楽しいひとときを過ごしていても、誰かと大声で笑い合っていても、なぜかふと過ぎってしまうのは、いずれこの充実した時間も終わりを告げ、いつもの日常の渦の中に放り込まれ、それまで予想もしていなかったようなちょっとした災難や不幸が空の上から不意に落ちてきて、わたしたちを無情に苦しめ続けてゆくのではないか、そんな漠然とした不安である。
漠然とした不安に耐えきれず自殺したのはあの芥川龍之介だったけれど、人間の心の奥に厳然と存在していて剝ぎ取ることが出来ないものは、人間の中に根源的に蔓延っている言いようのない不安や恐れなどの負の感情だろう。
そして今日もまた、瞬きするほど早く一日は過ぎ去り、一年もまた凄まじいスビートで過ぎてゆく。
色即是空、空即是色。すべてのものに実態などなく、いつまでも不変のものなど一切ない。ただすべては流動的に変化しているだけだ。そのように流動的に変化することによって、万物は生まれ変わり、世界は回ってゆく・・・。
今日、仕事で外に出た。
車を走らせていたら、突然、大粒の雨が降り出し、道路も街路樹もビルも歩行者もびしょ濡れにして、また何事もなかったかのような顔をして、次の街へと一目散に抜けていった。
ただそれだけのことだった。
こうして今日という一日が過ぎ去り、また新しい明日がこの街にやって来る。そう、ただそれだけだ。
そしてそんな激しい通り雨が走り去った街を眺めながら、思った。何の関連性も何の脈略もなく、思ったのである。
ああ・・・俺はいつか死んでゆく。その日は必ず目の前にやって来る。絶対にその日はやって来る。
だから俺は、この死の恐怖って奴から絶対抜け出せないまま、こうしてグダグダ無様に毎日を生き続けてゆくしか、ほかに術などない。
しかしそれは、何という、無駄で無意味で愚かな時間なんだろう・・・。
雨が上がった午後の街は、少しひんやりしていて、さっきまでの真夏の余韻など一切合切吹き消している。
すべては移り変わる。何もかもがいつか終わる。それだけだ。確かな答えも回答も存在しない。
死にたくないと思うほど、その人の人生の幸福度は下がり続けてゆくのだろう。だから何とかなると思って生きてゆくしかない。
しょせんすべては小さなことだ。
やる気がなくなったのではない。やる気をなくすという決断を自分でしただけだと、アルフレッド・アドラーが言ってたっけ。
人生とは今日一日のことである。