スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

これはとんだ猿仕事

2008-12-31 07:55:58 | コラム
年の瀬に、こんな昔話を。
ヨーロッパからアメリカに最初の移民が移り住んでからしばらくしてからの話らしい……。


それは昔のこと、北米のある島にハリーという男がやって来た。彼はその島の南端に住む村人たちにこう呼びかけた。「生きた猿が欲しい。猿を生け捕りにして持ってくれば、一匹10ドルで買いたいと思う。」

村に隣接する森にたくさんの猿が住んでいることを知っていた村人たちは、一人、また一人と森へ出かけて猿を捕まえ、ハリーのもとでお金に替えた。ハリーの滞在先には生け捕りにされた猿の入った檻がいくつも並び、次第に「猿牧場」ができていった。

しまいには、すべての村人が仕事をやめて、猿狩りに励むようになったので、猿の数は急激に減っていった。ハリーはみんなにこう伝えた。「1匹あたりの報酬を20ドルに引き上げる。」村人たちは再び森に戻り、残りわずかとなった猿を捕まえて、ハリーのもとへ持っていった。

それからしばらくして、ハリーは言った。「猿はほとんど残っていないようだが、これからは1匹50ドルで買おうと思う。ただし、私は明日から数日のあいだ、この村を留守にするので、猿は村にとどまる私のアシスタントのもとへ届けて欲しい。」

その翌日、彼のアシスタントは村人たちを「猿牧場」に集めてこう言った。「おい、見てみろ。ここには生きた猿がたくさんいる。俺は1匹35ドルでこの猿を君たちに売ろうと思う。君たちはハリーが村に戻って来てから、彼のもとに猿を持っていって、1匹50ドルを手にすればいい。ハリーには俺のほうから、猿が檻から逃げ出してしまった、と伝えておくから心配ない。いい儲け話だと思わないか?」

村人たちはそれまで大切に貯めていた貯金をすべて使って、アシスタントから猿を次々と買い取った。「猿牧場」にいた猿は、こうして全部が買い取られた。

その後、村人たちはハリーの帰りを、まだか、まだか、と待ち構えていたが、彼が再びこの村に姿をあらわすことはなかった。アシスタントだという男も、いつの間にか姿を消していた。

それから、数十年が経ち、数百年が経ち、この島には「マンハッタン」という名前が付けられ、猿牧場があった通りは今では「ウォール・ストリート」と呼ばれているらしい……。


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これは、アメリカ発の金融危機が世界を席巻しつつあった頃に、同じ大学のギリシャ人の研究生が送ってくれた話。メールのタイトルは「Monkey business under rational expectation(合理的期待のもとでのモンキービジネス)」

今年は生き残るか?-イェヴレ市のヤギ

2008-12-27 22:37:31 | コラム
イェヴレ(Gävle)と言えば、ストックホルムの北100kmほどの所にある町。人口は68000と、スウェーデンでは中規模の町だ。しかし、この町は毎年、年の瀬になるとスウェーデン国内外からの注目を浴びる。Youtubeなどでも有名になった「藁(わら)製のヤギ像」のおかげだ。

このヤギ像は1966年以降、毎年のように作成され、12月に入ると町の大きな広場に飾られるのだが、藁でできているために燃えやすく、いたずらで火をつけられる事件が毎年起きている。柵を乗り越えて、ヤギの足元から火をつけて全焼させるならまだしも、柵の外側から吹き矢で火を飛ばす輩もいた(この時、犯人が「Pepparkaksgubbe(ジンジャークッキー男)」に仮装して吹き矢を飛ばす姿が防犯カメラで確認され、その後、しばらくの間、巷では笑い話のネタになった)。ある年は、アメリカ人の観光客が夜中に火をつけ、全焼させたこともあった。

