読書日和

お気に入りの小説やマンガをご紹介。
好きな小説は青春もの。
日々のできごとやフォトギャラリーなどもお届けします。

ご挨拶

2016-12-31 23:59:00 | ウェブ日記
「読書日和」にお越しいただきありがとうございます。
このブログでは主に小説やエッセイのレビュー、街のフォトギャラリーなどを作っています。
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「バッテリー」あさのあつこ

2016-09-18 18:48:06 | 小説


今回ご紹介するのは「バッテリー」(著:あさのあつこ)です。

-----内容-----
「そうだ、本気になれよ。本気で向かってこい。ーー関係ないこと全部すてて、おれの球だけを見ろよ」
岡山県境の地方都市、新田に引っ越してきた原田巧。
天才ピッチャーとしての才能に絶大な自信を持つ巧の前に、同級生の永倉豪が現れ、彼とバッテリーを組むことを熱望する。
『これは本当に児童書なのか!?』
ジャンルを越え、大人も子どもも夢中にさせたあの話題作が、ついに待望の文庫化!

-----感想-----
佐藤多佳子さんの「一瞬の風になれ」、森絵都さんの「DIVE!!」と並び「三大青春スポーツ小説」と呼ばれる三作品の最後の一つ、「バッテリー」をついに読み始めました。
「バッテリー」は少年野球を題材にしていて全六巻で構成されています。

主人公は4月から中学一年生になる原田巧。
少年野球のピッチャーをしています。
3月の終わり、巧と父の広、母の真紀子、弟の青波(せいは)が「おろち峠」という場所で車を降りて一息ついている場面から物語は始まります。
電気メーカーの営業の仕事をしている広はこの春転勤になり、家族は広島と岡山の県境にある新田という市に引っ越すことになりました。
おろち峠のふもとに新田市があり、そこに母方の祖父(真紀子の父)の家があり、家族はそこで暮らすことになります。

祖父の家に行ってからは色々なことが分かりました。
巧は4月から新田東中という中学校に通います。
野球部は昨年の県大会のベスト8が最高でしかも主力の三年生が卒業し、今年の力はかなり落ちるとのことです。
しかしこの時の父との会話で巧は「勝ってあたりまえのチームで全国大会に出るより、原田がいたから行けたって言われるほうが、おもしろいじゃないか」と言っていて、この巧の自信は凄いなと思いました。
小学校を卒業したばかりとは思えない不遜さを見せています。
また祖父は井岡洋三といい、新田高校を率いて甲子園出場春4回、夏6回を成し遂げた高校野球の物凄い監督だったことが明らかになります。
14年前に監督を辞めてから新田高校の甲子園出場はなしとあり、その指導力の凄さが伺われました。
父も母も巧にこのことを教えておらず、巧は自分で調べて祖父が高校野球の凄い監督だったことを知りました。
なぜ父も母も野球少年であり甲子園出場を目指す巧にこのことを言わなかったのかが気になりました。

祖父の洋三について、「父さんと母さんが結婚するとき、じいちゃんに反対されてな」や「おまえは、じいちゃんと暮らしたことがあるんだぞ。青波が生まれたときだ」など、昔のことを話し始めた広に対し、巧は次のように冷めたことを言っていました。
「いや、大人ってさ、知りたいことは何も教えてくれないくせに、なんで関係ないことばっか、しゃべるのかなって思ってさ。おれ、ランニングに行くよ」
これは印象的な言葉でした。
知りたいこと(祖父の洋三が高校野球の凄い監督だったこと)を何も教えなかったのは、広は巧に「わざと黙ってたわけじゃない。もう、ずいぶんむかしのことだし、今のおまえに関係あるとは思わなかったんだ」と言っていましたが、実際には何らかの知ってほしくない理由があるのではと思いました。
そして「なんで関係ないことばっか、しゃべるのかな」については巧が幼い頃から成長を見てきた「思い出」がそうさせるのだと思います。
巧自身は小さい頃のことで覚えていなくても父の広は巧が洋三と暮らした時期があることなどをしっかりと覚えていて、洋三にまつわることで「高校野球の凄い監督だった」以外のことなら巧に色々聞かせたくなるようです。

真紀子が洋三に「巧ってね、本当に人に頼み事をしないの。頼るのが嫌みたい。相談さえしないの」と言っていました。
非常にプライドが高く不遜な態度を取る場面が何度も出てくるのでこれは納得です。
また、巧がリトルリーグに入りたがっていたのを真紀子が「野球させたくなかったから」という思いで反対して諦めさせたことも分かりました。
どうも広も真紀子も巧を野球から遠ざけたがっているようでやはり何かあるなと思いました。

ランニングの帰り道、道に迷った巧は永倉豪と出会います。
豪も4月から中学生になり巧と同い年とのことですが、同級生の中でかなり背が大きい巧よりさらに背が大きく体格もがっしりしている豪の姿に巧は驚きます。
豪は新田スターズという少年野球チームで県大会にも出場していて、巧がホワイトタイガースというチームで中国大会の準決勝まで行ったことを知っていました。
ポジションはキャッチャーで、巧が「キャッチャーなんだろ。おれの球、受けてみる?」と言ってみたことから二人は投球練習の約束をします。
巧は自身の剛速球をキャッチできる豪に、豪は巧の圧倒的な球の威力に、それぞれ驚くことになります。

巧の弟の青波は未熟児で生まれてきてずっと体が弱く、体調を崩すことがよくあります。
しかし野球に打ち込む兄の巧の姿を見て青波も野球をやりたがるのですが、母の真紀子が「体が弱いのだから絶対駄目」と猛反対するのに加え、巧も「お前には無理だ」と決めつけまともに取り合おうとしませんでした。
巧に「無理だ」と言われるたびに青波は「そんなことない!」と反発していてその姿が印象的でした。

常に不遜な態度を取る巧ですが豪と話している時に初めて年相応の反応をする場面があり、巧と豪は仲良くなりそうな気がしました。
また巧が「ガキっぽいな」と言った時の豪の反応は興味深かったです。

「ガキっぽいな」
「なんで、ガキだといけんのんじゃ」
「原田の球がすごいのは、ようわかっとる。けど、すごい球を投げても、ガキはガキじゃろ。もう少しで中学生になるガキ。そういうことじゃろ」

