チョコレート空間

チョコレートを食べて本でも読みましょう

クレオパトラの夢(恩田陸/双葉文庫)

2006-12-31 17:56:26 | 
「MAZE」の女言葉の美青年、神原恵弥が主人公のお話。
前作とは何の関係もない話です。
年の瀬、恵弥は長年の不倫の恋人を追って函館(作中H市)へ転居してしまった双子の妹・和見を家族の意向で連れ戻しに行くことになった。
東南アジアの謎の遺跡で、軍や幾つかの国の思惑が入り乱れた「MAZE」に比べるとずいぶんスケール感が違いすぎる話じゃないか!?
しかも満じゃなくて恵弥が主役なのに…。
と、思い読み始めたのもつかの間、話はどんどん混み入ってきます。

恵弥が到着してその夜、和見に連れて行かれるのが彼女の恋人、大学教授の若槻の葬儀だった。
驚きを隠せない恵弥に、和見は
「あんたの目的は私を連れ戻しにきたわけじゃないでしょう」
と詰め寄られる。
若槻は事故死だったのだが、生前ある研究をしていたらしい。
和見も詳しくは知らないが手帳には「クレオパトラ」という言葉が何度か残されていた。
アメリカの製薬会社でそれこそスパイまがいの行為までする恵弥はそれが目的なのではないか。

確かに恵弥にはその研究に近づくために若槻に会おうとしていたのだ。
そこから恵弥と和見の腹の探り合いが始まる。
和見は何をどこまで知っているのか。
そして葬儀で見かけた男・多田や、若槻の妻・慶子などそれぞれが何かを知っているらしく動き始める。
若槻はほんとうに事故死なのか。
クレオパトラと呼ばれるものの正体はなんなのか。

話全体の長さの割に色々な事件が盛り込まれて展開がスピーディーです。
最終的には函館市の歴史も絡んできます。
そして面白いのはやはり「MAZE」でも異彩を放っていた恵弥です。
ずけずけとあけすけでちょっとおばちゃんが入ってる?という女言葉だったり、30代後半の男がスヌーピーパジャマだったり。
展開がスピーディーなのは彼が主役だという点もあるかも。
なにしろ彼自身がすごく目まぐるしいのですから。
それに加えてお互いに性格をよく分かり合っている双子(二卵性ですが)同士の腹の探り合い。
このふたりのやりとり、距離感が絶妙です。
緊張感のある場面ももちろん面白ければ、高校の時の交際相手の愚痴を言い合ったり。

私は「MAZE」より本書の方が面白かったです。
学園モノが得意な恩田さんですから、高校生の恵弥や満、和見の活躍する話も読んでみたいです。
もうあったりして…



MAZE(恩田陸/双葉文庫)

2006-12-24 20:41:18 | 
とあるアジアの西の果ての地、連なる岩山を越えた荒野の丘の上に白い直方体の建物がある。
それは天然のものとも人工物ともつかない。
その場所は数少ないそこをおとずれた人々に「有り得ぬ場所」などと呼ばれてきた。
その場所には昔から訪れた人が時折ふっつりと消えてしまうという伝説がある。

年齢40前後、年季の入ったフリーター時枝満は幼馴染の神原恵弥にかなり怪しい仕事を持ちかけられて引き受けた。
1週間この「有り得ぬ場所」通称”豆腐”に滞在して、この建物の人間消失の謎を解いてみて欲しいというのだ。
彼らの他には軍人と思しきスコット、そして現地の有力者の息子であるらしいセリムという4人の男性。
このプロジェクトにどのくらいの権力と金が絡んでいるかは明らかにされないがかなり大掛かりであることは確からしい。
しかしこの謎を解こうと、例えば衛星写真を撮影してもその場所は映らないというのだ。
過去の記録で一個小隊まるごと消えたというデータもあるため、うかつに近寄ることもできない。

