パソコン美人におんぶにだっこ

パソコン相撲 入門

小話  不幸しか知らない画家が、幸せしか知らない女優に恋をした

2022-09-19 11:18:45 | 小説

コーカサスの国ジョージアは、19世紀に帝政ロシアに併合された。
かの名曲「百万本のバラ」は、そこを舞台にした画家の悲恋の歌である。

ある日、フランスの女優マルガリータが訪れ滞在した。
貧しい孤高の画家は一目で恋をした。当然の如く叶わぬ恋である。
でも、彼は思い立ったのである。すべてを売って、たくさんのバラを買おう。
それを彼女の居る宿の前に添えよう。そして窓から見下ろす姿を見よう。
そう、それから消えようと。旅に出よう、と。

だがである、時はちょっとした慈悲を見せた。見せたと思いたい・・・・
その画家に窓から声が飛んで来た・・・・

女優「あの、ちょっと待って、あなた、あなたのやったことなの?」
画家「ええ、それはそうですが、これは私の気持ちを表しただけなのです」
  「とんだご迷惑をおかけしました。拾い集めておきます」
女優「いいえ、そうではないの、こんなにもある赤いバラ見たことないわ」
  「あなたは、この私の為に買い集めて来たのね。どうして、また」
画家「話していいのですか、でも、こんな私のことなんか、どうか気にせずに」
女優「ねえ、あなたは何をしている人なのですか、せめて教え」
画家「不幸しか知らない男です。それを絵に描いているだけの男です」
  「そんな私に初めて光が差したのです。最初で最後かも知れませんが」
女優「あなたの話を、もっと聞かせてはくれませんか。そちらへ降りていくわ」
画家「いいえ、いまのままで居てください。私には眩し過ぎますから」
女優「今言ったわよね、不幸しか知らないって何? それって、どういうこと」
画家「それは、その、私たちは国を失ったのです、ロシアのせいで」
  「人々の心は荒みました、古き良きジョージアは消えかかっています」
  「私はそんな民をたくさん見て来ました。自分に重ねて描いているのです」
女優「よくわからないわ、不幸って、幸せではないってことなの、どういうの」
画家「あなたは光の只中にいます。それでいいのです。影なんか知らないほうが」
  「私と言う影は、あなたと言う光に出会えて嬉しかった、それだけです」
  「どうか、このまま光輝いててください。お邪魔をしてしまいました」
  「では、これ位にしましょう。私は、これから旅へと消えます」
女優「あっ、ねえ、お願い、どうかいつか私の絵を描いてはくださらない」
画家「はい、いいですとも、こちらこそ、喜んでそうします」
  「なにせ、私の心を温めてくれました。しがない絵ですが、必ず」
女優「あなたは私に、私の知らない世界を気付かせてくれたわ、影なのね」
  「この世は、光と影なのね。あなたは光をもっと知って」
  「私は私で、影を知ろうとするわ。きっと、私を描いてください、ね」
画家「では、これでお別れ致します。失礼しました」
女優「画家さん、最後に、夢の中でいいからフランスに来てくださいませ」
画家「はあっ、では・・・・」



登場人物の男は、ジョージアのピロスマニと言う実在の画家である。
当地トビリシにやって来たフランス人女優に、束の間の恋をした。
百万本のバラを贈り、それを見ている彼女を、そっと見ようと。
それを見届けてから、旅に出たのであった。・・・・後に彼女を描く。

・・・・聖母マーラは娘に生を与えたけど、幸せはあげ忘れた・・・・
原作はラトビアのもっと悲しい歌、「マーラが与えた人生」である。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 動物の目は正直 | トップ | 私の酒遍歴 »

コメントを投稿

小説」カテゴリの最新記事