風の谷通信 さん農園便りNo.2-050
偽装請負で汚く儲けていた企業がマスコミで叩かれて少しは変わったかも知れない。
厚生労働省のほうはその方針を少し変えた。今までは、偽装請負を発見すると派遣契約へと切り替えるように指導してきたが、今後は早期に直接雇用に切り変えるように指導することになった。派遣可能期間を越えて雇う場合には、企業がその労働者に直接雇用を申し込む義務も導入する。派遣労働形態がこれだけ広く定着すると、厳格に指導しなければならないという姿勢である。
派遣労働は、最初の導入から適用範囲を徐々に拡大して04年には製造業の一般労働にまで適用されるようになった。ある種の報道によると、今では全労働者の約30%が非正規雇用労働者であるという。大阪市のある弁護士が「労賃のピンはね」にも等しい方法を容認する労働者派遣法は廃止すべきだと主張している。
一方、世界の優良企業・キャノンが偽装請負を用いていたことが既に明らかになっているが、同社を率いる御手洗会長は「派遣・請負の分野ができ、会社が一人ひとりに声をかけなくても大量に雇えるようになった」とこの制度の意義を強調した。また「私はできるだけ日本で仕事をして失業を防ぐ覚悟でやってきた。海外工場の拡充でなく、日本で採用した。そうした採用が派遣・請負業界ができることで容易になった」と強調した。(発言の文言は朝日新聞の記事から引用) 言い換えれば、会社が個々の労働者に注意することなく、派遣業者という外注先を通して一括入手できることである。無責任な雇用体制である。
同時に、御手洗氏は経団連で求めている法人実効税率約10%引き下げの財源としては、消費税率の引き上げを想定していて、その引き上げ幅は11年までに2%、15年までに3%くらいだという。その心は「企業が国際競争力を持てば、雇用を増やし、税収も増え、循環する」とのこと。
果たしてその言葉通りに進むだろうか。経済学者の論評を聞きたいものである。市民を(国民といっても構わないが)不安定な非正規労働者に固定しておいて、企業は人件費を抑え労働者のための社会保険負担さえも逃れておいて、事業税率を下げて国際競争力を高めて税収を増やせば、市民が消費税10%を負担しても国内消費が伸び、社会や企業の富が増えて循環するのであろうか。非正規労働で劣悪待遇に甘んじる労働者達は、家庭の中で支えられてかろうじて生存している。一人では生きてはゆけない低賃金労働・結婚さえできない若者・幼児が病気になっても仕事を休めない母親・妊娠すると派遣契約を打ち切られると言う若い女性。そういった「最下層労働者」について、企業は各家庭の力を頼り、家庭に寄りかかって、家庭の犠牲において、企業の立場を守っていると言える。家庭協力がなければ企業は労働者を確保できないのだ。単純に労働者と雇用者という法的関係では維持できない労使関係である。 それが不純であることは明白。
私が働いたアメリカ系企業は8時間労働で労働者の1日全体を保護した。病欠は有給休暇以外の枠であった。日本企業は8時間の給与で労働者の1日全体を拘束して憚らない。しかも人格全体を拘束しようとする。 派遣労働者やパート勤務者については、その勤務時間の正規な給与さえ割引してして、24時間生きるはずの人間の数時間ぶんだけを切り取って利用しているだけだ。更に、安全対策といった人格の基本に関わるようなことの負担さえ逃れようとしている。それは派遣労働と偽装請負にそれぞれ部分的に・あるいは全体的に関わる真実である。
それでいて、法人税を下げよ!と言う。どこまで意地汚いのか。いい加減に日本人同士の叩き合いのような労働慣行を排してもらいたい。それで企業が成り立ち行かないのなら経営者が退陣すればよろしい。前任の奥田会長が「クビにするような経営者はダメ経営者だ」と言ったのに、現在の経団連会長はその力量が無いらしい。