風の谷通信

専業農家からの引退を画策する高齢者。ままならぬ世相を嘆きながらも、政治評論や文化・芸術・民俗などに関心を持っている。

首相に難問

2007-03-10 17:59:25 | 世相あれこれ

風の谷通信 No.2-058

 支持率続落を受けて「支持率のために政治をやるのではない」と反撃した首相に二つの問題が同時に襲っています。復党問題と慰安婦問題です。
 衛藤氏の復党問題は「原則なし+権謀術数なんでもあり」の自民党らしい作戦でしょう。どうなろうと支持率が下がるのはまずは間違いないと思います。

 一方、慰安婦問題は国際問題化しそうな雰囲気で、特に今までと違うのは日本の政界が尊重するアメリカさんからの批判です。今までの批判は被害者であったアジア諸国の批判だけであり、日本としては「そんなものはウソだ」と突っぱねて済んだのでしょうが、今度はアメリカ様様と尊重する陣営からの批判です。しかも、火付け役は首相自身ですから困ったものです。本当にこのクニの威信をかけてアメリカの批判を論破できるでしょうか。 どうも危ない感じです。

 マスコミの中には、「日本には責任がない」ということをもっと明確に主張すべしという論調があります。 「国として強制したという証拠はない」と主張しています。

 だけど、戦争に出た経験者達の話を聞くと「強制か否か」に関わりなく、「慰安婦」という制度があったということです。性奴隷、軍公認の売春というイヤな仕事をさせられた女性がいた、ということです。兵士達が軍から許可証をもらって売春宿に並び、順番に女性を買ったという事実です。それも、日本軍による被征服国民の女性が奉仕させられた訳で、必ずしもゼニ稼ぎの目的で自ら入り込んだ世界ではなかったといいます。 私に対して「戦争に行ったことがないのだから現場を知らないだろうが」という反論は当然ですが、当時の報道を読んだ限りでは「日本軍が来ると女性を隠した。見つかったらすぐに慰安所へ引っ張って行かれるから」との言葉があったことをよく記憶しています。 

 まして、国際問題となった今、「公式の強制があったとかなかったとか」の議論で逃れようとするのは不可能です。そんなことをするから私は「先の大戦に関しては、大和魂なんてものは実在しない」と言うのです。 戦争の実態は侵略戦争、戦争の理由は中国市場を先進資本主義国と奪いあったことやアジア諸国にある資源を確保したかったこと、自存自衛のためというのは屁理屈ないしは外交的敗北に過ぎないこと、天皇の意思を無視して好戦派と資本家が突っ走ったこと、召集兵士はクニに騙されて戦場へ駆り立てられてクニに殺された、靖国はクニのために死ぬことを恐れない兵士をつくるために設けた欺瞞の神祀りである・・・。慰安婦問題とともに、こういったことを率直に認めた方があとの仕事がやり易いです。

 あとの仕事とは、日本を加害者として自虐的に批判するのではなく、日本を被害者として戦勝国に対峙することです。 東京他大空襲による一般市民の大量虐殺・病院船や赤十字マークの輸送船の撃沈・原爆投下・ソ連の参戦・シベリア抑留・日本軍捕虜の虐待・戦争終了後に起きた日本人女性への強姦・引き上げる日本人市民への略奪と暴虐・・・・。

 どこにも公式文書はないでしょう。だけどその被害に会った人たちの証言があるはずです。公式文書がないからそんなものはなかったんだ、とは言わせたくない。(証拠の有無に関して慰安婦問題とは逆の立場です。) だけど、シベリアで虐待された日本人についての抗議さえしていない日本です(講和条約の問題もあるのでしょうが)。抑留されて従事した重労働や非人間的扱いに対して抗議さえしていない。(日本兵士をシベリアで開拓作業に従事させることに同意したのは日本軍であるが、非人間的な扱いで多数が死んだのはあくまでもソ連の責任である。) 原爆に対しては「日本が悪かったから仕方がない」かのような忍従を受け容れている。 それでいて国内では、好戦的な力を持つ勢力が平和を唱える勢力に対して自虐的史観やお詫び外交などと批判して、いかにもクニの名誉を守るのは自分達であるかのような言動を弄している。

 さて、憲法改正を正面に掲げて、わが国の威厳を取り戻そうと努力する現首相が、こんな問題を受けてどのように闘うでしょうか。それを国民が支持するでしょうか。目が離せない事態です。 ちょうど小倉侍従日記が発見・公表された処です。文芸春秋が一挙に掲載しました。先の宇都宮大将の日記と併せていろいろな事実が掘り出されることでしょう。楽しみなことです。