいという。

下のリンクは、ノルウェー気象庁の作成した分かりやすい動画。先週の噴火直後から火曜日早朝までの火山灰の流れ(一部予測)を描いている。これを見ると、航空機の運行再開を待ちわびている人には気の毒だと思う。
ノルウェー気象庁(まるで、コーヒーに入れたクリームのようだ)

じっくり観察したい人は、このパワーポイントのリンクをクリック。

スウェーデンでは、火曜日から水曜日にかけて激しい雨が降る可能性があり、その場合、上空の火山灰が雨とともに地上に落ち、飛行が再開できるかもしれないとのこと。

ちなみに、土曜日にはドイツのミュンヘンとフランクフルト間で旅客機の試験飛行が行われ、火山灰が機体に与える影響が調査されたが、大きな問題は確認されなかった。ルフトハンザやKLMは、飛行再開をヨーロッパ航空管制局に要請している。日曜日にはさらに複数の試験飛行が行われ、調査が継続される。

ノルウェーやイギリスには火山灰の一部が落下しているが、中には微小のガラス片も混じっていたとの報道あり。

BBCによるアイスランドの映像

火山灰の続報と「対英蘭・仕返し」説

2010-04-17 03:33:54 | コラム


アイスランドの火山噴火がもたらした火山灰のために、ヨーロッパの航空路線は麻痺状態だ。当初はイギリス、オランダ、ベルギー、デンマーク、スカンディナヴィア半島など北ヨーロッパだけの影響に留まっていたが、風向きのために火山灰が南にも向ったため、より広範の地域で飛行禁止令が発令され、空港が閉鎖されている。

前回は、スウェーデンの外務大臣カール・ビルトが、ロンドンから飛行機に乗れなかったため、鉄道でベルギーのブリュッセルに移動し、ここから飛行機でストックホルムに戻ろうとしたものの、ブリュッセルの空港も閉鎖されていた、という可哀想な話を紹介した。

さて、その後どうしたかというと、彼はブリュッセルから車を手配し、ドイツのハンブルグを経て、フェリーに乗ってデンマークに渡り、そこから車での移動を続け、海峡大橋を渡ってスウェーデンにたどり着き、自身の故郷であるハッランド地方を通過し(ハッランド地方は美しい、とブログに書いている)、ヨーテボリでの党会合に合流したという。

地図で見ると、ロンドンからブリュッセルなんて、ブリュッセルからスウェーデンまでの道程に比べたら目と鼻の先、という気さえしてくる。


赤は領空が完全に閉鎖された国、黄色は領空の大部分が閉鎖された国。ただし、これは土曜日朝刊に掲載された地図なので、その後、さらに拡大されている。

ヨーロッパ全体では、1日に29000便の航空機が飛んでいるというが、このうち半分以上が欠航しているようだ。空路が閉鎖されたヨーロッパ各国では、陸路に変更して移動する人々のために、鉄道やバスが満席状態だ。

スウェーデンでも、ストックホルム-マルメ間ストックホルム-ヨーテボリ間の幹線が満席状態で、Intercity特急X2000の列車編成を長くして運行している。国鉄SJが言うには「キャパシティーを100%利用して一人でも多くの座席を確保しようと努めている」とのことだ。X2000の2編成連結(6両×2編成=12両)はもちろんのこと、ストックホルム-マルメ間では、前代未聞の3編成連結(18両)まで行われているとか。詳しいことは分からないが、おそらく停車駅ではプラットホームの長さが足りないだろうから、編成ごとに順番に2回か3回に分けて停車しているのではないだろうか?

