スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

「12月合意」により、スウェーデン議会の再選挙が回避される (その2)

2014-12-29 23:58:25 | 2014年選挙
12月に10日間ほど日本に帰国したが、その時に何人かの人から「スウェーデンの2015年の予算案は議会で否決されたらしいが、では予算が決まらないまま2015年になってしまうのか?」という質問をもらった。

いや、スウェーデン議会において12月3日に与党側の予算案が否決されたわけであるが、同時に、野党である中道保守4党が共同で提出した予算案は可決されたのである。つまり、2015年は中道保守4党の作った予算で行政を執行することが既に決まっているである。これは、3月22日に再選挙を実施しようが、実施しまいが、そして、その再選挙でどちらの陣営が勝とうが、全く関係なかった。

だから、12月3日に自分たちの予算案が否決されたロヴェーン首相が「議会の再選挙に打って出る!」と宣言したものの、たとえ再選挙を実施して勝ったとしても、2015年に関してはこの日に決まった野党側の予算を覆すわけにはいかないのである。だから、ロヴェーンの宣言は、ある意味、滑稽なことに思えるかもしれない。


【 2015年春予算で若干の変更は可能 】

前回書いたように再選挙は回避されたロヴェーン政権が続投することになったわけだが、2015年の予算はこのように既に決まっている。ただし、若干の修正は可能である。

ある年の予算は、その前年の秋に各党の案が議会に提出され、審議・採決されるわけであり、これは「秋予算」と呼ばれる。この時に決まるのが、メインの予算、つまり、本予算である。これに対し、4月にも議会で予算審議がある。これは「春予算」と呼ばれる。

「春予算」とは、その年の秋の本予算審議に向けて具体的な方向性や優先順位を前もって示す、予算折衝のたたき台の役割を持つものである。各党(おもに与党)が自分たちの春予算案において、自分たちの掲げる政治の方向性や実施したい改革などを盛り込む。また、場合によってはその前年の秋に提出された本予算に若干の追加・変更を加えることも可能である。そのため、ロヴェーン政権はこの春予算において、自分たちの政策を2015年の予算に盛り込む余地があるわけだ。

ただし、春予算で修正できるのは、その年の予算全体のせいぜい1割程度と言われる。所得課税については、年始が区切りなので、2015年の途中から所得税率をいきなり変えることはできない。一方、社会保険料の料率については、年の途中でも変更が可能であるので、ロヴェーン政権が選挙の公約で掲げ、今月初めに否決された予算案に盛り込んでいた若年者の社会保険料の減免措置の廃止(つまり、半減されている現段階からの引き上げ)は実行に移すことができる。そのため、歳入を少し増やすことができる。

歳出面については、公共支出を増やすような政策は歳入面での上昇が伴わない限り、予算には盛り込めない。そのため、左派的な政策を実施する余地は2015年に関しては、あまりないと言えるだろう。本格的な政策変更は2016年の本予算の審議(2015年秋に議会で実施される)を待たなければならない。

「12月合意」により、スウェーデン議会の再選挙が回避される (その1)

2014-12-28 01:55:40 | 2014年選挙

出典:スウェーデン議会 (Riksdagen)

12月3日の予算案採決において、社会民主党・環境党による新政権が提出した予算案が否決され、野党である中道保守4党が共同で提出した予算案がスウェーデン議会で可決した。中道保守4党の議席数は、連立与党である社会民主党・環境党と閣外協力をしている左党の3党合計に劣るものの、極右政党であるスウェーデン民主党が最終採決において中道保守4党の予算案の支持に回ったため、そのような結果となった。

これを受けて、当初はロヴェーン首相(社会民主党)が内閣総辞職を行い、その後、与党もしくは野党による新たな組閣が行われるものと見られていた。しかし、ロヴェーン首相は人々の予想を大幅に裏切った。新たな議会選挙を実施し、有権者の判断を仰ぐ意向を表明したのである。

