スウェーデンの今
スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員
 



いや、もちろん社会民主党は総選挙で負けたが、ある政治学者いわく、これは一種の「社会民主党の掲げてきた社会民主主義の勝利」と見ることができる、ということ。

以前のブログで保守党の大幅な路線転換について書いたけれど、保守党は本当に選挙で勝って政権を獲得したいのなら、これまでの新自由主義的イデオロギーを放棄して、社会民主党の築いてきた福祉国家モデルを受け入れざるを得ないと認識したのだった。つまり、スウェーデンの保守党は左傾化せざるを得なかったのだ。

以下の記事は、ヨーテボリ大学政治学部の教授であり学部長であるBo Rothsteinが、選挙の2日後に、スウェーデンの日刊紙に寄稿した論説。スウェーデンの社会民主主義は今後も健在だ、というのが彼の主張。あれから1ヵ月半が経ち、新政権の政策が次々と発表される中で、そうとは必ずしもいえない部分もあるが、それでも、スウェーデンの政治史上で、かなり面白い結果になった今回の総選挙を分析する上で、重要なポイントだと思う。保守党の左傾化に関しては、それと似たようなことがイギリスで起こったとしているが、あちらでは左派の労働党が、右派の保守党路線に右傾化してしまった、という点が面白い。

Bo Rothstein

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『総選挙は、社会民主党の勝利であった』
Bo Rothstein (訳:佐藤よしひろ)

スウェーデンの政策モデルに対する関心は、国際的に見ても国の大きさに比例しないくらい非常に大きい。特に、社会科学の研究者は、以前からスウェーデンの政策モデルに驚異の目を注いできた。とりわけ、他国と比較してもかなり広範囲にわたる福祉部門や、高い税金、それに、国の財政にとっては比較的費用のかかる家族政策や平等政策が、どのようにしたらこんなに高い経済成長と両立でき得るのか、という点に、海外の私の研究者仲間は関心を持ってきた。他の北欧諸国と共にスウェーデンは、のちに「ワシントンの共通認識」と呼ばれるようになった認識 - つまり、グローバル化経済に立ち向かうには、税金の大幅な引き下げや、福祉政策や再分配政策の切り下げをするしかない - から大きく乖離する社会・経済発展モデルを提示しているのだ。

今年春、私は研究のためにアメリカに長期滞在したが、その際に、なぜそもそもスウェーデン型の政策モデルは可能なのか、という質問だけでなく、当時迫っていた今回の総選挙の争点は何なのか? という質問も投げかけられた。これらの問いに答えるのは、そんなに容易ではない気がしてきた。そのときの問答を再現すれば、だいたいこんな風になるだろう。

Q: 新政権はスウェーデンの超高税率を引き下げるのか?
-A: 非常に極わずかだろう。我々は多くの分野において、今と同じくらいの税金を納め続けることになるだろう。
Q: 右派ブロックは、補助金や福利厚生の大規模な切り下げを要求してくるだろうか?
-A: むしろ、その逆だろう。彼らは、より多くの公的サービスや補助金を約束するようになるだろう。
Q: 右派ブロックが政権に就けば、労働組合の強力な立場を崩そうとし、労働者の権利にも手を加えるだろうか?
-A: まず無理だろう。彼らはスウェーデン型労働市場モデルと強力な集団賃金交渉システムは維持すると約束しているのだ。
Q: 人工中絶の禁止や学校での礼拝の義務付け導入などを主張している政党はあるのか?(いかにもアメリカっぽい質問:-)[訳者注])
-A: いや、いや、いや。そのような論点は政策マニフェストでは全く扱われていない。
Q: すべての子供が公的な保育所に預けられるという社会主義的な家族政策や、費用のかかる育児休暇制度などは、右派ブロックが政権をとれば、崩してしまうのではないか?
-A: そんなことは絶対にない。むしろ逆で、右派ブロックの政党は、男女平等政策を支持しているし、その中の保守党は、より多くの父親が育児休暇を取るように更なる公的補助金制度を導入しようとしている。
Q: とはいっても、外交政策に関しては、社会民主党以外の政党が政権をとれば、スウェーデンをNATOに加盟させてしまうんじゃないの?
-A: そんなことは絶対にありえない。というのも、スウェーデンではこのような問題に関しては政党間で幅広いコンセンサスを得てから改革を行うのが伝統的だが、社会民主党はNoと言っているから、それは無理だ。

このような点を考慮すれば、アメリカやヨーロッパからの研究者仲間たちに今回の総選挙が結局のところ何を扱っているのかを説明するのが、非常に難しい気がしてきたのだ。われわれが選挙キャンペーンの中で見てきたものといえば、競合する政党間の現実政治の違いが非常に小さく、また、右派ブロックが社会民主党の社会モデルを相当程度、受け入れしまった、ということだ。とりわけ注目に値するのは、もちろん保守党の路線変更だ。長い年月といくつもの選挙敗退を経てきたが、ついに保守党の執行部は、ある単純な事実に気がついた。つまり、自分の党の支持層の多くが頼りにしている政策モデルを根本的に変えてしまおう、と主張したのでは選挙に勝つことはできないということ。それが分かったから、じゃあ、その政策モデルと一緒に歩もう、と考え始めたのだ。長年、多額の税金を納め、その見返りとして、自身には満足のいく年金、子供には質の高い教育、そして、うまく機能する医療を享受してきた中流階級には、これらのサービスが民営化されたとしても、民間市場で買ってやりくりする余裕など手元に残っていないのだ。さらに言えることは、これは個人と社会の間で結ばれた一つの契約として理解することができる、ということ。そして、将来の減税、といった“バラ色”の(人気取り的)公約では、この契約は決して解くことはできないのだ。自分が高い税金を通して既に“貸し”を作ったのだから、自分には公共部門から福祉国家の恩恵を享受する権利があるのは当然だ、と人々は考えるのだ。

右派ブロックの政策マニフェストにあるような小さな制度改革、例えば、雇用(失業)保険や住宅税における改革、が、その後の大々的なシステム変革につながり、現在の寛大な福祉国家政策が大きな脅威にさらされることになる可能性は、もちろんあるかもしれない。しかし、右派ブロックの実際の主張と、以前の右派政権の実績を見てみれば、そのような急変革を示すようなものはほとんどない。それに、政治学研究者Elin Naurinが示すように、スウェーデンの政治家は政党マニフェストの中の公約を一般に守っている。保守党の中にも、一人や二人の新自由主義論客が存在するかもしれないが、彼らがごく部分的なものを越えたインパクトを持つとは、私には考えられない。

(中略…)

テレビのインタビューや新聞の社説面では、今回の総選挙の結果は社会民主党にとっては歴史的な大敗だったとの見方が相次いでいる。政権交代の原因については、ヨーラン・パーションが選挙キャンペーンを個人的に牛耳ってしまったことや選挙キャンペーン戦略の失敗などが憶測されている。しかし、歴史的、国際的な視野に立って比較してみれば、2006年9月17日の総選挙はスウェーデンの社会民主党にとっては実に大きな勝利だったとも受け取れる。その理由は、社会民主党の掲げる社会モデルが、政敵にそれを取り込ませる形で、イデオロギー的にも現実政治の面でも勝利したからなのだ。
(中略…)
だから、今回の総選挙は、社会民主党的な政策モデルを両者が主張しあう争いだったと言ってよい。象徴的なのは、保守党の党首が選挙キャンペーンのスタッフに「医療・学校・福祉について社会民主党が何を提案してこようが、我々はより多くのことを提案していこう」と奨励した、ということだ。社会民主党は寛大な福祉国家モデルの伝統的理想をうまく実行できないでいる、と有権者の目に映った一方で、保守党にはそれができる、とくに、失業問題に関して的確な認識がある、と思われたのだ。

それぞれ個別の政策分野で実際に起きたのは、スウェーデンの社会民主主義がイデオロギーという面でも、現実政策という面でも、新自由主義的なイデオロギーを打破した、ということだ。1990年代前半に一群の経済学者らが「スウェーデンの経済問題は、徹底的な減税とそれと同規模の公的福祉システム削減によってしか、解決し得ないのだ」と言ったが、彼らは自らの学術的信頼性を揺るがす結果となった。今では、そのような声は全く聞かれず、沈黙だけが響き渡る。私は彼らの多くに「われわれスウェーデンが、例外的に高い経済成長と高税率を両立しえているのはなぜか」と問いかけてみたが、彼らは答えることができなかった。スウェーデンよりも明らかに税金が低い国々(例えば、ドイツ・フランス・イタリア)では、経済の現状はガタガタのようだ。

(中略…)

イギリスのトニー・ブレアは自身の労働党をマーガレット・サッチャーの保守党の路線に変更せざるを得なかった。それと同じように、スウェーデンでも保守党のフレデリック・ラインフェルトは、政敵である社会民主党の政策に固執せざるを得なかったのだ。社会民主党は自分たちの考え方を保守党に取り入れさせたのだ。

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受信料不払いスキャンダルで二人の閣僚が辞任に追い込まれた。不払いの閣僚は、警察に訴えられることにまで発展した。一般の人々もここまで大きな政治問題に発展したのを見て、恐怖心に駆られたのか、テレビの所有を申告して、これまで無視していた受信料の支払いを始める人が、先週一週間で数千世帯にも上ったとか。

公共放送の存在が嫌いな文化大臣だったが、彼女のスキャンダルのお陰で、公共放送はより多くの視聴者に受信料を払ってもらえることになった。あまり適任とは思えない文化大臣だったけれど、在任わずか10日の間に、思いがけない功績を残してくれたことに拍手。もしかして、これもラインフェルト首相の綿密な計算だったのか・・・?

