映画「パルテノぺ ナポリの宝石」を映画館で観てきました。
映画『パルテノぺ ナポリの宝石』はイタリアの奇才パオロ・ソレンティーノ監督が故郷ナポリで1人の美しい女性の成長を描いた作品だ。パオロ・ソレンティーノ監督がつくる映像美は「きっとここが帰る場所」以来ずっと追っている。ショーン・ペンが審査員長だったカンヌ映画祭で称賛してアメリカでつくった作品だ。今回は女性のセレステ・ダッラ・ポルタを主演に抜擢する。オーディションで選んだセレステの美貌を予告編で観て楽しみにしていた。
ナポリの海で生まれたパルテノぺは上流階級の両親や兄と暮らして周囲の愛情に触れながら美しく成長していく。突如兄が亡くなり喪失感を覚えたパルテノぺは大学に通いつつ多種多様な人たちと触れ合うようになる。
ナポリの美しい風景とともに成長する主人公の人生を描く。
豊かな視覚体験で満たしてくれる作品だ。ストーリー自体は断片的なエピソードの集まりに近く、登場人物のプロフィールについても曖昧にしたままだ。整理された物語として語るのは難しく要旨は書きづらい。しかし、ビジュアルに身を委ねることで満足感を得られる。主人公パルテノぺが出会う人々や風景の断片を積み重ねていくので内容は盛りだくさんで見応えがある。
⒈ナポリの風景
ナポリ湾を望む邸宅が天井高も高く、日本ではありえないような豪華さだ。そこにゴージャスなヒロインのパルテノぺを放つ。海の豪邸をめぐっての上流社会の豊かさや美を囲む社交のざわめきを映し出す。しばしば、傾斜地に色鮮やかに建ち並ぶ街並みや、ヴェスヴィオ火山を遠望する映像が挿入される。ヴェスヴィオ火山の大噴火でポンペイの街が崩壊したことを思うと歴史を感じる。
パオロ・ソレンティーノ監督には「Hand Of God 」という自伝的と思わせるナポリの街にいるサッカー少年を映し出す作品がある。37年間ナポリで育ったパオロ・ソレンティーノ監督ならではの作品だ。映画ではサッカーの「ナポリ」を熱狂的に応援するダウンタウンの庶民的な生活を基調にする映像だ。この映画でも、パルテノぺは知り合う青年と2人乗りバイクでダウンタウンに向かい、ごちゃごちゃした街並みにたむろう庶民の姿を見かける。下層社会の一面が垣間みれる。そこで豪邸や上流の生活とは真逆のナポリの底辺を映し出すのも対照的でいい。
ダウンタウンの一角で、結ばれたカップルが宗教的儀式のように集まった人たちの目の前でストリップの「生板ショー」のようにメイクラブするシーンには驚く。もちろんパルテノぺは「かぶりつき」で見ている。これはパオロ・ソレンティーノ監督が知るナポリで残る風習なのか?
⒉多彩な登場人物
映画序盤に映る 海辺の豪邸には家族、親族、取り巻き、提督、富豪といった人物が集まり、音楽や会話が飛び交う。まさに上流階級の社交的生活だ。豪邸でパルテノぺは兄や幼なじみの使用人の息子といつもたむろう。ベルトルッチの名作「ドリーマーズ」の女1人男2人の三角関係を連想する。なぜか兄は自死してもう1人の男が残る。
他にも多彩な登場人物が彼女の周りに寄ってくる。バイクでダウンタウンに連れて行きナポリの別世界を見せる青年に加えて、カツラとった姿が露わになる傲慢な女優、コンクラーベに出るといううさんくさいエロ司祭、ヘリコプターで空から現れる富豪、ゲイリーオールドマン演じるアメリカ人作家といった人物群が、権威や虚飾の象徴として登場する。
大学の老指導教授とパルテノぺは腐れ縁になっていく。人類学の専攻だ。パルテノぺは教授との個別応答でもいい加減だけど、気に入られている。気がつくと大学の助手として残っている。何よりビックリするのは教授の引きこもりの息子。突然、映画「ホエール」の主人公のような怪物が登場してアッと驚く。現実離れした異界の世界だ。映像芸術の1つなのかもしれない。
⒊ビジュアル面の魅力
ナポリの風景は昼夜を問わず美しい。その風景に溶け込むセレステ・ダッラ・ポルタの美貌が魅力的だ。海辺のシーンで颯爽と登場して最後まで惹きつける。美しさゆえに周囲に特別視されるが、本人は自然体で生きている。兄が死んだ時以外は中絶などの悪い出来事が起きても「静かに受け止めて通り過ぎる」ように描かれる。性格もおおらかだ。
パルテノぺの衣装もビジュアル面では重要な要素だ。衣装替えは10回を超えて数えられないくらい。色合いも抜群のセンスだ。個人的には 夏のえんじ色のワンピースが印象的で好きだけど、胸を大胆に露わにするシルバーのドレス、宝石を散りばめた宗教的なドレス、黒のイブニングドレスのセンスもいい。その一方で大学では抑え気味のトーンの知的な装いで決める。どれも彼女に似合い、目に焼きつける。サンローランの映画部門の制作だけど、服装デザインはイタリアの腕利きのデザイナーのセンスだろう。
パオロ・ソレンティーノの美的感覚は「きっとここが帰る場所」から現在までを通じて、色合いの選択やカメラアングルの適切さですばらしいセンスを示す。ストーリーで観る映画ではない。圧倒的な映像で魅了してくれる。