毎年、イェヴレの町の人々は「今年こそは新年までヤギを残すぞ!」と躍起になり、様々な防火対策を行ったり、見回りを強化したり、防犯カメラを付けたりしてきた。一方、町の人々が躍起になってヤギの守りを堅くすればするほど、その守りを苦難の末に打ち破ってヤギに火を付けることに、さらなる魅力とステータスを感じる人々も出てくる。だから、12月はヤギを守りたい町の人々と愉快犯の間で、壮絶な闘いが繰り広げられる。イギリスのギャンブルサイトが、新年まで生き残るかどうかの賭けをしたこともあった。

近年は、ヤギの表面に防火剤を散布する措置が取られてきたものの、そうすると藁が湿気を吸収しやすく、藁ならではのパサパサとした感じが失われ、醜くなってしまう。だから、今年は防火剤が散布されなかった。一方、防犯カメラなどによる監視は強化された。

今朝(27日)の新聞には「イェヴレのヤギは、今年初めての攻撃をまぬがれ生き残った」と見出しが書かれていた。記事によると、26日早朝2時半頃、何者かがヤギの足に火を付けたものの、たまたま通りかかった通行人が、近くに備え付けてあった消火器で素早く火を消したので、やけど程度で済んだとのことだった。町の担当者は「全焼してしまえば、作り直すのに15万クローナ(200万円)かかるが、今はそんなお金などないから、ホッと胸をなで下ろしたよ。」とコメントしていた。

しかし!
この新聞の原稿が提出されたのは遅くとも今朝の2時くらい。だから、その直後に起きた事件をまだ知る由もなかったのだ。

実は3時半頃、これまた何者かが侵入して火をつけた。そして、今度はヤギが全焼してしまった。


有能なエンジニアを求む! - ヴェステロース市

2008-12-25 00:33:20 | スウェーデン・その他の経済
今年の秋以降、スウェーデンでは自動車産業をはじめとする、大規模な解雇が相次いできたが、その一方で、事業を拡張したいのに適切な技能を持った労働力が確保できず困っている産業も一部では存在する。前回のブログでも書いたように、国の雇用対策の中では、失業者に職業訓練を行うことで、労働需給のミスマッチを少しでも減らす、というものが含まれていた。では、具体的にどのような企業が労働力を求めているのだろうか?

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例えば、スウェーデンで5番目に大きい町である、ヴェステロース市(人口135000人)。ストックホルムから西に向かって電車で1時間ほどの距離にある。この町にあるいくつかの企業は、エンジニアなど、高い技能を持った労働力を求めているのだが、これまで適正な技能を持った求職者を見つけることに苦労してきた。そのような求人は今の段階で300ほどあり、来年末までにはさらに700人の高技能の労働力を確保したいという。

民間20社公的職業案内所(AMS)、および、ヴェステロース市ヴェストマンランド県のそれぞれの産業課が連携して「Jobba i Västerås(ヴェステロースで働こう)」という組織を2000年に設立している。この組織は、これまでも職業の斡旋や労働力の確保、市のイメージアップなどをおこなってきたが、今新たに「1000 jobb kampanjen(1000人の新規雇用キャンペーン)」を展開している。


どのような企業が加わっているのかというと、 例えば、鉄道車両を製造するBombardier Transportation Swedenだ(親会社Bombardierはカナダ企業であり、何度も着陸事故を起こしたボンバルディア機Dash 8-Q400は系列会社のBombardier Aerospaceが製造している)。スウェーデン国鉄(SJ)やストックホルム地下鉄の車両などを造っている。従業員は1800人、うち1200人がヴェステロースで働く。エンジニアを中心に来年末までに140人の新規雇用を行うという。

また、Balfour Beatty Railは鉄道の信号システムを製造する英企業。従業員は275人で、うち110人がヴェステロースで働く。この企業も30人ほどのエンジニアを求めている。

両社とも鉄道産業だが、どうやら今後10年ほどにわたって大きな開発プロジェクトを抱えているらしく、短期的な景気変動はあまり左右されないようだ。スウェーデンでは『高速鉄道計画』が本格的にスタートすることになるが、おそらくこれも大きく関係しているような気がする。

