チョコレート空間

チョコレートを食べて本でも読みましょう

探偵伯爵と僕(森博嗣/講談社)

2005-08-31 13:39:25 | 
講談社の少年少女向け紙箱入りハードカバー復刻本で、書いているのは現代の売れっ子推理作家たちというシリーズ。
きっと読者層はかつてそういった本を読んでいた30代とかの大人達を対象にしているんだろうけれど、モノによってはいちおう少年少女向けってことにしてるんだよね?」と言いたくなるものも。
森博嗣もかなりジュブナイルは向いていないのでは、と思ったけれど意外とそうでもない。

小学生の主人公、馬場新太の日記という体裁の新太くん語りの小説になっている。
登場人物は探偵伯爵・アール、彼の秘書のチャフラフスカなど。
(…舞台は日本の住宅街なので彼らの名前はあくまであだ名です
夏休み、新太は公園で夏なのに黒ずくめのスーツに黒の帽子、髭という怪しいいでたちの探偵伯爵と名乗る男と友達になる。
毅然とした態度であるようでなんだか抜けていてちょっとセコイ、頼りになるの?と小学生の新太くんでさえ危ぶんでしまう探偵伯爵である。
その後祭りの夜に新太くんのクラスメイトであるハリーこと原田くんが行方不明になる。
探偵伯爵と事件の調査を始める新太くんだが、いなくなった原田くんの部屋には1枚のトランプのカードが残されていた。
その後同じくクラスメイトの山賀君も1枚のトランプを残して行方不明に。
そしてとうとう犯人の魔の手は新太くんにも…。

子供とのやりとりながらも探偵伯爵と新太くんの会話はきっちり森ワールドで楽しめます。
探偵伯爵とか怪盗男爵(出てきませんが)というのも微笑ましくて好きです。
一人称の語りというところでちょっとした叙述トリックも用意されていたのが嬉しかったです。
十二国記やその他のイラストでも有名な山田章博氏のイラストなのもしっくりきて良いです。

霞町物語(浅田次郎/講談社)

2005-08-29 15:11:21 | 
浅田次郎短編集。
西麻布あたりの今はなくなってしまった地名、「霞町」。
そこの写真館の息子である主人公を中心に家族や学友との青春を描いた物語。
60年代の裕福で生意気な高校生達の青春の世界はいまどきの高校生達のとはまた全く異なるけれど異世界のよう。
・霞町物語
・夕暮れ隧道
・青い火花
・グッバイ・Drハリー
・雛の花
・遺影
・すいばれ
・卒業写真
学友達との物語である「霞町物語」「夕暮れ隧道」「グッバイDr.ハリー」「すいばれ」、頑固な江戸っ子気質の写真屋の祖父の話「青い火花」「遺影」「卒業写真」、やはり江戸っ子気質な祖母の話「雛の花」。
子供たちの話はエヌコロを乗り回し、髪はリーゼントにきめて、それぞれ結構いい話ではあるものの生意気すぎるのがなんとも…。
そこがいい人にはいいんだろうな
「すいばれ」という言葉はこの話を読むまで全く知りませんでした。
こういう美しい日本語がすたれてしまうのは悲しいですね。
一番好きな話は「雛の花」
元芸者だった気風の良い祖母。
筋を通すために主人公の学校へも先生に文句を言いに乗り込んでいく、実際自分の祖母だったらずいぶんと口やかましくてたいへんだったりするんだろうけれど、凛と美しい祖母の話がステキです。

カスパーニャ(文明堂)

2005-08-29 12:41:28 | スイーツ♪
東京駅大丸デパ地下文明堂にて。
カステラをフレンチトースト風に焼いたもの、だそうで。
「カステラを焼いただけ?」
と思いながらもなんだか焼き目がおいしそうでつい買ってしまった。
プレーンと抹茶と2種類。
1ケ189円なり。
買って帰ったくせにそんなに期待していなかったら、もっちりしっとりしておいしい
抹茶もうっすら苦味があって良いけれどプレーンの卵っぽさが強い味のほうがいい。
別売でソース(何味かよく見ませんでしたもありましたが何もつけなくて十分おししい。
これって、フツウにカステラを買ってきて自分でもできるのかな
絶対また買いだ!
でも東京駅って普段は全然行かないのですぅ。

廃用身(久坂部羊/幻冬舎文庫)

2005-08-26 17:11:20 | 
「廃用身とは、麻痺して動かず回復しない手足をいう」
まずこの「廃用身」という言葉からしてショッキングである
本書は主人公の医師、漆原が書いた手記を元にその出版に携わってきた編集者が原稿をまとめて出版したという形態を取っている。

