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映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「奇跡のリンゴ」 阿部サダヲ&菅野美穂

2014-01-05 18:30:01 | 映画(日本 2013年以降主演男性)
映画「奇跡のリンゴ」は2013年公開作品

最近あたっている阿部サダヲの主演だ。映画でその力量を発揮する名コメディアンに育ってきた。実際にはシリアスドラマとなってもおかしくないこの題材も彼が主演だと和らいだタッチで映画が流れていく。相手役には菅野美穂をもってきた。表情に大衆的な要素を含んだ彼女の起用も成功である。

青森県中津軽郡が舞台だ
この地で生まれた秋則(阿部サダヲ)には、付近一帯を覆うリンゴ畑や農業への関心はなかった。普通に都会に出て勤め人になった。そんな彼に転機が訪れる。リンゴ農家の娘・木村美栄子(菅野美穂)とお見合い結婚して木村家に入ることになったのだ。リンゴ造りは秋則にとっては初めての経験だった。しばらくたって妻の身体に異変が起きることに気づく。リンゴの木は害虫がついてしまうので、農薬なしでは生産不可能な果物である。繰り返し散布する農薬の影響で皮膚がかぶれ、数日間寝込むこともあった。

そんなとき、秋則は無農薬による栽培の本をみつける。本の通りにうまくいけば妻は健康になるはずだ。そう考えて「リンゴの無農薬栽培」への挑戦を決意し、若い仲間の賛同を得た。しかし、木には大量の害虫がついてしまうのだ。最初は関心を示した若手後継者も徐々に離れていった。そんな秋則を美栄子の父・征冶(山崎努)は、私財を投げ打ち応援してくれた。

しかし、うまくいかない。周囲の農家から「カマドケシ」(破産者)とバカにされ、家族は貧困にあえいでいた。およそ10年の間、リンゴ畑に奇跡が起きることはなかった。

追い詰められ、秋則は1人で岩木山を登り、自殺しようとした時、山の中に1本のリンゴの木が目に止まった。その枝には、果実がぶら下がっていた。その樹木に近づき、秋則はあることに気づくが。。。。


「奇跡のリンゴ」という本は本屋でよく見かけた。表紙の写真を見て変なオヤジだなあと思っていた。立ち読みする気にもならなかった。予告編やTVの特集でストーリーの大体の予想はできた。最終的に失敗する話ではないだろうなんて思うと劇場から足が遠のく。見てみると実際予想通りであった。
この話ちょっと出来過ぎかな?といった印象を受ける。バイトなどをやっているとはいえ、いくらなんでも農業従事して10年無収入でいいのかな?ということが気になる。「見切り千両」ではないが、どこかで方向転換しないと破産してしまってもおかしくないはずだ。この映画で語られている以上に親は裕福で援助があったのかもしれない。そうでなかったら、借金したならばとっくにパンクしてもおかしくないはずだ。
ちょっと自分にはあわない話だと感じた。

それでも、山の中でたくましく花を咲かせている木に行き、気づいたことは「なるほどそういうことがあるのか」と感心した。農業の知識はゼロ、植物方面が全くわからない自分なので、雑草や豆の効用ということは知らなかった。自宅に梅の花やらバラやら色々と咲く花がある。そういえば、父母が生きている時よりも死んでからの方がきれいに花が咲くようになった気がする。どちらかというと死んでからちゃんと手入れをしていない。花壇には雑草のようなものも生える。この映画の理論でいうとその方がいいという話になる。なるほどなあ。

阿部サダヲ、菅野美穂いずれも好演である。まわりを固める俳優も上級者だらけで問題なし。山崎努もあの世に行く役を演じることがここにきて出だした。名優まだまだ頑張ってもらいたいけど。。。


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映画「はじまりのみち」 加瀬亮

2014-01-05 08:01:45 | 映画(日本 2013年以降主演男性)
映画「はじまりのみち」は戦後日本映画界を代表する木下恵介監督の若き日を描いたオマージュ映画だ。

これも予想以上にいい映画だ。胸にしみるシーンがいくつかあった。
木下恵介が好き?と言われれば、「それなりに」と答えるしかない。戦後の著名作品はそれなりに見ている方だ。「二十四の瞳」は少年のころ見てすごく感動した。今でも素晴らしいと思う。他はそれほどでもない。そんなこともあり、DVDスルーしていたが、正直この作品にはビックリした。

昭和20年4月の松竹撮影所で木下恵介監督(加瀬亮)と松竹幹部の城戸四郎(大杉)が向かい合う。
木下恵介が監督に昇格して2作目の「陸軍」は陸軍の士気高揚を図るためにつくられた映画であった。しかし、ラストシーンで母親が子を見送るシーンがめめしく、兵隊の士気が上がらないと陸軍から文句をつけられた。それで城戸に注意され、次の作品の話が没となった。木下は辞表を出す。城戸は辞表を預かるといったが木下は故郷の浜松に帰ることになった。

実家は浜松で食料品店を営んでいた。戦火激しく郊外に疎開していた。母(田中裕子)は脳溢血を患い、満足に話ができない状態になっていた。その母を別の疎開先に移動させることになった。しかし、戦火激しく母を輸送する車を用意できる状況ではない。バスで移動というわけにも行かない。そこで恵介はリアカーで運び込むことにした。距離は60キロに及ぶ。家業を継いでいる兄(ユースケ・サンタマリア)と兄が雇った便利屋(濱田岳)が同行することになった。歩いても歩いても先は遠い。3人とも神経をピリピリしながらの珍道中である。