陸路ではるばる移動したのは、カール・ビルトだけではなく、イギリスのコメディアンであるジョン・クリーズもだ。たまたまノルウェーのオスロでトークショー(Skavlan)の収録があったものの、帰りの飛行機が欠航し、フェリーもなく、鉄道の切符も取れなかったため、スウェーデン、デンマーク、ドイツなどを経由する合計1500kmの陸路を何とタクシーを使って移動し、イギリスに戻ったという。運賃は総額3万ノルウェー・クローナに達した。日本円にすると50~60万円くらいだろうか。運転を途中で交代するため、運転手は2人いたという。

スウェーデンのタクシー会社も、ストックホルムからヨーロッパの各方面に特別にタクシーを走らせている。ストックホルムからオスロまでは6850スウェーデン・クローナ(約9万円)。コペンハーゲンまでは8500クローナ(約11万円)、ハンブルグまでは1.2万クローナ(約16万円)だとか。ドイツやフランスにいるスウェーデン人からもストックホルムのタクシー会社に問い合わせがあり「はるばる迎えに来てくれ」という注文があるが「それは無理。現地のタクシー会社に頼んでくれ」と断っているらしい。

下の図が示すとおり、火山灰は6000~8000メートル上空に主に集まっているという。しかし、スウェーデンではヘリコプターの飛行もできず、急患を運ぶ救急ヘリの運用も制限されている。よく分からないが、火山灰がそれよりも下の高度に滞留・落下する可能性もあるということなのだろうか?
(火山灰がエンジンに入り込むのを防ぐフィルターが装着された救急ヘリはゴットランドとヨーテボリに2機しかないとか。でも、めったにしか起こりえないのだから、2機あることだけでも驚きだ。先ほどそのうちの一機がヨーテボリ大学の大学病院の上空を飛んでいるのが、私のアパートの窓から見えた。)


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前回、この火山噴火は金融バブルで大はしゃぎして、その後、経済危機のどん底を経験することになったアイスランド人に対するアイスランド神話の神様の戒めではないか、という説を紹介した(笑)が、よりもっともらしい説が実はある。それは、むしろ哀れなアイスランド人に味方する神様の御加護ではないか、というものだ。

アイスランドでは、ICESAVE銀行という銀行がバブルの頃、高い利回りを約束してイギリス人やオランダ人から多額の預金を集めていたが、金融危機に伴って、それが全部焦げ付いてしまった。アイスランド政府は、国内の預金者に対しては預金保護法を適用して預金を保護したものの、海外の預金者の救済は拒否した。

これに怒ったイギリス政府オランダ政府は、ICESAVE銀行に預けていた自国の預金者を自腹を切ってまず救済したうえで、その費用をアイスランド政府に支払うように要求した。金融危機と財政危機の中、アイスランド政府にはそんなお金がない。しかし、この要求を飲まなければ、アイスランドのEU加盟を認めない、とこの両国は迫った。

結局、アイスランド政府今後15年にわたって分割払いで両国に返済することを決定したが、これを巡っては国内で猛反対が起き、国民投票ではNO!という結果になった。

このアイスランドとイギリス・オランダ両国の争いは、このブログでも紹介したことがあるが、二つの国が人口30万あまりの小国を袋叩きにしているような感じさえする。

だから、それを見かねたアイスランド神話の神様は、イギリス・オランダに仕返ししてやろうと、火山を爆発させて、大量の火山灰をこの両国に送り込んだのだった。事実、この両国で航空路線が見事麻痺している! スウェーデンも、アイスランドの財政救済を巡って対立したことがあったので、今頃、しっぺ返しが来ているのだろう(笑)

経済危機で国が丸ごと敗退してしまったのだから、潔く負けを認めなさい! それとも、まだ抵抗を続けるつもり?

ヨーロッパを襲う新たな「暗雲」

2010-04-15 01:07:21 | コラム
ここのところ非常に忙しくて、更新が難しいです。

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財政危機に陥っているギリシャに対して、EU諸国は非常時に財政支援を行うことを先日やっと合意した。そのため、状況は少しは落ち着きつつある。

しかし今、ヨーロッパを新たな暗雲が襲いつつある

問題の根源はアイスランド。アイスランドといえば、金融危機に伴ってそれまで膨らんでいた金融バブルが見事に弾けてしまい、IMFをはじめ他国からの特別融資の支援を受けてきた国だが、そんなアイスランドがまた大きな問題を引き起こしている

