国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)は今週23日から26日までストックホルムにおいて国際会合を開催する。目的は、第5次評価報告書の第1作業部会報告書(Working Group I: テーマ The Physical Science Basis)の内容について最終調整することであり、確定の後、27日(金)に報告書を発表する。
この評価報告書は気候変動についての現時点での科学的知見を集めたものであり、数年ごとに発表されているが、前回、つまり第4次評価報告書が発表されたのは2007年であり、その後の研究によって複雑な気候変動メカニズムがどれだけ明らかにされ、また、気候変動の現状がどうなのかに注目が集まっている。
会合が開催される建物: Münchenbryggeriet (真ん中のレンガ造りの建物)
昨日撮影。天気が良かった
ちなみに、このIPCCは1990年にもスウェーデンのSundsvall(スンスヴァル)で第4回会合を開いている。この時はIPCCが設立されて間もない頃だった。
IPCCのこれまでの会合
さて、第5次評価報告書の中身であるが、すでにその一部は関係者によってリークされている。それによると、2007年に発表された第4次評価報告書の内容は、その後の研究でも概ね正しいことが明らかになっており、第5次評価報告書においては、人間の活動による温室効果ガスの排出が過去半世紀の気候変動をもたらしている可能性が「非常に濃厚だ」、と結論づけられているという。
(「非常に濃厚だ」の部分は、スウェーデンの科学メディアが使っている訳は"ytterst sannolikt" であり、それは少なくとも95%の可能性があることを意味するらしい。英語の原典ではどのような表現が使われているのだろう?)
これについては、科学誌Natureも最新号の社説(editorial)で触れている。
それについて日本語で書かれたブログ
(「新着論文」と書かれているが、実際にはNatureのeditorialに書かれている文章を参照している)
※ ※ ※ ※ ※
第5次評価報告書は、世界中の数百人の研究者が執筆しているが、スウェーデンからも9人の研究者が加わっており、スウェーデンの科学メディアでも、彼らへのインタビューを特集している。それらの(断片的な)情報をまとめると以下のようになる。
・第4次評価報告書の内容はおおむね正しかったが間違いもあった。まず、北極の氷の減少スピードは、2005年までの状況を基に行った第4次評価報告書での予測よりも早く、エスカレートしていることが明らかになった。
・一方で、地球上の気温の上昇スピードは第4次報告書の予想よりも遅かった。これは、海洋の熱吸収の機能が過小評価されていたためかもしれない。
・第4次評価報告書以降の研究活動によって、気候変動に関するデータがさらに蓄積されてきた。例えば、雲や森林が気候変動に与える影響など。また、大気-土壌-海洋における炭素の循環や、凍土からのメタンガスの放出についても詳細なデータが集まり始めた。
・煤(すす)など、大気中の黒色エアロゾル(空中微粒子)による気温上昇効果がこれまで過小評価されてきたことも分かった。二酸化炭素の抑制に加え、煤の削減(特に中国など途上国で)が温暖化対策として大きな意味を持つ。
・一方、硫黄酸化物のエアロゾルは色が薄いため、日光を反射するので、温暖化抑制の効果を持つことが分かった。
・以上のような様々な要素を取り込んだ大気モデルの改良・精緻化が、世界各地で進められてきた。
ところで第4次評価報告書では、科学的とは言えない見解(例えば、ヒマラヤ山脈の氷河の解ける速度)が一部に盛り込まれており、物議を醸したのは記憶に新しい。そのため、IPCCは今回の第5次評価報告書において、間違いが指摘された場合の対処・訂正について新たなプロセスを導入し、IPCCという組織に対する信頼性が損なわれないようにする構えだという。
