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壊れた脳 生存する知(山田規畝子/講談社)

2009-06-17 14:32:41 | 
   

2年くらい前でしょうか、この本をドラマ化したものを先に見ました。
そのときに「高次脳機能障害」という障害の存在を初めて知りました。
脳という精密機械に異変が起きたとき、こんな不思議な現象が起こるのか、と恐怖と興味を感じました。

筆者である山田さんは、整形外科医。
大学生のときに後遺症も全く残らない軽い脳出血に見舞われ、そのときに「もやもや
病」と診断される。

その後34歳のときに脳出血、このときに高次脳機能障害になる。
運動障害や麻痺、言語障害は残らないので見た目にはっきり判る障害はないが、空間認識や記憶障害がある。
例えば机に置かれた紙のどこまでが机でどこまでが紙なのか判らない。
目の前の階段が上りなのか下りなのか判らずただ蛇腹状の平面に見える。
アナログ時計が4時なのか8時なのか判らない。
距離感がなく、物を取ろうとして突き指をする。
置いたものをどこにおいたか忘れる。
本を読んでいてもどこを読んでいたか判らなくなる。

この高次脳機能障害は病気や交通事故などによる脳出血により起こるものだそうだ
が、そのまま診断されず退院してしまうこともあるという(数年たった現在はどうな
のだろう)
見た目には障害が判り辛く、周りの目も冷たいことも多いという。
そして意識レベルは低下していないので、できないけれど自分が失敗していることは
判るし、それで他人がなんと言っているかも判る。
それが辛いという。

しかしこの筆者は決して諦めず、自分なりにリハビリ方法も考えて「こうするとこれ
はやりやすい」という事を見つけてゆく。
倒れた当時3歳だった息子の子育ても放棄せず、幼稚園の送り迎えもする。
整形外科医の仕事は無理だが、リハビリセンターで自らの体験を武器に仕事にも復帰する。

ところがこの出血から3年後、今度は大規模な脳出血がまた筆者を襲う。
今回は左半身の(完全にではないが)麻痺や言語障害などが出てしまう。
しかし筆者はやはり諦めることなくリハビリ、そして再び職場復帰も果たし、このよ
うな本も書いているのです。

本書は医者として書かれている視点もあるが、とても平明で判りやすい文章で書かれている。
この不思議な主観的な障害の実態が普通の人が読んでもよく判る。

そしてたびたび出てくる前向きな姿勢が示すように、全体的に切羽詰った様子や暗い調子がないのだ。
筆者は親や姉夫婦が病院をやっていたりと環境にめぐまれている部分も大きい。
しかし重い後遺症、また脳の前頭葉に障害を受けると「やる気」が出なくなったりするという。
 
けれどこの諦めない精神、そして自分だけではなく「同じ病気の人のために」とたゆまない姿勢が感動的でした。
本書以降にも何冊かの本、そしてHPも立ち上げているようです。


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