チョコレート空間

チョコレートを食べて本でも読みましょう

わくらば日記(朱川湊人/角川文庫)

2010-10-31 00:31:28 | 
舞台は昭和30年代。
主人公は小学生のワッコちゃんこと、和歌子。

ワッコちゃんの美しい姉さまには不思議な力がある。
人や物をじっと集中して見つめると、その人や物が経験した過去が見えるのだ。
その力は姉さまとワッコちゃんの秘密だったのだが、ワッコちゃんは大好きな近所のお巡りさんにその力の事を話してしまい、そこから姉さまは不思議な力で陰ながら事件を解決しなければならなくなってしまう。。。

カッコよく言うと、サイコメトラーとして超能力捜査官みたいな話、なんだけれども、この小説にそういう表現をするとすご~く違和感があるのです。

昭和30年代というと、懐かしいというよりも自分の経験した時代ではないので、レトロな憧憬を感じる時代。
ワッコちゃんと姉さまは、事情があって(その事情はまだ明かされない)父とは別居しているようで、母と3人暮らし。
母が和裁や洋裁のお仕事で生計を支えている、慎ましいというか貧乏暮らしをしている家庭。
目下の目標はお金を貯めて「産業革命」(ミシン)を手に入れること。
ただし礼儀にはたいへん厳しい母の躾で、「人間貧乏をしても品位だけはなくしてはならない」という信条の元、凛とした生活をしているのです。

本書は今は年配の女性になっているらしきワッコちゃんが語り手として、ワッコちゃんが小学生から中学生、姉さまが中学生から二十歳くらいまでの間の短編集になっています。
姉さまの能力が中心のお話ですが、残虐な事件を解決する話もあれば、事件ではないものを「見る」話もあり。
生活や事件の端々に時代背景がちょこちょこ現れて、ノスタルジックな世界観を感じます。

登場人物も魅力的です。
外国の美少女のような美しい、けれど満足に学校に通えないくらい体の弱い(さらに不思議な力を持っている)姉さま。
平均日本人少女の容貌で、体の弱い姉さまを守ろうと奮闘するワッコちゃん。
厳しくて強い母さま。
警察の偉い人(公安らしい)で怖いけれど優しい人間性も垣間見える神楽さんや、姉さまと同年代の活発な茜ちゃん。

この短編集の中で、事件ではない、姉さまの淡い初恋の「流星のまたたき」が好きです。
また事件場面ではないようなところで表現される、例えば「流星のまたたき」の流星塵を「見る」シーンや、「春の悪魔」でふと母さまが語る、春風の悪魔の話とか、ところどころに後に印象深く残るような場面があるのです。

新書では続刊が出ているようですが、続きも読みたいし、朱川湊人のほかの本も読んでみたいと思います。

http://www.kadokawa.co.jp/bunko/bk_detail.php?pcd=200809000381


ブランジュリタケウチ どこにもないホームベーカリーレシピ(竹内久典/柴田書店)

2010-03-24 22:12:50 | 

最近ホームベーカリーレシピ本もたくさんあります。
数冊持っているのですが、評判を見てまた買ってしまった

ブランジュリタケウチ どこにもないホームベーカリーレシピ

買う前に本屋で見てみると…

だいたいホームベーカリーというのは基本のレシピが決まっているのですが、この本に載っている分量は結構それらと違いました。
水の量とかも、5cc違うと違うのですが、それを考えると大胆に違います。

基本のハードトースト。
なるほど、確かに砂糖や水を減らし、焼き色指定を「濃い目」にすればふんわり→パリッとした焼き上がりになるかー、とかそのレシピ見て作ってみれば思うんですけど、そんなに大きく材料の分量を変えていない割に、仕上がりがだいぶ違います。
プロの人が考えてやることはやっぱり凄い、と思いました。

フランスパンっぽい感じでかなり好みのパンです。
その後「普通の食パン」を焼くときはこのレシピで作っています。

またブリオッシュなどは作ろうとしてレシピ見てびっくり。
た、卵をいくつ使うんだ…
でもせっかくなので一度は作ってみようと挑戦

                   
                外はとてもかりっとした感じ。
                中は…

                
                       黄色いでしょ

さすがに卵たっぷりなだけある。
しかしできあがってみると、ほんとにお店で買ったパンみたい。
というか、だいぶリッチなパン。

あとこの本をチェックしたとき評判の良かったミルクハース。
水分は牛乳のみ、プラスでスキムミルクも入れます。
これはハードトーストとは違ってだいぶふんわり系の食パンですが、ミルクの香りがふわっと香るパンです。