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大きく路線変更をした保守(穏健)党について書いた。これまでの保守主義、新自由主義の路線から離脱して、ある意味、これまでの社会民主党の政策に近づくことになった。2004年以降、「新しい保守(穏健)党」「新しい“労働党”」といったキャッチフレーズを使うようになっただけでなく、社会民主党を批判する際にも「彼らの政策では、福祉国家、日々の生活の中の安心感、そして経済の安定性に大きな危機をもたらすことになりかねない」と、あたかも自分たちのほうが福祉・安心感・安定性の守護者であるかのレトリックまで使い始めた。

それでも、両者の間には違いが見られる。主な相違点は、

◎ 社会保険の保険料の引き上げ
例えば、失業保険の保険料の引き上げや、これまで所得申告の際に控除できたこの保険料や労働組合の組合費を今後は控除不可にする。

◎ 社会保障手当の削減
失業保険や疾病保険の給付額は所得に比例するが、その割合を下げ、また上限も下げる。育児保険の適用期間も若干短くする。早期退職者の手当も減額する。

◎ ガソリン税の減税、航空税の不導入
ガソリン価格の大きな部分が税金であるため、それを下げることでガソリン価格を抑えたい。これに対し、環境党と手を組んできた社会民主党政権はさらなる増税を主張していた。また、環境の観点から彼らの主張する航空税の導入も、保守党はしない、という。

などだ。これまでの保守党が主張してきた規模でないにしろ、減税は行う。その結果、減った税収を補うためには、別の形の歳入を作り、また歳出面も抑えなければならない。最初の2点はそのためでもある。1990年前半に4年間、保守党は政権を担当するが、時悪く、恐慌に見舞われ、社会保障費の支出がかさんだ。さらには、減税を行うと同時に、国防費を始めとする歳出を増やしたために、その4年間で財政赤字が急激に膨らむことになった。その時の苦い経験から、今度こそはその二の舞にしたくないのだ。

・失業者は怠け者か・・・?
減税のしわ寄せは、社会保障にやってくる。新しい保守党のモットーは「失業保険や疾病保険、早期退職保険などによる福祉漬けを改め、働くインセンティブを与えよう」なのだ。失業保険の水準や期間を短くすれば、失業者はより真面目に仕事探しをするようになり、失業率が減る。疾病保険や早期退職保険を削減すれば、仮病や怠け者が減る、と言う。

確かに、手厚い社会保障制度が失業者を堕落させたり、まだ働けるのに働けない、といって、国から手当をもらうケースはある。しかし、仕事を探せども探せども見つからない人(特に中高年)や、病気や労働災害で体が不自由になってしまった人も一方ではおり、彼らはやはり社会保障制度を必要としている。だから、一方的に給付水準を下げれば、人々は“追い立てられて”仕事を見つけるようになる、という単純な見方は、納得できない人もたくさんいる。(この点については、また別の機会に)

・新しい保守党と“守旧派”
この「新しい保守党」の仕掛け人は、2003年に党首に選ばれたReinfeldtと、彼の側近のMikael Odenberg(当時:党経済問題担当、現:国防大臣)、Anders Borg(当時:党参謀、現:財務大臣)そして、Sven Otto Littorin(当時:党官房、現:労働市場大臣)だ。(10日ほど前の書き込みで写真を確認できます)

しかし、彼らのイニシアティブも、党内ですんなり受け入れられたわけではない。2004年に党の路線変更が正式に発表されたときも「もはや保守党じゃなくなった。これまで我々を支えてきてくれた支持者(財界・高所得者)を見捨てる気か」とか「自分の党が乗っ取られてしまった」とあくまで“刷新派”に対抗姿勢を見せる“守旧派”の党員(特に中高年で地方出身)が多くいたのだ。

それをうまく押し切って今回の総選挙に挑み、見事、世論のシンパシーを得て、政権を獲得できたのだから“刷新派”の大勝利か、というと、必ずしもそうとはいえない。新内閣の閣僚メンバーを見ても、Reinfeldtの片腕として働いてきた刷新派だけでなく、Carl Bidlt(外相)や通商担当大臣(辞職)、文化大臣(辞職)、移民担当大臣など、守旧派(保守主義・新自由主義)も多く名を連ねることになった

新首相Reinfeldtとしても、党内のバランスを保つために、彼らにも顔を持たせる必要があったのだろう。また、彼の弱点である外交面を穴埋めするために、乞ってカムバックしてもらったCarl Bildtが、外相になる条件として、自分の気に入った守旧派を入閣させた、という噂もある。これらの閣僚からは、すでに「労働者の権利の弱体化させろ」「より多くの民営化を行え」「規制緩和を促進しろ」といった、Reinfeldtが既に放棄した主張が、再び議題に上がっている。さて、「新しい保守党」も路線変更を維持できるのか、それとも、やはり守旧派に引っ張り戻されていくのか・・・?

また、Reinfeldt自身の頭の中も、大きな謎だと言われる。というのも、彼がまだ20代の若かりし頃は、現在の守旧派と同様、市場自由主義や新自由主義の論客で、スウェーデン型福祉国家そのものに疑いを投げかける主張をしていたのだ。だから「新しい保守党」の路線変更も、むしろ、政権獲得のためのプラグマティズム(現実主義)であって、本心ではない、という噂も頷ける。かつての彼の同僚曰く「彼は主張を玉虫のように変えるので、本心が分からない」のらしい。

果たして「新しい保守党」は単なる“羊の皮をかぶったオオカミ”なのかどうか、今後の進展が楽しみだ!

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前回の続きです。

党首Reinfeldt
あれ? 右派? いや、もっと真ん中寄り?


1991年に右派ブロックが総選挙で勝利すると、右派ブロックの第一党として、当時の保守党 党首Carl Bildt(カール・ビルト)が首相を務める。しかし、続く1994年と1998年の総選挙では、保守党としては1991年総選挙と同水準の22~23%の得票率を維持するものの、右派ブロック内の他の党が支持を下げたため、政権を獲るには至らなかった。

そして、2002年の総選挙。ここで保守党は大敗北を期す。得票率は15%に急落。原因はいくつか考えられるが、党の掲げた「1300億クローナの大減税」という公約が、あまりに非現実的で、単なる人気取り政党、と思われたことが大きい。また、Carl Bildtの後を1998年に継いだ、当時の党首Bo Lundgren(ボー・ルンドグレン)は、あまり魅力のない銀行マンタイプの人間で、そんな彼がテレビ討論でも「減税、減税、減税」とばかり繰り返す一方で、「そんなに減税したら、福祉政策や雇用政策の財源はどうするのか?これらの政策はどの程度、削減するつもりか?」という質問には説得力のある答えをすることができなかったのが、かなりマイナス要因だったようだ。

2002年の大敗北のあと、保守党は党再生に乗り出す。党の中にも、これまで通りの伝統的なスローガンでは、政権獲得はおろか、支持率の維持も難しい、と危機感を感じる“刷新派”がいたのだ。それが今、首相になったばかりのReinfeldt(ラインフェルト)だ。

若くして政治に関わることになった彼は、1992~95年の間、保守(穏健)党青年部のリーダーを務める(当時20代後半)。首相だったCarl Bildtとは彼のリーダーシップを巡って次第に仲が悪くなり、党内の他の主流派ともケンカを始める。党執行部から直々に呼び出され、こっぴどく叱られた後は、しばらく水面下に隠れて、おとなしくしていた。

しかし、2002年に大敗北の後、頭角をすぐさま顕したのだ。2003年に正式に党首に選ばれる(全会一致で)と、党の大改革を発表。これまでの大規模な減税の主張を取り下げるとともに、スウェーデン型の福祉国家に対する批判のトーンを下げていく

まずは経済政策に関する保守党のプログラムの批判。「減税、減税、と訴えてきたものの、わが党の政策で得をするのは、上位10%の高所得者だけ。これでは、他の有権者の支持を集めることはできない」「国会調査局(RUT)に依頼した試算によると、保守党の党プログラムが実際に実行された場合、現在は黒字の国家財政が数年内に200億クローナも赤字になることが判明」「減税を訴える一方で、福祉や公共政策をどうするのか、きちんと示さなくては、有権者からの信頼を得ることは難しい」と考えたのだ。