過去の記事:
2014-12-03: 予算案の採決はどうなる?
2014-12-04: スウェーデン国会、野党の予算案を可決。首相は再選挙を決断

しかし、議会選挙を新たに行うことに対しては、私もこのブログで既に書いたように疑問点が数多くあった。そもそも与党の予算案が否決されるという混乱状況に至った原因は、社会民主党・環境党・左党左派陣営と、穏健党・自由党・中央党・キリスト教民主党中道保守陣営が、どちらも議会の過半数の議席を取ることができず、極右のスウェーデン民主党キャスティングボードを握っていたためである。では、新たな選挙によってこの膠着状態が瓦解し、左派・右派のどちらかの陣営が過半数を支持を取れるかというと、そのような可能性は極めて小さかった。12月に入ってから行われた世論調査によると、各党の支持率は9月の国政選挙の得票率からあまり変化していなかった。つまり、再び選挙をやっても、よっぽどのことがない限り、今と同じような膠着状態が続く可能性が高かったのである。

新たな選挙を実施する意向を12月3日に表明したロヴェーン首相だったが、正式な決定は12月30日に下されることになっていた。スウェーデンではその間、再選挙よりも良い打開策がないかどうか、様々なところで議論が続けられてきた。

議会運営をめぐる現行制度の問題点の一つは、少数与党が政権を担当した場合に政権運営が困難であることだった。それは少数与党なので、議会制民主主義のもとでは当然といえば当然だが、一方で、一つの内閣が議会の信任を受けて誕生しても、予算が議会で否決されるたびに内閣が総辞職したり、再選挙を行わなければならないとすると、政治そのものが麻痺してしまいかねない。具体的に問題なのは、数ステップに分けて行われる予算案採決のルールである。つまり、議会に提出された予算案が3つ以上ある場合、支持の最も少ない案同士を最初に戦わせて、最後の決選投票のおいては、それまで勝ち抜いた案と、支持が最も多い案を戦わせるという方法である。この方法だと、早い段階で自党の予算案が否決された党の議員が、決選投票において与党以外の予算案を支持することもできるので、与党の予算案が否決されるという事態も起こりうるのである。

今回がまさにその好例である。9月半ばの国政選挙の結果を受けて、左派3党中道保守4党を議席数において勝利した。中道保守4党は自分たちでは組閣は難しいと判断したため、左派3党が過半数の議席数を得ていないにもかかわらず、中道保守4党は左派側の首相候補であったロヴェーンが首相になって政権を樹立することを許した(首相選出の議決において棄権したからである。極右のスウェーデン民主党と組めばロヴェーンの首相就任を阻止することができたものの、極右政党との協力は彼らにとって考え難いことだった)。にもかかわらず(中道保守4党の直接的な意図ではないにしろ)与党の予算案が否決されてしまったのである。

おそらく、この採決ルールが作られた時には、少数与党による政権運営については考慮されていなかったのだろう。スウェーデンはかつては社会民主党が高い得票率を維持していたので、単独、もしくは、1、2党の閣外協力を得ながら、首相選出や予算案採決では過半数を確保し、安定した政権運営ができた時代が長く続いてきたが、近年になり、その状況も変わってきた。そのため、新しい状況により適したルール作りが必要なのではないかという声が、9月の選挙後から徐々に上がっていた。(私が12月初め、講義をするために私の古巣であるヨーテボリ大学経済学部を訪ねた時にも、一緒にランチを食べた同僚同士でこの話題に大いに花が咲き、危うく昼からの講義の開始を逃すところだった)


