スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

ギリシャ財政危機-短期的思考と問題先送り

2010-02-25 08:36:56 | スウェーデン・その他の経済
2008年の金融危機の引き金となったアメリカのサブプライム問題は、金融機関が返済能力の乏しい低所得者にも次々とローンを提供したことが問題の始まりだったといわれる。そして、貸し出しを行った金融機関はその債権を金融市場で転売して短期的な利益を手にすることができ、問題のある債権は次々と別の金融機関の手に渡っていった。そのため、問題が先送りされていき、その深刻さが分かりにくかった。しかし、積もりに積もった問題がある時、一気に顕在化することとなった。最後にジョーカーを手元に持っていた金融機関や投資家が痛い目に遭っただけでなく、金融システムそのものが崩壊する危機に直面した。

短期的利益の追求と問題の先送りは、ウォール街の大罪と言えるであろう。しかし、いま次第に明らかになっているのは、アメリカの金融機関がそのような安易な貸し出しと問題の先送りを自国の低所得者層だけでなく、他国の政府を相手に行っていた、ということだ。

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ギリシャ政府深刻な財政危機に陥り、ユーロ圏の経済に悪い影響を与えているという話はこのブログでも書いた。経済の構造改革や財政改革を怠ってきたために、金融危機以降、財政赤字が顕著となっている。しかし、ユーロ加盟国に課せられた財政規律を守らなければならないため、増税や大幅な歳出削減を決行しなければならず、国内ではデモやストライキが相次ぎ、混乱状態に陥っている。

ただ、ギリシャの財政問題は、何も金融危機以降に始まったわけではなさそうだ。ギリシャ政府は長年にわたって統計をごまかして財政赤字の実際の大きさをEUの本部に隠していたというし、しかもその隠蔽工作にアメリカの金融機関が加担していたというのだ。

たとえば、投資銀行であるゴールドマン・サックスJPモルガンは、金融デリバティブを使って、ギリシャの国家歳入を一時的に増やすという巧妙な技を提供してきたという。これは、ギリシャ政府に対する事実上のローンなのだが、デリバティブの一種である為替スワップ金利スワップを使うと、その取引を「為替上の取引」や「売り上げ」と扱うことができ、財政のバランスシートの「債務面」に記載する必要はなかったのだという。そのため、外部の人間にはギリシャ政府の財政赤字の実態が見えにくくなっていた。

ギリシャ政府は「粉飾会計」を行うためのこのような取引を2000年代に度々行ってきた。それによって、自国の経済力と財政力以上の歳出を維持し、深刻な財政赤字に目を塞ぐことが一時的には可能となった。しかし、その負債総額は今や3000億ドルにのぼるといわれる。

貸し手であるゴールドマン・サックスやJPモルガンは、取引の見返りとして、たとえばギリシャ国内の空港発着料や高速道路料金、国営ロト(宝くじ)の収益を、十数年にわたって差し押さえる契約を結んできたという。

つまり、目の前の問題を先送りにしたツケは、次の世代の国民が払うことになる。しかも2000年代初頭にこのような形で借り入れた「闇ローン」の返済がもう既に苦しくなっており、そのためにさらに「闇ローン」をしなければならない、という悪循環に陥りつつある。

ただし、「粉飾会計」だとか「闇ローン」とは書いたものの、ゴールドマン・サックスやJPモルガンがギリシャ政府と取り結んだこれらの契約は、法律違反ではないらしい。また、ギリシャ政府がそれを財政の負債面にきちんと記載しなかったことも、EUのルールに反しているわけではないという。EUはこのような「抜け穴」があったことについて、財政における負債の定義をもっと明確にしておくべきだった、と述べているようだが、実際のところ、ギリシャ政府の粉飾会計については以前からある程度知っていたにもかかわらず、抜本的な対策を怠ってきたようだ。

ギリシャだけではない。イタリア政府も1996年にJPモルガンと為替スワップの契約を結ぶことで、見かけ上の財政赤字を大きく減らし、ユーロ加盟の財政基準をクリアすることに成功した。一方、イタリア政府はその対価として長年にわたって支払い義務を負うことになったものの、それを財政の「債務面」に記述する必要はなかったという。つまり、降って沸いた金という扱いなのだ。

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確かに、ギリシャ政府やイタリア政府の振る舞いも責められるべきだが、たとえ合法的であれ、そのような契約のチャンスを提供したアメリカ投資銀行もそれ以上に醜い。彼らにしてみれば、たとえギリシャ政府の返済能力が低下したとしても、サブプライムの時と同様に、債権を転売してしまうことが可能だろうし、もし本当にギリシャの財政が破綻しかけたとしても、他のEU・ユーロ諸国がほってはおかず、必ず支援に回るであろうから、債権が焦げつく恐れも少ない。だから、彼らにとってのリスクは小さいのだろう。

実際のところ、ギリシャの深刻な財政危機が明るみに出る以前の2009年11月に、ゴールドマン・サックスからの一団がギリシャ政府を訪ね、歳出項目のうち医療関連費を将来に先送りするためのデリバティブ商品を販売しようとしたらしい。しかし、この時ばかりはギリシャ政府も「うまい話」に乗らなかったという。

そして今、ギリシャ国債に対する信用が低下し、その価格が急落している状況において、外国金融機関の中には投機によって収益を得るために、ギリシャ国債を空売りする動きに出ているものもあるとか。それによって、国債価格の下落と利率の上昇にさらに拍車がかかっている。

ギリシャだけでなく、スペインやポルトガルの国債も価格が下落し、利率が上昇しているために、国の借金に対する利子負担が大きくなり、これらの国の経済と財政をさらに逼迫させている。

