チョコレート空間

チョコレートを食べて本でも読みましょう

我らが影の声(ジョナサン・キャロル/創元推理文庫)

2006-10-20 12:39:42 | 
兄のロスは小さな頃からひどい悪ガキで、高校生になる頃は悪党だった。
小心者で退屈な弟ジョーは小さい頃から兄のロスにいじめられていた。
ジョーが13歳の時、線路を渡っているさなかにまたもやロスのいじめが始まろうとし、突き飛ばしたはずみで転んだロスは線路で感電死。
その後ジョーは不良の兄達を題材にした「我らが影の声」という小説を発表。
それが舞台化したのだが、ジョーの作品とは似ても似つかない形になって売れた。
ジョーは自分の作品ではなくなってしまったもので名声を得た形になる。

ウィーンで生活するようになったジョーはポールとインディアという、とても滅茶苦茶でとても魅力的な夫婦と知り合う。
誰ともなったことのないような親密さで楽しい生活を送るジョーだったが、あるとき自分もインディアも「良い友達」以上になりたくなっていることに気付く。
ついに二人は一線を越え、ポールもそれに気付く。

またしても途中までは主人公ジョーの生い立ちや恋愛などの人間模様の話である。
しかし、途中まで。
なにしろ作者はジョナサン・キャロルなのだ。

すっかり気まずくなってしまった3人。
ポールはよく手品を披露するときに演じていた「リトルボーイ」というブラックなキャラクターでジョーとインディアを責める。
そんな矢先ポールが死に、ふたりはなんだか置いていかれたような平穏を得た。
しかしポールの死後も、二人の前にリトルボーイが現れてふたりに次々と悪戯を仕掛けてくるようになった。

このリトルボーイが出現するあたりから話が怖くなってくる。
ポールの死後ももちろんだが、生きているポールがレストランの男子トイレで突然リトルボーイの扮装でジョーを責めるところなんかもすごくコワイ
そしてラスト…このラストのどんでん返しに至っては、描かれている全てが真実なのか、それともある部分ジョーの良心の呵責から来る妄想なのかどちらとも取れる感じ。
終盤ももちろんだけれど、途中までのホラーでないドラマ部分も楽しく読めるのがキャロル。
しかし、『死者の書』といい主人公がなかなか浮気っぽくてちょっとムカつきますね。

図書室の海(恩田陸/新潮文庫)

2006-10-15 22:07:02 | 
恩田陸の短編集。
・春よ、こい
・茶色の小壜
・イサオ・オサリバンを捜して
・睡蓮
・ある映画の記憶
・ピクニックの準備
・国境の南
・オデュッセイア
・図書室の海
・ノスタルジア
恩田陸の短編集は初めてかもしれない。
『光の帝国』は短編集ながら、「常野物語」ということで「常野」の人々をそれぞれ描いた短編集でした。
本書は独立したものですが、『麦の海に沈む果実』の主人公、水野理瀬の幼い頃の話「睡蓮」や、『夜のピクニック』の前日譚「ピクニックの準備」、『六番目の小夜子』に登場した関根秋の姉、夏(お姉さんのことはちらっと話の中で出てきますが本人は出てきませんでした)が主人公の「図書室の海」
またはこれから書かれるかも知れない話の一部である「イサオ・オサリヴァンを捜して」
またはほんとに全く独立したそのほかの話。

ああ恩田さんらしいと思える、短編ながら恩田色が凝縮されたような話や、「へえ、恩田さんこんな話も書くのね」と思えるものも。
意外だった路線の話は「茶色の小壜」や「国境の南」
茶色の小壜は10年以上会社勤めをしている女子社員である私なんかはハッとするような鋭い心理表現がありました。
恩田さんの小説はけっこう働く女性が出てきます。
そういえばこの人も小説家になる前は不動産会社に勤めていたんだっけ。

らしいな、と思うのは少女たちが透明感を持って描かれている「春よ、こい」
恩田世界の少年少女は美しくて頭が良い。
そして性の匂いを感じさせず清潔感がある。
「ある映画の記憶」や「ノスタルジア」はストーリー自体よりも浮かんでくる景色が良い。
波が打ち寄せてくる海や、大きな鴉に姿を変える城。
ずっと続いている道を向こうからやってくる少女。

また本書で一番好きだったのが「イサオ・オサリヴァンを捜して」
このあまりにも過酷な環境で静かにそつなく、荒くれた兵士にも好かれる謎の東洋系の男、イサオ・オサリヴァンが魅力的なのです。
なぜか私の脳内イメージは森脇真末味さん描く痩せた青年でした。
これはSF(!)長編の予告的作品らしいのですが、本編と思われるものはまだ書かれていません。
早く本編のイサオ・オサリヴァンに出会いたいです。

黒いカクテル(ジョナサン・キャロル/創元推理文庫)

2006-10-10 01:34:29 | 
『パニックの手』と並ぶジョナサン・キャロルの短編集。
・熊の口と
・卒業生
・くたびれた天使
・あなたは死者に愛されている
・フローリアン
・我が罪の生
・砂漠の車輪、ぶらんこの月
・いっときの喝
・黒いカクテル

