今年もまもなく3.11を迎えようとしている。3年がたち、震災の記憶の低下も懸念されているが、他方、当時の状況の検証や、復興に向けた根強い支援の動きもある。今日(9日)も、恩師主催の復興支援コンサートに行ってきた。
船橋氏のこの本も、この2月に発売された新刊である。船橋氏はこの前にやはり原発災害とその対応を取材したドキュメンタリー「カウントダウン・メルトダウン」を発表し、大宅賞を受賞されたという。カバーの紹介文は、「フクシマで日本は「あの戦争」の失敗を繰り返した。・・危機下にあるべきガバナンスとリーダーシップを探る」とある。
本書の視点はこの扉の言葉に言い尽くされていて、本文では事故対応段階での問題点と、先の大戦中の戦史ににおける事例を並行して紹介し、その類似性を表そうとしている。また、対応にあたった米国支援部隊、東電、自衛隊そして半藤一利氏らとの対話編があとに続く。
個々の事例紹介や見解などは大変面白く、示唆に富む。特に米国が日本の管理体制に驚き、不満を表明し、それに当時の日本政府が自ら国の統治に不安を感じたという記述には驚く。助けに来たアメリカが、政府や東電の対応のお粗末さに呆れて、この国との同盟を続けてよいものか、不安を覚えるほどだった、というのである。
ただ、事実関係の記述が最小限に抑えられているので、時間の経過した今では、やや分かりにくい記述がみられる。まるで、当時の事情は本書を読むまえに同氏の「カウントダウン・メルトダウン」を読んでくれといっているようだ。新聞の社説をあとからまとめ読みしているみたいだ。ちりばめられている大戦中の出来事(失敗事例)は彫りが浅く、現代の事例検証と釣り合っていない。全体に、ちょっと散文的で論理性に欠け、読者を情に流して説得しようとしているような印象がある。
読者を引き込むような文章力はさすがで、とても読みやすいし、読むものを飽きさせない。
何となく、上手にできたテレビのドキュメンタリー番組を見たような読後感だ(文春新書 800円+税)。