鉄道産業の他にも、Alstom(仏企業:電気機器・鉄道車両・発電技術)、Westinghouse(米企業:発電技術)、Avure(スウェーデン企業:産業機械)、Enics(スイス企業:産業機械・医療機器)、Etteplan(スウェーデン企業:技術コンサル)、Semcon(スウェーデン企業:技術コンサル)、Smidja(スウェーデン企業:技術コンサル)、そしてABB(スウェーデン/スイス企業:産業機械・発電技術)などのほか、製造業の職を斡旋している民間リクルート企業などが、各種エンジニアを求めている。

(ちなみに、上記のBombardierやWestinghouseなどがヴェステロースに持つ工場や事業所の多くは、もともとABBの前身であるASEAの傘下にあったものが買収されたのだ。)

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これらの企業が市や県、公的職業案内所(AMS)と一緒になって産官連携で「Jobba i Västerås(ヴェステロースで働こう)」という組織を作り、求人活動や職場や生活の場としてのヴェステロース市の売込みを行っているのだ。

彼らが目をつけているのは、ヨーテボリを中心とする自動車産業で仕事を失いそうなエンジニア。そのため、ヨーテボリにやって来て、求人活動を展開している。特に鉄道関係の企業の担当者は「自動車産業から鉄道産業に移るのは比較的容易だろう。しかも、わが社は市や県やAMSと連携して充実した職業訓練を準備している。」とやる気満々。

しかし、働く側としては、ヴェステロースに引っ越さなければならず、少し気が重いかもしれない。そこで産官連携の「Jobba i Västerås」は、有望な求職者をヴェステロースに招き、週末に試しに住んでもらって、ヴェステロースの町の住み心地を体験してもらう、というキャンペーンも行っている(既に150人が招かれたとか)。

実際に住むとなると、住宅の確保や育児施設・学校がちゃんとあるかどうかも重要だが、この点も市や地元の住宅会社が提携をして、引越ししてくる人の支援を行うという。

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自動車産業で解雇されているのは数万規模の労働者なので、今回紹介したヴェステロースの求人活動は、経済全体から見ればほんのわずかな希望でしかないのだが、景気が今ほど落ち込む中でも、人手を欲しがっている企業がいくつかあり、このようなキャンペーンを展開しているのは面白いと思う。

少なくとも言えるのは、高い技能を身につけた人であれば、いくら不景気になって仕事を失っても、自分の能力を生かせる仕事はたくさん見つかる、ということだろう。

残念ながら、スウェーデン全体の課題としては、大学で理工系の科目を勉強する人が減少傾向にあり、今後、団塊の世代が退職したあとに、その穴埋めをきちんとできるかということらしい。企業としては、いくらスウェーデンで生産活動を続けようと思っても、必要な労働力が確保できなければ、国外に生産拠点を移す必要が出てくるという。

緊急財政出動プラン

2008-12-23 05:21:21 | スウェーデン・その他の経済
日本では、税金の無駄遣いとしか思えない、例の給付金が議論されてきたが、それにも関連する重要な議論がスウェーデンでもなされていたので、紹介してみたい。
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世界的な景気低迷に備えるために、スウェーデン中央銀行が政策金利を一度に1.75%も下げ、2%としたことはこのブログで触れた。では、財政政策の面からの景気刺激策はどうかというと、既に9月に議会に提出された2009年予算案の中で、320億クローナ(約4000億円)近くの財政赤字を覚悟した景気刺激策を盛り込んでいた。

しかし、これだけでは不十分ということで、12月初めに追加の緊急財政出動プランを発表した。2009年に83億クローナ2010年に88億クローナ2011年に58億クローナを新たに投じて景気の刺激を行うという。


来年に投じられるという83億クローナの内訳を見てみると、
雇用対策 45億クローナ
住宅の修理・改築に関連する税減免措置 36億クローナ
インフラ整備 4億クローナ
教育 4億クローナ

