スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

東京メトロの壁広告

2006-08-31 23:53:49 | コラム
スウェーデンの新聞も伝えています・・・。

インタビューをされた通行人の反応。

Tsuyako Egashira(83歳)
「世の中、おかしくなっちゃったね。妊娠中の女性がどうして自分のお腹を見せなきゃいけないの?」


それに対して、楽観的なおじいさん。
Takuro Shimizu(78歳)
「いや、いんじゃないの?出生率が上がって、少子化に歯止めがかかるかもね。」

フーリガンの止めたサッカー試合

2006-08-30 05:31:40 | スウェーデン・その他の社会
今まで何度かサッカーの試合を見に行ったことがあるが、試合が終わってアリーナを出るときには、いつも大勢の機動隊が立っていてビックリする。血の気の多いそれぞれのチームのサポーターが、試合後にアリーナ周辺や街中で衝突して、大混乱になることがあるためだ。

と思ったら、試合中にもワザワザ騒ぎを起こす者もいるようだ。昨日ストックホルムで行われたトップリーグ(Allsvenskan)のDjurgårdenHammarbyの試合。途中から一部の若者がグラウンドに物を投げ込んだり、審判や大会関係者に異物を撃ったりし始めた。しまいには駆けつけた機動隊に花火を撃ちつけたり、グラウンドに乱入するバカ者まで出る始末。後半戦が始まって間もなく、試合中断となった。(下の映像をクリック)

どうやら、騒ぎを起こしたのは、サポーターの中でも、ワザと騒ぎを起こそうと企んでいるフーリガン集団。現場での取り押さえとともに、その後、何人かビデオ映像で特定されて逮捕されたとか。

騒ぎに関与した個人を今後、アリーナへの立ち入り禁止にし、損害賠償を求めるとともに、サポーターが属するチーム自体にも連帯責任を課す。リーグの中でのポイントを減点するので、首位争いには致命的だ。首位争いだけでなくて、過去の例では、減点のおかげでトップリーグから第2リーグ(Superettan)に降格したチームもあるという。または場合によっては、ホームでの次の試合をそのチームの観客なしで行う、という制裁もある。だから、騒ぎを起こした連中にはこういう形でも責任をとってもらおう、という訳だ。

ただ、フーリガンの中には、自分のチームがどうなろうと、騒ぎを起こしてアドレナリンを噴出させることだけを目的としている輩もいるから、あまり効果がないかも。

日本では、こういう騒ぎはあるのだろうか? こういう騒ぎも“サッカーの盛んな国”の証なのだろうか・・・?

育児にまつわる論争 - 「在宅育児手当」編

2006-08-29 17:29:43 | 2006年9月総選挙
スウェーデンの家族政策の一つの柱は、生まれた子供はできるだけ早い段階で保育所に預けて、女性は職場に戻るべき、という考え方だ。いろいろな理由が考えられるが、一番重要なのは、①女性の職業キャリアに“育児休暇”という穴が開けば開くほど、その後、賃金や昇進の面で男性と比べて不利になってしまうから、という男女平等・女性の社会進出の観点に立ったもの。または、②子供を家庭から早く外に出させて、他の子供との関わりを学ばせたり、社会経験を積ませたほうが、子供の発育にとっていい、というもの。どこかで読んだ調査では、“保育所デビュー”が早いほど、その後、学校での成績が良かったり、社交性が身に付くことでその後の人生で世の中をよりうまく渡っていける、という傾向が示されたという。さらには③共働きでないと経済的にやっていけない、という切実な理由もあるようだ。スウェーデンの税制は基本的に一人一人を単位にしており、日本のように夫婦ひとくるめで税金を課すということはない。だから、家庭にこもった奥さんの考慮して、課税の際に男性の給料から控除を認める、ということはない。スウェーデンでは、それまでの給料の最大80%が支給される育児休暇を16ヶ月間とることができるが、その育児休暇が切れるまでに職場復帰する女性が多いようだ。(育児休暇や男女の取得率については、次回に詳細)

①の男女平等の観点などは、もっともだと思うのだけれど、逆に、自分の子供は家庭でじっくり育てたい、という声もある。しかし、③のような経済的理由で、それが難しいらしい。

スウェーデンの家族政策を作り上げてきたのは、長い間政権に就いてきた社会民主党の努力によるところが特に多いが、それを批判する声としては「スウェーデンでは、子持ちの親に選択肢がない。」というものだ。つまり、女性が自分で子供の傍にいて子育てをしたいのに、それができない、ということ。

「在宅育児手当」の導入
家族の中の絆を重視するキリスト教民主党は、今の子供は家庭の中での愛情によって育っているというより、むしろ保育所という社会化された環境の中で育つようになってしまった、と嘆く。そして、子育てという、本来は家庭内で行われて活動を、再び家庭に取り戻すべきだと、主張する。

それを可能にするための手として、彼らが提案するのは市による「在宅育児手当(vårdnadsbidrag)」の給付。つまり、家庭に残って育児をする親(主に女性)のために、月6000クローナ(10万円弱)の経済的な手当を給付しよう、というものだ。(これとは別に、子供がいるすべての家庭が給付を受ける育児手当(barnbidrag)が現行制度にあるが、これは別物)

この提案は、以前から聞かれていたものだったが、左派ブロック(社民党・左党・環境党)それに野党の中でも自由党などは"女性にとっての落とし穴"(Kvinnofälla)と呼んで、聞き入れてこなかった。つまり、家庭にいて手当がもらえるとなると、まだ小さな子供を持つ母親が敢えて職場に出て働き、仕事と家庭を無理して両立させようとするよりは、最初から家庭にいればいい、という考え方につながりかねない。男女平等を重視するこれらの党にとっては、理念と逆行する主張だったのだ。

こうして、「在宅育児手当(vårdnadsbidrag)」のアイデアは、与党によってこれまで封じられていた。しかし、現行法の網をかいくぐって、それでも「家庭育児手当」をもらおうという試みもあった。手としては、母親が自分の子供を見るための“保育所”を自営業として立ちあげた上で、ふつう私的の保育所が運営のために市から受けている補助金と同様のお金をもらい、その中から「雇用者税(社会保険料)」を払った上で、自分の懐に入れるというもの。

もしくは、ストックホルム近郊のTyresö市(右派政党が政権を持つ)では、市自体が、家庭で育児したい母親を集めて、ペーパーカンパニーを設立し、自宅で自分の子供の面倒を見ている母親を“この会社から派遣された職員”と見立てることで、彼らに給料を払う、という形をとっているのだ。