【 与野党の垣根を超えた合意の模索 】

12月3日に行われた予算案採決の前日、極右のスウェーデン民主党「予算案の決選投票において野党である中道保守4党の予算案を支持する」と表明した。それまでは、彼らは決選投票で棄権する可能性もあると考えられており(実際のところ、2010年から14年までは棄権したため中道保守4党による少数与党の予算案が可決できた)、そうであれば与党の政権運営に何の問題はなかった。しかし、スウェーデン民主党のこの発表によって、翌日の与党予算案の否決がほぼ確実なものとなった。そのため、焦ったロヴェーン首相はその晩(つまり採決の前日の晩)、中道保守4党の党首と会談し、事態の打開を図ろうとしたものの、中道保守陣営の側は断固として譲らず、妥協は得られなかった。

その結果、既に書いたとおり、与党の予算案が否決され、中道保守4党の予算案が可決し、ロヴェーン首相が再選挙の意向を発表する事態に至ったわけである。

この後、与野党間の建設的な合意を模索する動きが見られたが、実はこの時に動いたのは中道保守4党側だった。12月9日の主要日刊紙DNのオピニオン欄において「少数与党でも内閣を樹立させ、安定した政権運営ができるような長期的なルールを作るために、与党側とダイアログを持つ用意がある」と表明したのである。



出典:Dagens Nyhter

中道保守4党にとっても、新たな選挙は何の解決にもならないであろうから、できれば回避したいという気持ちがあったようだ。それに、2010-14年がそうであったように、自分たちが近い将来、再び政権に就いたとしても、議会で過半数の議席を取れなければ、今の社会民主党と同じ少数与党の立場に立たされることになる。与党の予算が否決されるたびに再選挙を行っていては政治が麻痺してしまい、スウェーデンの社会や経済にとっても良くない。それなら、今のうちに、新しいルールを作りたいという焦りがあったのだろう。

この「誘い」に与党側は乗った。日刊紙DNの報道によると、12月半ばから水面下で与野党間の協議が始まり、クリスマスの直前から本格化していったという。実際のところ、このころ内部筋からリークによって、水面下で協議が続いていることがニュースでも話題になったが、与野党の関係者は明確な発言を避けていた。

クリスマス休暇中も続いたこの協議は、12月26日の晩に実を結んだ。協議に関わったすべての党の党首が最後に集まり、握手を交わしたという。


【12月27日10時30分: スウェーデン議会のプレスセンターにて 】

スウェーデンは26日までのクリスマス休暇の後に週末が来たため、長い休みのまっただ中だが、記者会見が開催された。会場に現れたのは、中道保守4党社会民主党、環境党の党首であった。


環境党は党首が男女2人なので、6党とはいえ全部で7人。
穏健党はラインフェルト党首が既に退陣を表明しているため、次期党首候補のバトラが党首代行を務めている。
出典:Dagens Nyheter

この6党の党首は、この前日に至った合意を「12月合意 (Decemberöverenskommelsen)」と呼んだ上で、その内容を説明した。合意は、議会運営のルールと解決すべく重点課題について定めたものであり、次の4点からなる。

(1) 首相選出においては、最も有力な党派の候補者(つまり、支持する議員が最も多い候補者)を首相に選ぶ。
(現行制度では、過半数の反対票がなければその候補者が首相に選出される、という規定のため、過半数の議席を確保できなかった党(党派)の候補者を、それ以外の党が過半数で否決でき、少数与党による政権樹立が阻止される可能性がある。今回の合意では、そのようなことがないように、最も有力な党派以外の議員は首相選出において棄権することを定めている。これは今年10月初めの首相選出において、野党である中道保守4党が既に実行している。その結果、ロヴェーンが首相になることができたのである)

(2) 少数与党による政権が予算案を議会で可決できるようにする。もし、その予算案が否決される可能性がある場合には、その他の党は予算案の採決において棄権する。
(これは、「その他の党」がそもそも自分たちの予算案を提出しないのか、それとも、提出した上で採決においては棄権するのか、不明である)

(3) 議会で既に可決した予算の一部の項目を取り出して、それを後から否決するようなことはしない。
(これは、2014年の予算において、当時野党であった社会民主党などの左派政党が国税所得税の課税最低限を巡って実際に実行したおかげで、大きな混乱に至った。決着はまだついていない)