これからどうなるのか、見ものだと思う。

スウェーデン中南部で寒波のため非常事態警報

2010-02-22 09:13:41 | Yoshiの生活 (mitt liv)
既に書いたように、スウェーデンのこの冬の寒さは厳しい。2月になっても寒波が続いている。

この影響で、この冬はスウェーデンの鉄道がズタズタだ。鉄道システムが寒さに耐えられないのだ! もともと寒い国なのだから、寒さに対する備えはできているものかと思うが、雪が一時的に多く積もったり、氷点下10度以下の日が少しでも続くと、ダイヤに大幅な乱れが出てしまう。

トラブルの多くは以下のようなもの:
(a) 切り替えポイントに雪や氷が挟まって、線路の切り替えができない。
(b) それに加えて、切り替えポイントと信号が連動しなくなり、信号が赤のままで変わらない。
(c) 雪や氷のために線路がすべり、上り坂が越えられない。
(d) 列車の動力系統の一部が凍りつき、列車が動かない。
(e) 扉が凍り付いて開かない、もしくは閉まらない。


特に、ストックホルム中央駅付近で(a)や(b)のトラブルがよく発生する。スウェーデン各地から走ってきた列車が集結するため、車体にびったりと張り付いた雪や氷が一気に落ちて、切り替えポイントに障害を与えるためだとか。

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さて、この週末は新たな寒波がスカンジナビア半島を襲った。土曜日には丸一日、ウプサラ地方以南で自然災害警報の第2レベルが発令された。自然災害警報には第1、第2、第3と3段階あるが、第2レベルはかなり厳しい状況のときに発令される。外に出ず、自宅で留まることが奨励されるし、道路も鉄道も大幅な混乱が予想される、というものだ。

金曜日に環境保護庁で用事があったため、実は土曜日にはストックホルムにいた。その日の午後、特急でヨーテボリに戻る予定で切符も買っていた。しかしこの日は非常事態ということで、国鉄SJ

「列車を使う人は自分でリスクを判断するように。遅着の場合には通常、運賃の払い戻しが行われるが、警報第2レベルが発令された現状では、使用した切符の払い戻しは行わない。乗り換えが必要な場合も接続については保証できない。使用前の切符であれば、全額払い戻す」とアナウンスしていた。


ホテルの窓から見たストックホルム中央駅

冷静に考えれば、この日はヨーテボリ行きを断念して、もう1泊すべきだろう。しかし、月曜日までに仕上げなければならない仕事が大学であったし、それに、吹雪のなか本当にヨーテボリに列車がたどり着くのか興味もあった。そんな冒険心から、予定通りヨーテボリ行きの列車に乗ることにした。

予定では、ストックホルム発14:10、ヨーテボリ着は17:17
14時前にストックホルム中央駅に着くと、駅はごった返していた。ヨーテボリ行き特急X2000が通常は出発する10番ホームではなく、17番ホームという到着専用ホームへ行け、という指示を受ける。

理由がすぐ分かった。通常、使用済みの特急列車はホームの外れにある作業所に運んで、車内を清掃したり、トイレのタンクを空にした上で路線に投入する。しかし、ダイヤの乱れで車体が大幅に不足しており、マルメ発ストックホルム行きの特急列車の到着を待って、その列車をそのままヨーテボリ行きとして使うことになったのだ。その列車がホームに入ってきたのは、ヨーテボリ便の出発時間である14:10のわずか7分前。

14:03:マルメ方面からやってきた乗客がどっと降りてくる。この列車も実は2時間近く遅れて到着。私が乗ろうとすると車掌が止める。「軽く清掃をするかもしれないから、ちょっと待って」 しかし、車掌あての業務連絡が入り「乗客をすぐに入れるように。清掃は列車が発車してからでもできる。今はとにかく、定刻どおりに出発することが最優先だ」と伝えた。

14:10:乗客が乗り終わる。乗車率は6-7割くらいか。車内アナウンスが入る。「悪天候の影響で、遅れが出ることは十分に覚悟して欲しい。乗り換えの接続は保証できないので、途中で乗換えが必要な方は、今日の移動は断念し今ここで降車をお勧めする。未使用の切符であれば全額払い戻す用意があるからだ」

14:12:業務連絡(車内に聞こえている)が入る。「運転席! 運転手はいますか? いたら応答をお願いします」 返事はなし。乗客は大爆笑

14:20:いまだに発車せず。車内アナウンス「悪天候のために、通勤列車や地下鉄ですら大幅に遅れているため、この列車を操縦する予定の運転手がまだ仕事に来ておりません」 乗客は再び大爆笑。

14:30:車内アナウンス「運転手がまだ到着しておりません。鉄道指令部からの指示を待っているところです」

14:50:アナウンス「運転手は到着しましたが、長いあいだ停車していたために、列車の扉の一つが凍り付いて、閉まらなくなりました。もう少しお待ちください。」

15:01:やっとのことでストックホルム駅を出発。何人かの乗客が拍手。この時点で50分遅れ。さて、今日中に家にたどり着けるだろうか? 念のために言っておくが、通常はストックホルム-ヨーテボリ間は特急で3時間強。でも、私はこの日はこの列車内で夜を明かすことも覚悟していた。電気と暖房とインターネットがあれば何も怖いものはない。


ストックホルムをあとにする

15:20:トイレに入ろうとすると、前に入っていた人が「紙がないよ」と言っていたので、車掌を見つけて、紙を補充してもらう。

15:40:車内アナウンス「この車両のトイレはタンクが一杯なので閉鎖します。ストックホルムでタンクを空にする時間がなかったからです。別の車両のトイレをお使いください」 しかし、この数分後には隣の車両のトイレも同様の理由で閉鎖。

