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日々の体験や思ったことを綴ります(by 涼風)。

『マネーセラピー』 栗原弘美・鷹野えみ子(著)

2007年04月02日 | Book



心理トレーナーの栗原 弘美さんと鷹野えみ子さんが書いた『マネーセラピー』という本を読みました。

お金と感情との関係が扱われている本です。人がお金と接しているときどういう感情を持っているのか、またその感情はどういう経験に由来するのかが分かりやすく説明されています。

お金がないというのは単なる事実なのですが、お金がないことが「問題」になるのは、「お金がないことは不幸だ」という観念を人がもっているからです。実際お金が全くなければ生きていくのは困難なのでそれはまったく間違った考えだとは言いづらいのですが、「お金がないから不幸だ」と言い続け、なおかつ状況を変えるための行動を起こさないのは、ある種の心理の働きが影響していると考えられます。

それは、自分はお金を得るには価しない存在だという観念だったり、お金を得て幸福になってしまったら親への復讐が果たせない、それよりも不幸になることで親に罪悪感を味合わせてやるという観念を持っていたりすると、人は表面上の「お金が欲しい」という意識にもかかわらず、知らず知らずのうちにお金のない状態を選んでしまいます。

本の中では、お金だけが自分を守ってくれると思っているサラリーマンがつねにお金に関する恐怖・不安を抱えている例を取り上げています。お金だを無駄遣いせず溜め込もうとするのですが、動機が恐怖・不安に拠っているため、積極的にお金を増やすための計画を立てたり、将来の年金などの具体的・現実的な知識はもっていなかったりします。

この人は表面上では「お金は大事だ」と思っているのですが、実際はお金に手をつけるのも怖がっている状態だと言えます。お金にまつわる恐怖が強いため、お金の具体的な動きから目を背け、ただ溜め込むという行動に執着します。

このようなお金への恐怖は日本人、とりわけ今の60代以上の戦後を生きぬいた人たちによく見られる心理ではないかと思います。欠乏から豊かさへと変貌していく社会の中で、その流れに遅れまいと必死に働いてきた人たちは、倹約によって溜め込んで豊かになろうとした人たちが多いのではと思います。


本の中では、そのような感情とお金との関係の色々な例が取り上げられているのですが、私にとっては「依存」状態の人がお金と取り組むべきポイントを述べた部分が面白かった。

「依存」とは端的に周りに頼って生きている状態です。分かりやすいのが子供ですが、大人になっても周りに依存している人はいます。経済的に親や配偶者に「依存」している人もいるし、会社や国家に依存している人もいます。

おそらく、単に経済的に周りに援助してもらっているだけでは「依存」とは言わないのでしょう。むしろ「依存」とは、周りに頼りながら、その周りの人たちに対する攻撃心と罪悪感をもっている状態のことを指します。

例えば幸せな主婦の人は、「依存」とは言えないように思います。たしかにお金を稼ぐのは夫なのですが、それでもその妻と夫との関係は対等だし、自分のいる場所が正しいことを二人とも了解しているのです。夫は妻がいてはじめて自分が幸せに暮らし働けることを知っているし、妻は夫がいてはじめて幸せな家庭を営んでいることを知っているのでしょう(もっとも現実にそこまで至る夫婦は少ないかもしれませんが)。

それに対し「依存」している人は、自分に経済的援助をしてくれる人に対してどこかで恨みや敵意をもっています。

例えば子供であれば、普段の食事を与えてもらっているにもかかわらず、「あれを買ってくれなかった」「やさしくしてくれなかった」という想いを親に対してどうしても持ちます。自分が無力な分まわりに大きな期待をかけるので、その期待が破られた分ハートブレイクが大きくなり、どれだけ与えてもらってもストレスの状態にあります。

多くの人はこういう体験を大人になるまで抱えて生きます。すると大人になってからも親に迷惑をかけようとします。「ニート」「ひきこもり」になるのは、こうしたハートブレイクの体験が尾を引き、子供のころに面倒を見てもらえなかったという想いから、大人になっても親に過去の償いをさせようとコントロールのゲームをしている部分もあるのだと思います(もっとも、それだけでは「ニート」「ひきこもり」は説明できないようにも思うのですが)。

またある人は、そのような過去の傷心の体験を乗り越えるべく自分で稼ぐ道を選択します。しかしある人は、周りに自分の世話をしてもらいたいという期待を持ち続けるため、会社員や公務員になって組織に自分の面倒をみてもらいたいと強く願い続けます。親の加護からは脱することができたのですが、周りに世話して欲しいという期待は持ち続けるため、今度は組織に依存するようになります。子供の頃は親のためにいい点を取って世話してもらおうとしましたが、今度は組織のために働いて面倒を見てもらおうとします。

