映画「鯨が消えた入り江」を映画館で観てきました。
映画『鯨が消えた入り江』は台湾を舞台に香港の小説家と台湾の半グレ男が鯨が消えた入り江を探しに旅をする物語だ。若いイケメン男性が2人並ぶポスターを見ると、男色映画にも見えて最初避けたがそうでもなさそうだ。「トワイライトウォリアーズ」にも出演したテレンス・ラウは人気急上昇中で映画館には女性ファンも目立つ。でも、女性ファンが多いのはBL映画とみなして押し寄せている噂もあり少し心配だけど他にいい映画がなくやむなく映画館に向かう。
香港の人気作家・ティエンユー(テレンス・ラウ)の新作小説に盗作疑惑が浮上し、世間からバッシングを浴びる。傷心のティエンユーは、かつて文通していた少年が言っていた「鯨が消えた入り江」を探しに台湾へと旅立つ。
慣れない台北の繁華街で酔い潰れて危ういティエンユーを地元のチンピラ・アシャン(フェンディ・ファン)が助ける。アシャンの家で一晩過ごしたあとティエンユーが旅の目的を打ち明けると、アシャンは「その場所を知っている。」と一緒に向かうことになる。
台湾の心地よい風景が心を和ませるロードムービー的要素を楽しむ。
イケメンの2人がイチャイチャする男色系映画ではない。香港の小説家と台湾のチンピラの友情物語である。もともとは偶然香港からの金づると思しき男を助けたのに過ぎない。小説家とチンピラとは距離があった。それなのに目的地である入り江を探しに一緒に旅をする。
最初はスクーターに二人乗りをして一気に関係が近づいていく。新宿ゴールデン街のような裏路地をカーチェイスのようにスクーターチェイスするシーンもある。旅の途中で映る台湾の海岸線や滝のショットが美的に優れて心地が良い。
ただ、脚本をあえて複雑にしているのでストーリーは正直わかりにくいところが多い。単純なロードムービーなのに、現実と虚実を織り交ぜるような流れになって映画を観ている途中でわからなくなる。盗作疑惑もいつのまにか2人の関係に関わっていく。もともと現実の話にファンタジーらしき要素も含めていく。観客にあえて解釈させようとする面倒な人間関係を作りだす。ややっこしいなあ。
要は、小説家が昔文通していた少年とチンピラが同一人物のような展開に持ち込むのだが、はっきりとしたセリフがない。文通を介した関係の相手が誰なのかは最後まで曖昧だ。そして輪をかけるように本当にいた人物なのかわからないようにしている。もしかしてこれって幻想の旅なのか現実なのか訳がわからない構造には戸惑いもある。小説家の主人公が「頭の中で描いた物語」と考える余地まである。
オーソドックスなロードムービーらしい「旅先での人との出会い」は少ない。物語に膨らみが足りない感じだ。冒頭の自殺未遂を村人の集団が止める場面はコメディ調で面白かったのに、その後にユーモアが続かないのは中途半端だった。
でも、小説的に意味を読み解くような人間関係の謎解きを考えるよりは、人と風景の心地よい空気を味わう作品だったと考えれば満足だった。屁理屈のようにわざとむずかしくしている要素があっても、イケメン2人の好演と台湾の美しい風景がその弱さを補う。夏を感じさせるギターが主体のバックミュージックも良かった。上空から俯瞰で映した海岸線の光景にも宮崎の日南海岸の風景を思わせる雄大さを感じた。映画は小説と違うから、登場人物のリアルな息遣いや美的な視覚を楽しめればいいのだ。