15:50:最初の障害。運転手からのアナウンス「切り替えポイントの不具合のため停車します」 20分ほど停車。カーブ地点のため、車体が右に傾いている。

16:32:途中のカトリーネホルム駅を通過した時点で、1時間半の遅れ。

17:00:線路上で再び停車。運転手のアナウンス「この先のハルスベリ駅付近は幹線と地方線が交差するところで切り替えポイントがたくさんあるのですが、その多くが凍り付いている模様です。現在、路線網を管理している鉄道庁の職員が修復作業中です」

17:30:外は既に暗いが、まだ同じ地点に停車したまま。この日は私の乗った14:10発の他にも、08:10発10:10発12:10発ヨーテボリ行き特急列車があったが、他の列車は無事にヨーテボリにたどり着いたのだろうか? ふと気になったので鉄道庁のホームページで調べてみると、08:10発のヨーテボリ行きは、1時間ほどの遅れがあったものの無事たどり着いている。しかし、10:10発と12:10発はまだ着いていないことが分かった。どこにいるのか? もう少し詳しく調べてみると、何と私の乗っている列車のすぐ前で停車していることが分かった。つまり、線路の障害のために数時間もこの場所で立ち往生していたのだ。外に出て見ることはできないが、先発の特急列車やローカル列車が数珠繋ぎになっていただろう。

17:45:食堂車からのアナウンス「暖かい食べ物は売れ切れました。サンドイッチが僅かに残っている程度です」 私はこの列車内で夜を明かす覚悟をしていたものの、食糧のことは考えていなかった。スーツケースにはなぜか、乾燥ひじきや切干大根が入っているが、役に立たない。

18:00:車掌のアナウンス「この車内にはインターネット接続のための無線LANが設備されています。通常は有料ですが、今日は特別に無料で開放します。ご自由にお使いください」

18:15:食堂車からアナウンス「サンドイッチも売れ切れました。ジュース、コーラ、ビール、ワイン、コーヒー等の飲み物はまだあります。」 この車内に長時間、缶詰状態になったら、食べ物はどうしようか?外に出るにも吹雪だし、深い森の中だ。ふと15年以上前の「生きてこそ」という映画を思い出したが、それ以上は考えないことにした。

18:30車掌は中年男性だが素晴らしい人だ。乗客をいたわってコーヒーや飲み物を持って来てくれる。こういう時は、車掌のちょっとした気遣いで、乗客の気分が大きく変わるものだと思う。多くの乗客は覚悟して乗車しているので、文句を言う者は見かけない。

18:50:運転手からのアナウンス「今入った情報によると、複線のうち片方の修復作業が終わった模様です。これから上り・下りの列車ともその単線を順番に使っていくことになります。ただし、私たちの列車は行列の後方にいるため、もう少しお待ちください。」

19:00:近くの乗客が一台のパソコンでオリンピックのTV中継を見始める。ネット接続なので、よく途切れるが私も一緒に見させてもらう。気が付いたら、車掌も隣に座って一緒に見ていた。

19:15:列車がやっと動き出す。問題の箇所をクリアして、ハルスベリ駅通過。外は吹雪。

19:50:再び停車。運転手のアナウンス「再び切り替えポイントの故障です」 調べてみると、先発の2つの特急列車も私の列車の前で立ち往生。


外は雪と氷の世界


20:00:まだ停車したまま。車掌のアナウンス「今日はMelodifestivalenです。座席横のジャックにイヤホンを差し込めば、ラジオ第3チャンネルで放送が聞けます。今日は長旅となりますが、番組を聴きながら気分を紛らわしてください」 Melodifestivalenとはこの時期にスウェーデンで行われる音楽祭典。この日は嵐の渦中にあるヨーテボリが会場だった。

20:10:列車が動き出す。運転手が喜びながらアナウンス「嬉しいことに、今回は修復が早かった!」この時点で4時間半の遅れ。

20:15:近くの乗客や車掌と一緒に、パソコンでMelodifesitvalenのTV中継を見ている。

20:40フヴデ駅に停車する予定だが、すぐ前に特急が2本連なっているため、5分ごとに順番に停車。

21:00:Melodifestivalenは、いいなと思っていた曲が一位になり、決勝進出を決めた。

21:20ファールショーピン駅に臨時停車。ローカル線が完全運休なので、数人の乗客を降ろすためだ。ここで嬉しいアナウンスが食堂車から入る。「ファールショーピンの地元メーカーから、パンやバター、チーズ、ハムが調達できました。100人分の簡単なサンドイッチは作れそうです。おなかが空いた人は食堂車までどうぞ」

21:30:食堂車に行ってみると、乗客が並んで、パンやバター、ハムを受け取りながらサンドイッチを作っていた。私も一つもらった。

21:50:すぐ前に2つの特急列車が走っているので、あまりスピードは出ないが、確実に前に進んでいる。

22:00:再びストップ。運転手のアナウンス「前に貨物列車がいるようだが、その電気機関車の調子が寒さのためにおかしい模様」 何と、貨物列車までいたとは! 非常警報が発令されているなか、貨物列車を動かしているとは、よほど重要な貨物輸送なのだろうか(笑)?