ガキに対する豪の指摘は良いと思いました。
巧はガキと思われるのが嫌なようですが、客観的に見て小学校を卒業したばかりの12歳はどう見ても子供でありガキです。
豪は自分が子供だということをきちんと分かっていてそこが巧より大人だと思いました。

「野球は一人ではできない」という言葉が三度に渡って出てきたのは印象的でした。
洋三、豪、そしてかつて洋三率いる新田高校で甲子園に出場した稲村という社会人の三人がこの言葉を言っていました。
この「野球は一人ではできない」は何かと傲慢さのある巧に足りない考えだと思います。
巧は自分の投げる球に絶対の自信を持っていますが、それを受け止められるキャッチャーがいなければ投手として試合に出ることはできないのです。

野球少年達の物語に親の思いが割って入っているのが印象的でした。
豪の母、節子は「野球は中学に入るまで」と決めていて、豪には中学に入ったら勉強をたくさんさせ、家がやっている病院を継いでほしいと考えていました。
しかし巧と出会ったことで豪が「原田がいるのにいっしょに野球をしないなんておかしい」と言い中学校でも野球をやると言っていることに困り、巧に「豪に野球をやめるように言ってほしい」と頼んできました。
「野球をやっても将来につながるとは思えないが、勉強なら将来につながるし、病院を継ぐための土台が作れる」と、一応は子どもの将来を考えているようですが、とにかく野球をやめさせるという考えありきのため、豪の気持ちを完全に踏みにじっているのが問題だと思います。
勉強は無理やりさせてもあまり身にならないと思いますし、本人をうんざりさせてしまうと思います。

巧がキャッチャーについて「永倉じゃないとだめだ」と言う場面も印象的でした。
最初は豪のことを馬鹿にしたような態度を取っていましたがいつの間にか全幅の信頼を寄せていることが分かりました。
また巧は心の中で豪に「かなわねえな」とも言っていて、常にふてぶてしい巧がそんなことを言うのはかなり珍しいと思いました。
態度はふてぶてしくても、豪の面倒見の良さや周りのことを常に見ている気配りを認識できる子ではあるようです。

本格的にバッテリーを組むことになった巧と豪は間もなく中学一年生になります。
二人が新田東中学校の野球部でどんな活躍をしていくのか楽しみにしています


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「水族館ガール3」木宮条太郎

2016-09-17 17:21:39 | 小説


今回ご紹介するのは「水族館ガール3」(著:木宮条太郎)です。

-----内容-----
赤ん坊ラッコが危機一髪!?
アクアパークから海遊ミュージアムへ出向中の恋人・梶良平の帰りを待ちわびる嶋由香。
しかし、梶は出向終了後、すぐに内海館長から長期出張を命じられてしまう。
由香もアクアパークの新プロジェクトリーダーに任命され、再びすれ違いの日々に。
しかしそこには館長の深謀遠慮が…。
ラッコやマンボウ、イルカたち、人気者も大活躍のお仕事ノベル!

-----感想-----
※「水族館ガール」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「水族館ガール2」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。

書店で「水族館ガール3」が発売されているのを見つけ、帯に「NHKで連続ドラマ化」とあるのが目に留まりました。
主人公である由香役は松岡茉優さんとあり、これは適役だなと思いました。

今作の冒頭、梶は海遊ミュージアムへの出向からアクアパークへ戻るのかと思いきや、出向が延長になります。
一方由香は、内海館長の発案した「もう一歩プロジェクト」のリーダーに名乗りを挙げます。
「もう一歩プロジェクト」とは「現状に満足することなく、それぞれが改善意欲を持ち、自分にとっての『もう一歩』を目指す」というものです。
梶の帰りを待ちわびていた由香は梶が帰ってきた時に成長した姿を見せたいと思いリーダーに名乗りを挙げたのですが、正式に内海館長からリーダーに任命された直後、梶の出向が延長されたことを聞きショックを受けます。
またリーダーが海獣グループの嶋由香ということで、副リーダーには魚類展示グループで由香と年の近い今田修太が任命されました。

内海館長と出向の延長が決まった梶が話す場面で興味深い話題が出てきました。
内海館長によると最近、アクアパークの母体である千葉湾岸市に日本を代表する大企業が頻繁に接触しているとのことです。
中でも主なのが二社あり、一つが博通エージェンシーという業界トップの広告代理店、もう一つが鹿成建設という日本最大級の総合建設会社です。
博通エージェンシーは悪名で有名な広告代理店「電通」がモデルだと思います。
ニ社とも東京へのオリンピック誘致が決まった直後から接触してきていて、誘致決定以降、東京湾岸の再開発が超大型プロジェクトとして騒がれ始めたためとのことです。
水族館は再開発の中核施設の一つと考えられていて、博通エージェンシーや鹿成建設はノウハウがないため、そのノウハウを手に入れるためにアクアパークに接触してきています。
アクアパークを買収して自分達の傘下にしてしまおうと考えているのではと思いました。
この動きについて内海館長は「アクアパークを一部の人のオモチャにはしたくない」と言っていて反発していました。
この動きに対抗するため、内海館長はアクアパークと海遊ミュージアムが姉妹館になることを目指しています。
海遊ミュージアムは水族館のことをよく理解している「ウェストアクア」という民間企業に出資してもらってタッグを組んでいて、アクアパークもそうしようという作戦です。
東京湾岸再開発の利権のことしか考えていない博通エージェンシーや鹿成建設の傘下にされるより余程良いという考えだと思います。
この「ウェストアクアとタッグを組み海遊ミュージアムと姉妹館になる」という目的達成のため、海遊ミュージアムに出向している梶は最前線で極秘裏に交渉する仕事を頼まれます。

由香は6月上旬に瀬戸内海洋大学で行われる海洋学国際シンポジウムに行くことになります。
水族館勤務三年目を迎えた由香にこういった経験を積ませることと、有給休暇をほとんど取っていない由香に出張にくっ付けて有給を取らせるために、岩田チーフが気を使ってくれていました。

物語の中盤から由香はラッコの臨時担当になります。
梶の極秘交渉の仕事と由香のラッコ担当の仕事がそれぞれ進んでいきます。
由香の一瞬の不注意からラッコの赤ちゃんがどんどん死に向かっていく場面は緊迫していました。