だが、今回は経済の話ではない。まさに「暗雲」の話だ。

アイスランドでは、1ヶ月ほど前から火山活動が激しくなっていたが、昨日エイヤフィヤッラヨークルという火山が大きな噴火をした。氷河のある所での噴火のため、溶岩によって溶けた大量の水が洪水を引き起こし、地元では数百人の住民が避難をした。

しかし、問題は地元だけに留まらなかった。噴煙が大きく噴き上がり、それが現在、北ヨーロッパに流れ込んできている。ノルウェーやスウェーデンの北部では今朝から飛行禁止令が発令され、空港が封鎖された。空中に舞う火山灰のために、航空機が影響を受けるためだという。

イギリスでも、航空機の飛行が既に午前中から全面的にストップしたようだ。スウェーデンの外務大臣カール・ビルトは、飛行機でイギリスからストックホルムに飛ぶ予定だったらしいが、欠航となったため、急遽、鉄道の切符を手配し、ユーロスターでドーバー海峡を渡り、フランス北部を経て、ベルギーのブリュッセルに向かう、と自身のブログに書いていた。ブリュッセルから飛行機でストックホルムへ、と考えたのだ。

しかし、彼の期待は裏切られることになった。せっかくベルギーに着いたものの飛行機がここでも飛ばない!という事態になっていたのだ。

スウェーデンも、今日の午後からは北部だけでなく、ストックホルムやヨーテボリの空港も飛行禁止令が発令され次第に閉鎖されてしまった。これを書いている今の時点で飛行機が離着陸しているのはゴットランド島のヴィスビューだけと言う。しかも、今日の夜10時ごろにはここも閉鎖される。


ニュース動画


ここヨーテボリでは地上から見上げてみても、空が多少霞んでいる程度で、火山灰の噴煙がどっしりと立ち込めている、という印象は全く受けない。

以前このブログで、今年初めにアイスランドの経済崩壊について書いたときに「一国が破産するって、もしあるとするとどういうことなんでしょうね。」という質問をもらったことがあったが、その時に冗談半分で「見るに見かねたアイスランドの火山の神様が怒り狂って、火山が大爆発。」と書いた。
以前の書き込み(コメント部分)

まさにその通り、アイスランド神話の神様Asagudarnaが怒ってしまったのではないのだろうか?(笑)

国鉄SJのユーモア

2010-04-11 01:17:33 | コラム
3月下旬のある雪の日、イェーヴレ駅のプラットホームに入ってきたスンスヴァル行きの特急列車。



6両編成(+機関部分が1両)のこの列車は、前から
     1号車、2号車、2号車、3号車、4号車、5号車

またしても国鉄SJのユーモアに違いない(笑)! それとも、このミスも雪と寒さのせい?

これから乗り込もうとする乗客と車掌の会話:

車掌 「あなたの座席はどの車両?」
乗客 「4号車。」
車掌 「4号車ね。そこの『3号車』って書いてある車両に乗り込んで。『4号車』のことだから」
別の乗客 「私の座席は2号車なのだけど、この車両で正しい?」
車掌 「ダメダメ、この『2号車』には乗らないで。その向こうの『2号車』に乗って! この『2号車』は本当は『3号車』だから。」

乗客の頭は混乱状態。この特急列車で働く車掌にも、高度な思考能力が必要とされるに違いない。

学生の盗用・コピーをチェックするための画期的な方法

2010-04-06 08:13:45 | スウェーデン・その他の社会
スウェーデンはIT先進国だと言われ、私も当初はずいぶん大袈裟な表現だと疑ったこともあったが、調べてみるといろいろな面でIT化や電子化が実用的な形で生かされていることに気づく。インターネットの普及や利用者の増加は他の国に比べても早かったし、それに対応する形でネットを利用した銀行取引などのサービスも早い段階で導入された。国税庁や社会保険庁もデータ管理や年末調整をIT化によって効率させたし、早くも2001年か2002年頃からネット上で確定申告ができるようになった。

携帯電話を財布代わりに使えるようなシステムこそないが、一方で、銀行カード(デビッドカード)やクレジットカードでの支払いは、私がスウェーデンに住み始めた2000年の段階で基本的にどこの商店やレストランなどでも可能だった。コンビニでも、小額の買い物からカードを使うことができた。