(4) 防衛、年金、エネルギーの3つの領域において、与野党の垣根を超えて協力を行い、ダイアログを持つ。
(例えば、年金問題については、現行の年金制度の基礎となった超党派合意には環境党が含まれていない。今年秋の新政権樹立後に、今や与党となった環境党がこの超党派の協議に参加しようとしたところ、中道保守陣営側はそれを拒み、退席してしまった。しかし、今回発表された合意によって、環境党も与党であるかぎりは、年金問題をめぐる超党派の協議に参加させてもらえることになる)


ロヴェーン首相は、この合意が野党との間で結ばれたことで再選挙の必要はなくなったと判断し、12月3日に表明したその意向を撤回した。

ちなみに、この合意に加わっているのは、先に挙げた6党であり、左党スウェーデン民主党は合意に加わっていない。議会における影響力を大幅に削がれることになったスウェーデン民主党は不満を露わにし、内閣不信任案の議会への提出も辞さない構えだが、提出したところで議会を通る可能性は全くない。一方、左党のほうは、ロヴェーン政権へ閣外協力をしているため、政権の続投を可能にするこの合意に賛意を示している。(9月半ばの選挙直後と同様、左党を蚊帳の外に置いたのは、中道保守陣営との合意形成を円滑にする上で良かったと思う。蚊帳の外に置かれたとはいえ、水面下で続けられた協議の進捗状況については逐次、報告を受けていたようだ)

また、この合意は2015年の春予算の審議から適用され、適用期間は2022年まで、とされている。


【 画期的で建設的な合意 】

今回発表された超党派の合意は、1990年代初めに結ばれた超党派の合意に匹敵するくらい画期的なものだと評されている。1990年代初頭にスウェーデンを襲った経済危機・金融危機・通貨危機という深刻な危機に際して、当時の政権第一党である穏健党と野党第一党である社会民主党が手を組ぶことで、例えば、破綻銀行への公的資金の注入や国有化などを実行に移すことができ、困難を乗り切れたときの超党派合意のことである。

その見方に私も同意だ。9月の国政選挙以降、左派陣営も中道保守陣営も過半数の議席を取れなかったにもかかわらず、あたかも塹壕戦のごとく、互いに妥協することなく、批判ばかりしあっていた。左派ブロック中道保守ブロックによる膠着状態を打破し、それぞれの政党が政策ごとに柔軟に協力し合い、過半数を得られるような状況が作り出せばそれが最善だったろうが、それが難しい。一方で、極右のスウェーデン民主党はキャスティングボートを握る立場にあるため、得票率・議席数に比例しないくらい大きな影響力を議会運営において発揮してきた。この状況を打開するためには、党派を超えた建設的な合意が必要であったわけであり、私も今回のような合意を心待ちにしていた。無駄としか思えない再選挙が回避されたことも非常に嬉しい。

今回の合意は、議会の力を減らし、内閣の力を強化するものであるため、民主主義の後退とも解釈できる。しかし、議会制民主主義の原則と、政権の安定的な運営という2つの目標を両立していくための妥協として、必要な物だったと私は思う。このような現実的で、建設的な合意が超党派で至ることができるのは非常にスウェーデンらしいところである。

おそらく、今回の合意は、議会法を改正するまでの暫定的なものと思われる。だからこそ、2022年までという期限がついているのであろう。今回の合意に盛り込まれた新しいルールを法制化するためには議会法を改正する必要がある。しかし、そのためにはまず調査委員会を設立して綿密な準備をする必要があるし、そのような重大な法律を変えるためには一つの国政選挙を挟んで2度、議会で採決するのが慣例とされているようだ。(ただし、政治学者によると議会法は基本法の一つではないため、変えようと思えば、一度の議決で変えられるらしい)