22:10:幸いすぐに動き出した。車掌と話す。「今日は本当ならヨーテボリで折り返して、ストックホルム行きの列車で勤務したあと自宅に帰る予定だったんだけど、残念ながらホテル泊まりだ。」

22:30:ヨンセレードという小さな駅で臨時停車。これも一部の乗客を降ろすため。ヨーテボリまで残りわずかなので、線路に障害が起きませんように、と皆がそれだけを願っていた。

22:50:そして、ついにヨーテボリに到着。乗客が拍手喝采。5時間半あまり遅れての到着だ。10:10発12:10発の特急も同時にヨーテボリに到着したから、乗客の中には12時間以上も缶詰になっていた人もいたようだ。


雪にまみれた特急列車。よく頑張ってくれた。先発の特急2つも隣のホームに到着


ヨーテボリ市内は雪が降り続いている。風も強い。路面電車の一部が麻痺。バスに乗って帰宅。時刻はちょうど0:00。翌朝は9時からラジオ出演だから早く寝ないと。

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私が乗った列車の次のヨーテボリ行き特急(16:10発)は3時間遅れでストックホルムを後にし、ヨーテボリに着いたのは深夜02:17だったとか。でも、特急だったからこれでも優先的に扱われたほうだ。

一番かわいそうなのは各駅停車のInter-cityに乗った人。11:07にストックホルムを発った後、私の列車が立ち往生したポイントで7時間半も待たされ、ヨーテボリ着は翌朝07:26。実に20時間もかかったことになる。乗客の多くが車内で夜を明かしたようだ。食堂車の食料も底をつき、トイレのタンクも一杯で大変だったようだ。いくら覚悟していたとはいえ、ここまで時間がかかれば、乗客はかなり怒っていただろう。

水産行政シンポジウム

2010-02-16 08:13:52 | コラム
先週は、ヨーテボリのあるヴェストラ・ヨータランド県の県行政事務所スウェーデン水産庁などが共催した「水産行政シンポジウム」に、2日間にわたって参加した。


スウェーデン近海の水産行政だけでなく、EUレベルにおける共通漁業政策にも焦点が当てられ、近年の改革の成果や今後の方向性について議論があった。スウェーデンやEUの行政担当者だけでなく、漁業関係者の団体環境団体にも発言の機会が与えられていた。

メインゲストの一人は、EUの水産大臣に相当する漁業・海事担当委員というポストに2004年からごく最近まで就いていたマルタ出身のジョー・ボルジ。直接見るのは初めてだが、なるほど、確かにゴルバチョフに似ている(笑)。彼は2002年のグリーンペーパーが契機となって始まったEUの水産行政改革を継続し、スペインやポルトガルなどの漁業大国の影響力を抑えようと努力してきた人物だ。


メインゲストのもう一人は、1997年以来、ナミビアの水産大臣を務めてきたアブラハム・イヤムボ。1990年に独立したナミビアが、いかにして水産資源の回復を図り、それと同時に国内の水産業を発展させ、輸出産業の重要な一つに育て上げていったかを語った。


1970年代から80年代にかけてナミビア南アフリカの支配下にあり、南アフリカ同様に厳しいアパルトヘイト政策が実行されていた。この当時、1500kmに及ぶナミビアの沿岸沖では監視がほとんど行われておらず、外国の密漁船による乱獲が公然と行われていた。

1990年に国連の調停のもとで独立を果たしたナミビアは、すぐに沿岸200海里の排他的経済水域(EEZ)を主張した。シンポジウムで講演した水産大臣曰く、「ナミビアの憲法が議会で可決されてから、早くも3つ目の法案としてEEZ法を提出し可決した」ほど、EEZの確保は独立直後のナミビア政府にとっては重要な課題だった、という。

では、水産資源の回復国内の水産業の振興を同時に達成するための鍵とは何だったのか? それは実はEUに自国の海の漁業権を売り渡さないことだった。漁業権を売り渡してしまえば、一時的な補償金が国庫を潤すものの、重要な一次資源が外国漁船の手に渡ることになる。資源の乏しい国にとって、限られた資源を有効に生かすことが雇用やその後の経済発展の基礎条件であろうから、これは非常に大きな問題となる。また、海上保安庁などの沿岸警備組織が未熟な国では、自国の海を外国漁船に開放すると、乱獲が野放しとなりがちだし、それまで沿岸漁業に頼って生計を立ててきた地元の漁民が生活の糧を失い、深刻な貧困に陥ることにもなりかねない。

だから、ナミビア自国の水産資源を自分たちで管理・活用することに決めた。そうすることで、地元漁民の雇用がその後も維持されただけでなく、獲れた魚介類を使った水産加工業を発展させ、雇用のさらなる受け皿の一つとすることにも成功した。そして、今では水産物輸出額全体の2割を占め、鉱業に次ぐ輸出産業となるまでに至っている。

一方で、水産資源管理にも力を入れ、比較的厳しい漁獲枠を設定してきたために、1990年の独立当時には枯渇の危機に瀕していた魚介類も徐々にではあるが回復しつつある。国民の魚の消費量も上昇しているという。

というようにナミビアの水産行政は他国のお手本となるべきものだ。この成功例は『沈黙の海』の第7章でも触れられているが、私も「本当にうまく行っているのだろうか?」と少し疑っていた。おそらく、すべてがバラ色というわけではないだろうが、それでもEUやFAOなどもナミビア政府のやり方を今では評価しているところをみると、やはり斬新な例であることは間違いではなさそうだ。

ちなみに、EUの元漁業・海事担当委員であるジョー・ボルジとナミビアの水産大臣であるアブラハム・イヤムボは、このシンポジウムに合わせてスウェディシュ・シーフード・アウォード(賞)を受賞した。2002年に設立されたこの賞は、スウェーデン水産業協会という業界団体によって授与され、その対象を「魚食文化や水産業の健全な発展に貢献した人」としているが、今回受賞した2人からも分かるように、持続可能な漁業やそのための水産行政にも着目している。つまり、魚食文化や水産業を維持し発展させていくためには、水産資源の健全な管理が必要であるということである。後者なしに前者だけを主張しても意味がない、という当たり前のことを業界団体までもが認識するようになったという点は非常に重要なことだと思う。

ギリシャ支援合意の真相は?

