下手の横好き日記

色々な趣味や興味に関する雑記を書いていきます。
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篠田真由美『灰色の砦』

2007-07-10 23:59:59 | 
建築探偵シリーズ第4作。深春と京介の出会いの事件です。

栗山深春は「地上げ屋」に追われてアパートを出ることを迫られ、
友人からの情報で大学近くの「輝額荘」へ移ることになる。
「輝額荘」は家主の麻生はじめのもと、家庭的な雰囲気で数人の住人が住んでいた。
ところが正月明けに住人が一人裏庭で変死したところから、彼らの「砦」は崩壊を始める。
深春は変わり者の住人桜井京介の相棒となって事件を調べることになるが・・・

深春と京介の交流のきっかけになった事件です。
ミステリとしてはアリバイとか、密室とか、暗号(?)とかの要素が散らばっていて、
問題としてはヘヴィではないけど楽しめました。
伏線も丁寧に書いてあったので、結末部分の前に事件の謎はほとんど解けてしまいましたが。

これは「建築物」が主役というより、「建築家」が主役の物語でしたね。
前作『翡翠の城』にも出てきたライトがらみのストーリーで、
このライトの謎を解くうちに、作中のもう1人のライトとも言える人物の姿が見えてくる。
そうした2重構造が物語に厚みを与えていたとも言えます。

篠田氏は「ことば」の力というものを強く自覚している作家だと言えるのではないでしょうか。
「ことば」は使い方によって人を貶めることも、称えることも、操ることもできるわけです。
考えてみればミステリって、読者を「ことば」で上手にミスリードしていくもの。
ライトの自伝が自分に有利なように展開し、信者を生み出しているように、
京介の発する「ことば」が人を絡め取ってしまうように、
「ことば」は本当に恐ろしいものでもあります。
その「ことば」を使い、その世界を構築していくのがミステリ作家なんですよね~。
だからやっぱり京介は京極堂とかぶるし、彼の解決は「憑き物落とし」に見えてしまう。
犯人の糾弾にこだわらないところなんかは、立ち位置が同じだと言えるでしょう。

19歳の京介、若いです(笑) 当たり前ですけど。
深春の存在によって、京介は違う風に生きていい自分を知ったのかも。
京介自身の事件はこの時点で明らかになっていませんが、
彼が何か暗いものを抱えていて、諦観と共に生きていることは分かります。
心に期しているものは「罪」とも言うべきものなんでしょうが、
彼はまだここに留まっていて、深春と蒼と神代教授たちが引き止めている感じ。

このシリーズ、今後どんな展開をしていくのか、興味半分、恐怖半分です。