また今作でも頑なに由香への恋愛感情を認めない梶が面白かったです。
どう見ても梶も由香のことを意識しているのは明らかなのに「いや、俺があいつを心配しているのは好きだからではなく仕事で失敗しないか心配だからだ」のようなことを心の中でよく言っていました。

今作でシリーズ三作目となりますが話の展開からまだ続編が出そうです。
今作では「~ではないか」という表現を多用しているのが目につき、文章力に少し難があるような印象を持ちました。
そこを改善するとより良くなるのではと思います。


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秋の空と秋の風

2016-09-10 21:03:23 | ウェブ日記
早いもので9月に入りました。
今年の夏はよく分からないうちに過ぎていってしまったなと思います

8月上旬の終わり頃、東京への出張から戻ってくると、夜にコオロギが鳴くようになっていました
セミと同じように秋の虫にも登場する順番があり、7月初めのうちから鳴いている虫もいます。
その中でもコオロギは登場するのが遅く、8月になって「立秋」を過ぎて晩夏になった頃から泣き声を聞くことが多いです。

また8月下旬頃から、昼間外を歩くと猛烈な暑さの中でも吹く風に秋の気配を感じる日が出てくるようになりました。
日差しは強烈でも風には少し爽やかさがあり、秋が近いことが予感されました。

9月に入ると明らかに空が秋の空だなと思う日が出てきました。
昨日と今日が特にそうでした。
爽やかな青空で空が高く、雲は入道雲ではなく筋雲が出ています。
まだ昼間は外を歩くとすぐに汗ばむような暑さですが、それでも真夏の頃に比べれば多少過ごしやすくなってきています。
本格的に秋の爽やかな気候になる日々を楽しみたいと思います。
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「ありふれた風景画」あさのあつこ

2016-08-27 22:27:51 | 小説


今回ご紹介するのは「ありふれた風景画」(著:あさのあつこ)です。

-----内容-----
地方都市にある学校で、ウリをやっているという噂のために絡まれていた瑠璃を、偶然助けた上級生の周子。
彼女もまた特殊な能力を持っているという噂により、周囲から浮いた存在だった。
親、姉妹、異性……気高くもあり、脆くもあり、不器用でまっすぐに生きる十代の出会いと別れを瑞々しく描いた傑作青春小説。

-----感想-----
物語は次のように構成されています。

第一章 少女たち
第二章 夏の始まり
第三章 セツナイという気節
第四章 秋の朝顔
第五章 冬風の音
第六章 温かな幹に
最終章 ありふれた街角で

高遠瑠璃は17歳の高校二年生で、南三原高校に通っています。
作品内の描写から島根県が舞台だと思います。
瑠璃はどこからかウリ(売春のこと)をやっているという噂を立てられそれが学校中に広まり、学校内で孤立しています。

ある日瑠璃は、彼氏に振られたのは瑠璃に彼氏が籠絡されたからだと思い込んだ長田(おさだ)志穂という三年生に屋上に呼び出されます。
一方的に因縁を付けてくる志穂に応戦する瑠璃。
一触即発の屋上に綾目周子という三年生が現れます。
周子には霊能力があるという噂があり、瑠璃と同じように学校中に噂が広まり孤立した存在となっています。
周子が現れた途端、辺りに沢山の鴉(カラス)が飛んできて異様な雰囲気になります。
その不気味さに志穂と二人の友達は逃げていき、結果的に瑠璃は周子に窮地を助けられました。
周子は鴉や桜と話ができる特殊な能力の持ち主です。
特に鴉の「タロウ」とは周子がタロウを助けてあげた時からの腐れ縁です。

この屋上での出会いがきっかけとなり、瑠璃は周子と話すようになります。
「運命」について周子は次のように言っていました。
「いいよ。しかたないよ。どんなに足掻いても運命って変えられないんだから」
これに対し、瑠璃は心の中で次のように語ります。
運命って、自分の意思で変えられるんじゃないですか、綾目さん。
私も運命は「これが運命だ」と諦めるのではなく、自分の意思で変えられると思います。
また、第一章の最後の一文は目を惹きました。
もうすぐ17歳を迎える瑠璃の夏が、一生に一度きりしかない17歳の夏が、眩しさの中で始まろうとしていた。
この後の展開が気になる一文でした。

一章では瑠璃の語りでしたが二章では周子の語りになります。
章によって語り手が変わる作品でした。

孤立している周子に対し、朱里(しゅり)という小学校の頃からの友人だけは、現在は特別親しくはないながらも、他の子達のように露骨に周子を嘲笑ったり気味悪がったりはせずに普通に話しかけてきてくれます。
そんな朱里を見て周子が心の中で思ったことは印象的でした。

自分の中の物差しで、自分と他者との距離を測れる者は案外に少ない。

これはそのとおりだと思います。
誰か特定の他者との距離を測る際、周りの人がその特定の他者をどう思っているかを意識してしまう人は結構多いのではと思います。

また、かつての周子に対する周りの反応は「変わり者」「魔女っぽい」程度だったのですが、「三年前の事件を境に急激に悪化した」とありました。
この三年前の事件がどんなものなのか気になりました。

瑠璃の誘いにより、瑠璃と周子は紫星山という山にピクニックに行きます。
その山について、「紫星山という雅やかな名をつけられた山の麓に着く」という描写がありました。
「雅やか」は普段小説を読んでいても目にする機会の少ない表現です。
私は「雅やか」には京都的な上品さ、及び着物女性の和の雰囲気のイメージがあります。
なので山の名前にこの表現が使われていたのは意外であり興味深かったです。

美しい言葉は良い。美しい言葉を使える人も良い。
周子のこの言葉も印象的でした。
中学生や高校生の頃は崩した言葉を使いたがる傾向がありますが、私的にも美しい言葉を使える人のほうが良いなと思います。

瑠璃の家の近所の花屋「フラワー・ショップ ミサキ」では加水(かすい)洋祐という瑠璃や周子と同じ高校の三年生がアルバイトをしています。
加水洋祐は長田志穂の元彼氏でもあります。
周子は持ち前の特殊能力から加水洋祐の姿を見て何かの異変を感じていて、加水洋祐の身に何が迫っているのか気になるところでした。
加水洋祐について瑠璃が「気になります?」と聞くと周子は「気にしてもしかたないけど……」と言っていました。
その時瑠璃は次のように言っていました。