2010-02-12 21:48:43 | スウェーデン・その他の経済
11日にEUの臨時首脳会談が開かれ、財政危機に直面しているギリシャに対する支援が議論されたが、その結果を伝える日本とスウェーデンのニュースの見出しが180度異なるものだった。

日本の新聞の見出しが、

産経新聞 「EU臨時首脳会議 ギリシャ支援で基本合意」

朝日新聞 「ユーロ圏主要国、ギリシャ支援で合意 EU臨時首脳会議」

日本経済新聞 「EU、ギリシャ支援合意 当面は自助努力後押し」


と、何か積極的な合意に至り、ギリシャが大きな支援を受けることが決まったかのような印象を与えるものだったが、スウェーデンのメディアの見出しは

日刊紙 SvD 「EU首脳会談は人々を落胆させた」

日刊紙 DN 「EUの合意内容はギリシャにとって厳しいもの」

スウェーデン・ラジオ 「ギリシャはEUから支援を受けないことが決まった」


と、ギリシャやEU関係者にとってかなり落胆的な合意内容だったとの印象を与える。

実際、スウェーデンのメディアが伝えるところによると、EUおよびユーロ参加国の首脳は、何か具体的な財政支援を決めたわけでなく「ギリシャ政府による厳しい歳出抑制策による自助努力を支援する」という非常に曖昧な合意にしか至らなかった(しかも、独仏が事前に用意していた草案に他の加盟国がサインしただけ)。そのため、主なメディアは「EU・ユーロ諸国は、自国に支援義務を課すような経済的支援に関して合意に至ることができなかったので、あくまで政治的・精神的な意味での支援を行うという、中身のない声明しか発することができなかったのだ」と解釈していた。

だから、日本の新聞が伝える「ギリシャ支援で合意」というのは、声明のごく表面だけを文字どおりに受け取れば確かに正しいのだが、その実際の意味を考えれば、スウェーデンのメディアが掲げた見出しが正しいといえる。
(私の記憶が正しければ、日経新聞の「当面は自助努力後押し」という部分は当初は書かれていなく、あとで付け加えられた)

米英の英字新聞も参照してみたが、スウェーデンのメディアと同じ内容だった。

多くの専門家が見るところでは、ギリシャは自助努力だけでは現状から脱することができない。だから、IMFによる支援を要請する前に、まずはユーロ参加国やEU諸国が積極的な支援を行うべきだ、と考えられていたから、今回の合意は落胆的なものだったのだ。声明発表後もユーロが下落を続けたことからもそのことが分かる。

残念ながら、日本のメディアはその辺りの事情を深く把握していないようだ。特派員の数の少なければ、無理もないかもしれない。日経新聞は、それでもまだ頑張っているほうだと思う。

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イラストの出典:Dagens Nyheter

ちなみに、深刻な財政危機に陥っている国々をまとめてPIIGSというニックネームが使われている。これは、ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペインのことだ。

泥沼化するアフガニスタンの「平和ミッション」

2010-02-10 09:46:46 | スウェーデン・その他の政治
アフガニスタンに国際部隊として派遣されているスウェーデン兵士に2人の犠牲者が出た。徒歩によるパトロール中に、アフガニスタン警察の制服を着た何者かに至近距離で射撃され、28歳の大尉と31歳の中尉が命を落とした。また、同行していた現地雇用のアフガニスタン人通訳も殺害された他、21歳のスウェーデン兵士も足を撃たれ負傷した。

2001年のアメリカ軍によるアフガニスタン侵攻後、国連安保理の決議を受けてNATO主導による国際部隊(ISAF:International Security Assistance Force)が平和構築のために派遣されることになった。現在は42カ国から10万人の兵士が派遣されている。スウェーデンはNATOの加盟国ではないものの、国連の決議を受けた平和維持活動であることを理由に500人規模の兵士を派遣している。

しかし、治安状況は悪化するばかりだ。アメリカ軍による侵攻以前にアフガニスタンの中央政権を握っていたのはタリバン勢力だったが、彼らをはじめとする武装勢力による抵抗活動が近年ますますエスカレートしている。国際部隊の犠牲者は2008年の295人、そして昨年2009年は520人へと急増した。


スウェーデン軍が派遣されている北部地域で最近多発する襲撃事件
出典:Dagens Nyheter

スウェーデン軍が派遣されているのは、比較的治安が良いといわれるアフガニスタン北部のマザーリシャリーフという地域であり、他の国際部隊ほど大きな危険に晒されているわけではないが、それでも既に2005年に2人の死者を出した。この時は、車両を使ったパトロール中に、道路脇に仕掛けられた爆弾が爆発し、兵士2人が重傷を負い、搬送先の野戦病院で命を引き取った。

アフガニスタン全土の治安が極端に悪化した2009年には、11月にパトロール中のスウェーデン軍の装甲車の真下で爆弾が爆発し、4人の兵士が重傷、アフガニスタン人の通訳が死亡するという事件も起きた。

そして、今回の銃撃事件。

実はNATOの指揮する国際部隊ISAFは昨年後半から戦術を改めていた。現地の人々の信頼を勝ち取るために、人々との触れ合いや交流を大切にしようと、これまでのような装甲車や戦闘車両によるパトロールだけでなく、車両の中から積極的に外にでて、人々と言葉を交わす機会を積極的に持とうと努力してきたのだ。「外国の占領軍」という悪いイメージを少しでも払拭し、現地住民の「心をつかもう」というわけだ。