例はまだまだあるが、一般論として言えるのは、スウェーデンの社会は、新しい技術や製品を日常の生活の中でいかに実用的に生かしていくかを考え、実行していくのが上手だと思う。実用的なものである限り、それが他の国にない超最新のものであるかどうかにはこだわらない。技術そのものは既に確立されたものでもいい。ハイテクでなくたって、ローテクでもよい。要は、それをいかに活用していくか? それが重要なのだと考えられているように思う。そして、その活用の仕方が一つの新しい「技術」としてスウェーデンから「輸出」されていくことになる。

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ITのうまい活用の仕方として、もう一つ紹介したい。

現在は研究のかたわら、スウェーデンの大学の学部生を相手に、いくつか講義も担当しており、学生にレポートなどの課題提出を求めることも多い。そんな時、学生は自分達(多くの場合グループワークなので)のレポートを直接、私に提出するのではなく、Wordの文書として私宛の特別なメール・アドレスに送信する。

これは、ネット上で見つけた文章や他の学術論文、もしくは他の学生が以前書いたレポートの一部をそのまま自分達のレポートに使うという盗用や剽窃を防ぐためのシステムなのだ。

特別なアドレス、と書いたのは、私の通常のアドレスではないということである。その特別なアドレスに送られたメールは、添付された文書がすべてフィルターにかけられ、ネット上の情報や学術論文、他の学生や他大学の学生が過去に書いた様々なレポートと照らし合わせ、全くの盗用やよく似た文章がないかどうかがチェックされる。

そして、私の通常のアドレスには、その学生のレポートのオリジナルファイルと、フィルターにかけた分析結果がメールで送られてくる。

例えば、こんな感じだ。(もともとスウェーデン語ですが和訳しました)

      文書ファイルのタイトル:「所得税減税が所得再配分に与える影響の理論的考察.docx」 

      結果:この文書の約7%の部分は、別の3つの文書の一部と酷似していることが分かった。
            酷似箇所の最長は29文字であり、その部分の酷似率は89%である。

      分析結果の詳細を見る場合は、以下のリンクをクリック。
      https://**********************80498-71548

      オリジナル・ファイルをダウンロードする場合は、以下のリンクをクリック。
      https://**********************c7=78272


そして、分析結果の詳細をクリックすると、盗用の疑いがある3つの箇所の抜粋と、それと酷似しているそれぞれの文書の該当箇所を見ることができる。ある時はそれがネットからの丸写しであることもあるし、ある時はある概念の定義の説明として、その情報源をきちんと示した上で引用しているケースもある。また、課題の内容によっては、学生の答え方がどうしても限られてくるケースもあり、その場合は盗用の意図が全くなくても、高い酷似率が示されるケースもある。

盗用チェックの際に比較対照として利用されるデータベースは、かなり膨大だ。一般公開されているサイトはもちろんのこと、パスワードが必要なサイトもデータベースに加えている(100億ページに及ぶサイトをカバーしているという)。また、出版物にしても、PDFファイルとしてネット上で手に入るものだけでなく、百科事典や日刊紙、学術雑誌、さらには一般書籍の一部も加えられている。学生が過去にこのシステムを通じて提出したレポートや論文も蓄積されている(その数は2009年2月の時点で150万部に及ぶとか)。そして、データベースは常に拡大している。

また、スウェーデンのほとんどの大学が同じ盗用チェックのシステムを利用しているため、他大学の学生が提出したレポートを、別の大学の学生が入手して、自分のレポートに一部分をコピーして提出した場合でも、盗用を暴くことが可能となる。このシステムは、課題・レポート提出だけでなく、学士論文や修士論文の提出の際ももちろん利用されている。


今から振り返ってみれば、学生のレポート作成作業もここ20年で大きく変わっただろう。ワープロやパソコンの登場によって、それまで手書きだった作業がモニター上でできるようになった。そして、インターネットが登場し、それが提供してくれる情報量が膨大になるにつれ、コピー&ペーストするだけで、それらしいレポートが簡単に作成できるまでになってしまった。だから、盗作や剽窃は世界中の大学が頭を悩ませているのではないだろうか。