また、IPCCは評価報告書の内容に対して寄せられた査読コメントを十分に考慮してこなかった、という批判もあるため、査読コメントには報告書の執筆者がきちんと対応し、それらのやりとりは報告書の最終的な内容に影響を与えなかったものも含めて、すべて公開し、後から外部の者が評価報告書の作成過程をきちんとチェックできるようにするのだそうだ。
この評価報告書は気候変動についての現時点での科学的知見を集めたものであり、数年ごとに発表されているが、前回、つまり第4次評価報告書が発表されたのは2007年であり、その後の研究によって複雑な気候変動メカニズムがどれだけ明らかにされ、また、気候変動の現状がどうなのかに注目が集まっている。
会合が開催される建物: Münchenbryggeriet (真ん中のレンガ造りの建物)
昨日撮影。天気が良かった
ちなみに、このIPCCは1990年にもスウェーデンのSundsvall(スンスヴァル)で第4回会合を開いている。この時はIPCCが設立されて間もない頃だった。
IPCCのこれまでの会合
さて、第5次評価報告書の中身であるが、すでにその一部は関係者によってリークされている。それによると、2007年に発表された第4次評価報告書の内容は、その後の研究でも概ね正しいことが明らかになっており、第5次評価報告書においては、人間の活動による温室効果ガスの排出が過去半世紀の気候変動をもたらしている可能性が「非常に濃厚だ」、と結論づけられているという。
(「非常に濃厚だ」の部分は、スウェーデンの科学メディアが使っている訳は"ytterst sannolikt" であり、それは少なくとも95%の可能性があることを意味するらしい。英語の原典ではどのような表現が使われているのだろう?)
これについては、科学誌Natureも最新号の社説(editorial)で触れている。
それについて日本語で書かれたブログ
(「新着論文」と書かれているが、実際にはNatureのeditorialに書かれている文章を参照している)
第5次評価報告書は、世界中の数百人の研究者が執筆しているが、スウェーデンからも9人の研究者が加わっており、スウェーデンの科学メディアでも、彼らへのインタビューを特集している。それらの(断片的な)情報をまとめると以下のようになる。
・第4次評価報告書の内容はおおむね正しかったが間違いもあった。まず、北極の氷の減少スピードは、2005年までの状況を基に行った第4次評価報告書での予測よりも早く、エスカレートしていることが明らかになった。
・一方で、地球上の気温の上昇スピードは第4次報告書の予想よりも遅かった。これは、海洋の熱吸収の機能が過小評価されていたためかもしれない。
・第4次評価報告書以降の研究活動によって、気候変動に関するデータがさらに蓄積されてきた。例えば、雲や森林が気候変動に与える影響など。また、大気-土壌-海洋における炭素の循環や、凍土からのメタンガスの放出についても詳細なデータが集まり始めた。
・煤(すす)など、大気中の黒色エアロゾル(空中微粒子)による気温上昇効果がこれまで過小評価されてきたことも分かった。二酸化炭素の抑制に加え、煤の削減(特に中国など途上国で)が温暖化対策として大きな意味を持つ。
・一方、硫黄酸化物のエアロゾルは色が薄いため、日光を反射するので、温暖化抑制の効果を持つことが分かった。
・以上のような様々な要素を取り込んだ大気モデルの改良・精緻化が、世界各地で進められてきた。
ところで第4次評価報告書では、科学的とは言えない見解(例えば、ヒマラヤ山脈の氷河の解ける速度)が一部に盛り込まれており、物議を醸したのは記憶に新しい。そのため、IPCCは今回の第5次評価報告書において、間違いが指摘された場合の対処・訂正について新たなプロセスを導入し、IPCCという組織に対する信頼性が損なわれないようにする構えだという。
また、IPCCは評価報告書の内容に対して寄せられた査読コメントを十分に考慮してこなかった、という批判もあるため、査読コメントには報告書の執筆者がきちんと対応し、それらのやりとりは報告書の最終的な内容に影響を与えなかったものも含めて、すべて公開し、後から外部の者が評価報告書の作成過程をきちんとチェックできるようにするのだそうだ。