またこの本の凄いところは、パンを使って応用した料理は別ですが、具入りでもブリオッシュでも、とにかくパン自体は全部焼き上げまでタイマーを使って作れるというレシピで書かれてるところです!
ブリオッシュなどはHBトリセツ見ても「予約」はできないし、お知らせタイムに後入れバターを入れるとか割と手順があるんです。

具入りパンはまだそんなに挑戦していないのですが、栗とチョコとオレンジとか、リコッタチーズとか魅力的なのが載ってます。

コーヒーの食パンを焼いて、コンデンスミルクを塗って食べるというのも、やってみたいレシピです




海街diary(吉田秋生/小学館フラワーコミックス)

2010-03-13 13:36:37 | 


                                 
海街diary①~③

久しぶりに吉田秋生さんのマンガを読みました。
「カリフォルニア物語」ぐらいから「BANANAFISH」までず~っと読んできたんですが、「YASHA」あたりから絵柄が変わってきたり、話的にもちょっとう~ん…って感じになってきて読んでいませんでした。

ただこのシリーズは周りで評判が良かったのと、去年くらいから鎌倉という街が気になってることもあり、手を出してみました。

冒頭。
男の部屋で朝を迎えているというシチュエーションで携帯が鳴って、十年以上前に家族を捨てて出て行った父が死んだという知らせを聞く。
派手な感じの女の子、派手な携帯で
「こまったなぁ、ちっとも悲しくない」
という心の声。

ああなんか、イマドキの若者のちょっと斜に構えた感じの話だったのかなぁ。
それはちょっとパスだなぁ、と思いつつ読み始めた。

ところが、見事に裏切られました。

祖母の残した鎌倉の古い一軒屋に住んでいる三姉妹。
それぞれ性格も生活もばらばらで、でもとてもちゃんとつながっているのです。
別に暑苦しく「絆」を描いたりするでもなく、特に大げさでもなく、なんだか無遠慮で、でもなにげなくすぅっと受け入れたりするようなところが家族っぽいな、とか。
そこに途中から異母妹のすずも加わるのですが、それもまた良いのです。

たぶんストーリーがこうこうこうで、と書いてしまってもまったく良さが伝わらない感じがするので書きません。
吉田秋生さんがこういう話も描くのか、と良い意味で意外ではありました。

もうひとつ意外だったのが、情景描写。
古いお家の様子や、鎌倉の景色があちこちに出てきて、それも物語の彩りのひとつになっています。

吉田秋生さんは、どちらかというと人間の心の中の鋭さとかそういったものを描く人だというイメージがありました。

絵柄がリアルという意味ではないですが、人物についても美しさよりも人間の体のそんなに美しくないところ-例えば胴って意外と太いよ、とか肉って割とたるんでるよとかそんな風に描かれていたし、風景についても景色や建物を美しく描くというよりは、簡素な線で背景的に書かれているような印象でした。
もちろん「吉祥天女」で桜が効果的に出てきたりとかいう印象的な場面もありましたけどね。

こういう叙情的な描写もする人なんだ、と新たな発見。

今は3巻が出たばかりのようですが、大切に読みたい本のひとつになりました。

ところでアライさんは最後には出てくるんでしょうかね~
どんな顔してるんでしょう?







食堂かたつむり(小川糸/ポプラ文庫)

2010-03-09 22:06:21 | 


まず表紙が可愛かった

あらすじ。
失恋のショックで声を失った25歳の倫子が田舎へ帰り、
「一日一組だけ、そのお客様のためだけの料理を作ってもてなすレストランを始めました。」
そのレストランで食事をすると願い事が叶うとしだいに評判になりました。

「」で括ったところがストーリーの惹かれポイントです。
矢田亜希子が昔やっていたドラマの「マイリトルシェフ」もそんな話じゃなかったっけ?
まだ清純派イメージだった頃の矢田亜希子。

