ウリパパの日記

自由気ままに・・・

英国ロイヤルオペラ「リゴレット」日本公演 2024.6.28

2024-06-29 20:53:55 | オペラ

昨日はアントニオ・パッパーノ率いるロイヤルオペラの来日公演をNHKホールで聴いてきました。ヴェルディのリゴレットです。オペラの魅力に取りつかれて40年以上になりますが、実はロイヤルオペラの来日公演を聴いたのは今回が初めてかもしれません。2002年に音楽監督に就任して20年が経過したパッパーノは今シーズン限りで退任します (7/1 引退→退任に誤記訂正)。日本でパッパーノのオペラを聴く最後のチャンスとなった今回は、リゴレットとトーランドットという魅力的なオペラ上演。どちらを選択するか悩んだ挙句、音楽的により魅力的なリゴレットに決めました。NBSのHPにパッパーノのメッセージが寄せられていました。「これらの作品は、絶対の自信を持って!この音楽の力と舞台の魅力を日本のファンへの最後の贈り物にしたい。」

リゴレットの公演は神奈川県民ホールで2回、その後NHKホールで2回行われます。NHKホールはオペラ向きではないので、できれば神奈川県民ホールで聴きたったのですが日程の都合がつかず、NHKホールの初日に会社を休んで出かけてきました。

 

久しぶりに訪れるNHKホール。前回訪れたのは7年前のバイエルン国立歌劇場の来日公演タンホイザ(ペトレンコ指揮、フォークトがタンホイザーを歌った話題の公演)以来です。公演会場が3か所に分散したこともあってか、オペラ公演前の華やかさが全く感じられません。会場の雰囲気的にはトーランドットの全4回の公演が行われる東京文化会館のほうが良かったのかもしれません。

 

配役表です。2幕と3幕の間には休憩が無く、続けて演奏されるようです。

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:オリヴァー・ミアーズ
マントヴァ公爵:ハヴィエル・カマレナ
リゴレット:エティエンヌ・デュピュイ
ジルダ:ネイディーン・シエラ
スパラフチーレ:アレクサンデル・コペツィ
マッダレーナ:アンヌ・マリー・スタンリー
モンテローネ伯爵:エリック・グリーン
ジョヴァンナ:ヴィーナ・アカマ=マキア
マルッロ:ヨーゼフ・ジョンミン・アン
ロイヤル・オペラ合唱団
ロイヤル・オペラハウス管弦楽団

 

今回の公演は1階右側の後方で鑑賞。舞台がほぼ目の高さに見え、歌手の声も直接届く場所でした。多少値が張っても巨大なNHKホールで開催されるオペラは1階で聞かないと魅力半減なので、義弟の医歯会経由でチケットを購入しました。

さて、期待のリゴレット。劇と音楽が見事に融合して、ヴェルディの魅力に満ち溢れていました。演出は照明効果が素晴らしく、明と暗を際立たせていました。さすが演劇の本場、イギリスの歌劇場です。性的表現で一部過激な部分もあって本国ロンドンでは12歳以上の制約が課せられているそうです。3幕のマッダレーナも露骨さはなく抑制された演出でした。

冒頭に現れたカラヴァッジョの「聖マタイの殉教」をモチーフにした人間ピラミッドの演出には驚きました。そしてマントヴァ公爵の館に掲げられたティッツァーノのウルビーノのヴィーナス(公演パンフレット通りの巨大な裸体画)が後半では中空に浮くジルダの寝室に変わります。最後はここに梯子をかけてジルダが拐われてしまい、幕切れでは父親のリゴレットがその高い梯子を登り、寝室に残されたヴィーナスと同じポーズのグロテスクな人形を見て初めて騙されたことを知ってモンテローネの呪いを思い出すといった流れ。さらに2幕の公爵の館では再ウルビーノのヴィーナスに戻り、3幕ではスパラフチーレの寝室となって公爵とマッダレーナと公爵の情事の場へ。幕切れでは2階そのものが舞台から去り、背後に大きな川が流れて悲しい幕切れとなるというシンプルな舞台でした。

