「チェイサー」のナ・ホンジン監督がついに次作「哀しき獣」を発表してくれた。
前作には本当にドキッとさせられたし、スピード感も素晴らしい。こうもってくるかという展開の意外性も見事で、個人的には韓国映画最高の作品と思っている。
新作は劇場で見るしかない。行ってきました。いやー凄い!
正直このレベルの作品は日本映画の監督さんでは無理でしょう。韓国映画の凄さだと思う。
中国の東北部に朝鮮族が数多く住む延吉という街がある。地理的にも北朝鮮よりも北に位置し、むしろウラジオストックに近い。
今回の舞台はここからスタートする。そこに1人の朝鮮族タクシー運転手ことハ・ジョンウがいる。
もともと妻と娘と暮らしていた。妻が韓国に出稼ぎに行くといって出たきり最近は仕送りもない。彼は中国式賭け麻雀で負けが続いている。しかも借金も6万元たまっている。そんな彼に裏組織のヘッドことキム・ユンソクから仕事が持ち込まれる。ソウルに住むある男の殺害である。
韓国に行き連絡のない妻に会える望みもかなうかもしれない。そんな思いで主人公は引き受け、中国内を移動し大連から裏の移送船に乗り込み韓国に密入国する。
街をさぐり目当ての男は誰かというのはわかった。目当ての男が住むビルの前で毎日帰る時間を調べ、ビルの中の電燈の点灯方法まで調べて備えていた。ビビる気持ちはあった。しかし、依頼者からは殺さなかったら、子供と養育する母親の命はないぞと驚かされている。帰りの密移送船の出発時間も迫っている。主人公は今日こそ突入と外でチャンスを待っていた。そうしていたら、2人の男が標的の男がいるビルに入っていくではないか。。。。緊張する主人公、そうしたところいきなり2人の男が標的の男を襲っているようだ。どうしたんだ。驚く主人公はそのビルの中に入っていく。血の海になった階段で主人公は。。。。
「哀しき獣」の原題は「黄海」である。
地図を見た。中国の大連や青島、北朝鮮、韓国の仁川、ソウルが向かい合っている湾だ。戦前の日本からの中国進出のルートに位置する。黄海は今でも北朝鮮と韓国の海上での争いに絡んでいる。主人公は延吉(イエンチー)からはるばる大連に向かう。これもすごい距離だ。大連に行き漁船で黄海の荒波を越える。正規に、あるいは密入国者として韓国にやってくる朝鮮族は多い。どうやら韓国での彼らの扱いはとても冷たい。浮浪者のような扱いを受けている印象だ。
たまに夜の中国パブへ行くと吉林省からきている女の子は多い。朝鮮族の子も出会ったことある。同じ大陸でつながっているわけだから、長い歴史の中で朝鮮の子が中国に住むのも不思議ではないなあと思っていた。でもこうやって朝鮮族が取り上げられる映像は初めてみた。
そういった意味ではかなり根の深い設定である。小説「韃靼の馬」を読んでいる時と同じときめきを感じた。千年以上の歴史が生んだ民族の分離と現代社会のひずみの中で泳いでいく連中の姿をうまく描いている。見事だ。
映画で映る延吉の街はいかにも中国の地方都市らしくきたない。共産圏らしい古い建物が立ち並ぶ。そんな中現代の匂いも少しは感じられる。タクシーの運転手がいるくらいだから、内陸奥深くのようなド田舎ではない。ときおり映る夜のネオンも輝きを見せている印象だ。
書きたいことはたくさんあるが、今回いちばん強く感じたのは前作の成功でこの映画ずいぶん予算もらったなあということだ。いかにも韓国映画らしい破滅的なシーンが続くが、今回はカーアクションが加わっている。前作「チェイサー」はおそらくは低予算だったろう。坂の多い街で主人公と凶悪犯人は走りまくった。とことん走る。
実は今回も主人公は走りまくる。でもそこにカーアクションが加わる。見たところかなりの車をつぶしている。この荒っぽさは現在の日本映画の水準では到底無理な水準だ。ちょっとやそこいらの予算じゃ無理だろう。そう感じた。見た後に解説をみたらアメリカ資本の協力もあったと聞いた。そりゃそうだろうと思った。ただこれが吉と出たかどうかはわからない。
個人的には前回の原始的な韓国映画らしさにより凄味を感じる。
主人公2人は前回に続いてお見事だ。前回と今回と善悪が逆転する。この2人の体力には前回以上に恐れ入る。監督はよくぞ2人を引っ張ったと思う。カット数は5000にも及ぶという。信じられない編集能力だ。この次の作品も黒澤明と三船敏郎、仲代達矢などのコンビのように組んでもらいたい。
今回2人のうち特に凄味を感じたのが、朝鮮族裏社会のドンを演じたキムユンソクだ。
劇中の彼は不死身、最強。。。いろんな形容詞がつけられる。強い!これこそ朝鮮、まさに力道山の匂いだ。
木村政彦との有名な対決の時に途中でここぞとばかり空手チョップを撃った力道山のふるまいと顔つきをキムユンソクのふるまいに見た。でもこの風貌、金正日の長男によくにているなあと感じた。
まだ書き足りない。どうしよう。
「ミッションインポッシブル」同様、映画館の座席でハラハラしていた。身体を何度左に右に動かしたか。目を失せたのはこの映画の方が多かったかもれない。
最後の結末はうまい。エンドロールで思わず帰りかけた時突然また始まるんだから。。。危なかった
数人そのまま終わったと思って帰っちゃったなあ。