まず「雇用対策」は、公的職業案内所(AMS)の職業斡旋活動を支援し、労働需給のマッチングを円滑にすることが含まれる。また、雇い主が国に納める社会保険料を引き下げ、その減額分を国庫から補填することで、企業にとっての労働コストを下げ、労働需要を喚起しようという政策も入っている。特に長期失業者を雇った際にさらなる社会保険料の引き下げが行われる。(社会保険料を引き下げるといっても、その減額分を被雇用者に負担させるわけではない)

次の「住宅の修理・改築に対する税減免措置」は、個人世帯が自宅の修理や改築、メンテナンスにかけた費用を、確定申告の際に所得から控除できるようにする、というもの。所得税の減税を通して、修理・改築・メンテナンスといったサービス価格を事実上、抑えることで、これらのサービスに対する需要を喚起させるというわけだ。

「インフラ整備」は、道路・鉄道の建設や補修(無駄な道路建設が多いといわれる日本とは事情が異なっており、道路や特に鉄道の建設やメンテナンスが不足している)。

「教育」は、ここでは「雇用対策」とも関連しており、職業訓練が主だ。スウェーデン各地では製造業を中心に解雇が相次いでいるが、一方である特定の製造業では新規雇用を拡大したいものの、必要とされる技能を持った労働力が確保できず困っている、という話もある。そのため、労働力の再教育費用と施設を国が肩代わりするというわけだ(これは今の景気対策に限ったことではなく、スウェーデンでは普段から積極的労働市場政策として行われていること)。


今回の緊急財政出動プランの中での注目は「住宅の修理・改築に対する税の減免措置」だ。これは雇用や消費を確実に増やすことができる、即効性のある経済政策として期待されている。

実は、野党からは一般的な減税(所得税や消費税など)や、子持ち世帯や高齢者世帯に対する給付金を求める声があがっていたのだが、政府は「景気浮揚効果がどこまで期待できるのか疑わしい」とはねつけた。つまり、減税や給付金によって家計の可処分所得が増えたところで、それが貯蓄されず消費に回る保証はないうえ、たとえ消費に回ったとしても、それが輸入品に使われれば、スウェーデン経済の生産部門(サービスも含めて)に与える効果はほとんどなくなってしまうということだ。

これに対し、ある特定のサービス消費にかかる費用の税減免措置の場合、実際に消費しなければ恩恵を受けることができない。しかも、住宅の修理・改築はあくまでサービスであるので、作業する人はスウェーデンの職人さんであり、かかった費用の多くの部分が彼らの給料に使われるのだから、輸入品の購入のようにお金が国外に流れて行く心配もない(資材は別として)。だから、できるだけ大きな経済効果を生み出すことができる。政府の推計によると、この政策の7000人の雇用が生み出されるという。

今回は盛り込まれなかったが、ある特定の商品の購入に対する補助金給付も、それがスウェーデン製であれば、同じような経済効果をもたらしてくれると思う。


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来年2009年だけ見ても、既に予算に盛り込まれていた320億クローナとあわせて、合計400億クローナ(5000億円)あまりが景気の刺激に充てられる。この額はGDPの1.3%に相当し、ヨーロッパ各国の景気刺激策と比べても規模が一番大きいと、新聞各社が伝えている。

スウェーデンの財政は、来年は確実に赤字になるが、幸いこれまで10年以上にわたって黒字だったので、それほど心配はないだろう。「歳出をもっと増やせ!」という野党に対して、首相は「あまり増やしすぎて、財政を危機に陥れては大変!」とはねつける。これだけ良好な財政基盤を維持してきたにもかかわらず、ちょっと過敏だと思うが……

さて日本はどうかというと、これまで20年近くにわたって財政が火の車だったのにもかかわらず、この経済危機を受けて、その状況はさらに深刻さを増すだろう。だからこそ、景気刺激に使うお金の使い道はしっかりと吟味し「最大の効果が期待できるところにピンポイントで国のお金を投じる」(スウェーデン首相の言葉)必要がある。

99年に行われた「地域振興券」の真似ごとのような「給付金」構想に費やすような時間的・経済的余裕はないのだということを、アッソー(Ah så)首相は認識しなければ!