特殊な場所、特殊な限定された状況で物語は進んでゆく。
満の目線で話は進行してゆくが、彼以外の全員が何かの事情を隠しているように思われ、本当の事を話しているかどうか判らない。

そして本書は意外な結論付けをされ、ちょっとそれは…理にかなっているといえばかなってるけどな~というオチながらも、それでは説明しきれない理不尽な謎も残されたまま終わる。
おそらく謎を明かす役割である恵弥も真実を知らされていないのだろう。

面白いのはここに出てくるキャラクター。
恩田陸には珍しく登場人物は中年の男性のみ。
特に面白いのが主要人物である小太りで料理上手な満と、態度は女らしくはないものの、まるっきり女言葉でマシンガントークな恵弥。
恵弥は恩田作品に登場する舌鋒鋭い美女達の男版といったところ。
彼いわく、女きょうだいに囲まれて育ったバイリンガルということらしい。
彼らの丁々発止が楽しくて、読みやすい。

特筆すべきは読む以前から評判になっていた『例の1行』
読んでいて鳥肌モノの怖い1行があるというのだ。
正直、わたし読んでてそれ気付くのかな?
と思いましたが
気付きましたー
というか、その直後の展開も含め怖かったーー

ここらへんを読むためだけでも読む甲斐がある1冊です。



ジャンボ永眠

2006-12-21 10:11:01 | Weblog
静岡にある下田海中水族館の「ドルフィンビーチ」のイルカのリーダー、オキゴンドウのジャンボが12月19日(火)PM11:15に亡くなりました。

彼女は水族館にきて先日まる36年、つい先日37年目に突入したところでした。
その長さは飼育世界記録で、数年前には下田市名誉市民として表彰されるという微笑ましいエピソードもありました。
(真ん中の写真は下田市長に表彰状を貰い、市長さんにチューしているところです)

下田海中水族館は入江の一部を区切ってその中で数頭の、主にバンドウイルカを飼育しています。
そして「ふれあいの海」として、泳げる人はウェットスーツ、そうでない人はトップブーツで足のつくところまで海に入り、直接イルカと触れ合うことができます。
悪戯好きのイルカ達はなかなか奔放で、体当たりをしてきたり、本人は遊びのつもりですが噛み付いてきたり尾びれで叩いたりとヤンチャです。

ジャンボはそんなバンドウイルカ達を束ねるリーダーでした。
実際に初めて見たときは予想以上に体が大きく、しかも歯も凄いのでちょっと怖かったです。
しかし性格はいちばん温和で、水族館のスタッフの方も「ジャンボ以外のイルカは噛む可能性があるので口元に手は出さないでください」という注意をするくらい信頼の篤い存在でした。

スタッフの方から聞いたエピソードですが台風が来るとジャンボは他のイルカたちを一列に並べて荒波に耐えたり、お客さんの落し物の帽子を気に入ってしばらく胸ビレでもったり頭に乗せたりして泳いでいたとか、昔何度か家出してしまって下田近港の漁師さんに発見されて水族館のスタッフが駆けつけるとエサのおねだりポーズをしながらやってきた、とか…。

水族館へ遊びに行ったときも、撫でられるとイルカ達は垢が取れて気持ちがいいらしいのですが、ジャンボは特にみんなにゆっくりなでさせてくれて、気持ちが良いとうっとりした目をして横を向いたりしていました。
昼寝でぷっかり浮きすぎて頭のてっぺんに火傷をつくっていたこともありました。
なによりも優しそうで穏やかな目が印象的なジャンボでした。

ここ2年ほど水族館に行っていませんでしたが、まさかジャンボが亡くなるなんて。



まだショックばかりですが、いままでありがとうジャンボ。



ダウン・ツ・ヘヴン(森博嗣/中公文庫)