またしてもブラックな作品揃いですが、『パニックの手』より読みやすい感じがするのは立て続けにキャロルを読んでしまったからかも知れません。
なんだか本書では高校時代が出てくるのがやけに多かった気がします。
そのときがみじめだったとか、逆にそのときが人生最良の時だったりとか。
割とその類はどうでも良くて、好きではないけど印象に残ったのは「くたびれた天使」
ゆるいタイトルの割には思い切りブラックな終わり方をします。
おいおい、そりゃないだろう、的な。
ややロマンチックな感じのする「砂漠の車輪、ぶらんこの月」
ロマンチックというよりは正確にはシュールというべきでしょう。
この最後に主人公が安らぎを感じてるけど一般的に見たらハッピーエンドじゃないよね!?な所が「秋物コレクション」に共通する気がしました。
そして本書で一番気に入ったのは「あなたは死者に愛されている」
心臓の悪いキャリアガールが交通事故がきっかけでストーカー的な凶悪なアルピノの若者と出会ってしまう。
いったいどうなってしまうの!?と思っていると驚愕の力関係の逆転が訪れる。
このメビウスの輪の様なハッとさせられる展開がキャロルの素敵なところ。
短編というより中編の「黒いカクテル」
これも途中から思いがけない展開をします。
そして最後の突き放し方と来たら!
確かにこの主人公たちは悟るとかいうよりモンスターっぽいですけどね。
”生肉男”とか全くこのネーミングには(笑)です

そして本書を読み終えた直後に知りショックだったことが訳者、浅羽莢子さんの訃報です。
既に先月半ばにお亡くなりだったらしいのですが。
キャロルの訳はもちろん、タニス・リーの妖魔シリーズの文章も美しくて豪華で好きでした。
だからこのところ立て続けにキャロルの文庫が出たのでしょうか、と思うと切ないです。
乳癌だったそうですが、まだ53歳と充分お若い年齢です。
もしご存命ならまだまだすばらしい文章を私たちに提供してくだすったでしょう。
残念でなりません。
ご冥福をお祈りいたします。

広島ドッグパーク

2006-10-04 22:43:25 | Weblog
ひどいニュースだ。

2003年に開園した「ひろしまドッグぱーく」
名前からなんとなく判るとおり色々な種類の犬がいて、犬と触れ合ったりドッグレースがあったり仔犬の販売などもしていた施設だったらしい。
そして経営が悪化したのか2005年6月閉園。
その後そこにいた数百匹の犬が餌もろくに与えられない状態で放置されていたという。
そんな広島市の市民情報で大阪にある動物保護ボランティア団体「アーク・エンジェルズ」が水面下で調査をした。
すると想像以上の惨状が明らかになる。

残された480匹あまりの犬たち。
狭い犬舎に押し込められ、充分な餌や水は与えられていない。
糞尿の始末も全くされておらず衛生状態は最悪。
そんなせいで多くの犬たちが衰弱し、病気になっている。
アークエンジェルのHPを見ると、信じられないような状況がそこにある。
例えばゴールデンレトリバーの成犬で体重8kgしかない犬。
眼球陥没を起こしている犬、餌の足りなさから共食い状態になったのか耳や片足のない犬…。
その後警察同行での立ち入り検査が行われ「虐待にあたる」と見做されたため、管理権は現在アーク・エンジェルズに移っている。
しかしひどい状態の数多くの犬たちを救うためにボランティア、支援物資、支援金などを募集している状況である。
詳しくは立ち入り調査の状況から画像付で説明されているアーク・エンジェルズのHPを見ていただいたほうが良いだろう。

広島ドッグパーク崩壊
http://ark-angels.com/rescue.html

見るときには深呼吸してから、とお勧めしたいです。
怒りのあまりなんだか判らなくなるかもしれません。

動物の、人間による悲惨なニュースを見ると「お前も同じ目にあってみろ」といつも思う。
生き物を扱う商売をするということは独特なリスクと責任があると思う。
経営を始めるときにはそういった様々な事は考えているはずだろう。
もちろん、もし倒産(この場合閉園)した場合も含めてだ。
例えば自分たちで扱える動物の頭数を把握して管理する。
経営状態が悪化してきたら減らしてゆく(殺すというイミではもちろんありませんよ!)、増えないようにするなどの対処もすべきだろう。
つぶれました、犬が480頭残りました、放置しましたでは済まないことだ。
この「ひろしまどっぐぱーく」の経営者が今どうしているのかというのが私の知識不足で判らないのだが、全国のボランティアの方々が頑張る中どうしているのだろうか。

他の方のブログでTBSイブニングニュースでこの事件のニュースを流していたということを知りました。
http://eventkyusyu.axisz.jp/tbsdogpark.asx

ちゃんと世話をしていたとうそぶく管理者。
貴様、小太りじゃねーか!
あのガリガリの犬たちを見ろ!
と怒りを新たにいたしました。