つまり、大規模な減税によって税収が激減しても、福祉政策やその他の公共政策による支出をそれに応じて減らさなければ、財政赤字になる。とは言っても、スウェーデン国民の多くは福祉国家政策(医療・教育・雇用などもすべて含んだ)の大規模な削減は望んでいない労働者の権利水準の引き下げも、望まれてはいない。それなら、党のプロフィール自体を修正したほうが、政権獲得のためには現実的、と考えたのだ。

そして2004年3月に発表された保守党の新しい方針は・・・

◎ 低所得者により重点をおいた減税の提案
高所得者に有利な減税政策ではなく、すべての所得層に同じ額の減税を行うことで、低所得者に比較的有利になるようにする。限界税率の削減にしても、低所得者が恩恵をこうむるようにする。(ここでいう“税金”には、保育所の自己負担額、住宅補助金(マイナス)、なども含まれている。つまり、狭義の税金を下げる一方で、保育所の自己負担額を上げたり、住宅補助金を下げることで、低所得者にとっては結果的に損になるようなことはしない、ということ)

◎ 各種手当の給付水準の削減
福祉国家政策の重要性を認めたうえで、それでもこれまで高い水準で給付されていた失業保険や疾病保険、早期退職年金の水準を現行の80%から75%もしくは70%に下げる。それと同時に上記の減税政策を行うことで、“手当依存よりも、働くことがより得になり、魅力的になる”ようにする。減税による税収減は、この手当の給付水準の削減だけでなく、労働供給が増加する結果としての所得税収増によって賄う。

◎ 地方自治体に減税のシワ寄せをしない
地方自治体は、学校教育・育児政策・高齢者福祉・医療の担い手である。だから、中央政府として、地方自治体の収入となる地方税や、国からの移転である地方交付金が大きく減らされるような政策は行わない。

◎ 労働者の権利と福利の尊重
従来は、労働組合や労働者の結束力の弱体化や、ストライキ権、団体交渉による賃金決定方式の弱体化が、高所得者や財界を支持母体とした保守党の党是であったのだ。それを大きく改め、これらには手を出さない、と言うようになった。しかも「労働者の立場を不安定にすることが、経済問題の解決になるとは思えない」とも言っている。解雇の際の優先順位「Sist in, först ut (Last in, first out)」の制度も、これまでは雇う側の融通が利かない、という理由から、保守党は敬遠していたのだが、それも維持する。

◎ 労働市場庁(AMS)の存続
公共の職業案内所や、失業者に対する労働訓練を提供してきたのがこの機関であるが、保守党は「非効率だから、民間に任せればいい」と従来は言っていた。しかし、今では「意義のある公共機関だ」と、見方を大きく変えた。

このような大きな路線転換ともに、イメージチェンジも図るために「Nya Moderaterna(新しい保守(穏健)党)」とか「Nya arbetarpariet(新しい“労働党”)」というキャッチフレーズも多用するようになったのだ。

(続く・・・)

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スウェーデンの総選挙では、これまでの赤い政権青い政権に変わった、つまり、左派ブロックである社会民主党・環境党・左党の(閣外協力)政権が破れ、右派ブロックである保守党・自由党・中央党・キリスト教民主党による中道保守(右派)政権が誕生したのだ。

スウェーデンといえば、歴史的に労働運動や労働組合をバックにした社会民主党が強く、これまでの福祉国家の発展も主に彼らのイニシアティブによって成り立ってきた。では、今回の政権交代は、スウェーデン国民自身が、スウェーデン型の福祉国家モデルを否定してしまった、ということなのか? これで高福祉・高負担の社会には終止符が打たれ、アメリカ並みにはならないとしても、他の平均的な先進国と違いがなくなってしまうのだろうか?

と、判断するのはちょっと時期尚早だ。というのも、

① 今回の選挙では、もともと社会民主党などの左派の支持者が、右派の保守党の支持に回ったが、それは彼らがスウェーデン型の福祉国家社会に「NO!」と言ったからではなく、長年政権に就いてきて新鮮味がなくなった社会民主党、とくに近年、傲慢な態度ばかりが目立つようになった首相Persson(パーション)に嫌気がさしたから、と見たほうがいい。

② それだけでなく、保守党のほうもガラッと衣替えし、左派(中道左派)の人々にもウケる党へとイメージ転換をすることに成功したこともかなり大きい。もともと保守党は以下に書くように、保守主義と新自由主義(市場自由主義)を掲げる政党だったのだが、Reinfeldt(ラインフェルト)首相のリーダーシップのもとで、大きく路線転換をし、税を財源とする福祉政策、社会政策、雇用政策の重要性や、労働者の各種権利や福利の重要性をおおっぴらに認め、大幅な減税や福祉国家の削減という、これまでの伝統的な保守党の主張の多くを撤回してしまったのだ。
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保守党、もしくは穏健党と呼ばれるModeraternaは、 本来は新自由主義市場自由主義を信奉する人々や、保守主義を掲げる者によって構成されてきた。

保守主義(ごく簡単に)・・・現状に満足している、もしくは、我々が生きている社会は複雑で小さな変化でもそれがもたらす帰結は予測不能という理由から、現状維持に努め、変化を好まない社会観。現代社会という文脈の中でいえば、家族内の秩序を維持しようとする家族主義や、社会の中に現存する階級を維持しようとする考え方、宗教をはじめとする各種伝統や価値観を維持しようとする考え方など。保守主義の根底にある考え方は、人間というものはそもそも能力的に不完全なものであり、その不完全さにもかかわらず日々の生活をそれなりにやっていくために、長い時間をかけて伝統や社会制度が(自然発生的に)形成されてきた、ということを重視する。そんな伝統や社会制度は完全ではないにしろ、そのおかげで社会に秩序ができ、我々人間はそのもとで曲がりにも日々を営んで来れたのなら、何故わざわざそれを壊す必要があるのか、その帰結は(フランス革命や近代ドイツ史が示したように)予測不可能で社会は大混乱に陥る、と考える。

新自由主義(ごく簡単に)・・・自由主義というイデオロギーがそもそも、王権・国家・伝統・宗教的な束縛からの個人の解放や、個人の所有権の確立を訴えるところから始まったのに対し、新自由主義はその流れを汲みつつも、私的所有権の保護と、過度の規制から解放された市場経済の重要性をことさらに強調する。つまり、国家が税金を徴収して所得の再分配をおこなったり、国営企業や各種の規制などによって市場経済に介入するのではなく、国家はその役割を警察や国防、裁判所などの必要最小限にとどめるべきで、それ以外のことは人間同士の自由な合意によって成り立つ市場経済がうまく調整してくれる、というもの。小さな国家(夜警国家)、市場自由主義 (market liberal)、市場万能主義などの言葉で擁護されたり批判されたりする。自由主義の考えの中でも、社会的自由主義 (social liberal) と呼ばれる考え方と対立する。

言ってみれば、日本の自由民主党と似たイデオロギー的背景を持つ党なのだ。
(続く・・・)

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これまで政権を12年にわたって担ってきた社会民主党にとって、総選挙での敗北と、支持率の5%近い急落は、大きな痛手となった。普通選挙制が1921年に導入されて以来で、最悪の結果だという。一方、保守党(穏健党)は1928年以来で最高の成績だった。支持率、そして議席数は右派(中道保守)ブロックの他の3党を合わせた分よりも大きい。

好景気、高い経済成長率、実質賃金の着実な上昇、2%を超える財政黒字・・・。このようなスウェーデンの現状を考慮すると、政権を担当している党が敗北するなんて、余程のことがない限り、考えられない。もし、経済が悪かったのなら「今の与党が悪いのだ」と有権者は考え、政権交代を願ったかもしれない。しかし、経済の調子は全体的に見るとよい。それでも、社会民主党が支持を低下させたということは、どんな“余程のこと”をしてしまったのか?

さて、スウェーデンの経済状況は絶好調、といっても、一つだけ重要な問題点があった。それは雇用・失業問題。輸出関連産業の好業績と内需の伸びに支えられて、スウェーデンの経済は近年、高い成長率を見せてきたが、なぜか雇用のほうが伸び悩んでいるのだ。幸い2005年以降、回復基調にあったが、それでも、とくに10代、20代の若年者や50歳以上の中高年が、未だ高い失業率に悩まされていた。

この問題にどのような対策を講ずるべきか? 右派ブロックは具体的な手立てを次々と提示してきた。企業が負担する社会保障費の軽減、労働保護法の一部緩和、中小企業への支援、起業家への支援、高校の職業科の教育をより人材不足の企業が欲する能力にマッチしたものにすること、所得税と失業給付の若干削減により働くインセンティブを高める、などだ。

対する社会民主党はこの失業問題を甘く見ていたのだった。経済の調子が全般的にいいのだから選挙で負けることはない、雇用もこの調子で回復していくに違いない、と思ったのだろう。だから、選挙戦における戦略も、新たな対策の提示を積極的に行うよりも、むしろ「これまでの社民党政権の実績をいかにアピールするか」というものだった。××の分野ではこれをやった、※※の分野ではあれをやってきた、ということを訴える。「絶好調のスウェーデン」というキャッチフレーズを選挙キャンペーンのあちこちに用いた。さらに、首相Göran Persson(ヨーラン・パーション)を前面に押し出して「優しくて、しっかりしていて、頼れるGöran Persson」というイメージ作戦も展開した。これも度が過ぎて、あるメディアは「国父(landsfader)パーション」と茶化したりしていた。

スウェーデンの国父?

