1. はじめに
春の夜空を彩るオレンジ色のアークトゥルスと青いスピカ
アークトゥルスは0等星なので、都会でもハッキリと見えますし、1等星のスピカも慣れてくれば見つけられます。
あと、デネボラが見つかれば春の大三角形なのですが、このデネボラが2等星なので、都会で見つけるには、結構、厳しいものがあります
条件の良い日に、「このあたりにあるはず」という感じで、じっと眼が慣れるのを待っていて、ようやく見える程度です。
そういった意味で、春の大三角形の形状を頭に入れておくことは有用です。
ちなみに、Wikipediaによれば「アークトゥルスとスピカ、それにしし座β星デネボラを結ぶと、大きな正三角形ができる」と記されています。
一方、"Star Identification"では「アークトゥルスとスピカのところで同じ角度になる三角形の頂点にデネボラがある」と説明されています。つまり、アークトゥルスとスピカを底辺とする二等辺三角形だということになります。
さて、実際は、どんな感じになっているでしょうか。
2. 基本計算式
今日は、まず、星の道案内に必要となる5つの基本方程式を整理しておきます。
一連の計算では極座標系を使用することとし、恒星の位置(α, δ)は、赤経RA及び赤緯Decを用いて、次式のように表します。
ここで、δを90°からの補角で表す理由は、星の高度を示す際に、極座標系では天頂からの偏角を用いて表すことに対し、赤緯は水平面からの仰角を用いるという違いがあるためです。
3つの恒星A、B、Cの位置は、極座標系(α, δ)で、それぞれ、
と表わします。
赤経は「時 分 秒」で、赤緯は「度 分 秒」で提供されていますので、計算に際しては、それぞれ「度」に換算します。電卓であれば、そのままでも計算できますが、表計算ソフトなどコンピューター上で計算する場合はラジアンに換算(360°→2π)します。
【基本計算式1】2つの恒星A、B間の角距離
天球上の2点A(αa, δa)、B(αb, δb)間の角距離θABは「球面三角法における余弦定理」を用いて求めます。
天球上の点A、B及び天頂から成る三角形に余弦定理を適用すると、
となるので、右辺のδa、δb、αa、αbに数値を代入することでθABを求めることができます。
【基本計算式2】2つの恒星A、Bを通過する大円
大円の方程式は、
と表せます。天球上の2点A(αa, δa)、B(αb, δb)を通過する条件から、係数a、bは次式で求めることができます。
観測者からみたとき、この大円は2つの恒星を結ぶ直線です。
【基本計算式3】2つの恒星A、Bを通過する大円と直交し、恒星Cを通過する大円
天球上の2点A、Bを通過する大円G1:a cosα+b sinα+cotδ=0と直交し、点C(αc, δc)を通過する大円G2の方程式を求めます。
大円G2の方程式をa’ cosα+b’ sinα+cotδ=0としたとき、係数a'、b'は次式により求められます。
大円G2は、観測者からみたとき、恒星Cから恒星A、Bを結ぶ直線上におろした垂線を表します。
【基本計算式4】2つの大円の交点
大円G1:a cosα+b sinα+cotδ=0と大円G2:a’ cosα+b’ sinα+cotδ=0の交点Q(αq, δq)は、次式から求めます。
交点Qは、観測者からみたとき、恒星Cから恒星A、Bを結ぶ直線上におろした垂線の足です。
2つの大円の交点は、空間上で相対する2点が存在しますが、ここでは、必要な方の1つを選びます。
【基本計算式5】3つの恒星A、B、Cから成る球面三角形の頂点Aにおける内角
天球上の3点A(αa, δa)、B(αb, δb)、C(αc, δc)から成る三角形の頂点Aにおける内角φA(=∠BAC)は、「球面三角法における余弦定理」
から、次式を用いて求めます。
以上に示した5つの基本計算式を使えば、たいていの計算はできるようになります
3. 春の大三角形
春の大三角形を構成する3つの恒星アークトゥルス、スピカ、デネボラの赤径RA及び赤緯Decは、下記の通りです(元期 J2000.0)。
アークトゥルス:(RA, Dec)=(14h 15m 39.67207s, +19° 10′ 56.673″)
スピカ:(RA, Dec)=(13h 25m 11.57937s, -11° 9′ 40.7501″)
デネボラ:(RA, Dec)=(11h 49m 3.57834s, +14° 34′ 19.409″)
これら3つの恒星の位置を極座標系で表すと、
アークトゥルス:A(αa, δa)=(213.9153°, 70.8176°)
スピカ:B(αb, δb)=(201.2982°, 101.1613°)
デネボラ:C(αc, δc)=(177.2649°, 75.4279°)
となります。
3.1 3辺の長さ
天球上の点A(アークトゥルス)と点B(スピカ)の間の角距離は、【基本計算式1】を用いれば、θAB=32.7929°が得られます。同様にして、点B(スピカ)と点C(デネボラ)の角距離はθBC=35.0642°、点C(デネボラ)と点A(アークトゥルス)の角距離はθCA=35.3096°となります。
3辺のうち最短であるアークトゥルス〜スピカの角距離を1とすると、スピカ〜デネボラの長さは1.06926、デネボラ〜アークトゥルスは1.07675です。
3辺の長さの差は約4%以内なので、ほぼ同じだとみなせば、春の大三角形は、ほぼ正三角形だと言えそうです。
細かく言えばθAB≠θBC≒θCAなので、ほぼ二等辺三角形だと言った方が、より正確だと思います。
3.2 3つの内角
次に、球面三角形ABCの頂点A(アークトゥルス)における内角は、【基本計算式5】を用いて、φA=64.9559°です。同様にして、頂点B(スピカ)及び頂点C(デネボラ)における内角を計算すると、それぞれ、φB=65.7135°、φC=58.6618°が求まります。
すでに3辺の比較で説明したように、3角の値をφA≒φB≒φCとみれば、ほぼ正三角形ですし、φA≒φB≠φCとみるならば、ほぼ二等辺三角形です。
前回も記しましたが、球面上の三角形の内角の和は180°より大きくなります。確かに、春の大三角形では189.3°>180°となっています。ちなみに、球面三角形の面積が小さくなるほど、内角の和は限りなく180°に近づいていきます。
3.3 まとめ
春の大三角形は、3辺の長さがほぼ等しいので、目視では正三角形だと言って差し支えないと思います。また、頂点アークトゥルスとスピカで同じ角度になる二等辺三角形だという説明も、非常に正確だと言えます。
今回の計算結果を手持ちの写真で説明すると、こんな感じになります(写真画像なので歪曲収差があります)。
4.おわりに
今回は、基本計算式のうち【基本計算式1】と【基本計算式5】の2つだけを用いて計算することができました。
残り3つの【基本計算式2】〜【基本計算式4】は、北斗七星から北極星を探すときのような計算の際に使います。
まだまだ、確かめてみたい位置関係(星の道案内)がありますので、引き続き、調べていきたいと思います。
その他の『天球の歩き方』はこちらへどうぞ
Spring Triangle
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