「綾目さん、運命って変えられますから」
「運命って自分の意思で変えられますから」

再び運命は変えられるという言葉が登場していて、この作品の重要なテーマかも知れないと思いました。

加水洋祐の語りで始まる第三章では夏の終わりについての描写が印象的でした。
夏が終わる。ゆっくりと、しかし確実に日が短くなり、夜が延びてくる。真夏の熱やぎらつく光に惑わされて、永遠に夏が続くようにも感じてしまうのだけれど、ふと気がつけば、夕暮れの時刻が早まり、風の穂先が涼やかになっている。夏が終わるのだ。
私の感性とほぼ同じことが書かれていました。
8月下旬ともなると日中はまだまだ真夏の暑さですが空の雲や吹く風に秋の気配を感じることがあります。
そして夏至の頃には19時半頃でもまだ空に明るさが残っていたのが19時頃には暗くなり、確実に秋が近付きつつあることを実感します。

瑠璃には綺羅(きら)という二歳上の姉がいます。
綺羅は母親の真弓によって希望する都会の大学への進学を断念させられ地元の大学に進学させられたことから、母親に対する言動が尖り、二年近く経った今も鬱屈した対応をするようになっています。
鬱屈はなかなか消えないというのはよく分かります。

やがて瑠璃は周子のことが好きになっていきます。
女性が女性を好きになるという同性同士の恋愛感情を扱っていました。
周子も瑠璃の気持ちに気づいていて、この二人がどんな結末になるのかは気になるところでした。

フェミニスト団体や左翼団体に代表されるように、同姓愛について「理解しろ」と、理解することを強要する人達がいます。
私は同姓愛の人について基本的人権が尊重されるべきだとは思います。
しかし理解することを強要されるのには違和感があります。
私は男性は女性を好きになるのが、女性は男性を好きになるのが正常な状態であると考えます。
それに対し、同姓愛はそこから大きく逸れた特殊な状態だと思います。
この特殊な状態を特殊な状態と認めず、一方的に「理解しろ。理解しないのは偏見であり差別主義者だ」というようなことばかり言うから、同姓愛の人への理解が広まらないのではないかと思います。
こういったことが頭をよぎる瑠璃の周子への恋愛感情でした。

周子がパウンドケーキを作った際に、パウンドケーキは卵や砂糖やバターをそれぞれ1ポンドずつ使うからパウンドケーキという名前になったとあり、これは知らなかったので興味深かったです。
また、周子の「三年前」に何があったのかが明らかになる場面で、「おかしくもなさそうに笑う」という表現がありました。
蔑むような笑い方であり、私はそのような笑い方はしたくないなと思いました。

瑠璃の家は父親が不倫をして家を出て行ってしまっていて、母親の真弓はそれが原因で過食症になり、壊れかけています。
物語の終盤、真弓が思いの丈を瑠璃に話した時に瑠璃が思ったことは印象的でした。
母さんは誰かに聞いて欲しいのだ。声を出したいのだ。言葉にしたいのだ。
この「誰かに聞いて欲しい」というのは、心理学の本によると特に女性に多く見られる感情のようです。
たしかに自分の中に溜め込むより、誰かに話して気持ちを吐き出したほうが良いと思います。

作品全体を通して、文章に「諦め」や「ふて腐れ」の雰囲気が漂っている印象を受けました。
長い人生、そんな心境になる時期もあります。
瑠璃も周子もそこからもっと澄んだ心境になっていけると良いなと思いました。


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凄い校歌斉唱

2016-08-14 18:25:56 | ウェブ日記



動画は早稲田大学の卒業式における校歌斉唱です。
Youtubeを見ていて偶然この動画が出てきて、試しに見てみたらその歌いっぷりに驚きました。
とにかく熱いなと思います
こんな校歌斉唱は見たことがありません。

「都(みやこ)の西北 早稲田の森に」の歌い出しの時点では分からなかったですが、その後すぐにカメラが引くと男子も女子もかなりの人数が右手を掲げて振りながら熱く歌っていました。
特に袴姿の女子もその多くが右手を掲げて振っているのに驚きました。
これが早稲田魂かと思いました。

この大規模な講堂いっぱいに卒業式姿の卒業生がいて、その人達が一斉に校歌を斉唱するのは圧巻です。
これは卒業生にとっても良い思い出になるのではと思います。
私はこの熱い歌いっぷりはとても良いと思います
自分の学校に誇りを持つことの大事さを教えてくれる歌いっぷりであり、少しだけ早稲田大学の凄さが分かった気がします。
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「プロカウンセラーのコミュニケーション術」東山紘久

2016-08-14 17:02:50 | 実用書


今回ご紹介するのは「プロカウンセラーのコミュニケーション術」(著:東山紘久)です。

-----内容&感想-----
※「プロカウンセラーの聞く技術」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。

「プロカウンセラーの聞く技術」の続編である本作も読んでみました。
タイトルに「コミュニケーション術」とありますが内容は「こう喋りなさい」と会話術を指南するものではなく、臨床心理士である著者が心理学の観点から会話の中で発する言葉にどんな意味が込められているのかなどを書いていました。

P9「屁理屈を言うのは、その人にそれ以上の手がないとき」
これは興味深かったです。
理屈での話し合いになると分が悪いため屁理屈に頼るようです。
また、屁理屈を言う相手に「屁理屈を言うな」と言うのは最も駄目な方法で、「相手の言う理屈に合わないこと(屁理屈)を相手の責任で押し進めさせるのが良い」とありました。
理屈に合わないことを押し進めれば必ずどこかで論理破綻するとのことです。

P22「「女・子ども」といわれるように、女性と子どもの心性には似たところがある。子どもと似た心性があるからこそ、子どもの心が理解できる。子ども心がないと、子どもの心はわからない。」
女性と子どもの心性は似ているとのことです。
これは「男は理性が先に立つ、女は感情が先に立つ」と言われるように、男性は論理型の人が多いのに対し、女性は感情型の人が多いのが関係している気がします。
子どもの場合は感情が全開なので、女性のほうがその心の内を理解しやすいのだと思います。