公爵の館の宮廷人は、皆さん衣装が異なり、伝統的な衣装やモダンな衣装が入り乱れていました。舞台上の登場人物ひとりひとりの動作も細部までよく練られていて、中には滑稽な動作もあり、さすが演劇の国のオペラハウスです。よく見るとネクタイを付けてスーツ着ている人も。でも照明と衣装がマッチして、ちぐはぐさを感じません。色の調和が素晴らしく無時代演出を自然体で楽しむことができました。モンテローネ伯爵がずっとスーツとネクタイ姿というのに違和感を感じましたが、自己犠牲を決意して嵐の中スパラフチーレの館に飛び込んだジルダも最後はスーツ姿だったというのも何か演出家の意図があったのでしょうか。3幕の最後でリゴレットが死体の入った袋のファスナーを開けて中を確認するときも、うーん当時はファスナーなどなくて紐が結ばれていたはず。。と思いながら見てしまいました。演出そのものはグロテスクで、相当残忍でしたね。モンテローネの眼をつぶす公爵など見ていて恐ろしくなってしまいました。

この悲劇的な音楽劇を音楽で支えたのはパッパーノ率いるロイヤル・オペラハウス管弦楽団。とにかく躍動感とキレがありました。

歌手ではリゴレットを演じたエティエンヌ・デュピュイさん。豊かな声量と端正で艶やかな声。冒頭から幕切れの叫び(Ah! la maledizione!)まで圧倒的な存在感でした。容姿にも恵まれてかなり若そうですね。リゴレットと言えば、30年近く前のボローニャ歌劇場の初来日公演で、円熟を迎えたレオ・ヌッチさんの復讐感みなぎる凄みに衝撃を受けたことを今でも鮮明に思い出します。デュピュイさんも経験を積んで個性的な役作りに磨きをかけていけば、超一流歌手として今後世界で活躍できるのではないかなと感じました。

そしてジルダを歌ったネイディーン・シエラさん。前評判通り、伸びのある美声と表情豊かなコロラトゥーラソプラノですね。声に芯があるので微弱音の響きも良く、まるで天使のような歌声にしびれてしまいました(笑)。

リゴレットとジルダのの親子の二重唱はどれも素晴らしく、特に2幕のアリア「悪魔め、鬼め」からリゴレットが公爵への復讐を誓う幕切れまでの盛り上がりは、オケが一体となった高揚感が最高でした。

マントヴァ公爵のハヴィエル・カマレナさんは伸びのある美声。尻上がりに調子が出てきて、3幕の女心の歌は決めてくれました。

スパラフチーレのアレクサンデル・コペツィさん、マッダレーナのアンヌ・マリー・スタンリーさん、モンテローネ伯爵のエリック・グリーンさんともに適役で舞台を引き締めていました。全体的に若い歌手が多い印象で、躍動感と生命観あふれるオペラを楽しむことができました。

 

昨日の開演は18時30分。ホールで軽食を購入できるかもしれませんが、幕間が1回しかないため、事前にコンビニで食事を購入して開演1時間前にNHKホールへ向かいました。驚いたことに、コロナ渦以降もNHKホールではロビーでの食事が一切禁止となっていて、軽食の販売もありません。ということで、雨も小やみになったので外出券をもらってホールの外に出て、食事をすることにしました。チケットと共に記念撮影(笑)。気になるお客さんの入りは、平日夜の公演ということもあってか空席が目立ちました。一方、神奈川県民ホールの初日(土曜日)は大入りが出たそうです。大昔のバブル期のオペラ来日公演はチケットをとるのが非常に難しく、発売から1時間で売り切れてしまうこともしばしばありました。あの当時に比べてチケット代は2倍程度で、今回のように充実した舞台芸術を日本にいながら堪能できるのは嬉しいですね。しかし、NHKホール、東京文化会館、神奈川県民ホールともに老朽化に直面し、再びの改修工事に数年かかることを考えると、将来大規模なオペラの引っ越し公演を行える劇場がネックとなることが懸念されます。来年東京文化会館でウイーン国立歌劇場の来日公演が発表され一安心です。

 

コメント (2)
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