スウェーデン人、特に、職がなくて困っている人にとって、これまでの努力がどうだったのか、なんてどうでもよく、むしろ今の問題にどう対処してくれるか、それが票を投じるときの重要なポイントだったに違いない。しかし、かのGöran Perssonは5月の段階で「雇用問題を選挙戦の論点にしようとする右派ブロックは失敗するに違いない」と言っていたという。これは明らかに世論の誤認だ。今回の総選挙の後で行われた、「党を選ぶときに何が決定的な要素だったか?」という世論調査では、以下のように“雇用”が一番に来ている。
① 雇用 (55.5%)
② 学校教育 (54.3%)
③ 医療 (51.3%)
④ スウェーデン経済 (50.4%)
⑤ 高齢者福祉 (45.2%)

(カッコ内の数字は、それが決定的な要素だった、と答えた人の割合)
出所:SVTの投票所出口調査

Arbetslinjeの放棄
そもそも、“雇用”はブルーカラー労働者を支持母体とする社会民主党にとっては、常に重要課題だったのだ。高度経済成長期が一段落した70年代以降も、“完全雇用”を維持すべく、財政・金融政策を最大限利用した高インフレ政策や、為替相場での通貨切り下げなどによって、必死に総需要を作り出そうと努力してきたのであった。(80年代終わり、90年代初め頃までは、スウェーデンも中央銀行を政府の手の元に置き、政府の意向で金融政策が決められていた。また、為替相場も固定制だった。)このような積極的な雇用政策があっても、どうしても失業してしまう人はいる。だが、失業手当の給付を受ける場合にも、ただ一方的に給付を受けることは許されず、給付の条件として、職探しをちゃんとするか、労働市場庁のアレンジする職業訓練を受けなければならない、しかも、給付期間も上限付き、という厳しいものであった。このように、雇用が福祉国家の基本とする考え方をArbetslinjeといい、社会民主党や労働組合がかつては積極的に推し進めていたのであった。

しかし、90年代以降は、中央銀行が政府の手を離れて独立し、金融政策の役目が「完全雇用」ではなく「物価の安定化」とされたことなどにより、以前のような手で完全雇用を達成することが不可能になった。バブル崩壊に伴う不況も相まって、80年代末まで2%台だった失業率も、90年代以降は5~12%という高水準を維持し、それ以下に下げることが難しくなった。その結果として、失業給付を長期にわたって受け続ける人や、早期退職者、長期病欠者など、各種の給付や手当に依存する人が増えてしまったのである。このような現状を前にし、社会民主党は次第にArbetslinjeを事実上、放棄していくこととなる。

だから、今回の総選挙で、保守党をはじめとする「右派ブロック」がこの雇用問題を積極的に取り上げて、選挙の争点にし、その結果勝利した、というのは皮肉な話だ。上に挙げたように、右派ブロックはどのようにしたら新たな雇用が生まれるか、知恵を絞った。これに対し、社会民主党は失業給付をはじめとする社会給付の増額を約束していた。これが、多くの有権者には
右派ブロック ・・・ 問題を正確に認識し、積極的改革を約束する党
社会民主党 ・・・ 積極的な改革案なしに、従来の給付増額だけを約束する魅力のない党
と映ってしまったようだ。

社会民主党の内部でも、この魅力のないキャンペーンを批判する声があった。しかし、首相Göran Perssonのワンマン振りが度を過ぎて、耳を貸すことなく、まさに“裸の王様”になってしまったようだ。だから、今回の敗北は、社会民主党に頭を冷やしてもらうためにも、よかったのかもしれない。しっかり反省して、4年後の総選挙に挑んでほしいものだ。

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17日夜の開票速報は、文字通り、まさに“手に汗握った”。
大勢が判明した23時過ぎ、首相Göran Perssonは、TVカメラの前に登場した。そして、敗退を認め、首相としてだけでなく、党首としての退陣をも表明した。

スウェーデン史上、大きな節目となるかもしれない瞬間に居合わせたことを改めて実感した。

この結果、スウェーデンでは12年ぶりに政権交代が実現する。社民党首相に代わる新しい首相には、野党第一党の保守党を率いるFredrik Reinfeldt(フレドリック・ラインフェルト)が選ばれることが確実。スウェーデン史上、最年少の首相の誕生だ。

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開票作業は今日やっと終了し、正式結果が公表された。

これまで政権に就いてきた「左派ブロック」と、対する「右派ブロック」の成績は次のよう。
左派ブロック:171議席(投票率 46.08%
右派ブロック:178議席(投票率 48.24%
投票率を見ると、差が2%足らずと、大接戦であったことが分かる。

各政党の成績を詳しく見てみよう。


数字は得票率。カッコ内は前回2002年との比較。それぞれのアルファベットがどの政党を示しているかは、下の表で確認。


社民党が4ポイント近くも支持を失ったとともに、左党も人気低下。それに比べ、右派の保守党が11ポイント近くも大幅に支持を伸ばしている。自由党キリスト教民主党が一方で、人気を大きく低下させているものの、保守党の爆発的な伸びのため、右派全体としては、その損失を補っている。また、全体としては、2大政党制に近づきつつあるともいえるかもしれない。

以前の選挙であれば、有権者が支持政党を変えるとしても、多くの場合、左派ブロック内でとか、右派ブロック内でというケースが多かった。しかし、今回はブロックを跨いだ、支持変更が大きく、全体として左から右に流れたのだ。興味深いことに、今回急成長した保守党は、社民党の支持者を大きく取り込んだのだ! 以前にも書いたように、左-右のものさしの中では、保守党は一番右に位置すると思われている。だから、これまで社民党を支持していたものが、間を経ず、いきなり保守党に流れたのは驚きに値する。その原因はまた後ほど。

さて、上の表には「その他」とあるが、ここにはどんな政党が含まれているのだろう。ちなみに「4%ハードル」をクリアして、議席を獲得した党はない。そういえば、フェミニスト党はどうなったのだろう・・・? 下の表を見てみよう。


実際は、極小政党が数え切れないほどあるので、ここには1万票以上を獲得した党のみを掲載した。

話題を呼んだフェミニスト党は、世論調査が予測していた通り、1%に満たない支持しか得られなかった。ところで、そんなことよりも、一番上にあるスウェーデン民主党が3%近く得票しているが、いったい何者だろう!?

実はこの党は、“スウェーデンをスウェーデンらしく維持しよう”というスローガンのもと、移民や非ヨーロッパ系外国人に対する敵視や排斥を主張する、いわゆる極右政党なのだ。その党が、前回の1.44%から大幅に支持を伸ばしたことに、スウェーデン中から“驚異”と“脅威”の声が上がっている。

スウェーデンでは、小党乱立を防ぐ目的で「4%ハードル」が設けられているが、この党がこの調子で成長を続ければ、国会での議席獲得も時間の問題となってしまうかもしれない。この党については、特筆すべきことがたくさんあるので、また別の機会に。

最後に全体の投票率をまとめてみよう。


スウェーデンでも、近年は「投票率」の低下が指摘されていたが、一番下を見れば分かるように、前回に比べ2ポイント近く回復したので、みな胸を撫で下ろしている。スウェーデンの民主主義はまだまだ“健康的”だ。今回は、選挙戦の間中、左派と右派の伯仲が騒がれていたから、一票一票の重みも自然と重く感じられたのかもしれない。そして、人々に投票権の行使を促すインセンティブになったのかもしれない。

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外出先から携帯をモデム代わりにしての投稿なので、手短に。

投票日当日は、朝八時に近くの学校で、市議会選挙と県議会選挙に投票。朝一番たったので、投票箱が空かどうか、確認をさせられる。

そして、通訳の仕事のため、電車でマルメ市に向かう。

そして20時から開票作業が始まる。19時55分発表の出口調査の結果では、右派ブロックの保守党が大幅リード、政権交代の可能性大、とでる。

マルメ市での滞在先は、中央広場に面したホテル。その1階のフロアを貸しきってなんと中央党の地元支部が開票番組を見守っていた。ビュッフェ付、ワイン付。

彼らと一緒に結果を見守る私。左派と右派は僅差で右派がリード。開票が終盤に近づくにつれ、右派が少しずつ引き伸ばしていく。右派ブロックの中央党も比較的よい成績だったので、喜ぶ周りの中央党スタッフ。そして、複雑な心境の私。