一つの懸念として挙げられているのは、今回の合意によってスウェーデン民主党を除くすべての党オール与党になるのではないか、ということだ。しかし、今回の合意はあくまで首相選出と予算案採決における手続きを規定しているにすぎない。それ以外の法案審議については、今後も与野党間で意見の対立が続くであろうし、政策的・イデオロギー的対立も今後も維持されるであろう。与党の法案が否決される可能性や、中道保守4党から内閣不信任案が提出される可能性もこれまで通りあるため、左派政権の側も安心してはいられない。中道保守4党の側もその点は強調している

(続く・・・)

新たな議会選挙は実施しない、とロヴェーン首相が発表。

2014-12-27 14:38:08 | 2014年選挙
12月初め、与党ではなく野党の予算が可決し、新たな議会選挙を実施する意向を表明していたロヴェーン首相(社会民主党)だが、野党側と合意にいたり、再選挙は行わないと発表。

選挙を実施するかの最終決定は12月30日に行われることになっていたが、野党との協議次第では「選挙を行わない」との決定もありうると示唆され、与野党の動向に注目が集まってきたが、12月30日を待たずして、今日昼過ぎに発表があった。

私は意味がほとんどないと思われる再選挙が回避されることを期待していたので、本当に良かったと思う。

詳しくは後ほど。

スウェーデン国会、野党の予算案を可決。首相は再選挙を決断。

2014-12-04 00:37:21 | 2014年選挙
負ける可能性が十分に高いのにロヴェーン首相が予算案の採決にそれでも挑むことはある程度、想像がついていた。そしてその後、スウェーデン民主党が中道保守4党の共同予算案を支持し、与党(社会民主党・環境党)の予算案を否決することもだいたい分かっていた。

しかし!

まさか、ロヴェーン首相がその後、新たな国政選挙の実施を発表するとは、誰が予想しただろうか? 可能性としては考えられたが、前回の記事に書いたように誰の得にもならない、と多くの人が見ていた。友人から聞いた話だと、社会民主党の国会議員の多くも昨夜の段階では「新たな選挙になる可能性は2%くらい」と見ていたというから、与党議員にとっても驚きの展開となってしまったようだ。

※ ※ ※ ※ ※

今日は朝9時から国会で予算案をめぐる国会討論が始まり、それぞれの陣営が他の陣営を叩き、政治混乱に至った責任を追求しようとした。


与党側は昼過ぎの段階で採決に挑むか、延期をするか、の決断を迫られた。ここで、採決に挑むという選択肢を選んだ。採決は午後3時半頃から始まった。最初の投票では、最も支持が弱い予算案2つ、つまり、中道保守4党の共同予算案スウェーデン民主党の予算案が投票にかけられ、前者が勝った。そして、最終的な採決では、中道保守4党の共同予算案と、与党の予算案が投票にかけられ、ここでスウェーデン民主党が棄権せず、中道保守4党側に付いたため、与党の予算案は否決された

(技術的に言えば、与党側にはこんな奇抜な手もあった。最初の段階において中道保守4党の予算案スウェーデン民主党の予算案が投票にかけられた時に、与党議員が棄権するのではなく、スウェーデン民主党の予算案を支持するという手である。そうすると、中道保守4党の予算案はこの段階で敗退してしまう。最終的な採決では、与党の予算案スウェーデン民主党の予算案が投票にかけられるわけだが、中道保守4党の議員がスウェーデン民主党の予算案を支持することはありえないから、彼らは棄権する。そうすると、与党の予算案が可決していた。しかし、この手は汚いと見られたのか、実行には移されなかった。でも、新たな選挙をやるくらいなら、そうでもして与党が予算案を可決して欲しかった。)

この後、与党側の議員には緊急招集がかけられ、密室で会合が持たれた。どうやら、この時にロヴェーン首相から「新たな選挙を実施する」ことを告げられたようである。

昨日も書いたように、内閣を総辞職しても、内閣を再編して新たな政権を樹立させることもできたが、ロヴェーンはその道を選ばなかった。任期途中に国会が解散、再び選挙が実施されるのは1958年以来、初めてのことである。

投票日は3月22日になるとのこと。



ロヴェーン首相はなぜそんな選択をしたのか?

