2008年の金融危機の引き金となったアメリカのサブプライム問題は、金融機関が返済能力の乏しい低所得者にも次々とローンを提供したことが問題の始まりだったといわれる。そして、貸し出しを行った金融機関はその債権を金融市場で転売して短期的な利益を手にすることができ、問題のある債権は次々と別の金融機関の手に渡っていった。そのため、問題が先送りされていき、その深刻さが分かりにくかった。しかし、積もりに積もった問題がある時、一気に顕在化することとなった。最後にジョーカーを手元に持っていた金融機関や投資家が痛い目に遭っただけでなく、金融システムそのものが崩壊する危機に直面した。
短期的利益の追求と問題の先送りは、ウォール街の大罪と言えるであろう。しかし、いま次第に明らかになっているのは、アメリカの金融機関がそのような安易な貸し出しと問題の先送りを自国の低所得者層だけでなく、他国の政府を相手に行っていた、ということだ。
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ギリシャ政府が深刻な財政危機に陥り、ユーロ圏の経済に悪い影響を与えているという話はこのブログでも書いた。経済の構造改革や財政改革を怠ってきたために、金融危機以降、財政赤字が顕著となっている。しかし、ユーロ加盟国に課せられた財政規律を守らなければならないため、増税や大幅な歳出削減を決行しなければならず、国内ではデモやストライキが相次ぎ、混乱状態に陥っている。
ただ、ギリシャの財政問題は、何も金融危機以降に始まったわけではなさそうだ。ギリシャ政府は長年にわたって統計をごまかして財政赤字の実際の大きさをEUの本部に隠していたというし、しかもその隠蔽工作にアメリカの金融機関が加担していたというのだ。
たとえば、投資銀行であるゴールドマン・サックスやJPモルガンは、金融デリバティブを使って、ギリシャの国家歳入を一時的に増やすという巧妙な技を提供してきたという。これは、ギリシャ政府に対する事実上のローンなのだが、デリバティブの一種である為替スワップや金利スワップを使うと、その取引を「為替上の取引」や「売り上げ」と扱うことができ、財政のバランスシートの「債務面」に記載する必要はなかったのだという。そのため、外部の人間にはギリシャ政府の財政赤字の実態が見えにくくなっていた。
ギリシャ政府は「粉飾会計」を行うためのこのような取引を2000年代に度々行ってきた。それによって、自国の経済力と財政力以上の歳出を維持し、深刻な財政赤字に目を塞ぐことが一時的には可能となった。しかし、その負債総額は今や3000億ドルにのぼるといわれる。
貸し手であるゴールドマン・サックスやJPモルガンは、取引の見返りとして、たとえばギリシャ国内の空港発着料や高速道路料金、国営ロト(宝くじ)の収益を、十数年にわたって差し押さえる契約を結んできたという。
つまり、目の前の問題を先送りにしたツケは、次の世代の国民が払うことになる。しかも2000年代初頭にこのような形で借り入れた「闇ローン」の返済がもう既に苦しくなっており、そのためにさらに「闇ローン」をしなければならない、という悪循環に陥りつつある。
ただし、「粉飾会計」だとか「闇ローン」とは書いたものの、ゴールドマン・サックスやJPモルガンがギリシャ政府と取り結んだこれらの契約は、法律違反ではないらしい。また、ギリシャ政府がそれを財政の負債面にきちんと記載しなかったことも、EUのルールに反しているわけではないという。EUはこのような「抜け穴」があったことについて、財政における負債の定義をもっと明確にしておくべきだった、と述べているようだが、実際のところ、ギリシャ政府の粉飾会計については以前からある程度知っていたにもかかわらず、抜本的な対策を怠ってきたようだ。
ギリシャだけではない。イタリア政府も1996年にJPモルガンと為替スワップの契約を結ぶことで、見かけ上の財政赤字を大きく減らし、ユーロ加盟の財政基準をクリアすることに成功した。一方、イタリア政府はその対価として長年にわたって支払い義務を負うことになったものの、それを財政の「債務面」に記述する必要はなかったという。つまり、降って沸いた金という扱いなのだ。
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確かに、ギリシャ政府やイタリア政府の振る舞いも責められるべきだが、たとえ合法的であれ、そのような契約のチャンスを提供したアメリカ投資銀行もそれ以上に醜い。彼らにしてみれば、たとえギリシャ政府の返済能力が低下したとしても、サブプライムの時と同様に、債権を転売してしまうことが可能だろうし、もし本当にギリシャの財政が破綻しかけたとしても、他のEU・ユーロ諸国がほってはおかず、必ず支援に回るであろうから、債権が焦げつく恐れも少ない。だから、彼らにとってのリスクは小さいのだろう。
実際のところ、ギリシャの深刻な財政危機が明るみに出る以前の2009年11月に、ゴールドマン・サックスからの一団がギリシャ政府を訪ね、歳出項目のうち医療関連費を将来に先送りするためのデリバティブ商品を販売しようとしたらしい。しかし、この時ばかりはギリシャ政府も「うまい話」に乗らなかったという。