キリスト教民主党の主張が通れば、こんな迂回したことをしなくても、各市が希望する家庭に「家庭育児手当」を給付することが可能になるのだ。

キリスト教民主党が属する「右派ブロック」の中では、これまで足並みが乱れていた。女性の地位向上を目指す自由党が以前からこの考えに反対していたからだ。しかし、先週末、自由党が妥協する形で、「右派ブロック」としてこのアイデアを推し進めていくことが合意された。

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そういえば、もう何年も前にウプサラでタクシーに乗ったとき、イラン人の運転手とこの話をした覚えがある。小さな子供がおり、この夫婦としては奥さんが家庭で子育てをしたいのだけれど、それがなかなか難しい、と嘆いていた。彼のように、外国から、特に女性の社会進出がスウェーデンほど進んでいない国から来た人にとっては、家庭での育児、というのは切実な願いなのかもしれない。それに、男性なら何とかして仕事を見つけることができても、それまでスウェーデンで働いたことがない女性にとっては、いきなり家庭の外で働け、と言われてもそう簡単にできることではないだろうし。

(スウェーデンでの子育て経験はないので、上に書いたことにもしかしたら間違いがあるかもしれません。ご指摘ください。)

伯仲する世論調査の結果

2006-08-28 04:13:34 | 2006年9月総選挙
総選挙をあと3週間にして、現在、政権に就いている「左派ブロック」と、12年ぶりに政権復帰を目指す「右派ブロック」への支持率が伯仲している。世論調査を行っている機関はいくつかあるが、そのほとんどで「右派ブロック」が僅差で「左派ブロック」に勝っている。このままだと、「右派ブロック」が勝利か? と思うのはちょっと気が早い。実は4年前の総選挙でも、選挙を1ヶ月前にして「右派ブロック」が僅差で勝っていたのだけれど、選挙運動のラストスパートで風向きが左になびき、「左派ブロック」が勝利したのだった。


青が「右派ブロック」、赤が「左派ブロック」

実は前回は、選挙結果がはっきりした後で、世論調査の信憑性が議論された。投票日が近づくまでずっと「右派」がリード、と伝えられていたのに、蓋を開けたら、社民党率いる「左派」が勝った。有権者が直前になって支持を変えた、または無党派層の獲得に「左派」が勝利した、というのも大きな要因かもしれないが、もしかしたら、世論調査自体がいい加減なのではないか?、と。

とはいっても、世論調査はスウェーデンの700万人前後の有権者から2000人ほどを無差別に選んで、インタビューし、その結果から全体像を割り出すわけで、誤差を完全になくすことはできない。各調査機関は、それでもより正確な結果を出そうと、いろいろな手でインタビュー結果を分析している。

多分、一番単純なのは「どの党に投票しますか?」と尋ねて、結果を年齢別、性別で分けて、そのバランスが母集団(つまり、スウェーデンの有権者全体)と同じになるようにして、集計する。

ただ、この方法だと、誤差幅が大きく、調査をするたびに結果がアップダウンしてしまうらしい。別の調査機関は、現在の支持だけでなく、前回の総選挙での支持も同時に尋ねるのらしい。つまり、「前回、※※党に投票した人が、今は○○党を支持している。」という情報を得る。そして、“前回の支持政党”というカテゴリーで短冊切りにして、各カテゴリーの中で、現在の支持がどのように分布しているのかを調べて、最後にその重加平均をとる。(もちろん、性別や年齢などの他の要素も調節した上で)これだと、より安定的な数字が出るらしい。

このような集計方法の違いが、上のような調査機関による結果の違いを生み出しているとか。

社民党の首相Göran Persson(右)と、対する「右派ブロック」の首相候補Fredrik Reinfeldt

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そもそも誰にインタビューをしているのか、と思うが、だいたい、家の固定電話にランダムにかけるみたいだ。私も、自宅の固定電話に何度か電話がかかってきて、世論調査を受けたことがある。国政での支持政党を尋ねられたこともあり、素直に自分の支持を答えておいた。(国政での選挙権がないことは言わなかった。)

そのほかには、アルコール摂取の頻度について。ワインやビール、強酒などをどのくらいの頻度でどの程度飲んでいるのか? ちょうど、その時は気分が優れず、憂さ晴らしに週末は友達と飲んだり、平日も家で晩酌なんかをよくやっていたから、私の答えもスゴイ量になった。多分、スウェーデン人の一般的飲酒傾向を大きく揺るがして、誤った調査結果を作ってしまったかもしれない・・・(笑)。

若年者の雇用を増やすには・・・? (2)

2006-08-26 06:14:22 | 2006年9月総選挙
中央党(Centerpartiet)は、若者を『雇用保護法』の適用から除外して、彼らをより自由に解雇できるようにすることで、企業が逆に雇いやすくしようとしている。

これに対し、保守党は、若者を雇うときの企業のコストを減らす形で、彼らを雇いやすくしたい考えだ。
失業中の若者を雇った場合には、社会保険料を免除する。

働く者の受け取る月給のうち、一部は源泉徴収の形で、所得税として取られる。スウェーデンの場合、いくら所得が低くても、極端に低い場合でない限り、約30%の地方税を所得税として収めなければならない

これとは別に、企業は労働者の給料の額の32%を、所得税とは別に、国に納める。これを「支払給与税(payroll tax)」とか「社会保険料」と呼んだりする。この「社会保険料」には、老齢年金の積み立てや、疾病保険、育児保険、労災保険などの保険料が含まれている。

つまり、企業がある労働者を雇うときに考慮しなければならない“労働コスト”とは、支払う給料(手取り+所得税)とこの社会保険料を足したものなのだ。

保守党の提案は、6ヶ月以上失業中の若者を雇った場合には、その企業に「社会保険料」を免除してやろう、というもの。そうすれば、彼らの労働コストが今よりも3割以上も減少して、企業が雇いやすくなるだろう、という考えからだ。

しかし、だからといって、彼ら若者の社会保険を無視して言い訳ではない。その保険料を企業が払う代わりに、国が立て替えてあげましょう、ということなのだ。だから、この案は国にとってお金がかかる。本来、減税と小さな政府を主張する保守党だが、ここ1、2年は路線転換をしてきており、今のレベルの福祉の維持のためには、大きな政府も必要、と(本気かどうかは別として)主張するようになっている。この提案も、その路線変更の一つの顕れと見てもいいかもしれない。