パラパラっと立ち読みして、ちょうどざくろカレーを作っているところを読みました。
カレーで柘榴!?と思ったものの、描写がすごくおいしそうでした。

同棲しているインド人の恋人と、いつか小さなお店を開くという夢を持っていた倫子。
しかしある日バイトから帰ってくると、家の中は何もかもなくなっても抜けの空。
恋人が家財道具一切合財を持って出て行ってしまったのでした。
たったひとつ、外に置いてあったおばあちゃんの形見の糠床だけはなんとか残っていました。
気がつくと倫子は声を失っており、何もなくなってしまった倫子はおばあちゃんの糠床と持っていたカバンだけを手に、高速バスで田舎へ帰りました。
そして使っていない敷地を改装して「食堂かたつむり」を開店するのです。

田舎の山奥の小さなお店。
でも全てが手作りで可愛らしいお店。
料理の素材は山や海の自然の物を使い、料理のメニューはお客さんを見たり、話したり、食材と相談して決める。

ちょっとお洒落な童話っぽいお話かな、と思って読み進めました。
しかし、読んでいくうちに「童話っぽい」だけでは片付けられない違和感が生じてきました。
それは話の展開であったり、ちょっとした文章の表現であったり。

現実感のない話でも、小説というのはその人の物語世界に入り込んでいければ好き、面白いと思うし、そうでなければ合わないということになると思うのです。
この話は完全に後者でした。
違和感はどんどん大きくなり、歯車が完全にくい違ってラストは無感動に読み終えました。

話の展開。
ご都合主義っぽいのは小説だから良いとして、例えばエルメスの事。
「命」をテーマにしたいのだろうけど、そのやり方が私としては考えられない。
しかも具合が悪いとはいえ、おかんはひと口も食べられないって!
「お前は死んでも食え!!ケーキは食べなくていいから!!」
って強烈に思いました。
鳩と声の関係も「え?そこで?」と思ったし。
ふくろう爺のエピソードは好きでした。

表現。
バレリーナのようなお辞儀、とかかわいらしい雰囲気で良いのですが、ときどき不必要に不潔な表現がでてくる。
きれいでかわいらしいのに、根底に清潔感がない感じがする。
別に、清潔なお話じゃなくちゃ読めなくてよ!!とか思ってるわけじゃないですよ、もちろん
でもその合わなさ加減が気持ちが悪い。

番外編の小編が最後に入っていて、主人公も別の人なんですが、その話でやたらとブランド名とか出て来るんですよ。
まあ、その主人公のキャラ設定ではあるんですが。
そういう雰囲気の方が作者の性にあってるんじゃない?と思いました。
読んでてこっちの方が変な違和感、なかったです。

お料理の描写はおいしそうで良かったです。
中でもざくろカレーや、梨のフルーツサンドはおいしそうで、フルーツサンドのためのレーズンパン、焼きたくなりました(焼きましたよ)

映画の主人公は柴崎コウということで、小説を読むとイメージ全然違うんです。
小説イメージはもっと薄い感じの地味な子で。
でも違ってるだけに、映画の方が面白いかもね、とちょっと興味が湧きました。
柴崎コウ、好きだし。
おかんが余貴美子で、お妾さんが江波杏子っていうのはいいなと思うし。
このふたりも好きです



マイリトルシェフちょっと見たくなったー。


国産無農薬レモン/レモン化粧水

2010-01-26 12:54:30 | 

先日レモンジャムを作った無農薬レモンで、当初の目的であったレモン化粧水を作りました。

昔私が高校生くらいだった頃、母が作って使ってました(私は使いませんでした)
なんでそれなのに今、作ってまで使う気になったかというと、「シミにいい」という言葉を聞いたからです
シミが気になるお年頃ですよ(老)


さて、作り方です。

材料はいたってシンプル。
・レモンの皮
・焼酎
・グリセリン


レモンの皮の黄色いところを使います。
白いところが若干入っても構わないようですが、液体が濁りやすくなります。


                     
洗ったレモンの皮1個分を、キッチンペーパーなどに並べて水気を切ります。



レモンの皮を煮沸洗浄などした清潔な壜に入れ、そこへ焼酎を入れます。
焼酎は、スーパーへ行ったら20度のものと25度のものがあり、25度の方を選びました。

が、 が!!

      ここで…出ました

                               
    恐怖の目分量~~!! 