「ソーシャル・パトローリング」と呼ばれるこの新しい戦術においては、スウェーデン兵士が高く評価されていたようだ。比較的安全な地域に派遣され、一般市民を巻き込むような戦闘に関わってこなかったため、悪いイメージが薄く、人々と接しやすかったという背景もあるし、スウェーデン部隊そのものがコミュニケーションに以前から力を入れてきたことも理由の一つだ(女性兵士も何人か派遣されており、現地女性と接点を持つことにも力を入れてきたようだが、極端な男性社会において、それがうまく行っているのかどうかはよく分からない)。

しかし、徒歩によるパトロールはもちろん危険も伴う。今回の事件は、装甲車両を後にし、村人と話をしているときに起きた。アフガニスタン警察の制服を着た数人の警官を見つけ、声をかけようと近づいたところ、彼らが至近距離で小火器を発砲した。

容疑者と思われる3人が既に逮捕されたというが、詳しい目的などは分かっていない。一説によると、ここ数ヶ月、アフガニスタンの治安部隊はフィンランド軍とスウェーデン軍の支援のもとで麻薬の取締りを強化しており、事件の起きた前の週には、その村の近くで大量の麻薬と爆薬が押収されていたという。だから、タリバン勢力ではなく、そのほかの犯罪組織の可能性もある。


タリバン勢力が事実上制圧した地域
出典:Dagens Nyheter
アメリカのオバマ政権はアフガニスタンへの増派を実行しているが、「戦乱の歴史に終止符を打ち、新生アフガニスタンの平和を構築すること」という目的を達成できる可能性がそもそもあるのかを疑問視する声はますます強くなっている。

大義名分は確かに聞こえはいいが、英米軍を中心とする軍事活動によって市民が巻き添えになる事件が後を絶たない。国連の推計によると昨年の市民の犠牲者は約2400人だったが、その3割は国際部隊によるものだったという。そのような事件が起こるたびに、タリバン勢力が人気を高めているというし、経済的な理由で犯罪組織などに加わって食べる糧を得る者もいる。国際部隊は、アフガニスタン人による治安部隊や警察の教育に力を入れているが、タリバン勢力のほうが高い給料を払っているという話もある。警察の制服は着ていても、タリバンの内通者である者も少なくない。

では、どうするのか? 今、手を引けば国をタリバンに明け渡し、これまでの努力を水の泡にすることになるし、かといって、先の見えないこのミッションに自国の兵士を犠牲にできるのか。最近は「タリバンと和解して、政権に加わってもらう」という妥協案が欧米から出ている。

今回の事件を受けて、既に「自国兵士の命を危険にさらす価値のあるものなのか?」という声がスウェーデンでも上がっている。興味深いことに、アフガニスタンでの平和維持活動に積極的な参加を主張してきた日刊紙の一部も、社説において「ミッション参加の意義を再考する可能性も残しておく必要がある」というように、躊躇が窺える内容を書いていた。スウェーデン国内には、アフガニスタンから難民として受け入れられた人も多数いるが、彼らの間でも国際部隊展開の意義について意見が分かれているようだ。

ちなみに、親ブッシュ政権の立場を取り、当初から米軍への積極的支援を行ってきたデンマークは、アフガニスタンにて既に31人の兵士を失っている。

既に負けた戦争、という人もいるこのミッション。どうにも出来ないジレンマだ。

ギリシャの苦悩とユーロ

2010-02-08 10:01:11 | スウェーデン・その他の経済
スウェーデンで統一通貨ユーロ導入の是非を問う国民投票が行われた2003年9月を思い出す。当時はヨンショーピン市でスウェーデン人の大学生13人と寮で共同生活をしていたが、投票日の前の一か月間は同居人の間でもJaに票を投じるか、Nejに票を投じるかで議論が盛り上がっていた。外国人でもスウェーデンに在住して3年以上であれば投票権が与えられたので、私も投票する機会を得た。面白いことに、寮の同居人の間では意見が真っ二つに分かれていた。

その頃、メディアなどでは、両替の手間と為替リスクがなくなるためにユーロ圏内での交易が盛んになるという長所の一方で、経済政策の重要な柱である金融政策が自国で行えなくなる(自国で政策金利を操作できなくなること)だけでなく、為替レートの変動による調整がユーロ圏内でなくなってしまうことの短所が議論されていた。

この短所は私にはとても重要に思えた。自国で独自の通貨を持っていれば、景気の変動にあわせて政策金利(公定歩合)を上げ下げして、投資行動や貯蓄行動に影響を与えることができる。また、円やドルのように基軸通貨的な役割を持つ通貨でなければ、その国の景気や貿易収支に応じて為替レートが変動するため、景気が悪くなって経済力が落ちたり、輸出産業の国際競争力が低下して輸出が落ち込めば、自国通貨が減価される方向に動き、景気や国際競争力を改善する役割を果たすだろうし、その逆の場合には、自国通貨が切り上がり、景気や競争力に歯止めをかけるという、景気安定化装置の役割も果たしてくれるだろう。

そのようなフレキシビリティーが、ユーロを導入してしまうとなくなってしまう。ただし、もしユーロ圏全体が不況に突入すれば、ECB(欧州中央銀行)が政策金利を上げ下げして調節してくれるから大した問題ではない。しかし問題なのは、ある加盟国では景気がいいのに、別の加盟国では景気が悪いという、非対称ショック(asymmetric shock)の際にどうするか。ECB(欧州中央銀行)の金融政策はone size fits allだから、それぞれの国では景気の調整が効かなくなってしまう。