そして、右派ブロックの勝利確定! 41歳の首相誕生!
現首相Göran Perssonが退陣表明。

半酔いの私の目の前で、すべてが幻想のように起こっていく。気づくと、中央党スタッフにワインを注いでもらい、一緒にお祭り騒ぎをしていることに気づく。

自分の変わり身の早さを、かなり恥じてしまった、日曜日の深夜。

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今日は土曜日。総選挙も明日に迫った。ヨーテボリ市内は普段の土曜日よりもさらに活気づいているようだ。アヴェニュー突き当りのGöta platsenでは、首相Göran Perssonが大演説。Kungsportsplatsenでは、各党の選挙キャンペーン小屋が所狭しと並び、歩いていると次から次へとビラを渡される。サンドイッチマンも登場して、キリスト教民主党のGöran Hägglundをやたらと宣伝しているし、政党だけではなく“動物の権利”といった団体もビラを撒いて、自分たちのよいと思う政党へ投票を呼びかけている。駅近くのショッピングモールNord Stan内では、事前投票(不在者投票)のための大きなブースが立ち、人々が行列をなして事前投票をしようとしていた。

大きな広場Brunnsparkenには例のFeministiskt Initiativ(フェミニスト党)がキャンペーン小屋を構えている。私も立ち寄って、政党マニフェストを手に入れた。前回の書き込みと重なるけれど、フェミニスト党が今回の選挙で掲げている5点とは、
① 女性の賃金の向上
② 男性による暴力の封じ込め
③ 育児休暇の個人化(2分割)
④ あらゆる形の差別の禁止
⑤ 女性の視点から見た社会の構築


このマニフェストとともに、国会や地方議会へ立候補者リストをもらったけれど、国会のほうはGudrun Schymanを筆頭に58人もの名前が並ぶ。そのうち男性と思われるのは2、3人のみ。

フェミニスト党のマニフェストと候補者の名前が載った党の投票用紙


前回の続きだが、立ち上げ当初のメディアの注目は大きかった。国内だけでなく、他の国でもFeminism界の大きな出来事として注目を浴びた。アメリカでは「Sweden did it!(スウェーデンがやってくれた!)」という見出しで報じられたというし、フランスでも「男女平等政策が最もすすんだ国での変事!!」として報道されたという(SHOKOさんの情報提供)。このように、国外ではセンセーショナルに報じられたフェミニスト党も、話題性ばかりが強調されるあまり、その後どうなったのか、何故うまくいかなかったのか、国外にはあまり伝わっていないようだ。実情は以下の点にまとめられるかもしれない。

◎ 一元的な白黒論
男性だけでなく女性からも支持を失うことになったのは、フェミニスト党の結成メンバーを支えた白黒的な社会の見方。「男は獣だ」「男性と女性の権力的分配を是正すべきだ」「男性の本性は暴力によって権力を示すこと」「スウェーデン国民の50%(つまり女性)は常に虐げられ、市民権を奪われている」「男性税を新設すべき」といったセンセーショナルな主張は、一部の人々には大受けしたけれど、一方で、ドグマ的な社会の捉え方や、男性と女性を真っ二つに分け、互いの権力闘争を描き出すことで女性の地位向上を達成しようとする手法に拒否感を示す人々も多かったという。

◎ 左派・右派の両方を包括することに失敗
当初の狙いは、左派(社会リベラル)と右派(個人的リベラル?)にまたがる包括的な“フェミニスト・フォーラム”を作ることだった。設立時のメンバーには、社会主義的なフェミニストだけでなく、右派のフェミニストも含まれていた。しかし、異なるイデオロギーを幅広く包括するフォーラム的集まりは長続きせずに、内紛に至る。結果として、左派的、社会主義的なフェミニストや、レズビアン・フェミニストが主導権を握る結果となった。上に挙げた「一元論」にも関係してくるが、次第に、男女平等問題の根源を、“支配する・支配される関係”というマルクス主義的な視点でしか見なくなる傾向に陥ってしまう。“革命”という言葉は使わないまでにしろ、“支配される側”が“支配する側”に打ち勝って、関係が逆転すればすべての問題は解決する、という議論の単純化が、この党のアジテーションを支配してしまう結果となった。そして“威勢だけはいいけれど、具体案に欠ける党”というイメージができてしまった。

ちなみに、社会主義的フェミニストに対抗する(個人主義的な?)フェミニストは、女性をひとつの集団と捉え、集団全体として地位向上を図るやり方には反対で、あくまでも一人一人の闘争を通して、女性の地位向上を図りたいと考えているようだ。

◎ 内紛、そしてメディアでの暴露
内紛はメディアで大きく報じられた。“女性同士の喧嘩は派手だ”というステレオ・タイプにピッタリだったので、メディアも半ば面白おかしく報じたのだ。フェミニスト党に言わせれば、主要メディアは事実上、男性社会に支配されており、彼らがフェミニスト党潰しにかかったのだ、という批判もあったが、それだけが原因ではない。フェミニスト党メンバーのメディア対応も相当に酷いものだった。内紛で負けたある執行部メンバーは、新聞の独占インタビューに登場したり、ニュース番組に生出演したりして、執行部の批判をおおっぴらに行った。「フェミニスト党なんて名ばかりで、結局は、権力欲しさに群がる女性集団」と暴露した。それに対し、批判された側にいたあるレズビアン・フェミニストは「彼女は男性に身を売る売国奴、そして、中流のオバサン(borgerlig kärring)」とこれまたメディアで言ってのけた。このように、党内の争いを自分たちで進んで外に暴露してしまったのだ。カリスマ的代表であったGudrun Schymanはメディアの扱いには得意で、騒動の際も冷静に行動していた。しかし、メディアに不慣れなそれ以外のメンバーが小波をワザと大きくして、自分たちの船ごと沈めてしまったようだ・・・。

◎ 既成政党のこれまでの努力
上に挙げたスキャンダルよりも、もっと大きいのがこれではないかと思う。既成の政党も、性別間の権力構造を是正するためにはどうしたらよいか、意思決定をする集団(議会、政党、企業の中の執行部、家族etc)により多くの女性が就く事ができるようにするためにはどうすべきか、積極的に努力してきているのだ。戦後の長い政治運動の中で、政治的な権利の平等化、教育へのアクセスの平等化、税制の個人化(男性を扶養者とした上で、家族を単位に課税する、のではなく夫と妻それぞれに課税)など、着実に前進してきたのは社会民主党をはじめとする党だ。既成政党にはたいてい“女性の会”があり、彼女らが政治に積極的に働きかけてきた成果が大きい。現在でも、多くの党も世論の変化には敏感だから、“フェミニズム”という言葉は必ずしも使わないにしろ、男女平等や賃金差別、雇用差別などの改善を訴えている。

さらには、フェミニスト党が党綱領で掲げた点の中に、すでにある程度、達成されたものも多くある。まだ達成されたいない点でも、特に左派では社会民主党、左党、環境党、右派では自由党や中央党などが、政党プログラムに盛り込んでいる。だから、いくらフェミニスト党、と言っても、そんなに目新しいことをする余地は無いようだ。スウェーデンの有権者にとっても、そんなに珍しい動きでもなかった。

また、ある女性コラムニストに言わせれば、“スウェーデンでは男女同権や平等に関しての法制度の整備は既に相当なされてきており、法律の上では、男女はほとんど平等になった。あとは、人々の意識の問題”と(確かDNで)書いていた。つまり、フェミニスト党が主張する“立法による強制力”で、これ以上何かしようとしても、もう手が尽きている、という意味だ。フェミニスト党のプログラムが世論にあまり受けない理由は、この点にもあるようだ。

私が思うに、少なくともスウェーデン社会において言えることは、労働市場や家族生活で、未だに男女間の格差が残るとすれば、それは、男性が男性であり、女性が女性であるから、ではなくて、経済的な理由、つまり、女性は出産・育児のために休職をしがちだから、とか、就いている職種のために賃金が低いので、育児休暇を取るとすれば女性が・・・、という結果になっているのだと思う。だから、改革していく余地があるとすれば、女性が負っている経済的な不利を軽減していくことだと思う。(日本のように、部長職に女性が就いてもらうのは嫌だ、といった見下した見方や、女性はOLとして働き、結婚すれば退職するもの、といった考えは、スウェーデンではほとんど見られないう。(中高年ではあるかもしれないが))

◎ エリートによるトップダウン集団
草の根の運動ではなく、元左党党首Schymanのカリスマ性を中心に集まるエリート集団として始まったところにも大きな問題があったのかもしれない。つまり、女性の実生活に基づいた草の根からの運動ではなく、フェミニズムを哲学的・社会学的(?)に議論するエリート集団だったのだ。だから、タダでさえ抽象的な「フェミニズム、ジェンダー」という言葉だけが、難しいまま弄ばれ、独り歩きしてしまったために、女性の地位向上や男女同権を本当に必要としている“現場の”女性の共感を得るには至らなかった、という批判もある。

