図Aはいわゆる「ツェルナーの錯視」で水平線が斜めに交錯する線のために傾いて見えます。
B図はこれを45度回転させ、正方形の枠に収まる部分を表示したものです。
こうして見ると45度回転させたB図のほうが錯視の度合いが激しく、6本の軸線の隣同士の線は並行には見えません。
見え方がかなり違ったのは、45度回転させたからではないか、というのが普通の考え方で、心理学の本などでもそのように説明しています。
ところがA図を45度回転した図というのはD図なのですが、この場合はA図に比べ錯視効果が大きくなるどころかむしろ小さくなっています。
D図のほうが6本の軸線は隣同士がほぼ平行に見えるのです。
したがって、図を回転させれば錯視の度合いが激しくなるということはないのです。
そうすると、B図のほうが錯視効果が大きい原因というのは、軸線が傾いているということだけでなく、枠線に対して傾いているからです。
図形を45度回転させたとき、枠も45度回転しているのですが、枠は回転させず正方形の枠に収めているのです。
枠を変えたのが意識的であるならば、これはトリックだということになるのですが、おそらく無意識だろうと思います。
傾いた枠でなく、傾いていない枠に収めるのが当たり前という常識的感覚が無意識のうちに働いたのでしょう。
枠を変えたことが無意識的に行われたのに、図形を回転させたのは意識的ですから、錯視効果が大きくなったのは図形を回転させたためだと思ってしまうのです。
C図は図形を回転させるのではなく、枠だけを45度回転させたものです。
この場合はD図に比べると錯視効果が大きく、枠に対して軸線が傾いているほうが錯視の度合いが激しいことがわかります。
こうして見るとB図の錯視効果が大きくなった原因は軸線が傾いたからではなく、枠と軸線の角度が変わっためだということなのです。
どの図形も枠が見える形では示されていないので、枠が意識されにくいのですが、枠を意識すれば、枠によって見え方が変わることに気付くのです。