休憩の時、便利屋が職業を恵介に聞く。映画監(館)とまで言いかけて、今は無職だという。「そうか映画館に勤めていたのか。」と便利屋がひとり合点する。恵介は正体を表わさず、道中は続く。
途中で旅館で休もうとしたが、どこも満室で入れない。病人を抱えて難儀したが、ようやく探しあてた旅館に入って一泊することになった。気を紛らすために、恵介が一人川辺をたたずんでいると、便利屋が近寄ってくる。映画館で働いていたとことを知り、便利屋があの映画よかったなあと話に出したのが「陸軍」だった。知っているか?と聞かれ、恵介はとぼける。
便利屋が熱を込めて、この映画の良い所を力説するにつれて、恵介はあの映画のことを思い出すのであるが。。。。

(陸軍)
このあと映画「陸軍」のラストシーンが流れる。異様なテンションの高さに感動した。背筋がぞくっとしてしまった。映画ファンを自称しながら、この映画を今まで知らなかったことを恥じた。それくらいのすごいシーンである。
ある地方の町で、田中絹代扮する母親が自宅で出征に向かう兵隊の行進する響きを聞きつける。外に飛び出て懸命に街道に向かって走る。街道では陸軍の兵隊が行進している。母親はわが子を探そうとする。大勢いてわからない。カメラがそれを追いかける。そして見つける。

行進とともに母は一緒に駆けていくが、沿道には大勢の人だかりで母親はころんでしまう。何もなかったように行進は進んでいく。最後無事を祈り、母親は手を合わせる。
陸軍の士気高揚を目指した映画だけに、福岡市の目抜き通りがエキストラで一杯になる。陸軍の命令かもしれない。これ自体今ではありえない。実際の行進に合わせてつくられたドキュメンタリーではないかと思ってしまうくらいだ。しかも、田中絹代を追いかけるカメラワークが躍動的だ。彼女が息子を追いかけていく途中で、自分の身体の中でものすごい蒸気が高まる。沸点をこえる。やはり田中絹代は大女優だ。改めて感じる。感動した。

途中で陸軍の1シーンが流れ、いったんこの映画のピークを迎える。
それまでは木下恵介の強情さが鼻についたシーンが多かった。そのなかで暗い戦争の話を茶化すように濱田がうまく使われている。恵介兄弟や旅館の娘たちとのやり取りで笑わせてくれる。やっぱり彼はうまい。昨年の「みなさんさようなら」は年間ベスト3に入る快作だと自分は思っている。同時にクセの強い木下恵介を演じた加瀬亮もうまい。ユースケサンタマリアもいつもより抑えた演技で、家督相続があった時代の長男らしい思いやりのある兄貴を演じる。

(気になるシーン)
監督はいくつかヤマをもってきている。その中でも2つ印象に残るシーンがある。
まずは宮崎あおい扮する女教師が子どもたちを引き連れている場面だ。映画「二十四の瞳」の1シーンを連想させる。それを恵介が手でファインダーを見るように彼女たちの動きを追いかける。もう映画監督を辞めたと言い切った後の恵介が何かを構想したはずだ。いいシーンだ。宮崎あおいのナレーターも実に良かった。

田中裕子扮する母はリアカーで運ばれるが、道中強い雨に降られて、顔には泥が飛んでいる。旅館についた時、恵介は井戸を貸してもらって手拭いに水を付けて、母の顔をふく。女優が映画の撮影の前に化粧をするような雰囲気でふいていく。これが実に美しい。老いた母の顔がきれいになっていく。田中裕子の映画で好きな映画をいくつも取り上げてきた。「天城越え」「夜叉」「いつか読書する日」の3つはいずれも傑作だ。若き日の方が妖艶な魅力をもつが、今の彼女もすばらしい。



最後にはオマージュのように戦後の木下恵介の代表作が映される。見たことある映画も多い。まだ見ていない「破れ太鼓」で主演の阪東妻三郎の顔を見て、つい数年前に亡くなった息子の田村高廣に瓜二つなのに驚いた。ここでは流れないが、弟の木下忠司の音楽はちょっとしつこい。「喜びも悲しみも幾年月」のように音楽と情景が合わないで映画のムードをぶち壊すこともあった。逆にこの映画の音楽はよかった。ロードムービーであるデイヴィッド・リンチ監督「ストレイトストーリー」や「パリテキサス」の匂いを感じさせる。「パリテキサス」のライクーダのギターを思わせるアコースティックギターの使い方は絶妙であった。

以前お世話になった人で、少年時代木下恵介作品に出演した方がいた。話を聞くと木下監督はかなりの完全主義だったそうだ。自分が思う青空が映し出されるまで、撮影はストップになったとおっしゃっていた。この映画でも木下恵介はかなり偏屈だったというイメージを醸し出す。独身で潔癖症の気難しい男だったのであろう。
木下作品を流す時間のウェイトが意外に長く、しつこい印象も持ったが仕方ないだろう。

いずれにせよ、この映画にはビックリした。
「陸軍」はさっそく探り当ててみる。
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