うさぎくん

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中頓別事件

2014年02月11日 | 日記・エッセイ・コラム

少し旧聞に属するが(余談だが、「旧聞に属する」というい言い回しがなかなか思いだせずに弱った。さいきんこういうことが増えた・・)、村上春樹氏の短編小説に出てくる、北海道の地名(中頓別)について、地元の議員団がクレームを表明した、という話について。

話の発端は、地元町議会議員のブログでのコメントらしいが、これ自体はそれほど大した問題ではない。

若い町議会議員は小説(文芸春秋13年12月号に掲載された、「ドライブ・マイ・カー」)で、中頓別出身の女性が、火のついたタバコを窓から捨てるのを見て、主人公が「たぶん中頓別ではみんなが普通にやっていることなのだろう」と独白しているところにかみついた。
主人公は中頓別がどこにあるのかも知らないし、町の人がみな煙草を投げ捨てている、と言ったわけでもない。

当然この議員のブログは炎上していて(コメント50件なので、これまた大したことではないが)、その多くはこの議員を非難している。そのほかのネット(SNS, 2ch)上の意見もおおむねこの件に冷ややかなようだ。
少数意見としては、町民は日ごろ山火事に非常に神経をとがらせているのに、無神経な書かれ方に怒ったのでは、というものや、わざと騒ぎを起こして、注目を浴びたかったのだろう、というものがあった。

そう言っては何だが、この議員の行動はいささか次元が低いように思えるが、たとえそうだとしても、意見を述べるのは自由だ。もし町議会が非難決議を可決したとしても、民主主義の社会ではとがめられるべきではない。

問題はむしろ、村上氏がこれに反応して、謝罪したことである。それも、「僕は北海道に親近感を持っている。もし不快に感じられたのであれば心苦しく、残念です、単行本では地名を差し替える」とコメントしたのだ。

村上氏は海外での生活経験も長いし、大学で講座を持っていた経験もある人だ。典型的日本人(いまはそういう言い方もないのかもしれないけど)みたいに、まず「すみません」というのが得、などと考える人ではないはずだ。賞を贈ったイスラエル政府に対し、受賞スピーチであえて批判の声をあげたほどの人だ。

なので、この早々の白旗には失望した。というか、一体なにを考えているのだろうかと、疑問に思った。

しかし、こういう考え方もできるかもしれない。

 まず、この村上氏のコメントは文芸春秋を通じて出されたものだ。文春では、これは小説作品であり、作者の表現を尊重し支持する、としているが、文春単独というより出版サイドのどこかで、話を収めたいという圧力が働いたのではないか。

 また、村上氏はイスラエルに対しては厳しい姿勢で批判をしたが、これは相手がその批判を受け入れるだけの許容度を持っているからこそ、発言したのであって、同様の反応を、この町議会の人々に期待するのは無理、と判断したのかもしれない。ありていにいえば、相手にするだけ無駄、と考えて、ことを荒立てないように、という判断かもしれない。

ただ、僕が改めて言うまでもなく、このことは悪しき前例として人々の記憶に残ることになる。百歩譲って、謝罪のコメントをするにしても「地元の人たちが山火事に非常に神経をとがらせているとは、思いが及ばなかった。失礼をした」ぐらいは言えなかったのだろうか。

話は飛ぶが、むかし、埼玉出身ではない人がうたった、「なぜか埼玉」という歌がはやったことがある。歌詞は直接埼玉を馬鹿にしているわけではないが、礼賛されているとはとても思えない。「目蒲線物語」という歌では、東武東上線を、一番陰気な路線で、忘れもので一番多いのはクワとスコップだ、というくだりがある。

まあ、僕はどちらにも関係があったわけだけど、聞いたときは・・わっはっはというか、ぼりぼりというか。たぶん、青筋立てて怒る県民や沿線住民は少ないんじゃないかな。そういう、懐の深いところが、僕は好きなんですけどね・・。

コメント
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