P32「交渉は、論理的なやり取りも必要ですが、心の納得が重要です。心が柔らかいと相手の主張を理解でき、そうするとお互いの心が開かれて、かたくなだった心も柔らかくなるのです」
これは大事なことだと思います。
相手がたしかに理屈に合うことを言っていたとしても、感情無視でひたすら理屈で押すだけだと相手はどんどん頑なになっていくと思います。
そして仮にその場では相手を押し切れたとしても相手の心には大きなしこりが残り、以降無理矢理押し切った人に対して心を閉ざすことになります。

P36「「でも」は、相手の話に同意せずに、自分の主張をするとき、相手に対して否定的なときに使われます。自分の意見を否定されたうえに、相手の意見を一方的に聞かされたら、その人と話をしたくなくなるのは当然でしょう」
私も会話の中で「でも」を連発する人には良い印象を持たないです。
なので私自身も会話の中では極力「でも」や「が」「けれど」など、逆説の接続助詞は使わないようにしています。

P40「日本文化は、母性文化だといわれています。母性文化は、年功序列や終身雇用のように個人差を明らかにせず、みんないっしょの文化です」
これは「面白くてよくわかる! ユング心理学」(著:福島哲夫)などにも書かれていました。
女性性の強い(年功序列な)日本社会に対し、欧米は男性性の強い(実力主義な)社会です。
21世紀になった頃から「日本も欧米を見習え」という声がどんどん強まりましたが、私の場合は「女性性が強い」という日本国民の元々の特性を無視してまで無理矢理欧米化させなくても良いのではと考えます。
「面白くてよくわかる! ユング心理学」のレビューに漫画「HUNTER×HUNTER」の念能力を例に書いたように、強化系(女性性の強い社会)の人が具現化系(男性性の強い社会)を極めようとしても相性が悪いため上手くはいきません。
それよりは自分の系統を極め、その自分の系統の補助として他の系統を学ぶほうが余程良いです。
なので「女性性が強い日本社会は悪い社会」と切って捨てるのではなく、女性性が強いという元々の日本国民の特性を理解してその良い面を生かしつつ、そこからより完成度を上げるために補助として欧米の良い面を取り入れるやり方のほうが良いと思います。

P43「自己主張をはっきりさせるのは日本では非常識ですが、世界の常識です」
これはそのとおりです。
ただし「自己主張と相手を無視して「我」を主張することとは別物です」ともあり、気を付けるべき点だと思います。

P71「夢ばかりの人は、人格のなかに幼児性をもっています。幼児性は、非現実な性格をもっていますので、うまく活用しますと、発明や発見につながります。発明や発見は、常識では生まれないからです」
幼児性は悪いことではなく、上手く活用すると凄い力を発揮するようです。

P77「現実吟味は本人にまかけないと、現実を正しく認識できない、これが心理の真理です」
興味深い言葉でした。
難しい高校に「行きたい」と言う生徒に対し、「君は何を寝ぼけたことを言っているのだ。君の成績ならA高校どころかB高校でも危ない。もっと現実を見なさい。そんなことを言っているひまがあれば勉強しなさい」と夢を壊して説教するのは逆効果で本人の勉強する意欲もなくなってしまうとありました。
そうではなく、「行きたい」という夢が叶う方向に乗ってあげ、本人にそれは叶うことなのかどうか現実吟味させたほうが良いとのことです。

P84「心理学では自分のなかに住んでいる悪魔のことを「影」と呼びます。影とは、自分のなかにある、自分自身が認めがたい自分です」
影はユング心理学の本によく出てきます。
影も自分自身を形作っている一部分だと認めてあげることが大事だと思います。

P87「人格の陶冶」
陶冶は普段聞かない言葉だったので印象的でした。
調べてみたら「人間形成」のことをいう古い表現とのことです。

P119「家族にとって、否定的にお互いを見ることは悲劇です。否定的家族のなかで育った人は、職場や集団でも、否定的見方で周囲を見がちになります」
これも印象的な言葉でした。
そうならないように気をつけたいと思います。

P132「「この人はひどい人です」と言った場合、女性が男性に対してこの表現を使うときは具体的な内容「ひどい言動」が相手に見られる場合が多いが、男性が言った場合はトータルでひどいと感じている」
同じ言葉でも女性と男性では意味が違う場合があります。
これを理解しておかないと言葉への誤解から互いに不信感を募らせることになります。

P157「心の侵犯のことを、心理的侵襲と呼びます。いわゆる「他人の心に土足で入る」のがこれです」
他人の心に土足で入るのは野蛮なことです。
かけた言葉が相手の心を踏みつけている場合があるので注意が必要です。

P183「信念は成熟とともに柔らかくなります。成熟しない信念は頑固で凝り固まった確信に至ります」
信念と頑固の違いを表す言葉で興味深かったです。
成熟した信念を持つ人には柔軟性がありますが、信念が成熟しない人は単に頑固になりその考えで凝り固まってしまっています。

P196「ストレスの解消にはおしゃべりが最適」
これは女性が自然にやっていることだなと思います。
カフェなどに行くと女性数人のグループがあちこちでお喋りをしています。
たしかにお喋りして心の中に溜まっているものを吐き出すのは凄く大事だと思います。
ストレス解消は女性のほうがしやすいのかも知れないと思いました。

今作も興味深いことが色々書いてありました。
人との会話を論理だけで押し切ろうとするのではなく、相手の心に気を配りながら言い方に気を付けることも大事だと思います。
もう一冊、作者は変わりますが同じシリーズに「プロカウンセラーの共感する技術」という本があるので、そちらも機会があれば読んでみようと思います。


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「コンビニ人間」村田沙耶香

2016-08-07 23:34:55 | 小説


今回ご紹介するのは「コンビニ人間」(著:村田沙耶香)です。

-----内容-----
36歳未婚女性、古倉恵子。
大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。
これまで彼氏なし。
日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。
コンビニこそが、私を世界の正常な部品にしてくれるー。
ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしいと突きつけられるが……。
「普通」とは何か?
現代の実存を軽やかに問う衝撃作。
第155回芥川賞受賞作。