2006-12-17 02:44:36 | 
『スカイ・クロラ』『ナ・バ・テア』に続く、戦闘機のパイロットを職業とする「キルドレ」たちの物語。
あまり詳しい説明は今のところまだないが、キルドレとは戦争のための遺伝子操作で生まれてきた、外見は少年少女のまま老化もせず、生命力が強く病気にもほぼかからないらしいいわば不老不死的存在。
少年少女という外見が何歳くらいのものなのかは不明だが、15、6歳だろうか?
今回も2作目同様、女性パイロット草薙水素が主人公だ。

1作目『スカイ・クロラ』では執着も感情すらあまりないような主人公、カンナミ・ユーヒチの上司として登場。
キルドレとしては異例の司令官という立場。
しかし上司というより常に死についてばかり語り、潔さのない死の匂いをべたべたとさせながらカンナミにまつわりつく(ような印象だった)草薙は好きになれない登場人物だった。
『ナ・バ・テア』では現役パイロットとしてめきめき実力をつけ始めた草薙が主人公。1作目とは別人のようなシャープでドライな、人物としてはカンナミ寄りなパーソナリティとして描かれていた。

そして本作では今まで颯爽と空を飛び回っていた草薙が、その実力のせいで会社に嘱望されたために徐々に広告塔として、また管理職的な仕事が増やされていく。
空にただ放たれて自由に飛んでいたい草薙は汚い(と彼女は表現する)地上へだんだん足枷をつけられはじめる。
なるほど、こうして最終的に『スカイ・クロラ』の草薙水素になってしまうのかという感じ。
ティーチャとの再会もある。
また1作目からずっと出続けている笹倉、彼が登場人物の中ではいちばんマトモでいい人ですね。

相変わらず遠慮なく説明もなく出てくる飛行機の用語は私は全ては判りません。
最初はキャノピィが何かもわからずぐぐったくらいですから
そんなんでも終盤の草薙とティーチャの空中戦は息が詰まるような臨場感がありました。
このシリーズの他は森作品といえばS&MとVシリーズしか読んだことがないので全て他はミステリーなんですが、ミステリー以外も良いですね!
飛行機乗るのは大嫌いな私ですが、とても素敵な感覚に思えます。
エアショーパイロットの方の書かれた本編内容というよりもアクロバティックな飛行の体感の解説も面白いです。
しかしこの解説を読むと、やっぱりエラいことだと思います。
目の毛細血管が切れるとか…

このシリーズはあと2作あるそうですが、今後はどういう方向なんでしょう?
草薙はこれから翼をもがれて壊れていくという方向に行くと思われるのでその過程をあんまり突き詰められても暗い展開になりそうで。

そして文庫版でちょっと不満なのは、このシリーズ新書は空の写真で凄く装丁が美しいんですよね。
文庫版は
『スカイ・クロラ』青一色→新書は青空
『ナ・バ・テア』オレンジ一色→新書は夕空
『ダウン・ツ・ヘヴン』灰色一色→新書は白い雲

灰色一色てーーー
ま、トーンとしては灰色っぽいですけどね。
じゃあ次の『フラッタ・リンツ・ライフ』は夜空ですから黒!?
いや、せめて濃紺でしょうか。

それにしてもこの主人公、草薙水素って名前、どうしてもどっかの公安の女ボスを連想してしまうんですよね。
そこんとこどうなんでしょう、森さん…


IKEA船橋

2006-12-09 00:01:13 | Weblog
引越ししてはや半年以上…年内にソファは買っておきたいということで、平日に休みを取りIKEA船橋へ行ってきました。
建物は2階建てですがなかなか面積は広大です。

2階はショールームで、部屋をイメージして商品を置いたり、家具など主に大型商品を展示。
1階は2階に置いてあるものの在庫(セルフでレジへ持っていく)倉庫と、生活雑貨類の細かいものたち。
確かに安い。
そして安いのにデザインがかわいくておしゃれなものが多くてセンスが良い感じ。
お勧め商品はあちこちにこれでもかと置いてお客の目に付くようにしてある。
なので、予定外の細かなものとかをたくさん買いたくなってしまいます。
車で来られればいろいろ買いたいところです。
手持ちでは重くて…。
しかし車も免許も持たぬ身としてはどうにもならないところ