彼は昨日から中道保守4党と、ブロックを超えた協力関係を築けないか、アプローチしていたものの、どの党にもそっぽを向かれてしまった。だから、内閣再編をして、新たな政権を樹立させたところで、結局、膠着状態は続いてしまう。それなら、自らの政権の妥当性について有権者に審判を下してもらおう、と判断したのだろう。


果たして、社会民主党を中心とする今の政権にとって、それが得になるのだろうか?

ロヴェーン首相は既に、新たな選挙ではこれまで築いてきた政権(社会民主党・環境党の連立+左党の閣外協力)とその予算案を掲げて、有権者の審判を仰ぎたい、と表明している。つまり、社会民主党単独で選挙戦を展開するのではなく、「環境党や左党とセットで」ということなのだ。これはかなり危うい。

実は9月の国政選挙後に成立した現政権は、自分たちの支持者からも少なからずの批判を浴びてきた。社会民主党が環境党と政権を築くにあたって、環境党に多くの妥協(ブロンマ空港閉鎖、ストックホルム・バイパス道路の計画再検討など)をしすぎた、という批判や、左党の閣外協力を取り付けるためにこの党に必要以上の妥協をした、という批判が上がってきたのである。つまり、ラインフェルト率いる中道保守4党連合(右派ブロック)に見切りをつけ、9月の選挙では左派政党を支持した中間層の中には、その後の内閣編成プロセスにがっかりした有権者が結構いると思われる。だから、新たな選挙を、社会民主党だけで挑むのではなく、「環境党や左党とセットで」ということになれば、それはゴメンだ、と思う有権者が、中道保守政党に逃げていく可能性もある。

(これと似たようなことは、2010年の国政選挙で起きている。この選挙では、当時の党首モナ・サリーン率いる社会民主党が、環境党と左党と連立を組むことを約束して、選挙戦に挑んだが、この二党、特に左党を恐れる中間層が中道保守陣営に逃げていったことが敗戦の一因だと言われている。)

一方で、現政権は与党間で様々な妥協をしてきたものの、中道保守政権よりはマシだ、と感じている有権者も少なからずいる。選挙をしてみたら、現政権に対する支持が予想以上に高かった、ということもありえるかもしれない。だから、今の時点では、どっちに転ぶかわからない。


さて、中道保守4党にとってはどうだろうか? 穏健党の票マグネットとしてこれまで機能してきたのは、ラインフェルト(元首相)とボリ(元財相)だったわけが、2人とも9月の選挙後に表舞台から消えてしまい、現在は年明けの党大会で党首に就任すると思われるバトラ氏(女性)が党の仮リーダーとして動いている。果たして、彼女や他の中心的議員が有権者の支持をどこまで集められるのだろうか?


スウェーデン民主党にとってはどうか? この党のおかげでスウェーデンの政治が大混乱に陥り、与党の予算案否決、内閣辞職、新たな選挙、と歴史的に見ても非常に稀なシナリオを辿ることになってしまったわけだが、そのような形で(いじめられっ子が)自分の存在感を誇示できたことを嬉しく思っている有権者の票が集まるかもしれない。

一方で、一部の支持者は離れていくかもしれない。というのも、この党の中心的な公約には「移民・難民の受け入れ抑制」のほかに「高齢者福祉の充実や年金者課税の軽減」があり、9月の選挙では高齢者の票もたくさん集めていた。しかし実は、高齢者に手厚い政策という点においては、与党の予算案のほうがスウェーデン民主党の公約に近かった。にもかかわらず、自党のメンツを保つために、その予算案を否決に追い込み、自党の公約からははるかに遠い中道保守4党の予算案を可決させてしまった。これに対して、がっかりしている高齢者はたくさんいることであろうから、彼らの票の行方が気になるところである。