この点は、同居人のうち、経済を勉強していない人にはなかなか分かってもらえなかった(同居人には、ソーシャルワーカーや看護士、法律専門職、ビジネス、教員養成など様々な分野を学んでいる学生がいた)。経済学の講義では、例えば国際マクロや金融の授業でこの短所・長所が重点的に扱われ議論されていた。国民投票の結果は、私が期待したとおりユーロ否決だった(しかし、反対に投じた人の主な理由は、主権を失う、とか、社会保障が削減される、など上記の側面とはあまり関係がない漠然としたものが多かった)。



ともかく、ユーロ導入にともなう懸念は、ちょうど今、意外なところで顕著になっている。ユーロ加盟国であるギリシャやスペイン、ポルトガルといった南欧諸国が深刻な経済危機と財政危機に悩まされているからだ。

2008年から始まった金融危機は、ユーロ圏を含むヨーロッパ全体、そして世界全体を襲ったが、被害の程度はユーロ圏内で大きな差があり、西欧・北欧などが比較的早く経済回復を果たしているのに対し、南欧は経済の落ち込みが激しく、失業率の高騰と税収の減少が深刻な問題となっている。しかし、ユーロ参加国は財政赤字をGDP比3%までに抑えるという財政規律の基準を達成する必要があるため、税収の悪化にともない、歳出を大幅に抑えければならない(現在の不況では、確かフランス・ドイツ・イタリアなども財政赤字3%をクリアできていないと思うが、南欧はそれ以上に厳しいようだ)。

歳出削減は、社会保障給付・年金給付の削減、公務員の賃金カット、医療のカットなどといった形で人々の生活をもろに直撃する。ギリシャに至っては、経済統計をごまかして財政赤字の深刻さを隠していたが、当初はGDP比3.5%といわれた財政赤字も実際は13%であることがEUにばれてしまい、急遽、歳出削減プランが発表された。それがあまりに厳しいものであったため、ギリシャでは大きなデモが起きている。スペインポルトガルの財政もかなり深刻であるようだ。(ギリシャのインチキは今回が初めてではなく、ユーロに参加する際にも経済統計をごまかしていたという前科があるようだ)

しかし、そもそもこれらの国々というのは、金融危機が襲う前から経済的に問題を抱えていた。経済成長も他のヨーロッパに比べて低く、失業率も比較的高かった。もともと経済の基盤が弱いうえ、政府が抜本的な対策を怠ってきたという側面も否めない。

そして、そのことに加えて、無理にユーロに加わってしまったことで、課題であった景気回復がスムーズに進まなかったのではないか、という疑惑も抱いてしまう。これは私の仮説に過ぎないが、もしこれらの国々が自国の通貨を維持していれば、おそらくユーロやその他の通貨に対して切り下がっていただろうから、国際競争力はある程度回復し、失業も抑えられていたかもしれない。

現在は、これらの問題国を救済すべく、経済政策のもう一つの柱である財政政策他のユーロ・EU加盟国の支援のもとで行おう、という動きがある。しかし、今の苦境は切り抜けても、これらの国々が抱える問題の根本的な解決につながるのかどうかは、疑問が残る。それに、これらの国々が経済改革を怠ってきたことも問題の背景にあるだろうから、その尻拭いを財政支援という形で他国が負わされることにも不満が上がってくるのではないかと思う。

ユーロという壮大なプロジェクト。これを機にすぐにダメになるということはないと思うが、問題もやはり大きいと実感する。

日本の男女平等に関するルポタージュ(ラジオ)

2010-02-06 19:50:53 | スウェーデン・その他の社会
今週日曜日のスウェーデン・ラジオで、日本の男女平等に関するルポタージュを放送していました。日本の(元)議員や大臣のインタビューもあります。要旨を以下に掲載します。

ルポタージュは下のリンクで聞けます。
日本の男女平等の現状(スウェーデン・ラジオ:2010年1月31日)
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<東京の郊外に住む44歳の主婦>
子供と夫を送り出した後、食器洗いや掃除を済ませる。自由な時間は有意義に使って、何か新しいことを学びたい。テニスをしたり、ダンス講座に通うことが孤独の対策になっている。夫婦はともにIT関連を仕事をしていたが、子供ができてから妻は仕事を辞めた。夫は他の日本男性と同様、夜遅くならないと家に戻ってこない。だから、平日は家事を手伝うことはない。

日本の価値観も徐々に変化しつつあるものの、北欧と比べると非常にまだまだ異なる部分がたくさんある。日本人の4割「男は仕事で稼ぎ、女は家庭に残るべき」と考えている。この考え方は女性の間でも一般的だ。

この主婦はパートの仕事をしたいと思っている。他の友達もパートをしている人が多い。子供を持つ女性が仕事をしたいと思ったとき、パートくらいしか仕事がない。しかし、賃金は比較的低いうえ、雇用が安定していない。


さて、霞ヶ関の官庁街。建物は大きいが、グレーで古びれた感じがする。外見はスウェーデンの大都市の郊外の集合住宅地に似ている。ここで働く人はみなスーツを着ている。

日本では昨年の選挙で政権が交代した。自民党が負け、民主党や社民党などからなる中道左派連立政権が誕生した。新政権は、男女平等に関して高い意欲を持っているが、男性がやはり多数を占めている。例えば、副大臣ポストは22あるが女性はたった1人だけだ。


<辻本清美・国土交通副大臣、社民党>
彼女は、男女平等の現状に非常に不満だ。「今日は霞ヶ関で100人以上の職員に会ったが、女性は自分だけだった」

彼女は、以前から国会議員をしてきたが、女性議員が男性議員とは同等に扱われず低く見られている、と感じている。

昨年の選挙で女性の国会議員は54人となった。日本では記録的な数だ。しかし、比率で見るとたった11%でしかない。辻本氏は「女性議員が少なくとも3分の1になることが目標だ。そのためには、医療・育児や環境に関する政策をよくしていく必要がある」と語る。