少なくとも、かつての地域振興券がどれだけの効果を生んだのかをきちんと評価し、あれと似たようなことを今の段階で再びやるとどれだけの効果が期待できるのか、そして、同じだけの予算を必要とする他の政策的選択肢と比べた上でも、この「給付金構想」のほうがより望ましい効果が得られる、ということを、納得させる形で国民に示した上でなければならないのだが、今の政府にそのためのリーダーシップがあるとは残念ながら思えない。

どうせするなら、ハイブリッド車など環境に良い商品の消費や、住宅の省エネ効果を高めるような改築に対して、補助金や税減免といった形でお金をつぎ込んだほうがまだいいと思う。

そろそろ底に達した?

2008-12-21 00:47:25 | スウェーデン・その他の経済
更新が滞っております。スウェーデンの自動車産業の状況など、興味深いテーマに関するご質問を頂きましたが、しばらくスウェーデンのニュースを追っていなかったため、これに関しては後ほど書きたいと思います。それから、裁判員制度(参審制)についても、続きがあります。

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この秋の金融危機以降の為替相場の変動は今も続いている。このところ、対ドルではクローナ高の傾向があり、1ドル=7.7クローナになっているが、対ユーロではクローナ安の傾向が続き、今週は1ユーロ=11クローナという壁を突破した。

対円でも、いまだにクローナ安が続き、今週は100円=9クローナという水準を一時は上回ったこともあった。(1クローナ=11.1円くらいということ)

しかし、私は「現在のクローナ安は一時的なものに過ぎない」という認識は変えていない。問題は、どこまで下がるのか?、そして、いつ頃から反転するのか?ということだ。

これに関連して、スウェーデンの国債を管理している国債管理庁は以下のような方針を発表した。「スウェーデン・クローナの価値は現在、過小に評価されており、今後再び強くなることが予想される。国債管理庁は今後、保有するユーロを売却してクローナを購入するオペレーションを、150億クローナ(約1800億円)を限度に、これから2009年上半期にかけて行うつもりである。そして、クローナが強くなってから、再びユーロに変える予定である。」

つまり、実体経済のバランスを反映していない現在のクローナ安の傾向もそろそろ底に達したと判断し、今後は自国通貨の通貨投機を行って利益を上げ、国債償還に充てよう、というわけなのだ。ユーロに対するクローナの相場は、今年6月初めと比較して、現在20パーセントほど減価している。だから、その当時の水準までクローナが強くなれば、20パーセントの利益が上がることになる。(ただ、少なくとも1-2年ほどはかかると思うけれど)

通貨投機といっても、これは政府の規定でちゃんと認められている。規定によると、国債管理庁はクローナの相場が長期的に見て妥当とされる水準から大きく乖離した場合に、通貨を売り買いして差益を得ることが許されている

(もし、円を売ってクローナを買い、相場が夏以前の水準に戻ったとしたら、差益は60%! ちょっと楽観的すぎるかもしれないが、国債管理庁は円を大量に持っていないのだろうか?)

ジャンボジェットのこんな使い方!

2008-12-15 00:33:53 | コラム
スウェーデンにはかつて「Transjet Airways」という小さな航空会社があり、チャーター便の運行や、保有する機体を他の航空会社に貸し出す業務などを行っていた。保有機は短距離ジェットであるMD80シリーズが数機だけだったが、2001年に経営規模を大幅に拡張して、ジャンボジェット機B747を3機、相次いで購入した。

しかし、スウェーデン航空局はこの会社の安全性管理に問題点があるとして、2002年7月に飛行禁止命令を発表。それから間もなくして、この「Transjet Airways」は倒産してしまった。

さて、せっかく購入したB747はどうなったかというと、私も詳しいことが分からないが、そのうちの少なくとも1機はストックホルムのアーランダ国際空港の片隅にそのまま置き去りにされてしまったようだ。この機は1976年に建造。最後に空を飛んだのは、この会社が倒産する直前の2002年だった。