-----感想-----
「コンビニエンスストアは、音で満ちている」と、コンビニの音の描写から物語が始まりました。
客が入ってくるチャイムの音に、店内を流れる有線放送で新商品を宣伝するアイドルの声、店員の掛け声、バーコードをスキャンする音、かごに物を入れる音、パンの袋が握られる音、店内を歩き回るヒールの音、これら全てが混ざり合ったのを「コンビニの音」と表現しているのが印象的でした。
そんなコンビニの音を聞きながら、古倉恵子はアルバイトをしています。
客の細かい仕草や視線を自動的に読み取るため、「耳と目は客の小さな動きや意思をキャッチする大切なセンサーになる」とありました。

恵子は物事の捉え方におかしなところがあり奇妙がられる子供でした。
幼稚園の頃、公園で小鳥が死んでいて、他の子ども達が泣いている中、恵子は母親に「お父さん、焼き鳥好きだから、今日、これを焼いて食べよう」と言っていました。
また小学生になったばかりの時、体育の時間に男子が取っ組み合いのけんかをして周りの子が「誰か止めて!」と言うのを聞き、「そうか、止めるのか」と思恵子はそばにあった用具入れを開け、中にあったスコップを取り出して暴れる男子の頭を殴り倒して止めていました。
先生に事情を聞かれた恵子は「止めろと言われたから、一番早そうな方法で止めました」と答えていて、職員会議になって母親が呼ばれていました。

恵子は大学一年生の時、新しくオープンする「スマイルマート日色町駅前店」というコンビニでアルバイトを始めました。
そこから同じお店で18年間アルバイトを続け現在は36歳になっています。
著者の村田沙耶香さんも36歳で作家をしながらコンビニのアルバイトもしているため、どうやら自身の経験が恵子のモデルになっているようです。
作家仲間からは「クレイジー沙耶香」と呼ばれ発想のクレイジーぶりに驚かれたりしているとのことで、恵子の常軌を逸した物事の捉え方も多少村田沙耶香さんがモデルになっているのかも知れないと思いました。

初めてスマイルマート日色町駅前店で働いた日、完璧にマニュアルどおりに動く恵子を社員が絶賛してくれて、恵子は胸中で「そのとき、私は、初めて、世界の部品になることができたのだった」と語っていました。
しかし完璧なマニュアルがあって店員になることはできても、マニュアルの外ではどうすれば普通の人間になれるのか分からないとありました。
マニュアルのないところでは元々の物事の捉え方のあかしさが出てしまい妙な会話になってしまいます。

店には37歳でバイトリーダーの泉さん、24歳でバンドのボーカルをしながらアルバイトをしている菅原さんなどがいます。
恵子の喋り方は常に身近な人のものが伝染していて、今は泉さんと菅原さんをミックスさせたものが恵子の喋り方になっているとのことです。
また、服やバッグも身近な人の趣味に合わせ同じお店のものを買ったりしています。
物事の捉え方におかしなところがある恵子は喋り方も服やバッグの趣味も周りの人のものをトレースしたほうが社会的には生きやすいようです。
恵子は胸中で『周りからは私が年相応のバッグを持ち、失礼でも他人行儀でもないちょうどいい距離感の喋り方をする「人間」に見えているのだろう』と語っていました。
この淡々とした客観的な見方が面白かったです。

恵子にはミホという友達がいます。
学生時代は友達がいませんでしたが同窓会で再会した時にミホが話しかけてきてそこからたまに集まってご飯を食べたり買い物をしたりするようになりました。
恵子はマニュアルがない会話になるとずれた受け答えになるため、ミホの家に恵子や他の人が集まってお茶をしている時にもおかしな会話になっている場面がありました。
妹が考えてくれた「困ったときはとりあえずこう言え」という言葉を頓珍漢な場面で使ってしまったりと、恵子の会話は面白くもあり痛々しくもありました。
小学生の時に「誰か止めて!」という言葉を聞いて「そうか、止めるのか」と思いスコップで頭を殴って止めたことからも分かるように、あまりに言葉をストレートに受け止めすぎてしまうようです。
妹が言っていた「困ったときはとりあえずこう言え」も、困った時全てに当てはまると解釈してしまっていました。

ある日、白羽(しらは)という新人のアルバイトが入ってきます。
そこから徐々に恵子の日常が変わっていくことになりました。
白羽は35歳で婚活のために働き始めました。
非常に傲慢で自分勝手なところがあり、自分のことを棚に上げて他の人の悪口ばかり言っています。

恵子が周囲から自分が異物と思われているのを感じた時に思ったことは印象的でした。
正常な世界はとても強引だから、異物は静かに削除される。まっとうでない人間は処理されていく。そうか、だから治らなくてはならないんだ。治らないと、正常な人達に削除されるんだ。家族がどうしてあんなに私を治そうとしてくれているのか、やっとわかったような気がした。
これはたしかに、「みんなが送っている日常の風景」から外れている人が異物として削除される傾向はあるなと思います。

恵子は白羽と色々話すことになるのですが、白羽は恵子のことも口汚く罵ってきますが、そんな白羽を恵子はすごく冷静に分析していて、その坦々とした冷静さが印象的でした。

恵子は変化したいと思っていて、そのために白羽を活用し、白羽も恵子に寄生しようとし、二人は特殊な関係になります。
そんな恵子の状況を知るとコンビニの人達もミホ達もみんな態度が変わって恵子から色々聞き出そうとしていました。
恵子にどうやら男ができたと思い、しかもその相手が白羽というどうしようもない男だということで盛り上がっているようなのですが、下世話だなと思いました。
ただし白羽は自分のことを棚に上げて他の人の悪口ばかり言っていたり、口から出任せばかり言っていたりで最悪なので、下世話にあれこれ言われても同情の余地はないです。
変わっていくコンビニの人達について恵子は『店の「音」には雑音が混じるようになった』と表現していました。

物語の終盤、恵子の考えるコンビニの姿が書かれていました。
コンビニはお客様にとって、ただ事務的に必要なものを買う場所ではなく、好きなものを発見する楽しさや喜びがある場所でなくてはいけない。
この言葉を見て、恵子は喋り方や服の趣味などは周りの人のものをトレースしていますが、コンビニについては確固とした自分の考えを持っているのだと思いました。
「私は人間である以上にコンビニ店員なんです」という言葉も印象的でした。
コンビニこそが恵子が唯一生きられる場所なのだと思いました。
生きやすい場所で生きていってほしいです。