若年者の雇用を増やすには・・・? (1)

2006-08-25 05:17:12 | 2006年9月総選挙
スウェーデンの経済は成長率も高い。去年にしろ今年の上半期にしろ、多くの企業が業績を伸ばしている。それなのに、雇用のほうが付いて来ない。

現在、野党である「右派ブロック」は、この雇用問題に対する解決策を示すことが政権獲得のためのカギとしている。経済の現状を「100万人以上が労働市場の外に追いやられて社会保障漬けにされてしまった経済」と描写した上で、それを改善するためには、どうしたら新たな雇用が生まれるか、どうしたら働くインセンティヴが生まれるか、右派ブロックなりのプログラムを示している。

一方で、政権を担当してきた「左派ブロック」は、現状を「絶好調のスウェーデン経済」と描写した上で、様々な手で既に方策を施している、失業問題どころか近い将来には労働力不足になるからそのための備えとして、労働者の再教育や大学への進学率を高めておく必要がある、さらには、現在、労働市場から溢れてしまった人には、生活を支えるための保障が必要、としている。

(同じ現状を分析するにも、これだけ違った見方が為されているのは、注目に値する。いくら客観的に思える事実の描写でも、事実のどの部分を強調するか、という選別には、どうしても主観が入り込んでしまう。だから“正確な情報”なんていうのは有り得ず、どんな情報にもそれを伝える人の意図がある程度、織り交ぜられていることを忘れてはならないと、つくづく実感。)

さて、まずは中央党(Centerpartiet)の提案。
『雇用保護法』の適用対象から若者を除外する
スウェーデンは戦後の歴史の中で、主要なブルーカラー労働組合であるLOと、長く政権についてきた社会民主党によって、労働者の権利の向上が段階的に進められてきた。その「スウェーデン型労働市場政策」をなす大きな柱の一つが『雇用保護法』。この法律は、解雇における労働者の権利、それから、雇う側が労働者に対して守らなければならない規則を規定している。

『雇用保護法』(Lagen om anställningsskydd)(通称、LAS):1982年制定
- 解雇には“正当な理由”が必要。“正当な理由”としては、①与える仕事がなくなった、もしくは、企業に経済的な余裕がなくなった場合、②労働者自身の問題、つまり、業務における怠慢・不注意や能力不足など、に限られる。
- ①の理由で解雇を行う場合には、まず誰から切っていくか、つまり「解雇順序の規則」が決められている。俗に「Sist in, först ut (Last in, first out)」と呼ばれるように、勤続年月が一番少ない人から解雇されることになっている。勤続年数を数える場合には、45歳以降に勤めた年数は2倍されて算入される。つまり、中高年の労働者には有利な規則だが、これは再就職が比較的に難しい中高年の労働者を保護することを目的としている。
- ②の、業務における怠慢・不注意の場合でも、その労働者を配置換えや職務内容の変更など、雇う側がある程度の努力を尽くした上で、それでもその人が不適切である、とされなければ、解雇できない場合もある。年齢(若すぎる、または、歳取りすぎ)は“正当な理由”に含まれない。(注:スウェーデンの退職年齢は一般に65歳なので、それを過ぎれば、上の規定は関係なく、職から退くことになる)病気による能力低下の場合でも、まずは雇う側がその人のリハビリを支援し、それでも能力が回復しない場合には、その人ができそうな他の職務を与える努力をしなければならない。それでも職場に留まって何か職務をすることが不可能、と判断された場合に初めて解雇が可能になる。
解雇の通達が、実際の解雇のどのくらい前に言い渡されなければならないかの規定。勤続年数に応じて長くなる。勤続40年で23ヶ月前、勤続30年で18ヶ月前。勤続20年で13ヶ月前、10年で8ヶ月前、etc。しかし、最低でも1ヶ月前。
- 解雇されることになっても、通達から実際の解雇、そして、その後9ヶ月間は、再採用優先権が生じる。つまり、その企業に空きができた場合には、優先的に雇ってもらえる。

というのが『雇用保護法』の概要だが、これは労働者が不当に解雇されたり、突然、解雇されて路頭に迷うことがないようにすることを目的としている。働く側にとってみれば、解雇ルールがこれだけ明確にされているので、自分の解雇されるリスクがある程度わかるし、解雇されるときも勤続年数に応じて予め通達が来るので、次の職を余裕をもって探すことができるわけだ。さらにいえば、このような“安心感”が、職場における能率に普段からいい影響を与えている、といういい見方もできるかもしれない。

しかし、雇う側にとっては大変だ。業績が悪化しても、安易にクビを切ることができないし、時間がかかる。しかも「解雇順序の規則」のために、企業に残るのは中高年の人が多くなりがち。適任じゃない人を誤って雇ってしまった場合にも、なかなか解雇できない。要するに、経営者側が、自分の会社の人事を思うようにコントロールするのが難しくなる、言い換えれば、フレキシビリティ(柔軟性)の欠如、ということ。高度経済成長期のように、経済全体が長い期間にわたって上向きの時には、それほど問題にならないかもしれないが、今のように、競争が激化して、先の見通しも立てにくい時代には、企業には大きな(非金銭的)費用となる。業績がいいからと言って、ヘタに新規雇用を行ったりすると、いざ業績が悪化したときに、大きな重荷を背負うことになりかねない。

現在の雇用問題を考えるにあたっても、経済が上向きなのに雇用が増えない、大きな要因は、「雇用保護法」のために、企業が尻込みして新規雇用を手控えているからだ、とも言われる。また、労働経済学においても、解雇に関する規則が厳しい国ほど、失業率が高くなる傾向を示す回帰分析結果もあるようだ。また、若年者の雇用問題に関しては、「解雇順序の規則」こそが、若者に不利を与え、彼らの雇用を不安定にしているのだ、という批判もある。また、「解雇順序の規則」は中高年にも不利に働くこともある。どういうことかというと、時代の流れとともに、これまで就いてきた仕事が自分に合わなくなってきて、別の仕事に転身したいのに、今の職場を離れれば、勤続年数が0にリセットされることになり、「解雇順序の規則」やその他の特権を失ってしまう。それが怖いので、今の職場に残り続け、やはり仕事が合わなくて、結果“鬱病”という診断をもらって、病欠、もしくは早期退職してしまうケースなどだ。