神戸の異人坂クリニックという通院形式の老人ホーム(デイケア・クリニック)の院長漆原は廃用身となった手足を抱えて介護に苦しむ患者とその家族を診ながら、その解決法として廃用身を切断する「Aケア」を思いつく。
職員の賛否の中、患者の希望を尊重するという形でこの「Aケア」を実践してゆく。
難しい医学用語が出てくるのでもなく、平易な文章で患者の看護日誌のような形で本書は進んでいく。
やがて週刊誌に「Aケア」のことをすっぱ抜かれて、漆原とこのクリニックは「悪魔の医師」など世間の非難をあびるようになる。

後半、グロテスクな描写は出てくるがこの「Aケア」自体に関してはさほど気持ちの悪いような描写は(敢えてだろう)出ては来ない。
それなのに読んでいる間中首の後ろのちょっと外側が気持ち悪いようななんともいえない居心地の悪さがつきまとう。

著者が阪大医学部出身ということで読んでいてもなるほどと思ったけれど文系の人の想像の世界で書かれたわけではないのかな、と思うとそれもまた怖いところ。。。
単に興味本位のグロテスク小説に終わらない、これから高齢化社会についても考えてしまう1冊です。

症例A(多島斗志之/角川文庫)

2005-08-15 13:43:00 | 
個人経営の良心的な病院に赴任してきた精神科医・榊。
彼は前任の医師の担当を引継ぎ分裂症という診断の美少女、亜佐美を担当する。

彼女は病院の職員の気持ちを鋭く読み、嘘や我儘で職員を振り回し彼ら同士の人間関係をも険悪な状態に陥れる。
そんな彼女の様子をみていた榊は、彼女は分裂症ではなく境界例ではないかと診断を疑い始める。
以前境界例の患者に私生活まで侵され離婚に追い込まれた挙句に患者にも死なれるというトラウマのある榊は境界例という難しい病気と再び対決しなければならないことを悩む。
更に一緒に仕事をする臨床心理士からは亜佐美は解離性同一性障害(いわゆる多重人格)ではないかというアプローチを受けるが、実例はそんなにない(というか、病気自体が疑問視されているらしい)この病気自体を受け入れるべきかという榊の更なる悩みへとつながってゆく。

解説のかたが近年「多重人格」なるものが小説や映画でよく取り上げられ、どれもセンセーショナルな実像からは遠い描かれ方をしているが本書は病院内の医師と臨床心理士の関係なども含めて実情がよく描かれていると書いてあり、購入前に解説を立ち読みしてそれも興味を持った一因でした。

粗筋やこの解説を見ると内容が堅そうですが、とても読みやすかったです。
けっこう厚いんですが後半は夜更かししてイッキ読みでした
冒頭から平行して博物館の謎が絡んでくるのですが、う~ん、これは敢えて絡めなくても良かったのでは。
それよりももう少し先まで病院の話を続けて欲しかったですね。
決して尻切れトンボではないのですが、「あっなんだ、ここで終わっちゃうんだー」というのが感想。
多島斗志之氏の本は初めて読みましたが、全然違うジャンルのものを書かれてるようですね。

鉄道員〔ぽっぽや〕(浅田次郎/集英社)

2005-08-12 09:44:17 | 
どこからそんな先入観が湧いて出たんだろう~?
なんともロマンティックな小説群です。
表題『鉄道員(ぽっぽや)』はほんの45ページほどの短編です。
やや難解にも感じる北海道弁の会話、寒い駅、駅長室の様子がしみじみとしています。
全編を通して言えることですがこの短い小説の中でよく!と思うほど登場人物の造型
がしっかりと描かれており、決して華美でない日本語が優しく美しい。
この本に納められている短編は
・鉄道員
・ラブ・レター
・悪魔
・角筈にて
・伽羅
・うらぼんえ
・ろくでなしのサンタ
・オリオン座からの招待状
それぞれほのぼのとした、またはファンタスティックな短編です。
この中ではちょっと色の違う『悪魔』は暗さとグロテスクさがあんまり好きじゃないです。
それから浮気相手の若い女と一緒になろうとしている夫と、夫の実家の新盆に訪れる『うらぼんえ』、ストーリー的には主人公に対してけっこうひどい話でかわいそうなのですが、江戸っ子の職人気質の主人公の祖父がいいんです♪

何篇かの中に出てくる死者達はみな優しいです。
ときには生者にとってちょっと都合が良すぎるのでは?と思えるほどみな優しくて暖かいのです。
そんな死者達の優しさにうっかり朝の通勤電車の中で読んでいて泣かされました。
電車では読まないことをオススメします。。。