60歳からの視覚能力

文字を読んで眼が疲れない、記憶力、平衡感覚の維持のために

漢字と空書

2008-05-05 22:57:40 | 言葉と文字

 空書というのは指で空中に文字を書く所作をすることですが、これは日本人が漢字を思い出そうとするときの所作です。
 カナやアルファベットの場合は、一つ一つの文字は漢字に比べれば単純なのと、使用頻度が高いため簡単に思い出せますから、空書をするまでもありません。
 文字の形を思い浮かべるのも、カナやアルファベットならハッキリと思い浮かべられますが、複雑な感じになるとボンヤリとしか思い浮かべられないので空書をして思い出そうとするのです。

 漢字がカナやアルファベットと異なるのは、漢字が表意文字であるという点ですが、一字が一単語で偏旁(偏、旁、冠、脚、垂、繞、構)などの部分によって構成されている点です。
 たとえば「花」という文字は「花」という単語で、英語なら「flower」、日本語の平仮名では「はな」となります。
 「はな」や「flower」のように単語を構成する部分を並べて書けば、図のように草冠と人偏、匕のようになります。
 ところが漢字は構成要素を横並びに並べるのではなく、部分を組み合わせてひとつの形にまとめ上げています。
 
 カナやアルファベットの場合も並べてひとつの単語を表しますが、漢字のような凝集性はありません。
 カナもアルファベットも単語を並べてしまうと、単語の境目がどこか分らなくなりますが、漢字の場合は境目がハッキリしています。
 そのため英語などのアルファベットの文は単語ごとの分かち書きをします。
 カナの場合は一つの音が子音+母音という音節でできているので、アルファベットよりは境目で混乱をしませんが、分かち書きをしないと極端に読みにくくなります。
 漢字カナ交じり文が分かち書きをしないですむというのは、漢字が凝集性が強くて分かち書きをする必要がないためで、漢字だけでも分かち書きはしなくてすむのです。

 漢字は部品を横に並べるのではなく、ひとつの構造にまとめ上げているので、全体の形としてはまとまりがあって印象が強くなるのですが、部品とその配置を覚えなくてはなりません。
 覚えるには目で見て記憶すればよいのですが、視覚的な記憶は細かい部分までハッキリとした状態で貯蔵するのが難しいので、書いて覚えるというのが確実な方法です。
 書いて覚えるという運動によって、運動感覚の記憶ができるのからです。
 漢字を思い出そうとして空書をするというのは、運動感覚を呼び起こして、それによって文字を思い出せるからです。

 ひらがなの場合は空書は関係ないのかというと、そうではありません。
 ひらがなも書いて覚えていますから、運動感覚としては強く記憶されています。
 そのため脳損傷の患者がカナを音読できないときでも、空書して見せると読むことができる場合があるそうですし、単に文字をなぞらせる場合よりもリズム感のある空書を見たほうが読めるそうです。
 文字を書いて覚える場合も、ナゾリ書きよりもリズム感をもって書くほうがよく、極端にいえば空書でもナゾリ書きより効果があると思われます。


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