それから数年が過ぎたころ、置き去りにされたこのジャンボジェット機のことを聞きつけたあるスウェーデン人が、アイデアを思いついた。「ホテルかホステルにできないか?」

そして、1年近くに及ぶ交渉と工事の末、ジャンボ機B747は晴れて「Jumbo Hostel(ジャンボ・ホステル)」に生まれ変わった。そして、アーランダ国際空港の横で来年の1月15日から開業する。


ユースホステルの部分は、相部屋でベッドだけ借りて寝泊りするタイプだが、ホテルの部分では個室も用意されている。上の写真は既に完成したダブルの個室(追加ベッドついている)。窓はもちろん航空機のままだし、部屋の上部に取り付けられた荷物置き場は、本物らしい。


このホステルの一番の豪華部屋コクピット。前方が広く見渡せるこの部屋には、2つのベッド、折りたたみテレビ、シャンパン用の冷蔵庫などが取り付けられるらしい。(1泊3300クローナ、約4万円)

また、この豪華部屋を除いて、ホテル全体が障害者向けにも設計されており、車椅子でも利用できるという。それからホステルの従業員は皆、客室乗務員のユニフォームを来て登場するそうな。また、翼の上は散歩できるようにしたり、b>結婚式を挙げることができるようにもしたいらしい。


果たしてどこまでお客が集まるのか、気になるところ。アーランダ空港は市内から少し離れたところにあるので、観光やビジネスにはあまり利便性が良くなく、「ジェット機の(ユース)ホステルに泊まれる!」という話題性を除いては、あまり魅力がないような気もするけど。

スウェーデンの裁判員制度-「参審制」

2008-12-10 00:10:42 | スウェーデン・その他の社会
日本ではいよいよ「裁判員制度」が始まるようだ。司法への国民参加をうたって導入されたこの制度だが、自分の仕事に支障を来たすとか、素人が果たして公正な判断を行えるのか、とか、裁判の手続きが簡略化されるのではないか・・・etcといろいろと問題がありそうだ。


司法への国民参加といえば、イギリスやアメリカの「陪審制」が有名だが、陪審制では裁判官が評議に加わらず、陪審員のみで事実認定と評決を下し、刑事訴訟であれば陪審員が有罪とした場合に、裁判官が登場して量刑を決め、判決を下すことになっている。一方、今回日本で導入されることになった「裁判員制度」では裁判官と市民が共に評議・評決を行う。また、刑事訴訟では、量刑も裁判官と市民がともに話し合って決めるようだ。これらの点だけを見ても、「陪審制」と「裁判員制度」は異なるようだ。

司法への国民参加というと「参審制」という別の制度もある。これは、ドイツやフランスで導入されている制度であり、裁判に関わる市民のことを参審員と呼ぶらしい。そして、裁判官と一般市民から選ばれた参審員がともに審理・評議を行う。このため、日本の「裁判員制度」と似ているようだが、大きな違いはドイツやフランスの「参審制」では、参審員が任期制だという点だ。これに対し、日本の「裁判員制度」では事件ごとに裁判員が選ばれる

ちなみに、イギリスやアメリカの「陪審制」でも事件ごとに陪審員が選ばれる。だから、日本の「裁判員制度」は「陪審制」と「参審制」の間に位置するのかな、と思う。

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さて、スウェーデンではどうかと言うと「参審制」が採用されている。つまり、一定の任期(4年)を持った参審員(nämndeman)が、裁判官とともに審理や評議を行い、評決や判決を決めるのである。