財界や経営者団体、それから深い繋がりを持つ保守党などは、この面倒くさい『雇用保護法』自体を廃止してしまいたい。しかし、今の世論を考えた場合に、近い将来は不可能だ。(ただ、ここ数年、保守党もかなり大きな路線転換をして、より“労働者寄り”をアピールしている。これについては後ほど。)

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その他方で、失業問題の中でも、特に若年者の失業解決が優先されるべき、と見た中央党は、若年者だけを『雇用保護法』の適用から除外することを提案している。つまり、採用後、2年以内であれば、明確な理由なしにいきなり解雇できるようにしたいのだ。それによって、人手不足の企業がより気軽に若年者を雇うことが可能になることを狙っている。

国際ニュースに普段から目を配っている人は、これに似た話を思い浮かべるかもしれない。そう、若年者の高失業に同様に悩むフランスでも似たような提案が今年の春なされ、若者を中心に大きな反対運動が巻き起こったのだ。収拾がつかなくなった政府は、結局、新法の撤回を余儀なくされたとか。

スウェーデンでも、中央党はこの提案の発表後、数々の嫌がらせに遭っている。特にアナーキスト・シンディカリストといった極左の若者グループが、中央党の各地のオフィスを破壊するなどの行動に出ている。(こういう卑劣な暴力行為は腹が立つ・・・!)

労働組合や社民党側は中央党の提案には批判的。現在の法体系に“若者だけ”というカッコ付きで“穴”を開けてしまうと、その例外事項が済し崩し的に、行く行くは他の労働者にも適用されるようになる恐れがあるからだ。ただ、ある労組の法律部長をやっている友人に電話で話をした際に尋ねてみると、「中央党の提案は当分は無理だね」と冷ややかだったから、そもそも現実的でないと思われているようだ。

政府・社会民主党としては、雇用創出策として、「期間限定雇用」「プロジェクト雇用」「試験的雇用」といった、非正規雇用制度を、主に若者に対して既に活用してきており、それなりの効果を挙げてきたし、その程度で十分だ、ということだ。

次回は、保守党の提案。

スウェーデンの「雇用なき成長」

2006-08-23 07:02:04 | 2006年9月総選挙
スウェーデンの経済成長は絶好調だ。今年2006年の第1四半期の成長率が前年同時期比で4%に達したかと思ったら、第2四半期は5.5%を記録した。政府や金融機関などの予測では4.4%前後に達すると見られていたから、それを大きく上回る結果となった。他の西欧諸国と比べても、高い数字だ。選挙を前にした与党にとっては、またとない嬉しいニュースだ・・・、と判断を下すのは、ちょっと早すぎるかもしれない。

スウェーデンのGDPの推移(四半期ごと)

と言うのも、好調な経済とは裏腹に、就業者の人口は前年同時期比で0.7%、総労働時間も1.2%しか増えていないのだ。失業率(Open unemployment)のほうを見ても5.5%と、相変わらず高水準が続いている。スウェーデンでは、失業者は技能訓練などの労働市場プログラムに参加できるが、このOpen unemploymentには、このようなプログラム参加者は含まれていない。彼らを含めた失業率(Total unemployment)は8.5%になり、さらにこれとは別に、職探しを諦めてしまった潜在的失業者(統計上は失業者にカウントされない)が4%もいる。だから、まさに「雇用なき成長 (Jobbless growth)」だ。

就業者の数や総労働時間数がほとんど増えていないのに、どうして経済だけがそれよりも早く成長できるのか、については様々な理由が考えられる。企業が、機械や産業ロボットなどの設備投資を活発に行ったために、今までと同じ数の労働者で、より多くのものを生産できるようになった、つまり、労働生産性が上がった、のかもしれないし、技術水準自体が上昇しているのかもしれない(いわゆるtotal factor productivity: TFPの上昇)。もしくは、企業の中でこれまでダブついていた労働力や設備がより効率的に使われるようになったのかもしれないし、輸出品の価格の上昇のために、これまでと同じ量の輸出でも、より多くの収益が生まれるようになった、いわゆるterms of trade (ToT)効果、かもしれない。企業の設備投資についてさらにいえば、労働コストが高いために、企業があえて新規雇用を行う代わりに、その分を機械などの設備投資に回している可能性もある。

減らない失業率には、特に若年層が大きな打撃を受けている。これは、ついこの間、このブログに書いたとおりだ。若年者の失業率の数字には諸説いろいろあるが、日刊紙DNによれば、過去12ヶ月の平均は実質14%前後だと報じている。

以上のように、なかなか雇用が伸びず、失業率が減らないスウェーデンの経済。しかし、国際比較の中で、スウェーデンの労働市場を評価できる面もある。それは就業者率、つまり、労働力人口(20歳から64歳までの総人口)に占める就業者の割合。

分母には、主婦や職探しを諦めた人、学生も含むから、こういう人が多い国ではこの就業者率は低くなってしまう。いくら失業率自体が低くても、この就業者率が低いようでは、経済の大切な生産要素の一つである労働力が有効に活用されていないことになる。


就業率の国際比較(2004年)
2列目が男女合計、4列目が女性、6列目が男性。
国名は上から、アイスランド、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、イギリス、アメリカ、日本、フィンランド、アイルランド、ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、OECD平均、EU25ヶ国平均

2004年時点でのこの就業者率を見てみると、スウェーデンをはじめとする北欧諸国が断然高いことが分かる。女性の労働市場進出が進み、夫婦共働きが一般化していること、それから小さな経済なので、労働資源を有効に活用しなければならない必要性に晒されているせいかもしれない。それに比べ、大陸ヨーロッパ諸国では南に行くほど、この数字が低下していく傾向にある。これはやはり、“家族主義”の影響で、女性は家庭で、という考え方がまだ根強く残っているせいかもしれないし、経済全体が立ち遅れていて、失業者が全体的に多いからであろう。意外なことに、日本がOECD諸国の平均以上に位置している。しかし、これは男性の就業者率が高いおかげで、女性のそれは少し遅れていることが分かる。前後の国と比べても、男女の差が大きい。労働市場における女性の差別と、女性は家庭に、という考え方のせいだと思われる。

この就業者率は、2006年6月の時点で78.6%まで上昇している。政府の掲げる目標は、80%であるから、それに少し近づいた点は評価できるかもしれない。

スウェーデンの就業者率の推移

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こうした、スウェーデンのマクロ経済と労働市場の光と影を踏まえた上で、どのような政策議論が総選挙を前に各党から出されているのであろうか。それを次回は見てみたい。