また、あるメンバーは「党内の会議といっても、メンバーから幅広く意見を吸い上げていくボトムアップのやり方ではなく、執行部が決めたことが紙に既に印刷されており、それを他のメンバーが同意するだけの、トップダウンの組織だった」とも暴露している。

(エリート・フェミニストに言わせれば、一般の女性は、自分が虐げられていることに気づいていない、だから、私たちが“啓蒙”してあげなければいけない、と言うことなのだろうけれど、問題が理論的に語られ、抽象化されればされるほど、その本意が伝わらない、という“ジレンマ”があるのだろう。これは、他の社会運動にも言えることかもしれないが。)

◎ 焦点のズレ
党の当初の目標が“左派も右派もともに巻き込んでいく”ということだったから、例えば、女性の賃金を上げるために、税金の引き上げによって、女性が多く働く公共部門の賃金を向上させる、というような議論をすると、たちまち党内で意見が分かれてしまう。または、法制度によって××を強制する、というような提案に対しても、法のがんじがらめを嫌う右派からは反対の声が上がってしまう。そういうこともあって、男女平等や女性の地位向上のための具体的な方策について、党ではあまり議論ができなかったという。そのかわり、左派と右派の間で意見の違いがあまり見られないジェンダーやホモ/トランス・セクシャルの問題へと、党の焦点が移っていった。だから、出てきたものといえば「従来の“結婚”という概念を解体し、3人以上の結婚も可能にする」など焦点がずれたものが多く、「男女同権」というコアの政策分野での提言はほとんどない。もちろん、この分野での議論の重要性もあるだろうが、選挙の一大テーマとなるには今のところ至っていない。女性の多くが求めていたのは、「男女同権」というコアの政策分野での提言だったのに。

◎ Enfrågeparti(一つの問題だけに限った政党)の悲劇
最後に、一つの問題だけに絞った党は、なかなか成功しないようだ。党を興して、実際に政権を狙うならば、税制や外交などあらゆる問題を取り扱わなければならない。そのため、フェミニズム問題だけでなく、それ以上に注目を浴びる論点があった場合になかなかまとまった提言ができず、世論を説得できない、という弱点が露呈する。この点に関していえば、環境問題を掲げて登場した環境党は、その後、その他の分野では、主に左派の政策をコピーすることで、うまく生き延びてきたといえる。


・・・と、ここまで書いて思うのは、フェミニスト党は、党を起こす場所を間違えたのではないかということ。そう、フェミニスト党がより必要とされているのは、日本なのじゃないだろうか? 意識の面のみならず、法制度や権利の面でも、また途上国なみの日本社会。日本社会は、スウェーデンのこれらの動きから大いに学ぶ点があると思う。ただ、その際に、センセーショナルな「フェミニスト党」だけに注目するのではなく、地道な努力を積み重ねてきた、既成政党の考え方に注目したほうが、学べるところはむしろ多い思うが、どうだろう?

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もう残り時間が無くなってきたのですが、右派ブロック4党の選挙ポスターも駆け足で見ていきましょう。

まずは、党首のどアップから。

彼の名はFredrik Reinfeldt、41歳。彼の属する保守党は4年前の総選挙で大敗を期す。当時の党首は責任を問われ辞任に追い込まれ、あとを次いだのが彼、というわけ。当時38歳。そんな若さで党首になれてしまうのが、スウェーデン社会の面白いところ。若さだけでなく、能力もあり、彼のお陰で今回の総選挙では政権交代も現実のものとなるか・・・?(そうなれば、スウェーデン史上最年少の首相が誕生するかも)

左:「スウェーデンには新しい労働党が必要」(彼が党首になってから大きく路線変更した保守党は、自らを“社会民主党に代わる新しい労働党”として生まれ変わった(つもりでいる?))
右:「国民みんなが、働いて得た給料から1000クローナ(15000円)を手元に残せるようにする」(皆に等しく1000クローナずつの所得税減税。つまり、低所得者に比較的有利にしようという保守党の新しい路線)

左:「病気にかかったとき、必要なのは医療であって、順番待ちの番号札ではない」
右:「中学校を卒業する生徒すべてが、高校に入るためにちゃんとスウェーデン語を綴れるようにすべき」(国語を含む重要科目の強化)

左:「静かに寝るために、人々が施錠を二重にする必要はないはず」(治安の強化)
右:「安心感を感じさせてくれる言葉と言えば:夜の映画、深夜バス、夜の散歩」(夜でも皆(特に女性)が安心して外を歩けるように治安の強化)

左:「雇用、学校、医療をしっかりさせてくれる新しい政党がスウェーデンに誕生した。その名は“保守党”」(二番目のポスター同様、自らは衣替えして、福祉国家を重視するようになったことを強調。)
右:「“絶好調のスウェーデン” 仕事を持つ人にとってみれば、簡単に言えることだけれど・・・。」

「デモ行進が始まってから115年。ついに、耳を傾けてくれる人々が登場した・・・!」(これまでの路線を離脱し、“労働者にやさしい”保守党を強調。労働運動に積極的に耳を傾けているのは、もはや社民党ではなく、保守党だと訴えている。)


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読者の皆さんからの要望が多いのは、Feministiskt Initiativ(フェミニスト党)について。2005年に結成され、今回の総選挙には、国政、県議会、市議会レベルで名乗りを上げているが、どうなることだろう。


ストックホルム・Kulturhuset(文化会館)前のフェミニスト党の宣伝活動

まずは、歴史とイデオロギー、掲げる政策を簡単に。

2005年4月4日Gudrun Schyman、Tiina Rosenberg、Sofia Karlsson、Monica Amante、Susanne Lindeといったフェミニズム活動家を中心に結成される。Gudrun Schyman(グードゥルン・シューマン)は1993-2003年まで左党(旧共産党)の党首を務め、左派やフェミニズムの活動家や支持者の間ではカリスマ的な存在だった。彼女が党首の間に、左党は旧共産党からの脱皮を図り、現実路線を取り入れると同時に、男女同権の理念など、フェミニズムの要素も大きく取り入るようになる。これと同じころ、社会民主党は路線を大きく変化させ、中道に向かっていたため、それに落胆した社民党支持者の一部がSchyman率いる左党に取り込まれていき、1998年の総選挙では12%の得票率を記録、スウェーデンで3つ目に大きな政党に成長した。しかし、2003年に脱税スキャンダルで党首を辞任、表舞台から姿を消していたのであった。そして、2005年にフェミニスト党の代表の一人として、カムバックしたのであった。結成から1週間で、2000人が加盟した。

党が基本とするイデオロギーは、Könsmaktsordning(性別間の権力構造)という見方を通した社会の改革。Könsmaktsordning(性別間の権力構造)とはどういうことかというと(私はあまり詳しく分からないので簡単に)

・宗教的・歴史的な背景から生まれた父権(男権)主義が、家族、社会、政治のあらゆるところで男女間のヒエラルキーを形成している。
・その結果、男性は意思決定権を独占し、社会や政治、家族など、あらゆるところでのルールを決める。そして、そのルールによって、この男尊女卑のヒエラルキーがますます強化され、維持されるように努めている。
・女性は、男性の権力によって、教育を受ける権利、特定の職業に就く権利、政界に進出する権利を奪われ、権力の取得と行使から遠ざけられる。
・女性は社会の中で生きていくために、このヒエラルキーを進んで受け入れ、自らを男性に仕えるもの、と見るようになる。このようにして、男尊女卑のヒエラルキーは、女性の側からも強化され維持されていく。
・男性は、ヒエラルキーの維持が危うくなると、暴力に訴えるようになる。

2005年9月に初めての党大会が開かれ、党綱領が制定される。最優先課題は以下のよう。
◎ 同様の仕事における賃金の平等
◎ 「女性駆け込み所」の運営は市が責任をもって行う。
◎ パートではなく、フルタイムを労働生活の基本とする。1日6時間労働。
◎ 育児休暇の個人化(2分割)
◎ 住宅政策の改革(母子家庭の支援など)

以上が、最優先課題だとされたが、他にもいくつかの点が盛り込まれた。

◎ 伝統的に男性的とされる名前を女性が、逆に、女性的とされる名前を男性が持てるようにする。(これは親がこの名づけを行うときにも、後に指名変更をするときにも)
◎ “徴兵制”を“社会奉仕”といった別の概念に置き換え、環境災害や自然災害の支援を任務に含ませる。
◎ レイプに関する刑法を改め、相手の同意がない場合は犯罪とする。
(筆者注:レイプ犯罪の増加が近年、社会的な問題になっている。一方で、近年の法改正によって、この点での刑法は既に厳しくされた、ともいわれている。)
◎ 男性による家庭内暴力に対する対策
◎ 異性結婚や同性結婚に関する現行の民法から、性別条項などをすべて撤廃し、いかなる形の関係でも、パートナーとしての法的権利が与えられるようにする。
◎ 議会に平等委員会を設け、そして、平等問題に関する責任がある特定の省に担当させることを明確にし、さらに、平等のための行政機関を新たに立ち上げる。
(筆者注:既に“平等オンブズマン”という行政機関が存在する)
◎ 年金制度を改革し、年金給付額の基礎となる所得計算が男女平等になるようにする。(筆者注:詳細不明)
◎ 分娩医療の充実。産婦人科・小児科・親に対する子育て教育において、ジェンダー志向の改革を行う。
◎ 親に対する子育て教育を、産婦人科および小児科から分離する。
◎ 性別や、ホモ/トランス・セクシャル、性に関わる表現を理由にした、差別や迫害を禁止する。