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慌ただしい出張

2016-08-06 18:14:31 | ウェブ日記
7月の後半から東京の立川に出張しています。
慌ただしい出張になり、海の日のあった三連休明けの週が特に忙しくなりました。
日を追うごとに残業時間が長くなり、土日も出勤になりました。
23時頃まで残業でさらに土日も出勤となると、精神的に参ってきます。
次の週に一日だけ代休になったのでそこでゆっくり休んで乗り切ることができました。

久しぶりに慌ただしい日々になった今回、やはり残業や休日出勤が続くのは良くないなと思いました。
日を追うごとに体力的にも精神的にも疲れてしまいます。
一段落ついた際にはしっかり休んで気分転換することが大事です。
先週の土日は休みになったので土曜日は気分転換に明治神宮と靖国神社の参拝に行きました。
そして神保町に行き先日芥川賞を授賞した「コンビニ人間」(著:村田沙耶香)の単行本が発売されていたので買いました。
その後は神保町の欧風カレー店「ガヴィアル」に行きお店のお勧めであるビーフカレーを食べ、夜は立川に戻ってきて昭和記念公園花火大会を見に行きました。
久しぶりにデジカメで花火の写真を撮ったので後でフォトギャラリーを作りたいと思います。
日曜日は芥川賞授賞作「コンビニ人間」(著:村田沙耶香)をカフェでじっくりと読みました。

今週も連日残業でしたが20時には終わっていたので深夜残業と休日出勤が重なっていた時よりは体力面と精神面の負担が少なくて済みました。
この土日も休みになったのでゆっくり過ごしています。
そして長く続いた立川出張も来週で終わります。
会社に戻ってからはまた慌ただしくなりそうなので気分転換を意識していきたいと思います。
上手に気分転換してストレスを溜め込まないようにしたいです。
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「幸せになる勇気」岸見一郎 古賀史健

2016-07-30 23:20:15 | 実用書


今回ご紹介するのは「幸せになる勇気」(著:岸見一郎 古賀史健)です。

-----内容-----
人々はアドラーの思想を誤解している。
自立とは「わたし」からの脱却である。
愛とは「技術」であり「決断」である。
人生は「なんでもない日々」が試練となる。
「愛される人生ではなく愛する人生を選べ」
「ほんとうに試されるのは歩み続けることの勇気だ」
人は幸せになるために生きているのに、なぜ「幸福な人間」は少ないのか?
アドラー心理学の新しい古典『嫌われる勇気』の続編である本書のテーマは、ほんとうの「自立」とほんとうの「愛」。
そして、どうすれば人は幸せになれるか。
あなたの生き方を変える劇薬の哲学問答が、ふたたび幕を開ける!!

-----感想-----
※「嫌われる勇気」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。

前作「嫌われる勇気」のラストから三年後が舞台です。
青年は大学図書館を辞め母校の中学校の教師になっていました。
三年前に哲人との対話を通じて当初は否定していたアドラー心理学を絶賛するほどになった青年が、三年ぶりに哲人のもとを訪れた今回、まるで三年前に初めて哲人のもとを訪れた時のようにアドラーの思想をペテンであり害悪をもたらす危険思想だと言います。
この変貌ぶりには訳があり、生徒に対しアドラーの「ほめてはいけない、叱ってもいけない」を実践した結果、生徒が教師である青年を見くびるようになり教室が荒れてしまいました。
青年は「アドラーの思想は現実社会ではなんの役にも立たない、机上の空論でしかないのですよ!」と言います。
さらにアドラーの思想が通じるのは哲人のいるこの書斎の中だけだと言います。
「この扉を開け放ち、現実の世界に飛び出していったとき、アドラーの思想はあまりにナイーブすぎる。とても実用に耐えうる議論ではなく、空虚な理想論でしかない。あなたはこの書斎で、自分に都合のいい世界をこしらえ、空想にふけっているだけだ。ほんとうの世界を、有象無象が生きる世界を、なにもご存じない!」
青年は哲人にアドラー心理学は現実の世界では使い物にならないと詰め寄っていました。
そして前作と同じく青年の言い回しが面白いなと思います。
詰め寄る青年に対し、哲人は次のように言っていました。

「アドラー心理学ほど、誤解が容易で、理解がむずかしい思想はない。「自分はアドラーを知っている」と語る人の大半は、その教えを誤解しています」
「もしもアドラーの思想に触れ、即座に感激し、「生きることが楽になった」と言っている人がいれば、その人はアドラーを大きく誤解しています」

私はこれまでアドラー心理学の本は前作「嫌われる勇気」「マンガでやさしくわかるアドラー心理学 人間関係編」(著:岩井俊憲)の二冊を読んでいますが、即座に感激して「生きることが楽になった」とは思わなかったです。
特に「勇気を持て」については体育会的な印象があり、企業などがそのまま体育会的な解釈をしてしまい、手っ取り早く「変わるためには勇気を持て。心理学三大巨頭のアドラーもそう言っている」と言うことができるため、都合よく社員への研修に使うのではと指摘したりもしました。

青年は決別の再訪を決意して哲人のもとを訪れていました。
これ以上アドラーの思想にかぶれ堕落してしまう人を増やさないため、哲人を思想的に息の根を止めると息巻いています。
青年が抱える喫緊の課題は教育なので、教育を軸に話が進んでいきます。
哲人は教育とは「介入」ではなく、自立に向けた「援助」だと言います。
そして教育の入り口は「尊敬」以外にはないと言います。
例えば学級の場合、まずは青年が子どもたちに対して尊敬の念を持つことから全てが始まるとのことです。

「目の前の他者を、変えようとも操作しようともしない。なにかの条件をつけるのではなく、「ありのままのその人」を認める。これに勝る尊敬はありません。そしてもし、誰かから「ありのままの自分」を認められたなら、その人は大きな勇気を得るでしょう。尊敬とは、いわば「勇気づけ」の原点でもあるのです」
ありのままのその人を認めるというのは、私はできる場合と無理な場合があります。
例えば強権的で偉そうな人に対しては今のところありのままのその姿を認めるのは難しく、嫌な人だなと思います。
ただしアドラー心理学の「課題の分離」の考え方を使い、強権的で偉そうな人の性格はその人の問題であり性格を変えさせることなど無理なため、相手の性格を変えようとするのではなく自分が変わるほうが良いと考えるのは良い考え方だと思います。