新聞広告コンテスト

2006-08-22 06:32:59 | コラム
今回は選挙情報じゃなくて、新聞広告のコンテストの話。
日刊紙DN主催で、広告コンテストが開かれている。ノミネートされた十数の広告がトーナメント形式で合わせられ、読者が投票する。

決勝まで勝ち残ったのは、この2つ!
VS

まず最初のは男の子の顔にインパクトありすぎ。車の窓に貼りついた男の子の写真がすべてを物語っている。Coop Extraというのは生協(Coop)の経営する量販店。子供が車の中で窒息しそうになるくらい買い物ができる安さ、だとか。

次のは、IKANO銀行。「この夏、あなたの貯金の利率は、ださいウェアを着た、汗臭い選手が決めてくれる。」つまり、さらなる高さに挑む高飛びの選手のように、うちの銀行の貯蓄利率も限界に挑んでるんですよ、ということ。この夏、ヨーテボリで開かれた「ヨーテボリ陸上」とも掛けてあるかもしれない。ちなみに、このIKANO銀行は、IKEAが今世紀になってから始めた銀行部門。業務多角のための、銀行業界への新規参入だ。店舗を持たず、インターネットや電話を通じた業務なので、コストを低くすることができる。その結果、住宅ローンのような貸出の利率を低く抑えられ、一方、お客から預かった預金には、他の銀行より高めの利率が付けられる、という。SEBやNordea、Föreningssparbanken(貯蓄銀行)、Handelsbanken(商業銀行)といった大銀行が支配してきたスウェーデンの銀行業界の隙間をついた面白いニッチ産業だ。

スウェーデン国政の7つの政党

2006-08-20 03:26:42 | 2006年9月総選挙
スウェーデン国会に現在、議席を持つ党は7つある。
左派-右派というスペクトラムで見た場合、左のほうから順番に並べると以下のとおり。(各党のシンボルと略称のアルファベット)
[v] 左党(Vänsterpartiet):旧共産党
[s] 社会民主党(Socialdemokraterna):現在の与党。左党と環境党と閣外協力を結んでいる。大臣職はすべて独占。
[mp] 環境党(Miljöpartiet):サブタイトル「緑の党(De Gröna)」。1981年結党。1988年に初めて議席を獲得。
[c] 中央党(Centerpartiet):もともと「農民連合」といい、今でも農村部で支持が強い。また、地域によっては地方議会でかなり優勢なところもある。
[fp] 自由党(Folkpartiet):直訳すると「国民党」だが、イデオロギーを考慮したらこの訳のほうがしっくり来る。英訳でもthe Liberalsが定着。
[kd] キリスト教民主党(Kristdemokraterna):1994年に初めて議席を獲得。
[m] 保守党(Moderaterna):正式名称を直訳すると「穏健統一党」になるが、英訳ではthe Conservativesが定着している。

さて、各党の人気。
前回、2002年9月の総選挙での得票率と、最新(8月16日時点)の世論調査の結果は以下のとおり。

スウェーデンの政党は、連立や閣外協力という形で、他の党と協力関係を持つことが多い。だから「左派ブロック」「右派ブロック」という形でよく比べられる。

去年からこれまでにかけての、支持率の推移をグラフで見てみよう。

これらから分かるように、前回の総選挙で小さな差で勝った「左派ブロック」が、最新の世論調査では「右派ブロック」に遅れを取っているのが分かる。しかし、まだ態度を決めていない有権者が2割もいるため、どちらが勝ってもおかしくないといえる。

スウェーデンでは中選挙区による「比例代表制」が採用されており、さらに得票率と議席数をほぼ一致させる調整制度があるため、議席数の比率は、得票率とほぼ同じと見てよい。下に登場する“4%ハードル”をクリアできない政党を除けば、死票がほとんど出ない選挙制度だといっていい。

また、各政党を見てみると、「左派ブロック」の中では社会民主党、「右派ブロック」中では保守党が圧倒的に強いほかは、小さな政党がひしめいていることが分かる。

グラフには4%以下の部分がピンクに染まっているが、これは“4%ハードル”があるためだ。つまり、全国での得票率が4%に満たない政党には、議席をもらえないのだ。(国会の議席は349議席。その4%というと14議席に相当する。)ただ、全国で4%に満たなくても、一つの選挙区で12%以上を獲得すれば、議席が獲得できるという例外もある。ただ、この例外をクリアして議席獲得を果たした党はまだいない。中選挙区なので、一つの選挙区といっても、大きいのだ。この“4%ハードル”は小党乱立を防ぐために導入されている。

総選挙2006

2006-08-17 16:41:05 | 2006年9月総選挙
スウェーデンの総選挙は9月17日日曜日。ちょうど一ヶ月を切るため、いよいよ選挙戦が本格化する。ただ、政策議論は今年に入ってからずっと続いてきており、各党とも枠組みがだいたい出来上がっている。これからの選挙戦で、それをいかにアピールして票に結びつけるかが鍵になる。

スウェーデンの総選挙を経験するのは今年で2度目だけれど、日本と比べていいなと思うのは、立候補者が数台の車を連ねて、あちこちを駆け回って、自分の名前を叫び続ける「連呼」がないこと。これは選挙制度が基本的に「比例代表制」だから、立候補者個人を売り出して、票を集めるのではなく、党としての政策をアピールすることに力点が置かれるからだ。(Personvalという追加制度があるが、後ほど)だから、党としての街頭演説はもちろんある。それから、広場など人通りの多いところで、各党は「選挙小屋(valstugan)」を建て、関心を持った有権者に情報提供をしたりする。

テレビやラジオ、新聞など、メディア上での広告はすでにあちこちで見られていたけれど、これから選挙までの1ヶ月は、街角のあちこちに選挙ポスターを設置することができる。どこの国でも同じだろうけれど、瞬間的に有権者の視線を釘付けにするために、端的でいて、インパクトのあるポスター作りを競い合う。党首の顔写真を使うものもあるけれど、それよりも文字やデザインで勝負する党が日本に比べて多い気がする。

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家に帰ってみると、郵便受けに黄色い紙が入っていた。投票に必要な「投票券」はまだ送られて来ないけれど、それに先駆けた「選挙管理委員会からのお知らせ」だった。


● 投票日が9月17日であること
● 8月30日(つまり投票日の18日前)から、不在者投票が市役所や市立図書館などでできること
● 投票の際には、身分証明書(IDカード、運転免許証、パスポート)が必要であること。
が書かれていた。