スウェーデンでは、大学教員の数人がITやネットを活用した効率的チェック方法のアイデアを提案し、早くも2000年からこのサービスが事業化することになった。最初は限られた数の大学しかこのサービスを利用しなかったが、大学教員からの評判がよく、また、大学教育における盗用問題が社会的な問題となるにつれ、利用大学が増えていった。私がリサーチアシスタントとして働いていたヨンショーピン大学も2003年からこのサービス会社と契約を結んだ。大学教員向けの説明会が何回かあったのを覚えている。そして、私が今在籍してい

スウェーデン国内におけるこのサービスの成功談は、国外にも伝わっている。このサービスを提供しているスウェーデンの企業は、北欧諸国やヨーロッパ諸国、そしてアメリカなどでも事業を展開するようになっているのだ。

ボルボ・カーズが正式に売却

2010-04-01 08:02:06 | スウェーデン・その他の経済
ボルボ・カーズの買収契約は、先週末の土曜日にヨーテボリで正式に交わされた。



契約の締結に合わせて、中国からは副主席がわざわざスウェーデンへやってくるほどの気合の入れ様だ。副主席をヨーテボリの空港から市内まで送る車列はほとんどがボルボ車だったのにもかかわらず、副主席の車はメルセデス・ベンツだったというゴシップが地元紙を騒がせていた。

天然資源関係ではなく、質や技術力という分野で中国企業が欧米企業を買収するというパイオニア的な一大事業とあって、国の威信もかかっているのだろう。ヨーテボリ大学経済学部のある教授が地元紙の記事の中で指摘するまでもなく、「中国という国は、民間企業と国・政府との境目が分からない国」だ。企業はたとえ民間であろうと、政府や共産党の一声でどうにでもなってしまう。そんな閉鎖的な国の資本に牛耳られることになって心配ではないかと思うが、その教授によるとwin-win situationで、資本と新しい市場が欲しいボルボにとっても、技術力が欲しい中国にとっても好都合だという。また「中国政府が外貨準備の投資先としてボルボを選んだと見るべき」とも書いていた。確かに、買収資金の多くの部分は中国政府からの貸付だ。

また、彼は「中国の民主化にも貢献する」と楽観視している。中国企業は、このような買収活動を続けていく中で、労働者の権利や情報の公開の仕方、西側の商取引のスタンダードなどを学ばざるをえず、それが閉鎖的なこの国に新しい規範を持ち込んでくれるだろう、と語っている。

では、もし仮に中国にとってはプラスだとしても、ボルボにとっては本当にプラスなのだろうか?

この点については、スウェーデンでも見方が大きく分かれている。技術系の従業員からなる労働組合は最後まで抵抗していたし、部品を製造する下請企業の業界団体は今でも否定的だ。彼らの懸念は、これまでも何度もこのブログに書いてきたとおりだ。

労働組合が抵抗していたのは、これまでの交渉過程が非常に閉鎖的で不透明だったこともあるし、もちろん、仕事がスウェーデンから流出するのではないか、ということだ。だからこそ、彼らの不満をなだめるために、Geelyの社長は「ボルボは今後も独立した企業として経営を行う。生産拠点も現在のヨーテボリとベルギー(ゲント)を維持する」と説明していた。しかし、同時に「中国にも生産工場を作る」と発言している。だから、長期的には人件費の安い中国に徐々に生産活動の重点が移っていく可能性も十分にある。

あとは、イメージの問題だ。少なくとも現状では「中国=質の低さ」を連想する人が多いだろうし、今後も中国での人権侵害や少数民族抑圧などといったスキャンダルが定期的に世界のメディアの関心ごとになるだろうから、そうなった時にボルボがどのような「とばっちり」を食らうのか? 消費者からどのように扱われるのか? そもそも、スウェーデンの人たちが今後もボルボを買い続けるのか? 今後、非常に興味深いと思う。