チンパンジーには[tiger]という文字列を「虎」と結び付けて覚えさせることはできます。
しかし、t,i,g,e,rなどアルファベットの文字を覚えさせ、それを組み合わせて[tiger]という意味であることを覚えさせるのは困難です。
アルファベットの一つ一つの文字は、それ自体は意味を持たないのでわざわざ余計なものを覚える意味がないのです。
どうせなら「T」が「虎」を表わし、「L」が「ライオン」を表わすといった覚えたほうが呑み込みやすいのです。
チンパンジーはモノとそれを表わす記号を結びつけて覚えることはできるのですが、記号を組み合わせて意味を理解するというのは難しいのです。
これは平仮名の場合でも同じで、「と、ら」と一つづつのカナを覚えて二つを組み合わせて「とら」として、これを「虎」と覚えるより、最初から「とら」=「虎」と覚えるほうが覚えやすいのです。
幼児が複雑な漢字でもたくさん覚えることができるというのは、用事のうちは視覚的記憶が発達しているので「鯱」(しゃち)とか「彪(ひょう)」といった難しい字でも絵や写真と結び付けて覚えさせると案外楽に覚えるといいます。
要するに幼児が難しい漢字を覚えるというのは、チンパンジーやハトが記号を覚えるのと基本的には同じで、たくさんの難しい漢字を覚えたからといても、それほど感心することはないのかもしれません。
漢字の場合は一つの文字に意味があるのですが、文字を構成する要素を組み立てて意味を理解するということもできます。
「虎」は図のように二つの記号でできています。
左側のほうは「虎」の顔の象形文字で、右の「ル」の部分は手足を表わし「虎」という字は虎の体全体を示しているそうです。
つまり漢字の場合でも部品を覚え、部品の組み合わせによって意味を覚えるという方法があります。
それでは、部品の組み合わせで意味を理解する方法と、単語の意味を全体として理解する方法とどちらが能率的かというと、一概には言えません。
幼児段階では言葉の意味を分析的に理解するのはむずかしいので、単語とイメージを結びつけるといった全体的理解のほうが効率的です。
しかしいつまでもイメージとの結びつきでしか意味を理解していなければ、意味の理解が浅くなります。
逆に常に部品を積み上げてその意味を理解しようとすれば、時間がかかるだけでなく、部分的な意味を理解しようとしている間に全体がわからなくなったりします。
臨機応変に使い分けることが必要なのです。
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