2003年のEMUの国民投票のときは、私は不在者投票したのだけれど、この際はヨンショーピンの街中の郵便局で行った。自宅に送られてきていた「投票券」を見せるのだが、私の本人確認はなかったのでビックリした。しかも、その国民投票では「Ja」か「Nej」の二者択一だったので、投票方法は、山積みにされたJa/Nejカードのうちどちらかを選んで、封筒に入れる、というもの。しかし、周りに覆いもなく、私が何を選んだかは丸見えだった。それが、不在者投票で、準備がいい加減だったからなのか、他の場所でもそうだったのかは分からないけれど・・・。

とにかく、今回はちゃんと本人確認をしてくれるようだ。

そうそう、そもそも私に選挙権があるのか? 実は、議会(国会)の議員を選ぶ国政選挙に対する選挙権は、スウェーデン国籍を持たない私にはない。その代わり、地方選挙の選挙権は外国人でもスウェーデンに少なくとも3年間、住民登録をしていれば、与えられるのだ。(EMU国民投票でもそうだった)地方選挙とは、県(landsting)議会と市(kommun)議会の選挙だ。

正直言って、国政の議論には関心があって、いろいろ熟知しているつもりなのだけれど、地元であるヨーテボリ市と西ヨータ(Västra Götaland)県の政治には、まったく素人なので、どこのように入れるかは不明。

スウェーデンの若者事情

2006-08-16 03:11:45 | スウェーデン・その他の社会
「リベラリズム」とか「自由主義」という言葉を何度か使ってきたけれど、スウェーデンや他の北欧の国々の若者の育てられ方にもそれが垣間見れる。早いうちから自立(自律)して、一人前の市民(medborgare)になることが求められる、そんな考え方が社会に根付いているようだ。

日本とは対照的で、父権が力を失ってしまった社会。しかし“自由”を謳歌してさえいれば良いのか、というとそうではなく、“自由”という言葉のもとで、自分で下した決断には、必ず“責任”が伴うこともしっかり認識していないといけない、とされる。そういった教育の理念が必ずしも理想どおり、うまくいっているとは限らないにしても、権利ある一人の人間として生きていくことを、人生の早い段階で教わり、それが求められるのは評価すべきことだと思う。スウェーデンの中学校の教科書『あなた自身の社会』が日本で爆発的な人気を博してきたが、あの本もそういった精神で書かれたものだと思う。今生きている「社会」というものは、誰かお偉いさんだとか、役所だとか、そんなもののためにあるんじゃなくて、主人公はあくまであなた自身、わたし自身であるということ。暗記事項ばかりで退屈な日本の中学校の「公民」も、むしろそういったことをしっかり教えるべきじゃないかと思う。

いわゆる「スウェーデン型の社会」は、生まれた家庭環境や親の所得に限らず、誰もが同じ土俵の上で、自分の能力を伸ばし、それを発揮できる可能性が与えられるように作られている(liberalismens tro på allas lika möjligheter)。義務教育、大学教育、それから成人高校教育を含めた無料教育制度家庭や親の所得に関わらず“ユニバーサル”に支給される育児補助金や大学生補助金低所得者、とくに若者の生活を軽減する住宅補助金などが、その構成要素だ。これらの制度によって、子供は親のスネをかじらずに、早く独立することができるし、教育を受けることができる。家庭の事情や親の意向で、この道を選らばなければいけない、という制約からもある程度解放される。この点も、父権が弱いことと関連していると思われる。社会の流動性、という観点から見ても、政治家の子供は政治家、金持ちの子供は実業家、ブルーカラー労働者の子供はブルーカラー、ではなく、世代ごとに入れ替わりがあって、社会がダイナミックに変化していくようだ。(そうとは言えない例ももちろんあるが)

これらの制度の結果は、よく大陸ヨーロッパ諸国、特に南欧のイタリアやスペインと比較される。伝統的な「家族主義」の強いこれらの地域では、30代になるまで親と同居する若者が多いという。それに加え、働き方の変化にも関わらず、男女同権の意識が遅れ、女性に家庭での伝統的な役割が要求されることも関連して、出生率がかなり低い。まさに、日本の社会と同じ病症を呈していると思われる。
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もちろん、スウェーデンも様々な問題を抱えている。近頃は、なかなか自立(自律)できない若者も増えていると聞く。(テレビゲームの普及も大いに関係しているのではないだろうか…?それから、マンガ・アニメ・オタク、云々、そんなことも影響していたりして…。勝手な推測ですが。)

急を要する問題としては、全般的な住宅不足のために、①若者がなかなか自分の住まいを見つけることができない。若者は、大概に所得も少ないので、高い家賃は払えないし、分譲を買うわけにもいかない。大家もできれば所得の安定した人に貸したい。今は死語かもしれないけれど、私がスウェーデンに来た当初の2000年にMambofällaという言葉を聞いた。Mamboはすなわち、母親との同居。fällaはワナとか落とし穴。つまり、独り立ちしようにも、アパートが見つからないは、家賃が払えないはで、一時的な解決策として、親のもとに転がり込んだものの、気づいてみたら、もう何年も経ってしまって、その環境が心地よくなって、出るに出られず、また、出ようにも、経済的な状態が、当初からあまり改善していなかったり。

それと関連して、②若年者の失業率の高さ、も大きな問題。統計によって差があるが15%前後、と見るのが妥当だろう。Mamboの背景には、若者の悲惨な雇用問題もあるのだ。
(あるシンクタンクの発表だと、2004年の段階で15~25歳の若者の失業率は16.4%、それが2005年には21.7%にまで上昇している、という。ただ、在学中の大学生が相当数ふくまれている気がする。これに対し、政府の機関である労働市場庁の統計では10%弱。ここには、求職を諦めて大学に進んだ(もしくは大学に残っている)潜在失業学生は含まれていないようだ。そういう、潜在失業学生も含めば15%くらいになるのではなかろうか・・・?)