昔母が人から聞いて作り始めたとき、それはちゃんとレシピを聞いてその通りに作っていたそうです。
何年か使って、しょっちゅう作り続けているうちに計ったりするのが面倒になり、適当に作り始めたそうです。
もちろん、最初に教わった分量なんて覚えてない、そうです。


化粧水とか作るのに目分量ってあり!?
煮物じゃないんだよ~

なので、焼酎とグリセリンの量がわかりません
せめて「焼酎はこのくらい」と母が壜に焼酎を入れ始める前に秤に乗せておけば良かった。


というわけで、焼酎「これくらい」

                      
              *上の写真と一緒です↑

そこへグリセリンこれくらい

                      
            上の写真の状態に、さらにグリセリンがテキトーに足されたもの


このまま1週間から10日置きます。


                      
するとレモンの黄色い色が出て、こんな感じになります。

                    
使う分だけ入れ物に入れました。
なかなか黄色いですね。
残りは冷蔵庫で保存です。


【使ってみた感想】
レモンとアルコールですから、どっちもヒリヒリしそう。
と思いましたが、そういう「刺激」はありませんでした。
ただし傷口があったら沁みます。
いま風邪をひいていて、鼻周辺が擦り剥けており、さすがにそのへんにつけたらしみた

とってもレモンの良い香りがします。

つけてちょっと経つととてもしっとりします。
人によってはべたつきが気になるくらいかも。
乳液をつけなくていい気がするのは、普段から自分がほぼ化粧水しかつけない人間だからかも知れません。

あまり化粧品で合わないとか感じたことがないので、特に2日ほど使ってみたところで何のトラブルもありませんが、レモンやアルコールなのでお肌の弱い方はやはりヒリヒリしちゃったり、荒れてしまったりするのでしょうか。
するのかもしれません。

そういえば「れんげ化粧水」ってこんな感じなのかなぁ。

次回作るときは秤に乗せて分量を量ります
それってきっと、今回とはまた分量違うんでしょうけどね


国産無農薬レモン/レモンジャム

2010-01-17 17:33:16 | 
メイ・スーさんにご紹介いただいた豊橋にある無農薬レモンを昨年秋に注文しました。
注文した時期にあったのはグリーンレモンで、黄色のレモンが欲しかったので予約注文、実が熟す季節がようやくやってきて、手元に届きました

                     
                  わ~い

                     
無農薬だというのに、この美しさ
害虫の天敵を利用したり、色々な研究と努力の積み重ねで無農薬でもキレイでおいしいレモンなんだそうです。

もともと、レモンの皮を原料とする化粧水を作りたくて、無農薬のレモンを探していたところ、メイさんにこちらを教えていただきました。

皮も食べられるということだし、まずジュースに。
実は絞って、皮は千切りにしましたが、生なのに固くなくて、実よりも甘みがありました。
レモン自体も、普段買っていたものに比べると酸っぱいながらも酸っぱすぎません。
箱買いなんかして使い切るのかと思ってたけど、これは意外と使っちゃうかも…

化粧水を作る前にレモンジャムを作ってみることにしました。

材料などはいろいろなレシピを検索したのをもとにして。

  材料
    レモン…3個
グラニュー糖…160g
      水…500cc

材料は以上です。

・レモンは皮をむいて、皮と実の部分に分けます。
 皮は千切りにしてしばらく水にさらし、その後分量外の水と一緒に鍋に入れて沸騰したら水を切ります。
この作業はアク抜きで、2、3回繰り返すとありましたが、生食した感じでこのレモンはそんなにアクもなかろうと1回しかやりませんでした。

・今度は分量の水500ccと皮を鍋に入れて、水分が少なくなるまで弱火で煮込みます。
 先に皮を煮て柔らかくしてしまうのですね。
                     
・薄皮を取った実と種を鍋に加え、グラニュー糖を加える。
 グラニュー糖、本で見た材料だと225gだったのです。
 でもこのレモンはけっこう甘みがあったし、たいがい本の分量で作るとお菓子でもなんでも甘いことが多いので、150gから少しずつ様子見しました。
 結果、160gで私は丁度良かったです。
 種も一緒に煮ると良いと何かで読んだので入れました。
 その代わり、最後にはちゃんと取りますよ

このまま煮詰めて完了です。

レモンの成分でとろみがつきますが、そんなにゲル状にはなりません。
物足らなかったら片栗粉を加えようかと思いましたが、緩いけどまあいいだろうと思ったのでこのままにしました。

                    
取っておいたジャムの空き瓶を鍋で煮て煮沸消毒(蓋もね!)したものに詰めました。
レモン3個でけっこう量ができましたよ。

                    
さっそく今日焼いたパンにつけて食べてみました。
わ~い

薬臭さやえぐみがまったくありません。
食べ終わったあと、柚子茶やきんかんを食べた後のように喉がすっきりしています。
うん、喉にも良さそう。
柚子茶みたいにお湯にといて飲んでもちょっと葛湯みたいにとろみもあっておいしいです。