また、新たな選挙となれば、9月の選挙ほどは投票率は伸びないだろう(9月の国政選挙では投票率が85%を少し上回っていた)。9月の選挙でスウェーデン民主党が得票率を伸ばせた一つの理由は、普段は政治に関心がなく、投票に行かない人々の心を掴んで、投票所に足を運ばせたから、という見方もある。もし、この見方が正しければ、投票率の低下とともにこの党の得票率も少し下がるかもしれない。

※ ※ ※ ※ ※


いずれにしろ、私個人にとっては、9月の総選挙で投票立会人として働き、投票後は翌日の朝2時近くまで開票作業を続けたあの苦労が無駄になってしまったかと思うと、非常に腹立たしい思いだ。


秀逸なジョーク。「冬の訪れとともに葉っぱが落ちていく。När vintern kommer faller Löfven.
「葉っぱ」の複数・定形「Löven」とロヴェーン「Löfven」首相とを掛けているのである。(ただし、アクセントの位置が異なる。)

予算案の採決はどうなる?

2014-12-03 00:07:07 | スウェーデン・その他の政治
来年2015年の予算案採決が今日(12月3日)行われる予定だが、その前日である12月2日、キャスティングボートを握る極右のスウェーデン民主党がついに採決での票の投じ方を発表した。以前から予想されていたことではあったが、スウェーデン民主党は最終的な採決において、野党である中道保守4党連合が共同で提出した予算案を支持すると発表した。そうなると、与党である社会民主党・環境党および閣外協力をしている左党(旧共産党)の議席数を上回るため、与党側の予算案が否決され、中道保守連合の予算案が可決することになる。


左側が中道保守4党+スウェーデン民主党:190票
右側が与党(社会民主党・環境党)+左党:159票

2010年から2014年までの中道保守4党連立政権においても、スウェーデン民主党はキャスティングボートを握っていたわけだが、この4年間は予算案の採決において、スウェーデン民主党が自党の予算案を支持し、最終的な採決においては棄権してくれたおかげで、当時の与党であった中道保守4党の予算案が問題なく可決した。しかし、今回は最終的な採決において棄権しないというのである。

さて、今後のシナリオは?

予定では今日(12月3日)、採決が行われることになっているが、これを延期するという手が与党側にはある。つまり、一度提出した予算案を与党側が撤回し、国会の財政委員会において野党側(誰も相手にしないスウェーデン民主党を除く)と協議・妥協しながら修正予算案を編成し、それを国会に提出し、審議・採決にかけるというシナリオである。

そうではなく、もし与党側がそれでも今日の採決を決行した場合、一つの可能性として、スウェーデン民主党を除く中道保守の野党4党のすべて、もしくは、一部が棄権するケースが考えられる。果たしてそのようなことがありうるのか? あるとすれば、それは中道保守4党のすべて、もしくは一部が「スウェーデン民主党の手を借りてまでも、自分たちの予算案を通すつもりはない」と判断した場合だ(首相選出の時がこのケース)。ただ、この可能性はほとんどなくなってしまった。というのも、今日のスウェーデン民主党の発表を受けて、ロヴェーン首相(社会民主党)は中道保守4党の党首と緊急会合を開催したが、4党は与党側に妥協するつもりはなく、明日の採決では自分たちの予算案に票を投じる、と言って譲らなかったからだ。

今日の採決が決行され、予想通り、与党側の予算案が否決され、中道保守4党の予算案が可決された場合どうなるか? ロヴェーン首相は以前から「その場合は内閣は総辞職する」と宣言してきた。理論的には野党の予算案のもとで与党が政治を行うことは可能だが、それはあり得ないと言っているのである。内閣が総辞職した場合、可能性は2つだ。一つは、新たな選挙である。もう一つは、内閣の再編である。