官庁街からさほど遠くないところに事務所を構えているのは自民党の元議員であり、女性議員として日本で有名だった猪口邦子氏だ。以前は、大学教授や大使、そして、日本で初めての少子化対策・男女共同参画担当大臣を務めたことがあるが、現在は政界を退いた。

<猪口邦子氏>
昨年の選挙の際に、自民党が比例代表名簿で下位の順位しか与えようとしなかった理由は、自分が「政治エリートの家系の出身ではないうえに、女性であったことだ」と語る。「女性は、自民党の中で地位を維持するのが難しい。政治に足を踏み入れるのはそれ以上に難しい」

日本の男女平等が遅れてきたことについては、戦後復興のなかで経済政策ばかりが優先されるなか、社会政策の発展が遅れたためだという。


日本の新政権は、子育て世帯に対する給付の引き上げや労働時間の10%減を目標として掲げている。そして、それを達成するために努力しているのは、新しい少子化対策・男女共同参画担当大臣となった福島瑞穂氏だ。彼女は社民党党首であり、言ってみれば日本の「モナ・サリーン」だ(注:モナ・サリーンはスウェーデン社民党の女性党首)。しかし、あまり適切な比較ではないかもしれない。というのも、社民党は日本では小さな政党に過ぎないからだ。

<福島瑞穂・少子化対策・男女共同参画担当大臣、社民党>
「社民党は政権の中では新参者だが、大臣として、男女平等の分野で適切な政策が行われるよう、指導力を発揮したい」と語る彼女はスウェーデンを好んでおり、男女平等運動の一翼を担ったスウェーデンのミュルダール夫妻の書籍から童話『長くつ下のピッピ』まで様々なスウェーデン関連書物を読んでいる。

しかも彼女は、非常に珍しい政治家だ。子供を持っているものの夫とは籍を入れていないからだ。「私はスウェーデンのサンボー法(パートナー法)を実践している」と語る。

彼女は、自分の娘のような婚外子の権利の向上にも努め、相続の際の同権を実現しようとしている。また、結婚した女性が自分の苗字を維持できるようにもしたい。日本では現在、それが不可能なのだ。

そして、保育所の数を増やしていくことが必要だとも考えている。3歳以下の子供のうち保育所に通っている割合は、わずか2割だ。育児サービスに費やす予算を増額しなければならない、と彼女は語る。


<再び最初に登場した主婦>
条件のよいパートの仕事を見つけるのは難しいが、何とかなると考えている。もしくは、勉強をしてみたい。とにかく家庭から外に出て、社会の一員になりたいと彼女は言っている。

(以上、ルポタージュの和訳でした。)
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日本にいればそれが普通だと思えることでも、一歩距離を置いて改めて見てみると、それが異様に思えることがある。男女平等もその一つだ。

女性の大学進学率が上昇してきたが、高い学費を払って大学にせっかく通って仕事を得ても、結婚して子供を持つようになると、多くの女性が仕事を辞めざるを得ない現状は、社会的に見て悲惨だと思う。経済的に見ても、それまで費やしてきた学費の無駄だし、人的資源の大きな浪費だとしか思えない。

その一方で、家計を支えなければならない男性は、長い就業時間に耐えなければならない。スウェーデンのように共働きの社会であれば、家計に必要な所得を二人で分担して稼ぐわけだが、その分を一人で稼がなければならないとなると、就業時間がその分、長くならざるを得ない。

しかも、長い就業時間がフルタイム労働における標準形であるから、夫婦が二人ともフルタイムに就いてしまうと家庭との両立が不可能となり、結局どちらかが仕事を辞めるか、パートタイムに就かざるを得ない。自分の能力を生かして、社会で働き、自己実現を果たしたい女性にとっては、家庭を持つことはそのような夢を諦めることを意味する。男性にはそのような夢が許されるのに、女性だったらダメ、というのは理不尽ではないか?

一人ひとりが自分の意欲や能力に応じて自分を生かし、満足した人生を送られる社会を目指して、日本の社会が少しずつ変わっていって欲しいと思う。そのためには制度の改革ももちろん必要だが、それ以上に意識の改革も必要だと思う。つまり、自分は務めている企業の一部だとか、通っている学校の一員だとか、もっと大きな話として日本人だとかというような集団意識にとらわれず、そして、男性だから・女性だからこうしなければならない、というような制約にとらわれずに、「まずは自分という人間がいて、それが何をしたいのか」という個人の意識を高めていく必要があると思う。この意識が日本では特に弱いと感じる。そして、そのうえで個人の自己実現をサポートするような制度作りを政策サイドから行っていくことが必要となる。

今年9月は総選挙

2010-02-04 07:29:37 | 2010年9月総選挙
今週は連日、朝早くから学部生向けの講義を担当しており、更新が滞っています。

最近嬉しいのは、雪が降り積もっているため、早朝や夜でも外の雰囲気が明るいこと。それに、日の出の時間も着実に早くなっていること。


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今年は4年おきに行われる総選挙が9月にやってくる。
昨年後半の半年間はスウェーデンがEUの議長国を担当していたため、メディアの注目や政治家の活動もどちらかというとEUレベルの政治に集中し、国内政治においてはあまり激しい議論が行われてこなかったように思う。

しかし、EU議長国の任も無事済ませたため、これからは保守ブロック・左派ブロックの双方が熱い火花を散らしてくれるであろう。