政府の方針としては、今仕事がないなら、大学に進学して、能力を高めた上で労働市場に出たら?ということ。しかし、残念ながら大学を出ても就職に困る若者もたくさんいる。私は、実務的な能力の養成と資格の取得を目指すスウェーデンの大学教育制度そのものは大いに見習う所がある、と思うのだけれど、スウェーデンの大学はここ15年のうちに爆発的に拡大してしまって、社会や労働市場がそこまで必要としている以上の大学生を生み出してしまっているのは問題だと思う。卒業しても、自分の専門を生かす職がないのなら、それとは全然関係ない職に就くしかなく、そうなると困るのは、彼らと職探しで競合する羽目になる高卒の人たち。本来だったら、高卒の人でもできる仕事に、敢えて大卒の人が就く、ということも起こる。そうすると、高卒の人たちも、就職が楽になるようにと、その職には必要ものないのに、わざわざ大学に進学する羽目になる。そうすると、結果として、社会全体(納税者も含めて)が大きな無駄損をしている、ということにもなるかもしれない。

(ところで、日本の大学はどうなっているのだろう。教養のためといって、4年間大学に通いながら、果たして実用的で即戦力になる能力やスキルが身に付いているのだろうか。いざ就職するとなると、専門とは全然関係ない仕事に就くケースが多すぎる気がする。就職に必要なものが大学で実につかないとなると、学生は大学とは別にダブルスクールに通い、資格取得に努力する。もちろん、大学とは教養を得るところ、という考えはいいことかもしれないが、毎年多くの若者が、大挙して大学に進学し、高い授業料を4年間も払うだけの意味が、社会全体としてみた場合にどこまであるのか。それに、教養を学ぶ、といっても、果たしてどこまで体系だったものが身に付いているのか。そういった議論が起こるべきだと思う。私は文系のことしか分からないので、理系のことはなんとも言えませんが。それに、素晴らしい大学教育をなさっているところも、もちろんあると思いますが。)

話をスウェーデンに戻して。3番目の問題点は、まさに大学教育。量的な拡大はしてきたものの、それに伴って予算やスタッフの数が増えていないために、③大学教育の質の低下、が問題とされている。この問題に関しては、大学教育の予算が今後、それほど伸ばせないのなら、やはり段階的に縮小していくしかないと思う(上に挙げた、過剰な大学教育の問題も考慮して)。

レバノン停戦と国連部隊の展開

2006-08-15 05:22:34 | スウェーデン・その他の政治
レバノンの危機も、国連安保理の停戦要求決議が履行されることにより、徐々に落ち着きを取り戻しつつあるようだ。レバノンという国は、1970年代後半から80年代前半にかけて内戦を経験し、さらに1982年にはイスラエルが侵攻するなど、戦禍が絶え間なかったという。(オスカー外国映画賞にもノミネートされたスウェーデンの映画『Zozo』(2005)がうまく描いている)しかし、平和が訪れた後は少しずつ復興して行き、レバノンの人口を構成する様々な民族(シーア派・スンニ派・キリスト教徒、ドゥルース人、etc)の融和も徐々に達成されていったという。その結果、今回の紛争が始まる前の段階では、アラブ諸国の中でも比較的発展した国に生まれ変わっていたのだった。内戦中にスウェーデンに難民と逃れていた人々のうち、数多くの人が祖国に再び戻り、生活の基盤を築いていたという。

しかし、20年以上に及ぶこの復興の成果の多くが、たった1ヶ月の紛争のために失われてしまった。かつて瓦礫の山を前に、国を復興させる決意をし、それを成し遂げてきた人々。今また、同様の瓦礫の山を目の前にし、何を思うのだろうか…?

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停戦が実現されつつあるとはいえ、予断は許されない。そもそもこの紛争の契機は、レバノン南部を占拠していた民兵集団ヒズボラがイスラエル兵を襲撃し、人質に取ったことだったのだ。ヒズボラの勢力が強いこれらの地域には、レバノン政府の手も事実上届いていなかった。停戦要求決議にはイスラエル側の撤退と、ヒズボラの武装解除、レバノン南部でのレバノン政府の統治回復が含まれているが、それがきちんと履行されなければならない。つまり、イスラエルがちゃんと撤退しても、その空白にヒズボラがまた蔓延るようでは、振り出しに戻ってしまう、ということだ。

そのため、国連による平和維持軍の派遣が急務とされる。国連としては15000人の要員をできるだけ早くレバノン南部に展開させたい意向。仏・独・伊・西・ベルギーなどとともにスウェーデンも機械化歩兵・工兵部隊、地雷除去部隊、空輸部隊などを派遣する動きで、国防軍の内外から志願者の招集を準備している。ただ、最終的にゴーサインがスウェーデン政府から出るのは、治安状態と平和維持軍としての任務の内容がはっきりしてからだという。つまり、国連軍の任務として武装集団ヒズボラの武装解除が含まれた場合に、強制力を行使するとなれば、武装集団との戦闘に巻き込まれる可能性もあるからだ。

他方、スウェーデン政府は人道・経済面での復興を促進すべく、「レバノン復興の国際会議」をストックホルムで8月末日に開催することもすでに打ち出している。(アフガニスタンでの戦争が終わった後に、日本が同様の復興会議を誘致している。) もちろん、総選挙を前に、政権党が、外交政策面での力強さをアピールしたい意図が見えるにしても、やはり、積極的なイニシアティブだと思う。

これが自転車のマラソン先導!

2006-08-13 06:58:39 | スウェーデン・その他の社会
昨日の女子マラソンに引き続き、今日は男子マラソン。昨日書いたように、マラソンの先導は白バイではなく、自転車の警察官。正確にいうと、白バイも使っていますが、先頭集団の500m~1kmというかなり前方を走っています。

彼らが率いるマラソンはこんな感じになります。


この光景を子供のころ見ていたら、私の将来の夢は「自転車警察になる」だっただろうな。右はパリっ子もたじろく、かの「Aveny(アヴェニュー)」です。なんだシャンゼリーゼ通りの真似なんて言ったら、ヨーテボリ人に言いつけてやりますよ。


おい、後ろの青い人たち、もうちょっと散らばったらどうだ!と叫びたくなります。いくら静かな自転車でも、大挙して後ろからこられたら、選手もビックリ。新記録間違いなしです。右は仲良く走るスウェーデン人3人とフィンランド人の集団。北欧の団結を見せながらメダル争いか?と思いきや、ケツ争いでした。でもドッコイ、マケドニアの選手二人がまだ後にいました。うち一人は48歳の選手だとか。彼は周回遅れ(10km)で先頭集団に抜かれてしまいました。

テレビのカメラマンを乗せた原付バイクは、どうにかできないのか。Setteさんの「2頭建て自転車馬車」案もいいですね。もしくは二人で漕ぐタンデムにさらに荷台をつけてカメラマンを乗せる「3人無敵タンデム」案もいいかもしれません。