哲人が使用した三角柱は興味深かったです。
その三角柱は私達の心を表していて、三つの面のうちまず二つには「悪いあの人」「かわいそうなわたし」と書かれています。
哲人によるとカウンセリングにやってくる人のほとんどはこのいずれかの話に終始するとのことです。
そして三つ目には「これからどうするか」と書かれています。
哲人によると私達が語り合うべきはまさにこの一点であり、「悪いあの人」も「かわいそうなわたし」も必要ないとのことです。
「そこに語り合うべきことが存在しないから、聞き流す」と言っていました。
青年は「この人でなしめ!」と声を荒げていて、今作の青年は前作以上に言葉が特徴的だなと思いました。
私的にはたしかに過去よりも今であり、これからどうするかを見つめたほうが良いと思います。

問題行動の5つの段階も興味深かったです。
「第1段階 称賛の要求」
「第2段階 注目喚起」
「第3段階 権力争い」
「第4段階 復讐」
「第5段階 無能の証明」

第1段階の「称賛の要求」は、親や教師に向けて「いい子」を演じ、ほめられようとすること。
第2段階の「注目喚起」はほめてもらえないことで、「ほめられなくてもいいから、とにかく目立ってやろう」と考えること。
第3段階の「権力争い」は親や教師を口汚い言葉で罵って挑発して戦いを挑む段階。
第4段階の「復讐」は権力争いを挑んで歯が立たずに敗れた場合、相手が嫌がることを繰り返すことによって、憎悪という感情の中で自分に注目してくれと考える段階。
第5段階の「無能の証明」は人生に絶望し、自分のことを心底嫌いになり、自分にはなにも解決できないと信じ込むようになる段階。
哲人によると第3段階の時点でかなり手強い段階とのことですが、問題行動の大半は第三段階にとどまっていて、そこから先に踏み込ませないためにも教育者に課せられた役割は大きいとのことです。

哲人の「「変えられないもの」に執着するのではなく、眼前の「変えられるもの」を直視する」という考えはそのとおりだと思いました。
また、「教育者は孤独な存在」という言葉は印象的でした。
誰からもほめてもらえず、労をねぎらわれることもなく、みな自力で巣立っていくとありました。
そこで、現場で働く教師としては生徒からの感謝を期待するのではなく、「自立」という大きな目標に自分は貢献できたのだという貢献感を持ち、貢献感の中に幸せを見出すしかないとありました。

強さや順位を競い合う競争原理が行き着く先が勝者と敗者が生まれる「縦の関係」だとすると、アドラー心理学では協力原理による「横の関係」を提唱するとのことです。
誰とも競争することなく、勝ち負けも存在せず、全ての人は対等であり、他者と協力することにこそ共同体をつくる意味があるとありました。
そして「アドラー心理学は横の関係に基づく「民主主義の心理学」」だと言っていました。
ただ誰とも競争することなく勝ち負けも存在しないというのは、少し解釈を間違えると単なるゆとり教育になってしまうので注意が必要だと思います。

人間はその弱さゆえに共同体を作り協力関係の中に生きていることから、「共同体感覚は身につけるものではなく、己の内から掘り起こすもの」というのも印象的でした。
もともと持っているものとのことです。
そして「「わたし」の価値を自らが決定すること。これを自立と呼ぶ」というのも印象的な言葉でした。
「わたし」の価値を他者に決めてもらうのは他者への承認欲求であり依存とのことです。

「われわれは自分に自信が持てないからこそ、他者からの承認を必要としているのですよ!」と言う青年に対し、哲人は「おそらくそれは、「普通であることの勇気」が足りていないのでしょう」と言います。
そして「その他大勢としての自分を受け入れましょう」と言います。
この「その他大勢としての自分を受け入れる」は、近年の私が意識しつつあったことです。
哲人は「「人と違うこと」に価値を置くのではなく、「わたしであること」に価値を置くのが本当の個性というものです」と言っていて、私はそこまで意識したことはなかったですが、この考えは良いと思うので意識していきたいと思います。
哲人が「無条件の信頼」についてかなり印象的なことを言っていました。
「あなたがわたしを信じようと信じまいと、わたしはあなたを信じる。信じ続ける。それが「無条件」の意味です」
アドラー心理学のこの信じることの力押しは凄いなと思います。
私はとてもここまでは信じられないです。

物語のラスト、議論が終わって別れを迎えた時、哲人が青年にかけた言葉は印象的でした。
「この先あなたがどこにいようとも、わたしはあなたの存在を身近に感じ続けるはずです」
この先二度と会うことがないとしてもその存在を身近に感じ続けられるというのは、その人が人生に良い意味で大きな影響を与えたということで素敵なことだと思います。

岸見一郎さんのあとがきにアドラー心理学が悪用ともいえる扱われ方をされていたと書いてありました。
「特にその「勇気づけ」というアプローチは、子育てや学校教育、また企業などの人材育成の現場において、「他者を支配し、操作する」というアドラーの本意からもっともかけ離れた意図を持って紹介され、悪用ともいえる扱われ方をされる事例が後を絶ちませんでした」

悪用は前作「嫌われる勇気」を読んで思ったことでした。
アドラー心理学の「勇気を持て」は体育会的な面があるため、企業などがそのまま体育会的な解釈をして「変わるためには勇気を持て。心理学三大巨頭のアドラーもそう言っている。変われないのなら、それはお前に勇気がないからだ」と言うことができてしまうのです。
なので都合よく社員への研修に「勇気を持て」を使うのではと思ったら、やはり悪用されていたようです。
アドラーという心理学三大巨頭の名のもとに「勇気を持て」だけ言って無理やり都合の良い方向に変わることを迫るのは、もはや心理学ではなく単なる体育会論です。
せっかくの生きることを楽にするための心理学、悪用されないことを願います。
そしてそういった悪用してくる人と対峙した場合に備えて、「嫌われる勇気」「幸せになる勇気」などでアドラー心理学の考え方に触れておくことは役立つかと思います。


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