やはり車で来るべき一番の理由は、こちらは商品が安い代わりにサービスの部分を徹底して省いてあることです。
大型家具でも(さすがに持ち上げられないものは店員さんがカートに載せてはくれますが)セルフでレジへ。
袋類は全て有料。
そしてなんといっても配送料が高い
家具は基本的に高くはなるとは思いますが…。
もちろんソファは配送にしました。
私は都内在住ですが料金は。
配送料1~3個 ¥6,900
組立料 ¥7,400
うーん…安いソファだったけど配送と組立で1万5千円近く掛かってしまった。
3個まで配送料は変わらないというので、手で持ってる重いものも送ろうかなと思ったのですがダンボールを千円で買わなければならないというので持って帰りました。

というわけですが車で来て重い家具でも組立できる男性がいるならば完全にお得なショップだと思います。
雑貨なんかはまた見に行きたいところですが、いかんせん家から遠い。
あと店員さんは外国人率が高く、ちょっと日本語がアヤシイ人もいるので、細かいことを質問するなら日本人スタッフを選んだほうがいいかもしれません。

平日とはいえ決してガラガラではなかったのでまだまだ土日は混雑してるんでしょうか?

いろいろ文句垂れましたが面白かったです。
なにしろ昼前について中のカフェでお茶したものの店を出たのは5時半でしたから!

カフェで食べた外国チックな甘さのスウェーデンのアーモンドケーキがおいしくて1階のスウェーデン食品コーナーでホールで買いたかった
もう荷物がけっこう重かったのでやめちゃいましたが…。


ハードボイルド・エッグ(荻原浩/双葉文庫)

2006-12-03 20:54:17 | 
私立探偵、最上はレイモンド・チャンドラーに心酔し、自分は探偵になるために生まれたと信じて日々過ごしている。
しかし実際の仕事はポツリポツリ、しかも8割がたがいなくなったペット探し。
そうでなくても浮気調査。
依頼人から「便利屋さん」と呼ばれようが、ハードボイルドを気取っている。
美人秘書を雇おうと目論めば、ダイナマイトボディの美女の写真を偽って送ってきた八十過ぎの小さくて元気で口の悪いお婆さん、片桐綾に居座られてしまう。

そんなどうみても間抜けな主人公がほんとうの殺人事件に巻き込まれる。
きっかけは行方不明のシベリアンハスキーを探し当てたものの、依頼人に逃げられてしまい、そのハスキーの処遇に困って以前から知っている「柴原アニマルホーム」に引き取って貰ったことだった。
柴原の妻の父が動物にかみ殺されて発見されて、容疑は最上が連れて行ったハスキーのチビにかかる。
飼っていた動物の凶行とあって柴原のホームもマスコミの標的になるし、犯人(犬)はチビではないと真犯人探しに最上と綾が乗り出す。
そしてどうやら地元のヤクザが事件に関わっている気配が見えてくる。

またしてもコメディタッチの荻原作品です。
話の出だしは『神様からひと言』と同じ手法だったので、読んでいる途中にオチが見えました。
中途半端な主人公や、スナックのマスターJ、ホームレスのげんさんなど、どの人物もあまり魅力を感じず、ああまたハズレかと思いながら読みました。
しかし今回は美人秘書(?)綾がなかなかいい味を出していたのと主人公が最後の最後まで情けない風情ながらも徐々に成長してゆく様子が良かったのでまあ良しという感じでした。
綾もなかなか中途半端チームの人だったようですが、彼女が切れ者のスーパーおばあちゃんでいつの間にか最上が探偵助手になってついて行く、というような展開もいっそ面白かったんじゃないかと思うんですけど。
それじゃありきたりと思われたんでしょうか。