また別の人は、男女問わず、配偶者や恋人に経済的に面倒を見て欲しいという欲求を抱えます。自分自身が相手の欲求・期待を満たすことは拒否しながら、自分のニーズは相手に満たしてもらおうとします。

このような依存状態を解説した上で、著者たちはこの段階を切り抜けるためのポイントを次のように述べます。

 「この段階では、自分の幸せはまわりしだいという感覚が強く、うまくいかないことがあると被害者になりがちです。しかし与えられた環境の中で、努力をすること、工夫することが大切です。自分の力でできることをやっていくこと、責任を認識することがカギです」(p.127)。

 お金に関して言えば、「物の値段を知る、税金の仕組みを知るなど知識を蓄えること」などが大切だと説かれています。

よく「子供には自主性を重んじよう」という教育論を聞きます。もちろんそれにも深い洞察があるのでしょうが、子供・大人にかかわらず「依存」の段階にいる人に必要なのは、まず現実原則を認識することなのでしょう。

たしかに現実の枠に囚われない創造的な活動はこれからますます必要となってきます。しかし創造的な活動は、社会の規則を受け入れて自分を自立させることによって初めて可能になります。新しい秩序を生むには、まず既存の秩序を学ぶことで、(たとえ不完全でも)秩序というものが自己の存在を成立せしめてくれることを認識した上で、よりよい秩序・あるいは別の秩序が必要であることを認識することによって生まれます。

そのような秩序の必要性を理解せずに、ただ現実の秩序が自分の欲求を適えてくれないからと拒否していると、人は自分で新しい秩序の段階に進むことはできません。

また同時に、既存の秩序に絶望して、自分の創造性を発揮させることを諦め既存の秩序に全面的に服従することも、新しい秩序の創造にはつながりません。それは結局既存の秩序に恨みを抱えながら生きることになります。

著者たちはこのような状況を切り抜けるためにも、既存の秩序=自分が子供だった頃の大人の気持ちや社会のあり方を理解し、また受容することの大切さを説きます。

「ほとんどの親はベストを尽くし、子供を養育しています。子供が小さいうちに家庭の方針や事情を理解し、それを受け入れるように援助しましょう。またあなた自身も、自分自身のこと、家庭の過去や現在を、丸ごと受け入れる勇気を持ちましょう。まわりを変えようとあがくのをやめ、自分を輝かせることにコミットメントすることで、稼ぐ力を蓄えていくことができます」(p.131)。

究極的にはお金の問題は、親との関係の問題だといえます。私たちは誰もが最初は親からしかお金をもらえないので、お金に対する想いは親との関係にもとづきます。つねに親からお金を貰うことを期待し続ける人は、大人になってからも親や組織や配偶者からお金を貰うことを期待し続けます。

しかしそのような期待には、その期待が適えられなければ親を恨むという心理の働きが隠されています。期待と裏合わせの服従なので、服従しながらも親・組織・配偶者などにつねに敵意を持ち続けます。つねに「~して欲しい」という相手を食い尽くすような依存心が隠されています。そのような期待が破られたとき、私たちに必要なのは親の事情を理解することなのですが、大抵の人はそれができません。

そのようなハートブレイクを味わった人の一部は、もう親のことなどどうでもいいから、お金は自分で稼ぐ!と強い決意をもちます。もう誰にも頼らずに一人で生きていくという決意です。猛烈サラリーマンやベンチャー起業家に多いタイプなのでしょう。

しかしそれらの人たちは、自分たちの「~して欲しい」というニーズを意識の奥に押し込めて活動しているだけで、そのニーズが適えられなかったときの傷心にちゃんと向き合っていません。自分の傷心の記憶には触れたくないため、「強い自分」を演じようとします。そのため、不必要に周りの人を傷つけ、トラブルを引き起こします。

元ソニー役員でCD開発者の天外伺朗さんは、現在名前が知られている人やリーダーの立場にある人の99%は「闘っている」と指摘していますが、それはこのような自分の子供の頃の傷心に向き合っていない人たちのことを指しています。

この人たちは、親に頼らずに行動すること自体は「正しい」のですが、親を許し理解した上で行っているのではなく、親に期待を満たしてもらえなかったという絶望を抱えながら行動していています。そのため無理のある「強い自分」の理想像を描き、その理想に近づくために他人を利用し、また他人を蹴落としたりします。

そうしたトラブルに見舞われていくうちに、大抵の人は、やはり過去のトラウマに向き合うことを余儀なくされていきます。


この本には他にも感情と仕事との関係など面白いことが書かれてあるのですが、やはり核になるのは、このような子供の頃の親とお金にまつわる体験がその後のお金をめぐる観念の基礎になっているという洞察だと思います。

私自身は頭では分かっているつもりでしたが、こうやってあらためて感想を書いてみることで、何か気づきが得られたようにも思います。



写真: 住宅街に差す光

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