壊れた脳 生存する知(山田規畝子/講談社)

2009-06-17 14:32:41 | 
   

2年くらい前でしょうか、この本をドラマ化したものを先に見ました。
そのときに「高次脳機能障害」という障害の存在を初めて知りました。
脳という精密機械に異変が起きたとき、こんな不思議な現象が起こるのか、と恐怖と興味を感じました。

筆者である山田さんは、整形外科医。
大学生のときに後遺症も全く残らない軽い脳出血に見舞われ、そのときに「もやもや
病」と診断される。

その後34歳のときに脳出血、このときに高次脳機能障害になる。
運動障害や麻痺、言語障害は残らないので見た目にはっきり判る障害はないが、空間認識や記憶障害がある。
例えば机に置かれた紙のどこまでが机でどこまでが紙なのか判らない。
目の前の階段が上りなのか下りなのか判らずただ蛇腹状の平面に見える。
アナログ時計が4時なのか8時なのか判らない。
距離感がなく、物を取ろうとして突き指をする。
置いたものをどこにおいたか忘れる。
本を読んでいてもどこを読んでいたか判らなくなる。

この高次脳機能障害は病気や交通事故などによる脳出血により起こるものだそうだ
が、そのまま診断されず退院してしまうこともあるという(数年たった現在はどうな
のだろう)
見た目には障害が判り辛く、周りの目も冷たいことも多いという。
そして意識レベルは低下していないので、できないけれど自分が失敗していることは
判るし、それで他人がなんと言っているかも判る。
それが辛いという。

しかしこの筆者は決して諦めず、自分なりにリハビリ方法も考えて「こうするとこれ
はやりやすい」という事を見つけてゆく。
倒れた当時3歳だった息子の子育ても放棄せず、幼稚園の送り迎えもする。
整形外科医の仕事は無理だが、リハビリセンターで自らの体験を武器に仕事にも復帰する。

ところがこの出血から3年後、今度は大規模な脳出血がまた筆者を襲う。
今回は左半身の(完全にではないが)麻痺や言語障害などが出てしまう。
しかし筆者はやはり諦めることなくリハビリ、そして再び職場復帰も果たし、このよ
うな本も書いているのです。

本書は医者として書かれている視点もあるが、とても平明で判りやすい文章で書かれている。
この不思議な主観的な障害の実態が普通の人が読んでもよく判る。

そしてたびたび出てくる前向きな姿勢が示すように、全体的に切羽詰った様子や暗い調子がないのだ。
筆者は親や姉夫婦が病院をやっていたりと環境にめぐまれている部分も大きい。
しかし重い後遺症、また脳の前頭葉に障害を受けると「やる気」が出なくなったりするという。
 
けれどこの諦めない精神、そして自分だけではなく「同じ病気の人のために」とたゆまない姿勢が感動的でした。
本書以降にも何冊かの本、そしてHPも立ち上げているようです。

りかさん(梨木香歩/新潮文庫)

2009-05-30 20:36:59 | 

りかさん(新潮社)

お友達がみんなリカちゃん人形を持っているのが羨ましくなったようこは、お雛祭りのプレゼントをくれるというおばあちゃんに
「リカちゃん人形が欲しい」
とお願いします。
けれどおばあちゃんがようこに送ってくれたのは、おかっぱ頭に着物を着た、日本人形の「りかさん」でした。
ひどくがっかりしたようこでしたが、おばあちゃんが送ってくれたりかさんはただのお人形ではなかったのです。


以前読んだ『西の魔女が死んだ』はややファンタジー色も含まないこともなかったですが、祖母と孫のふれあいの話でした。
この『りかさん』ではほんとうに人形達が話し出したりしてしまうので、まあ、だいぶファンタジーですね。

ようこのお友達の登美子ちゃんの家にある雛人形をはじめとした由緒ある人形や、後半の青い目の親善大使、ママボイスドールのアビゲイルの話など、人形自体についても丁寧に書かれています。

この著者の小説にいつも流れている、人が昔からあたりまえにしてきた、そして失われつつある生活の知恵のようなものや、自然との共存といったものが、このお話の中にもなんの気負いもなく自然に存在しています。
たとえ主人公が小学生であろうと、もうひとりの主要人物が市松人形であろうと変わりません。
読んだあとにはなんとも優しい気持ちになるお話です。