一つ目の新選挙は、スウェーデンではあまり考えにくい。歴史的に見ると、内閣の続行が難しくなっても、新たな選挙ではなく新たに組閣を行うことで危機を乗り越えるケースがスウェーデンでは一般的だ。その理由の一つとして、新たな選挙が行われたとしても、次の選挙は、その選挙から4年後ではなく通常選挙から4年後なので、次の選挙がまたすぐやって来ることになり、政党にとって非常に費用がかかってしまうことが挙げられる。ただ今回に関しては、通常選挙から間もないため、新選挙をやっても、次の選挙までの期間はそれほど変わらない。一方、今の時点で新たな選挙を行ったところで、誰も得をしないという見方が強い。スウェーデン統計中央庁(SCB)による大掛かりな世論調査が先日発表されたばかりだが、それによると各党の支持率は9月の国政選挙の結果とほとんど変わっておらず、新たな選挙をやってもまた似たような結果になることが考えられるからだ(正確に言うと現与党が若干有利)。それに、野党の第一党である穏健党のラインフェルト党首は辞任を表明し、表舞台から退いているし、件の極右・スウェーデン民主党だって党首が燃え尽き症候群で療養中だ。


以上、いくつかのシナリオを描いてみたが、考えられうるのは、与党が今日の採決を延期した上で、中道保守政党との協議・妥協のもとで予算案を組み直し、彼らの支持を取り付けながら、予算を可決するというシナリオか、与党が今日の採決を決行した上で、否決され、内閣総辞職ののちに内閣を再編(中道右派政党との妥協を容易にするような政権。おそらく環境党が切り捨てられるかも)し、新たな予算案を編成し、国会で可決させるというシナリオが有力ではないかと思う。

過去数年間、スウェーデンの政治は左派ブロック(社会民主党・環境党・左党)右派ブロック(中道保守4党)による「ブロック政治」に彩られてきたが、上に示したどちらのシナリオとも、その打破が必要とされる。ブロックを越えた妥協というのはこれまでもスウェーデンの政治では何度も行われてきたし、極右にキャスティングボートを握られている今こそ、彼らの力を無力化するためにもブロックを越えた妥協が必要とされている。ぜひとも、より柔軟な妥協を各党が見せてくれることを期待したい。


1990年代初めにブロックを越えた妥協を成し遂げた経験がある社会民主党党首(当時)と自由党党首(当時)が現役の議員に対してコメント:「あんたら、もっと協力し合いなさい!」


では、極右であるスウェーデン民主党中道保守4党の予算案を支持する狙いは何か? この党は1ヶ月ほど前には「自分たちの政策により近い予算案に票を投じる」と表明していた。しかし、予算案の歳出面を見てみると、むしろ野党(中道保守4党)ではなく与党(社会民主党・環境党)の予算案に近い。というのも、スウェーデン民主党は、失業保険手当の給付水準の引き上げや、疾病保険手当の受給期間の延長、年金生活者の所得税の低減、医療・福祉部門の人員増強を公約に掲げており、これらに合致するのはどちらかと言うと与党側の予算案であるからだ。

では、敢えて野党側の予算案を支持することで得られるものは何か? スウェーデン民主党がしつこく要求してきたのは「難民の受け入れに充てられる予算の削減」であるが、それが実現できるのか? 答えはNOだ。というのも、上記のシナリオで説明したように、今後、与党は中道保守4党と協議や妥協を重ねていくとみられるが、難民の受け入れ政策に関しては、与党も中道保守4党も考え方は同じであり、協議や妥協によってこの部分の政策が大きく変わることは考えにくいからだ。

だから、結局、スウェーデン民主党の狙いは、スウェーデンの政治に荒波を起こすことで、自分たちの存在感を示すことだと考えられる💩。それに、支持者の手前、あとには引けなくなったという見方もできる。