そして今、ギリシャ国債に対する信用が低下し、その価格が急落している状況において、外国金融機関の中には投機によって収益を得るために、ギリシャ国債を空売りする動きに出ているものもあるとか。それによって、国債価格の下落と利率の上昇にさらに拍車がかかっている。
ギリシャだけでなく、スペインやポルトガルの国債も価格が下落し、利率が上昇しているために、国の借金に対する利子負担が大きくなり、これらの国の経済と財政をさらに逼迫させている。
これからどうなるのか、見ものだと思う。
短期的利益の追求と問題の先送りは、ウォール街の大罪と言えるであろう。しかし、いま次第に明らかになっているのは、アメリカの金融機関がそのような安易な貸し出しと問題の先送りを自国の低所得者層だけでなく、他国の政府を相手に行っていた、ということだ。
ギリシャ政府が深刻な財政危機に陥り、ユーロ圏の経済に悪い影響を与えているという話はこのブログでも書いた。経済の構造改革や財政改革を怠ってきたために、金融危機以降、財政赤字が顕著となっている。しかし、ユーロ加盟国に課せられた財政規律を守らなければならないため、増税や大幅な歳出削減を決行しなければならず、国内ではデモやストライキが相次ぎ、混乱状態に陥っている。
ただ、ギリシャの財政問題は、何も金融危機以降に始まったわけではなさそうだ。ギリシャ政府は長年にわたって統計をごまかして財政赤字の実際の大きさをEUの本部に隠していたというし、しかもその隠蔽工作にアメリカの金融機関が加担していたというのだ。
たとえば、投資銀行であるゴールドマン・サックスやJPモルガンは、金融デリバティブを使って、ギリシャの国家歳入を一時的に増やすという巧妙な技を提供してきたという。これは、ギリシャ政府に対する事実上のローンなのだが、デリバティブの一種である為替スワップや金利スワップを使うと、その取引を「為替上の取引」や「売り上げ」と扱うことができ、財政のバランスシートの「債務面」に記載する必要はなかったのだという。そのため、外部の人間にはギリシャ政府の財政赤字の実態が見えにくくなっていた。
ギリシャ政府は「粉飾会計」を行うためのこのような取引を2000年代に度々行ってきた。それによって、自国の経済力と財政力以上の歳出を維持し、深刻な財政赤字に目を塞ぐことが一時的には可能となった。しかし、その負債総額は今や3000億ドルにのぼるといわれる。
貸し手であるゴールドマン・サックスやJPモルガンは、取引の見返りとして、たとえばギリシャ国内の空港発着料や高速道路料金、国営ロト(宝くじ)の収益を、十数年にわたって差し押さえる契約を結んできたという。
つまり、目の前の問題を先送りにしたツケは、次の世代の国民が払うことになる。しかも2000年代初頭にこのような形で借り入れた「闇ローン」の返済がもう既に苦しくなっており、そのためにさらに「闇ローン」をしなければならない、という悪循環に陥りつつある。
ただし、「粉飾会計」だとか「闇ローン」とは書いたものの、ゴールドマン・サックスやJPモルガンがギリシャ政府と取り結んだこれらの契約は、法律違反ではないらしい。また、ギリシャ政府がそれを財政の負債面にきちんと記載しなかったことも、EUのルールに反しているわけではないという。EUはこのような「抜け穴」があったことについて、財政における負債の定義をもっと明確にしておくべきだった、と述べているようだが、実際のところ、ギリシャ政府の粉飾会計については以前からある程度知っていたにもかかわらず、抜本的な対策を怠ってきたようだ。
ギリシャだけではない。イタリア政府も1996年にJPモルガンと為替スワップの契約を結ぶことで、見かけ上の財政赤字を大きく減らし、ユーロ加盟の財政基準をクリアすることに成功した。一方、イタリア政府はその対価として長年にわたって支払い義務を負うことになったものの、それを財政の「債務面」に記述する必要はなかったという。つまり、降って沸いた金という扱いなのだ。
確かに、ギリシャ政府やイタリア政府の振る舞いも責められるべきだが、たとえ合法的であれ、そのような契約のチャンスを提供したアメリカ投資銀行もそれ以上に醜い。彼らにしてみれば、たとえギリシャ政府の返済能力が低下したとしても、サブプライムの時と同様に、債権を転売してしまうことが可能だろうし、もし本当にギリシャの財政が破綻しかけたとしても、他のEU・ユーロ諸国がほってはおかず、必ず支援に回るであろうから、債権が焦げつく恐れも少ない。だから、彼らにとってのリスクは小さいのだろう。
実際のところ、ギリシャの深刻な財政危機が明るみに出る以前の2009年11月に、ゴールドマン・サックスからの一団がギリシャ政府を訪ね、歳出項目のうち医療関連費を将来に先送りするためのデリバティブ商品を販売しようとしたらしい。しかし、この時ばかりはギリシャ政府も「うまい話」に乗らなかったという。
そして今、ギリシャ国債に対する信用が低下し、その価格が急落している状況において、外国金融機関の中には投機によって収益を得るために、ギリシャ国債を空売りする動きに出ているものもあるとか。それによって、国債価格の下落と利率の上昇にさらに拍車がかかっている。
ギリシャだけでなく、スペインやポルトガルの国債も価格が下落し、利率が上昇しているために、国の借金に対する利子負担が大きくなり、これらの国の経済と財政をさらに逼迫させている。
これからどうなるのか、見ものだと思う。