ぜひ読んで欲しい本です。










The Brave Tin Soldier/V.Kubasta

2009-03-30 00:22:19 | 

英語で買い物ができないワタクシに代わって友達が米国密林をポチッとしてくれた本です。
アンデルセンの”The Brave Tin Soldier”
和訳は「なまりの兵隊」とか「すずの兵隊」とか。

           

買うキッカケは、日産マーチのCMで幸せマチ子さんがお気に入りの絵本を見つけ…というくだりで一瞬登場するポップアップ絵本がこれなのです。

チェコの絵本で、V.Kubastaという方のもの。
表紙の絵はちょっとアールデコっぽいバレリーナがいます。

中身もちょっとご紹介。
実物を見てみると、僅か6ページあまりの絵本です。
最近よく書店で見かけるアリスやオズのような派手さはないですが、絵柄が良いです。

          


CMに一瞬登場するページ。
この魚を見て欲しい!と思いました。
         
          

でもそのときは何のお話かわからず、この魚を見て
(なにか冒険物かな。他に龍とかライオンとか出てくるのかな)とか勝手に想像していました。

The Brave Tin Soldierはめでたし、めでたしではないけれどアンハッピーエンドとも言い切れない、悲しい美しいお話。
ざっと要約すると


5歳のピーターは誕生日におじいさまから箱に入った立派な25体の兵隊の人形をプレゼントされます。
その中のひとりの兵隊さんは片足しかありませんでした。
片足の兵隊さんはピーターの部屋のおもちゃの中の、お城にいるバレリーナに恋をしました。

ある日、窓辺に置かれた兵隊さんは、窓が開いた拍子に外に落ちてしまいます。
窓から川に落ちた兵隊さんは流されながら、「ああもう彼女にこのまま会えないのだ」と悲しく思います。
そして兵隊さんは大きな魚に飲み込まれてしまいました。

しかしその魚は釣り上げられて市場に売られ、なんとピーターの家に買われました。
魚のお腹を開けると中から兵隊さんが出てきて、兵隊さんはピーターの部屋にぶじ戻りました。

ところがある日ピーターの部屋にやってきた少年が兵隊さんを見つけ
「こいつ、片足しかないじゃないか」
と、兵隊さんを暖炉の炎の中に投げ込みました。
すると兵隊さんを見つめていたバレリーナも、テーブルから炎の中に飛び込んでゆきました。

翌朝、なまりの塊と小さな銀色の星が灰の中からみつかりました。


というお話です。

ちゃんと本を読んだことないんですが、検索してみるとラストはこの絵本とはちょっと違って
「翌朝メイドさんが灰の中からハート型の灰をみつけました」
という終わりになっているようです。

切ないですね


西の魔女が死んだ(梨木香歩/新潮文庫)

2008-09-28 17:43:48 | 


  西の魔女が死んだ

以前ハードカバーで読んだのですが、映画になったと話題になっていてもう一度読みたくなりました。

中学でいじめにあい、学校へ行けなくなってしまった主人公の少女、まい。
彼女はしばらく祖母の家に滞在することになる。

母の母であるのに、キャリアウーマンで料理もあまり作らないようなまいの母と違って、山の中で自給自足に近いような生活をしている祖母。
卵は飼っているニワトリから採り、山に生えている果物でジャムを作り、庭のハーブでお茶を作る。

祖母は日本へ教師としてやってきて、日本人であるおじいちゃんと結婚したイギリス人だ。
まいは祖母の家系は昔魔女であったと聞く。
そして祖母の元、魔女修行をすることを決心する。

洗濯の仕方やベッドメイクの仕方などを色々教わりながら、まいは魔女の心得を教わる。
それは魔法の使い方などといったものではなく、生活の知恵、自分を強く持って生きること、といったものだった。


いじめで登校拒否になった少女が田舎暮らしの祖母の元で生活して自分を取り戻してゆく、とこの話を要約したらなんと詰まらないことだろう。

しょっぱなから出てくる、到着したまいとまいの母にサンドウィッチを作るために庭のキンレンカを採って来るシーン。
野の果物を取ってきて砂糖と煮詰めてジャムを作る。
たらいに湯を入れてシーツを洗濯するところ。
まいと祖母のなにげない日常会話。

ひとつひとつの文章が暖かい。

短い話だけれど、大切に読みたい、そんな話です。