では、参審員には誰がなるのか? 日本のように一般市民のもとへ突然、候補者の通知書が郵送されてくるのか? いや違う。答えは、端的に言えば(政治任用の)志願制だ。

地方裁判所の場合、その管轄下にある市(コミューン)の市議会が任命することになっている。また、高等裁判所の場合は、それが管轄する県(ランスティング)の県議会が任命する。では、誰を任命するかというと、各政党が推薦した市民である。これは、(1)その党の党員でもいいし、(2)党員以外の市民でもいい。だから、参審員になりたい人がいれば、ある特定の政党の党員になった上で党内で希望を出してもいいし、党員にならなくてもどこかの党に頼んで、自分を推薦してもらうこともできる。


では、(1)の党員というのはどういう人なのか? 選挙のときに手伝うボランティアの人とか、後援会の関係者? いや、スウェーデンの地方政治は、国政と同様、政党政治が基本であり、各党はその党の地方レベルでの政策立案や党内での議論に普段から積極的に貢献しているアクティブな党員を抱えている(大部分の議員と同様、彼らは本職を別に持つボランティア)。そういった人の中から選ぶのである。

このように党員の中から選ばれて重要な公務をするのは、なにも参審員に限ったことではない。スウェーデンの地方政治においては、市議会(もしくは県議会)の議員だけでなく、それ以外にもたくさんの人々が、政治サイドから市(または県)レベルの政治・行政に関わっている(政治サイド、と書いたので市の職員としてではないということ)。

市議会の中には各種委員会が存在し、例えば、交通行政や環境行政、教育行政をつかさどるのは、それぞれ交通委員会、環境委員会、教育委員会であるのだが、ここには市議会に任命された政治任用の委員(複数)が座り、事務方である市のそれぞれの部署の職員とともに行政を運営している。この政治任用の委員には、市議会議員がなることもあるし、議員ではないけれど各政党の党員として活動している人々が政党の推薦を受けてなることもある。ここでも、その政党の地方レベルでの政策の立案に普段から積極的に関与している党員の中から選ばれる。

(私の大学の同僚は環境党に属しており、議員ではないものの、党から推薦されてヨーテボリ市議会のある委員会の委員をしている。彼が言うには、ヨーテボリ市議会の議席が81あるのに対し、このような各種委員会や公的企業の委員のポストの合計は300近くあるらしい。だから、議員だけではとても間に合わず、それ以外の人々も委員に就くことになる。)

だから、参審員もそのような各政党が抱える「議員予備軍」とでも呼べそうな党員の中から選ばれることが多い。ちなみに、参審員にしても、上に挙げた各種委員会の委員にしても、市議会の議席配分に応じて、各党への割り当てが決まるようだ。

また、以前もこのブログで書いたように、市会議員や県会議員の大部分が、本職を別に持つ「自分の自由な時間を利用して政治に関与している議員(fritidspolitiker)」あり、議会が開かれるときだけ報酬を受ける日当制の議員である。これと同じように、各種委員会の委員も参審員も、本職を別に持っており、公務に就いた時間に応じて報酬を得ることになっている。

ちなみに、参審制はそもそもスウェーデン社会を構成する幅広い分野の人々を司法に参加させることを目的としているため、党員だけでなく、(2)党員以外の市民も、もっと積極的に任命していくことが望ましい、という方針をスウェーデン国会および政府は打ち出している。

また、スウェーデンの参審制で重要な点は、参審員の推薦は各政党が行うものの、参審員が任命後に実際に裁判に関わるときには、政治的な主張やバイアスを司法判断に持ち込んではならない、という点である。

(続く・・・)

ドカーン!と利下げ

2008-12-04 23:52:11 | スウェーデン・その他の経済
今日、木曜日はヨーロッパで相次いで利下げが行われた。

まず、ユーロ圏の金融政策を管轄するヨーロッパ中央銀行(ECB)は、政策金利をこれまでの3.25%から0.75%ポイント引き下げ、2.5%とした。

また、イギリスの中央銀行も、政策金利を1.0%ポイント引き下げ、2.0%にすることを決めた。

さて、スウェーデンはというと、中央銀行Riksbankenの次の定例会合は本当は2週間先に控えていたのだが、それを前倒しして、ヨーロッパ中央銀行(ECB)と同じ今日12月4日に臨時会合を持つことが先週末決まっていた。景気が大きく冷え込む中、利下げをすることで実体経済を下支えする必要があると考えられていた。また、これまで2度の利下げにもかかわらず、住宅ローンの利率がいまだ高い水準に留まってきたため、それを押し下げる目的からも、利下げが必要だ考えられていた。