「ヨーロッパ陸上」と自転車警察

2006-08-12 21:49:57 | スウェーデン・その他の社会
8月6日から13日まで、陸上のヨーロッパ・カップが開かれている。“世界陸上”ならず“ヨーロッパ陸上”と言ったところだろうか。ヨーロッパ中から選手や観客が集まり、町は人で溢れかえっている。チケットが売れ残って困っていたヨーテボリも、いざ大会が開催されてみると日によっては満席の時もあるようだ。



今日と、最終日の明日はマラソンが行われている。ヨーテボリの市内を駆けるものの、経費節減のためか、なんと同じコースを4周もするのだ! 観戦する側にとっては同じ場所で4回も選手を応援できるからいいけれど、走る側としては退屈するのではないだろうか。警察や大会開催者にとっては、10キロほどのコースを確保して、交通整理やコースの警護をすればよいことになる。


警察は選手の先導や伴走に“自転車隊”を使っている。つまり、バイクを使っていないのだ。先頭に二人の自転車警察、それから集団のわきや後ろなどに数台、合わせて10台ほどの自転車で選手をガードしているのだ。バイクの先導と違って、排ガスに選手が困ることはない。と思ったら、テレビSVTのカメラマンは、いつもどおり原付バイクの後ろに座って、第一集団や第二集団など、蠅のように行ったり来たりして選手を撮影しているから、排ガスはそれなりに選手を悩ませているかもしれない。カメラマンを乗せて走る原付も自転車にすればいいのに。自転車二人乗りで42.195kmは酷だろうか・・・?

警察の自転車隊のほうは、こまめに入れ替わっているようだ。彼らは、普段は自転車警察として、白バイのように市内をパトロールしているとか。朝夕に交通量の多い交差点で、自転車通勤者のパトロールをしているのを見たことがある。自転車による赤信号無視は600kr(1万円弱)の罰金とか。歩行者の赤信号無視は、自己責任の上で認められている。

このマラソンのコース、同じ場所を4周する上に、かなり条件の悪いところを走っている。並木道の歩道、住宅地、工事中の所、工業地帯。一部はアスファルト、一部は石畳、あるいは、工事中のところを無理やりならした砂利道もある。そんなコースだからこそ、自転車警察が実力を発揮する。と、思った矢先、路面電車のレールの溝に思いっきりはまってズッこける自転車の警察官を目撃してしまった・・・。

いろいろ調べてみるけど、自転車警察が存在するのはスウェーデンの中ではヨーテボリだけのようだ。これこそ、ストックホルムの人たちに教えてやらなきゃ。糞ばかり垂らして、あまり活躍する場がない騎馬警察よりもよっぽど安上がりで効率的だと思うのに。

次期の国連事務総長のイチ押し!

2006-08-11 06:03:07 | コラム
健在で今でも活発に活躍しているスウェーデン人で、私が注目している人がいる。Jan Eliassonといって、現在は国連総会の議長スウェーデン外相を兼任しているヨーテボリ出身の外交官だ。一年ほど前にヨーテボリ大学・商科大学(Handelshögskolan)の大ホールをたまたま通りかかった際に、何かの講演会が開かれると知り、何でも当時は駐米大使を務め、その前は国連大使を務めた外交官が来る、という。名前を聞いても初耳の人で、あまり関心は無かったのだけれど、時間があったので聞いてみることにした。


すると、それまでの外交官としての経験とともに、麻痺しつつある国連がよりよく機能するための改革についての意気込みを語ってくれた。大国が拒否権を盾に自分たちの経済利益・政治利益のために国連安保理を利用し、ちょうどその時、続行している民族紛争や内戦に手をこまねいている国連。一部では、国連不要論が聞かれるが、それでも国連が国際問題解決の唯一の鍵だとして、その改革のビジョンを示してくれたのが、私の考えていたことと通じる部分があって、興味深く聞けた。「Jag är vän av FN, men inte okritisk vän.(私は国連を親友のように思っているが、それは無批判でいる、ということじゃない。)」とも言った。

さらに印象深かったのは『根っこと翼 (Rötter och Vingar)』の話。世界を舞台に活躍する外交官らしく、『翼』を持って世界に羽ばたいていくこと、そして、好奇心を常に忘れずに生きていくことの大切さを語った。夢を膨らまして行く目的地が自分の目の前に開けていて、それに向けて着実に進んでいると、実感できているときほど心強いものはない。さらに、自分の体験談として、他の文化や慣習に対する関心と敬意を示すことによって、暗礁に乗り上げていた紛争調停の交渉に、糸口が見えてきた逸話も加えてくれた。

しかし一方で、『根っこ』も忘れてはならない、という。つまり、自分が生まれ育った環境やその社会、そして、そこで培ってきた価値観は、その人間にとって生涯のよりどころとなるものだ、というのだ。『翼』つまり、それによって手にした新しいものと、『根っこ』つまり、自分が本来持ってきた“自分らしいもの”の両方の良さを生かすことだと取れる。さらには、人間誰でも『翼』が広がって、目指していく目的地に向かって、まっしぐらで羽ばたいている時は、この世に怖いものはない、と感じられてしまうものだが、常にそう状況に自分を置けるとは限らない。苦難にぶち当たることも当然ある。そんなときに自分の拠り所となる帰るべき場所が自分の背後にちゃんと備わっていれば、根無し草とならず、自信を持って生きていける、ということだとも取れた。

そんな彼の根っこは、ここGöteborg(ヨーテボリ)。より正確に言えば、Kålltorp(路面電車3番と5番の終点)らしい。そこで、ブルーカラーの労働者の家庭で育ち、ヨーテボリ大学を出て、外務省を目指したという。自分の今の世界観や価値観は、親の愛情のおかげという。それから『根っこと翼』の大切さは、ヨーテボリの大らかな気質から学んだという。「そんなヨーテボリのいい所は、ほかの国にも輸出しても言いと思う。」と言ったと思うや「でも、手始めはストックホルムからだな」と会場にいた多くのヨーテボリ人の笑いを誘った。

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国連事務総長コフィ・アナンの後任は誰になるかと、あちこちで囁かれる。しばらくアジアから選出されていないので、次はアジアの番だ、という。でも、そんな地域別のクォーター制にこだわるよりも、ちゃんと資質とビジョンを持ち合わせていて、数々の危機に直面している国連の改革をしっかりと導いていける人を選んでほしい。彼なんか適任ではないかと思うけれど。

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