そして、2006年4月に、総選挙への出馬が正式に決定されたのであった。

ただ、立ち上げ当初のメディアの注目も次第に冷めるとともに、世論の支持も長続きしなかった。Feministiskt Initiativ(フェミニスト党)の立ち上げが囁かれていた頃の世論調査では、国民の10%が“フェミニスト的な政党を支持するかもしれない”と答えていたのに対し、フェミニスト党の立ち上げから8ヶ月ほど経った、2005年末の段階では5%に半減している。“かもしれない”ではなく、より積極的に“フェミニスト党に票を投じる”と答える人の割合も、立ち上げ直後の2005年4月には3%弱あったのに、2005年9月の段階で1.3%に半減している。その後、2006年に入ってからの支持率はさらに低迷し0.5%

最新(9月13日)の世論調査でも0.5%。ジェーン・フォンダを選挙キャンペーンに招いて、巻き返しを図りたいところだが、時すでに遅しか?(以前も書いたように“4%ハードル”をクリアしなければ、議席は獲得できない。)
日本の新聞から TTさんありがとうございます。

他の極小政党を見てみると、
インターネット上の違法ダウンロードの合法化を訴えるPiratpartiet(海賊党)が1.5%、
移民の制限・排斥を掲げる極右政党Sverigedemokraterna(スウェーデン民主党)が1.1%、
統一通貨ユーロ反対で名を馳せたJunilistan(6月選挙名簿党)が0.5%
と、フェミニスト党は林立する小党の中に隠れてしまいそうだ。

どうして、こんなことになってしまったのか・・・? 原因は、次回に!

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選挙活動の終盤戦!

公共テレビSVTでは過去二週間ほどの間に、7つの政党の党首を個別にスタジオによんで“公開尋問”をやってきた。視聴率の一番高い夜の8時から1時間の生中継。尋問をするのは、SVTの記者やキャスター。各党とも「あれもやります、これもやります」といろいろな改革を公約として掲げるものの、予算には限りがある。本当に可能なのか? そんな痛いところを、記者がズバズバ突いてくるのだ。それを生放送で撃って返し、説得力ある説明ができるかどうか。党首、そして党の命運がここで分かれるのだ。放送後は、視聴者がサイトで“得点付け”を行うことができる。

それから、SVTや民放TV4のそれぞれで、社民党党首と保守党党首が論戦する「デュエット」が行われた。これは、左派ブロックの代表である社民党党首と、野党である右派ブロックの保守党党首が、面と向かってやりあうのだ。それぞれの論点について、具体的な提案や批判をぶつけて、いかに視聴者を説得できるか。スウェーデンの選挙戦は、いかに政策議論本位かを見せ付けてくれる。
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● 各党の選挙キャンペーン小屋
こういった全国メディアにおいてだけでなく、街頭でも選挙活動は続く。といっても「お願いします、お願いします」と名前ばかりの連呼ではない。各党は、人通りの多いところにValstuga(選挙キャンペーン小屋)という小さな事務所を構えて、道行く人や関心のある人に党の政策を売り込んでいるのだ。

同じ経済学部の博士課程にいるSvenは環境党に深く関わってきた。今回の選挙では候補者ではないのだけれど、党ヨーテボリ支部の執行部で活動してきたため、時間が許すときにはこの「選挙キャンペーン小屋」に出向いて、キャンペーン運動を手伝っている。

私が彼とともにお供したのは、Järntorgetという人通りの多い広場。ここには、環境党だけが「選挙キャンペーン小屋」を出している。小さな小屋の前にテーブルとソファーを出し、党のパンフレットを並べている。Svenを含めて3人の選挙ボランティアが居合わせた。

ソファーに座って、選挙ボランティアと話をする。スウェーデンの総選挙は、国政選挙だけでなく、県議会と市議会の選挙も合わせて行われる。私は国政選挙の投票権はないけれど、県議会と市議会の投票権を持っているので、できれば納得のいく党に一票をささげたい。なので、疑問点をぶつけた。特に関心があったのは、環境政策と産業政策のバランス、それから医療制度の改善。居合わせた選挙ボランティアのEvaは市会議員とともに看護婦として病院にも勤務している。訊かない手はないと思った。

真ん中の女性がEva


同僚のSven(環境党のメンバー)

● 道行く人が気軽に立ち寄れる
ソファーに座ってのんびりと話をすること1時間半。話の内容は別の機会にするとして、驚いたことがある。道行く人が次々と来て、「環境党の政策について聞かせてほしい」「帰りのバスで目を通したいから党の政策マニフェストをちょうだい」「候補者個人についてもっと知りたい」などと、気軽に立ち寄っていくのにはビックリした。訊かれる質問は、環境政策はもちろんのこと、外交から育児政策、産業まで多岐に及ぶ。選挙ボランティアも党の政策のすべてを熟知しているわけではない。中年の女性に文化政策について尋ねられたEvaは「分からないのでこのパンフレットか党のHPを見てくれ」とお手上げだった。「このボランティアをやっていると、私自身、学ぶことが多くて、投票日の直前には様々な分野に熟知するようになる」とコメントしていた。

● 訪問者には中高生もたくさん
何と、中高生がやたらと訪ねてくるのだ。彼らも「環境党について詳しく知りたい」と言う。投票権のない彼らがなぜ深い関心を示すのか、Evaに尋ねてみた。

一つには、中高生が投票できる「Skolval(学童投票)」というイベントが投票日に先駆けてあるためだ、という。スウェーデン中の多くの学校が参加するこのイベントでは、各学校で、本物さながらの“模擬”選挙が行われ、全国レベルで集計される。もちろんこの結果は、本物の選挙とは別物だが、将来の社会を担う若者が今の政治をどのように見ているのか、社会に対する大きなシグナルになる。2002年の総選挙に先駆けては、25万人もの生徒が参加したという。(このイベントについては、改めて詳細報告します)

二つ目の理由は、この総選挙を、社会科(公民科)の生きた教材として使う教師が多く、授業の中のグループ・ワークとして、生徒に重要な論点について調査させ、発表させるからだという。国会の選挙にしろ、地方の選挙にしろ、社会科の生きた教材として、これほど絶好なものはない。日本でも、やっている学校はあるのだろうか?

さらに付け加えるとすれば、キャンペーン・グッズのおかげもある。尋ねてくる若者の少なからずが「“愛”のバッジはある?」と口々に尋ねるのだ。環境党が若者向けに作ったバッジ、「All kärlek är bra kärlek(すべての愛は、素晴らしい愛)」が若者の一部に流行っているらしく、それを求めてやってくるのだ。(バッジの文句は、性別にとらわれず、同性の結婚も積極的に認めていくことを主張)

真面目な政策議論とともに、デザインを駆使したポスターや若者の心をつかむキャンペーン・グッズなど、“とっつきやすさ”も忘れていない、スウェーデンの総選挙。若者の関心が日本よりも遥かに高いのには驚く。あと数日です!

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しばらく留守にしており、次の書き込みがまだできません。ひとまず、選挙ポスターをお楽しみください。

左党のメイン・スローガンはこれ!

正義は左からやってくる


次の5つは、典型的な左派のレトリック。金持ち(資本家)がいくらお金を蓄え、経済力を持とうが、労働者(プロレタリアート)には数ではかなわない。政治力は数で決まるべき、ということのようだ。


5人のホームレスは4人の資産家よりも数では勝る。
5人の失業者は4人の会社お偉いさんよりも数では勝る。



5人のレジ打ち係は4人の銀行家よりも数では勝る。
5人のフェミニストは4人の性差別主義者よりも数では勝る。
5人の理容師は4人の株の投機家よりも数では勝る。

(“髪を切る”と“株の利益を切り取る”klippaという言葉を掛けている。)


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基本的に、社会民主党のモットーは「財布の厚さに関わらず、みんなが同じ権利を行使することができる」。そして、人生の過程で失敗しても、ちゃんと救ってくれるセーフティー・ネット(命綱)の充実こそが、人間のチャレンジ精神を生み出すのだ!というもの。

もちろん、異論はあるだろうけれど、90年代から今にかけて、市場原理主義、規制緩和、競争原理、勝ったものが報われる社会、の掛け声とともに、日常生活の中から安心感とセーフティーネットをことごとく奪い去ってしまった(そして、そのあげくホリエモンを生み出した)日本の政治・社会こそ、このポスターから大いに学ぶことがあるの思うのですが!