だから、今日の臨時会合で利下げが決定されることは、予期されていたことだったのだ。


しかし、予期されていなかったのは、その下げ幅。なんとスウェーデン中央銀行は政策金利を1.75%ポイントも引き下げて、2%とする決定を行った! これには市場関係者もエコノミストもびっくり。利下げの効果を最大限に発揮させるために、市場が期待していた以上の下げ幅で利下げを行うことにしたようだ。

これだけ大きな下げ幅は、スウェーデンが1994年に変動相場制に移行してから初めてのことだという。

利下げをするのはいいけど、インフレの懸念は大丈夫かって? 実は、統計局が発表した9月・10月の消費者物価指数は確か4%前後だったと思う。しかし、その背景にあったのは食品や日用品の価格高騰ではなく、住宅関連コストの高騰だった。そしてその主な原因は何かというと、金融危機以降に上昇した住宅ローンの金利だった。そのため、今回の利下げはむしろ住宅ローン金利を引き下げることを通じて、むしろ消費者物価指数を押し下げる方向に働くものと見てもいいのではないか、と私は思う。

実際、利下げ発表を受けて、大手銀行の各行はすぐさま住宅ローンの金利を大きく切り下げる決定を行った。住宅ローンを抱える平均的な家庭にとって、利払いが年間に12000クローナ(14~15万円)ほど軽くなるという。なので、住宅ローンを抱える家庭にとっては、可処分所得が増え、消費を通じた景気対策の役割を果たすようだ。

クリスマス商戦、本格的に

2008-12-02 01:46:42 | スウェーデン・その他の経済
スウェーデンでは毎年11月下旬頃からクリスマス商戦が始まっていき、クリスマス前の週末にピークを迎える。クリスマスには、家族・親戚同士でクリスマスプレゼントを交換する。

昨年2007年は好景気と順調な失業率の低下のおかげで個人消費が伸びたため、クリスマス商戦の売り上げが史上最大を記録したという。

だいたいどれくらいのお金をその年のクリスマスプレゼントに費やすかというと、一人平均3200クローナ(56000円)くらい。(注:今年8月あたりまでの1SEK=17.5円というレートで計算。ここ2ヶ月ほど為替レートが短期的に急激に変動しているので、現在のレートで換算すると37000円くらいになる)

また、プレゼントだけでなく、自分のためのショッピングや、レストランでのクリスマスディナーなども含めると、クリスマスに関連するこの時期の個人消費は一人あたり5000クローナ(87500円)くらいだという。

基本的にボーナス制度のないスウェーデンなので、大きな出費をこの時期に一気にするのは、家計に大きく負担をかけるのではないかと思う。

しかし、今年はやはり大不況に突入したこともあって、クリスマス商戦も後退するだろう、と見られている。北欧大手のスウェーデン系銀行Nordeaの調査によると、スウェーデンでは8%後退、ノルウェーでは9%後退、フィンランドでは19%後退、デンマークでは22%後退すると予測している。デンマークの後退幅が大きいのは、デンマークが隣国よりも一足早く景気後退局面に突入していたためらしい。逆に、スウェーデンでは今年に入ってから景気が後退してはいるものの、その効果はまだ大々的には表れておらず、人々が財布の紐を本格的に固く閉じるようになるのは、来年になってからということらしい。

(一方で、別の調査の中には、今年のクリスマス商戦は昨年をさらに上回る、というような予測を立てているものもある)

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新聞には書店のこんな広告も!

「義母へのクリスマスプレゼントには1クローネもかけるな! - 本を4冊買えば3冊分の値段!」


「親愛なる義母(svärmor)へ」(で、これがタダで買った本)