ブログを書くきっかけは何かのニュースか誰かの言動。
それに頭の中のある他の事件や誰かの言動が反応する。
うまく化学反応すれば良いが、単に結びつけるだけで終わることも多い。
何れにせよリアクティブな作文だ。
人間、オリジナルで生み出せるものは凡人なら限られている。
意見も過去に聞いた色々な考えの中から記憶が選んでくれたものの組み合わせだ。
過去に見聞きしたモノのストックが所謂「引き出し」というヤツで、
コメントやコラムを仕事にしている人は、この「引き出し」が通常の人より多くて整理されているということだろう。
国鉄フライヤーズの場合は引き出しは人並みにはあると思うが、多少とっ散らかっている。
前置きが長いが今日のテーマは引き出しに入る前の他人の意見だ。
池田勇人の所得倍増計画を支えた元大蔵官僚の下村治。
彼の「国民経済」という考え方を内田樹が解説している。
つまり又聞きだ。
といってもウチダ先生。
新幹線で読んだ下村の本を速攻ブログで紹介した。
この人もリアクションの人なのか(笑)。
しかし、いつも鋭くて感心させられる。
長い前置きだ。
要は為政者が考えるべき経済政策とは「国民経済」。
日本の場合、如何に1億2千万人を食わせるかということ。
この視点を欠いた経済論は具体性を欠く。
絵に描いた餅だ。
今、また国を上げてPTT推進論が盛んになっている。
旗振りは相も変わらず前原誠司や野田佳彦、対米従属の鑑だ。
日本では別に珍しくもない立ち位置だが。
グローバル・スタンダード、即ちアメリカ式のやり方を日本に無理やり適用しようとする極めて先鋭的で過激な原理主義。
それがTPPだ。
日本への輸出増加、それが目的だ。
つまり日本人の雇用を奪いアメリカ人の雇用を増やす。
アメリカ国民(国民経済)にとっては心強い話だ。
FRBの更なる資金供給QE3は既に既定路線。
中央銀行のバランスシートを更に滅茶苦茶にしても国内全体のバランスシートの改善を目指す。
大盤振舞の行き先はクズ同様の住宅担保債券(MBS)の更なる買い増し。
日本にはIMFを使って増税しろと迫る。
麻生内閣が2008年に10兆円を拠出してアイスランド等を救った、二匹目のドジョウを狙っている。
結果は更なるドル安、更なる円高。
アメリカへの輸出は増えない。
TPPというアメリカ方式のフリー・トレードにしたら一方的な日本の市場開放ということだ。
「世界はアメリカの市場に期待すべきでない」とオバマが口をすべらしている。
このTPP,グローバル・スタンダードと言ってもアメリカ以外のスーパー・パワー、即ちEU、中国、ロシア、インド、ブラジル等は入っていない。
ASEANの主要国も韓国も入らないようだ。
それどころかカナダやメキシコも入っていないですね。
これに乗り遅れると日本は世界の孤児になるというような話ががメディアによって喧伝されているが根拠のない全くのデマだ。
この協定に参加することが「国民経済」即ち1億2千万をどうやって食わせるかに、いかに影響するのか。
その一番大事な議論は聞いたことがない。
アジアの成長を取り込む、という嘘や自由貿易の潮流に乗り遅れるな、といった薄っぺらな感情論だけだ。
そもそも、自由競争・自由貿易主義のアメリカ・モデルは本国で成功しているのか。
生産性の高い強者が繁栄することで全体のレベルが押し上げられるという先富論がこの考え方の基にある。
選択と集中とも言う。
今、アメリカで始まり世界に広がりつつある反ウォール街運動。
選択と集中から排除されて久しいがちっとも良いことがない人達。
上位1%に42%の富が集中し、中産階級が消滅しようとしている国。
0.1%に5%の富は封建時代以来だろう。
重大な社会問題が起きている。
米議会報告によると最近30年間(といってもQE前だが)実質所得の上昇率は上位1%は275%の伸び率。
これに対し下位20%はわずか18%、「不平等が拡大した」。
QE3が発動すれば上位1%が更に潤う。
「競争に勝った金持ちはイタリアでフェラーリを買い、フランスでシャトーマルゴーを飲み、
ハワイにコンドミニアムを買い、ケイマン諸島に銀行口座を開くかもしれない。
彼を送り出すためにあえて貧乏を受け容れた「地元民」たちは「いずれ、『余沢』が及ぶ」という約束を信じて、
手をつかねて待っているうちに貧窮のうちに生涯を終えた・・・という話になるかも知れない」(内田樹)
TPPは自由化項目を決めるポジティブリスト方式でなく、例外だけを決めるネガティブリスト。
基本的に市場アクセスはモノ、ヒト、サービスなど全て自由という超過激な発想だ。
石原慎太郎が言っていたがフランスでは「自由・平等・博愛」だがアメリカ人の価値観は「フリードム=自由」だけだと。
日本が丸呑みするには可成の異物だ。
「過度」な自由競争・自由貿易にコミットする前に「国民経済」について考えてみよう。
農産物を始めとする安いモノ、円高を目当てに入ってくる安い労働力...
これと競争するためモノ、人の価格(賃金)は下落しデフレに拍車がかかる。
失業率は上がる。
経済を活性化するための自由競争は必要だが、歯止めの利かない行き過ぎた自由競争、自由貿易は
国民経済に大きな打撃を与える。
経済は経世済民であってこその経済だ。
「完全雇用は自由貿易にもまして第一の優先目標である。完全雇用を達成するために輸入制限の強化が必要であれば、
不幸なことではあるが、それを受容れなければなるまい。」
下村が引用するハロッドの言葉だ。
下村治存命ならTPPを「天下の愚策」と切り捨てただろうとウチダ先生。
一読の価値あり。
雇用と競争について
(内田樹の研究室)