まずは社会民主党の今回の選挙のスローガン。
「Alla Ska Med! (みんなが一緒に!)」

次は、現閣僚の登場!(左から順に)

法務大臣Thomas Bodström、首相Göran Persson、インフラ大臣Ulrika Messing
首相、社会構築大臣Mona Sahlin、学校大臣Ibrahim Baylan

首相、インフラ大臣、外務大臣Jan Eliasson
産業大臣Thomas Östros、党官房Marita Ulvskog、首相

左:安心感に支えられた人間はチャレンジしようとする。
(社会保障は人々の生活に安心感を与える。その安心感があればこそ、人間は新しいことにもチャレンジできるのだ。と、よく耳にする「手厚い保障は人間を堕落させる」という見方を否定している。私自身もしっかりしたセーフティーネットは必要だと考えている。)
右:未来は緑色。
(環境党に負けず、社民党も環境政策に力を入れていることをアピール。)

左:お互い助け合っているときこそ、人間は自分自身を発達させることができる。
右:スウェーデンって、チーム・スポーツみたいなもの


左:絶好調のスウェーデン。雇用もやってきた。それなら何故、減税をして、5分の1の教師・警察官・看護婦を削減しなきゃならないの?
右:絶好調のスウェーデン。だから(社会保障の充実によって)安心感をさらに向上させる余裕があるのだ。それなら何故、育児休暇制度や疾病保険、失業保険の改悪をしなきゃならないの?(右派の政策の批判)


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総選挙に先駆けて、これからはスウェーデンではどのようなことが選挙の争点になっているか、少しずつ書いていくつもりです。

ところで、各党の選挙ポスターもいろいろと嗜好を凝らしたものが、たくさんあります。端的なスローガンで、有権者の目を引こうと、どの党も一生懸命。まずは緑の党、『環境党』から。私は、デザインが気に入りました。


「長期的視野に立って票を投じよう!」
(環境党は二人党首制。ポスターに映っているのはその二人。中年の男性と、まだ30代の女性。バランスを取りながら、うまくやっている。)


「私は石油に依存していないよ。縁を切ろうと思えばいつでも可能さ。そうでしょ!?」


「給料を決めるのは性別じゃないくて、“活力”であるはずだよね。そうでしょ!?」


「難民として保護を求める人が、スウェーデンで隠れて生きる必要はないはず。隠れるなら、自分の家で充分でしょ?」

(注釈:より寛大な難民受け入れ政策を訴えている。)


「いろいろな動物が次々と種を絶やしている。(彼らを見るためには)これからは“動物園”がたくさん必要になるね。そうでしょ!?」
(注釈:生物の多様性維持を訴えている。)


「高齢者が孤独に苛まれている。もっと、廊下に連れ出して、他の高齢者と交流させなきゃ。そうでしょ!?」
(注釈:老人ホームの充実に限らない、より活発な高齢者福祉を訴えている。)


「レストランにしても、労働市場にしても、誰もが歓迎される。そうでしょ?」
(注釈:公共の場や雇用での人種差別の禁止を訴えている。)


「交通渋滞に巻き込まれることこそ、人間としての権利。(都市部での交通渋滞解消を目的とした)“都市部乗り入れ税”導入は、バカげた考え。そうでしょ!?」
(注釈:乗り入れ税の導入を訴えている。)


「“ファイル共有禁止法”が可決されれば、100万人の新しい犯罪者が生まれる。そんな法律は必要だ。そうでしょ!?」
(注釈:法律によって違法ダウンロードを禁止することには反対。スウェーデンでもWinnyに似た形でのファイル共有が、著作権侵害で問題になっており、どのような形で対処するかが問題になっている。)


「インスタント・ラーメンは未だに激安。だから、“大学生補助金”を増やす必要はない。そうでしょ!?」
(注釈:物価や家賃上昇にもかかわらず、据え置きされてきた大学生補助金を月1000クローナ(16000円)上乗せすることを求めている。)


「一足先に」


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私のいる経済学部の博士課程の研究者で、二人の女性が育児休暇、さらに、二人の男性が育児休暇を現在とっている。このわずかな例からは、男女の育児休暇の取得率は50%対50%のような気がするが、それはやはり大学という職場が公共機関であって、男性でも比較的育児休暇を取りやすい環境だからだろう。

社会全体で見た場合の、男性の育児休暇取得の比率はやはり低い。実際に取られた育児休暇のうち、男性によるものは2003年時点で17%、現在でも20%前後、と言われる。

昨日書いたように、スウェーデンではそれぞれの親に認められた240日、計480日の育児休暇のうち、60日分は、母親と父親の間で譲り渡すことができない。そのため、420日分は母親がとることはできても、残りの60日分も活用したければ、この分は父親が取らなければならないのだ。はやり、スウェーデンでも80年代は、男性の取得率が今まで以上に低く、男女平等と女性の社会進出向上の観点から、何とかしなければいけない、と考えられた。そこで考えられたのが、この「育児休暇の取得権の一部をそれぞれの親に固定する」というもの。父親の取得率を高める目的で導入されたので、俗に“pappamånad"(父親に割り当てられた育児休暇)と呼んだりする。

この制度の結果、男性の取得率は少しずつ上昇してきたが、それでもまだ20%前後と低いのだ。これまで通り、育児休暇の大部分を女性がとっている、という状況では、企業はなるべくなら女性を雇おうとしないだろう。育児休暇のために、職場を留守にする頻度が高いからだ。就職における差別の原因の一つで、女性の社会進出にとって大きな障害だ。

かといって、育児休暇をなくすわけにはいかない。それなら、男性にも無理やりにでも育児休暇を取らせて、これまで女性が負ってきた“不利”を、男性にも等しく負担してもらおう、ということになる。つまり、労働市場での男女平等を究極的に達成させるためには、男性と女性の育児休暇取得率を半々に持っていくのが理想だとされる。さて、どうするか。

この点に関しては、政権党である社会民主党に「左派ブロック」という形で協力関係をもつ、環境党左党が、革新的な提案で挑んでいる。

育児休暇の分割案

両方の党とも、今の480日(16ヶ月)の育児休暇を18ヶ月に拡大するとともに、育児休暇の半分、もしくは3分の1を両親のそれぞれに固定しよう、という提案をしている。具体的には、
左党: 育児休暇の半分ずつを父親と母親にそれぞれ固定してしまい、両者の間での融通を認めない。
環境党: 育児休暇を3分割して、3分の1ずつを父親と母親、それぞれに固定する。残りの3分の1は夫婦の間でどちらが取るか決められるようにする。

ちなみに、育児休暇の一部を父親に固定するからといって、父親が必ず取らないといけない、ということではない。取らないのなら、その夫婦はその分の育児休暇を損しますよ、ということだ。でも、こうやって法律によって男性にインセンティブを与えることで、育児と労働市場における男女平等を推し進めていこうという考えだ。

この考えに対して「右派ブロック」は消極的だ。特に、家族主義を主張するキリスト教民主党などは、「育児休暇を母親か父親のどちらがどれだけ取るかなんて、家族が決めることであって、国がいちいち口を挟む必要はない」と反対している。(この党は、男女平等・女性の地位向上に関しては一番消極的。)

一方で、同じく「右派ブロック」内の自由党は、少しは理解がある。男性の取得率向上は必要という認識は「左派」と同じだが、それを「左派」の主張するように、法制度によって強制的に行うのではなく、「男性が取得した長さに応じて、給与の最大80%という通常の給付率を最大90%に引き上げる」という経済的インセンティブで達成したい考えだ。

つまり、論点をまとめるとこうだ。
- 育児休暇の取り方を決めるのは家族であって、国が口を挟むべきではない。法的強制力による「育児休暇分割案」なんて、もってのほか。
- 男性の育児休暇取得率はさらに高めていくべきだ。そのためには「分割案」によって、強制的にでも男性に取らせていかなければならない。
- 男性の取得率は高めていくべき。しかし、法的強制力を用いるのではなく、そうしたほうが経済的に得ですよ、という“経済的インセンティブ”を用いるべき。


世論はどう反応しているか? 去年、2005年秋に行われた世論調査では、大多数の60%が現行制度のままでいい、と言っている。25%が3分割案に賛成。2分割案に賛成しているのは9%とわずかだ。

右上段は年齢別の世論だが、近いうちに子供を持つであろう10・20代が「分割案」にはより好意を持っているようだ。右下段は、支持政党別の世論だが、やはり“左派ブロック”の支持者ほど「分割案」には賛成で、“右派ブロック”の支持者ほど反対だということが分かる。

分割案に反対する理由としては、上に挙げた点以外にも、実は女性自身が育児休暇を男性に渡したくなく、自分で取りたがっているから、というものもある。

さて、こういう議論を聞いてどう思われますか?
なかなか斬新なアイデアがあって、活発な議論だと思いませんか?

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